- 降伏点ってそもそも何?
- 応力ひずみ曲線のどこを指してるの?
- SS400やSM490の数値はいくつ?
- 上降伏点と下降伏点の違いは?
- 設計のF値ってこれと同じもの?
- 構造計算でどう使う数字なの?
上記の様な悩みを解決します。
降伏点は構造設計の世界で 「材料が壊れ始める手前の限界点」 として、許容応力度計算・終局強度設計のすべての基礎になっている数値です。SS400・SM490などの鋼材規格を読むときも、降伏点の数字が分かれば構造の安全率がイメージできるようになります。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
降伏点とは?
降伏点とは、結論「材料に応力をかけていったとき、弾性から塑性に切り替わる境目の応力値」のことです。
英語では Yield point または Yield stress。記号は σy(シグマワイ)または fy が使われます。
材料は応力を受けると、最初は 弾性域(応力を抜くと元の形に戻る)で動き、ある応力を超えると 塑性域(応力を抜いても元に戻らない、永久変形が残る)に移行します。この 境目の応力 が降伏点。
具体的にイメージすると、針金を曲げる動きが分かりやすいです。
- 軽くしならせる → 手を離すと元に戻る(弾性域)
- 強く曲げる → 手を離してもクセが付いたまま(塑性域)
- 「クセが付き始める瞬間の力」が降伏点
構造物の安全性は、 降伏点を超えないように設計 することが基本中の基本。建築基準法施行令では、各種鋼材の 基準強度(F値) が降伏点と直接結びついています。
降伏点の応力ひずみ曲線での位置
応力ひずみ曲線は、材料を引っ張ったときの応力(σ)と伸び(ε)の関係をグラフにしたもの。降伏点はその上の特定位置を指します。
応力 σ
↑
│ 引張強さ (σu)
│ ↓
│ ┌────・──┐
│ / \ ← 破断
│ │ │
│ │ 上降伏点 │
│ │ ↓ │
│ │ ●──● ← 下降伏点
│ │/ │
│ / │
│/弾性 │ 塑性
│ │ │
└─┴────────┴──→ ひずみ ε
鋼材の典型的な挙動
軟鋼(SS400など)の応力ひずみ曲線は、 明瞭な降伏点 を持つのが特徴。引っ張っていくと:
- 弾性域:応力に比例してひずみが増加(フックの法則)
- 上降伏点:応力がピークを取る(最初の塑性化開始点)
- 下降伏点:一旦応力が下がり、ひずみだけが進む「降伏棚」と呼ばれる平坦な部分
- ひずみ硬化:再び応力が上昇
- 引張強さ(σu):最大応力点
- 破断:最終的に破壊
実用的な「降伏点」として使うのは、 下降伏点(または下降伏応力)。なぜなら下降伏点の方が 安定して再現性が高い から。上降伏点は試験条件(引張速度、試験片形状)でばらつきます。
応力ひずみ曲線で降伏点が明瞭でない材料
アルミニウム、ステンレス、高張力鋼(HT780など)は、明瞭な降伏点が出ません。これらは 0.2%耐力(オフセット降伏点) を降伏点の代わりに使います。応力ひずみ曲線のひずみ軸0.2%の位置から弾性線と平行に直線を引き、応力ひずみ曲線と交わる点をσyとする方法。
主要鋼材の降伏点
建築・土木でよく使われる鋼材の降伏点を整理します。
| 鋼材記号 | 用途 | 降伏点 σy(N/mm²)※板厚40mm以下 | 引張強さ σu |
|---|---|---|---|
| SS400 | 一般構造用圧延鋼材 | 245以上 | 400〜510 |
| SM490 | 溶接構造用圧延鋼材 | 325以上 | 490〜610 |
| SM490Y | 高降伏点SM | 365以上 | 490〜610 |
| SN400B | 建築構造用圧延鋼材 | 235〜355 | 400〜510 |
| SN490B | 建築構造用圧延鋼材 | 325〜445 | 490〜610 |
| HT780 | 高張力鋼 | 685以上 | 780〜930 |
SS400(普通鋼)
「SS」は Steel Structure、「400」は 引張強さの最低値400N/mm² を表します。降伏点は最低でも245N/mm²。一般構造用として最も使われる鋼材で、アングル・チャンネル・プレートなど形鋼の主役。形鋼の代表選手であるH鋼・Iビーム・Lアングル・Cチャンネルもほとんどがこの鋼材ベースです。


SM490(溶接構造用)
「SM」は Steel Marine(船舶用が起源)。溶接性を重視した鋼材で、SS400より降伏点・引張強さがワンランク上。重量物・橋梁・大型構造物で使われる。
SN材(建築構造用)
阪神大震災後に制定された建築専用の鋼材規格。 降伏点と引張強さの上限値も規定 されているのが特徴。降伏比(σy/σu)を制限することで、地震時に粘り強く塑性変形できる性能を保証。
降伏点の値は 板厚で変わる ことに注意。板厚が厚くなると降伏点は若干下がります(圧延工程の関係)。設計図面に「t≤40mm」「t>40mm」などの注釈があるのはこの調整のため。
降伏点とF値(基準強度)の関係
設計実務で「F値」と呼ばれる 基準強度 は、降伏点と直結しています。
F = min(σy, 0.7 × σu)
降伏点と「引張強さの70%」のうち 小さい方 がF値になる、というルール。
SS400の例
- 降伏点 σy = 245 N/mm²
- 引張強さ σu = 400 N/mm²(下限値)
- 0.7 × 400 = 280 N/mm²
- F = min(245, 280) = 245 N/mm²
SM490の例
- 降伏点 σy = 325 N/mm²
- 引張強さ σu = 490 N/mm²(下限値)
- 0.7 × 490 = 343 N/mm²
- F = min(325, 343) = 325 N/mm²
なぜ「引張強さの0.7倍」を使うのか
降伏点が明瞭でない材料(アルミなど)に対しても、 保守的な強度 を統一的に定義するため。SS400やSM490などの軟鋼では、結局降伏点の方が小さくなるので、F値=降伏点と覚えてもOK。
許容応力度設計では、F値を 長期 1.5、短期 1.0 で割って許容応力度(fa, fb, fc, ft, fs)を出します。許容応力度計算の基本は別記事で改めて整理します。
剛性率(横弾性係数)の基本はこちら。

層間変形角・偏心率など耐震計算の基本はこちら。


降伏点の設計での使い方
設計実務での主な使い道を整理します。
1. 許容応力度設計(一次設計)
部材に作用する応力が、F値を安全率で割った許容応力度を超えないことを確認する。降伏点が低い鋼材ほど許容応力度も低くなる。
2. 終局強度設計(二次設計)
地震時に塑性変形を許容しつつ、最大耐力(保有水平耐力)を計算する。 降伏耐力 = 断面積 × 降伏点 で計算する。
3. 部材断面の決定
「この梁にこの曲げモーメントが作用するから、断面係数Z以上の鋼材を選ぶ」というロジックで、降伏点の値が直接効く。降伏点が高い鋼材を使えば断面を細くできる。
4. 接合部設計
ボルト接合では、ボルトの降伏点で許容引張力・許容せん断力が決まる。一般的なM16・SS400ボルトと、ハイテンションボルト(F10T)では降伏点が大きく違うので、接合部設計では必ず使用ボルトの降伏点を確認。
5. 鉄筋コンクリートでの降伏点
鉄筋にも降伏点があります。
| 鉄筋記号 | 降伏点 σy |
|---|---|
| SD295A、SD295B | 295 N/mm²以上 |
| SD345 | 345 N/mm²以上 |
| SD390 | 390 N/mm²以上 |
| SD490 | 490 N/mm²以上 |
「SD」は Steel Deformed(異形鉄筋)。数字が降伏点をそのまま表しています。SD345が最も一般的で、住宅建築から大型RC造まで広く使われます。
スターラップ筋などの基本はこちら。

降伏点の注意点
設計・現場で誤解しがちな点を整理します。
1. 上降伏点ではなく下降伏点を使う
「降伏点」と書かれているとき、設計実務では 下降伏点 を指すのが原則。試験成績書(ミルシート)で「降伏点」と記載されている数値も、通常は下降伏点。
ミルシートの読み方はこちら。

2. 板厚で値が変わる
同じSS400でも、板厚40mm以下と40mm超では降伏点が違います。設計図面の「t」の表記に注意。
3. 高張力鋼は0.2%耐力
降伏棚を持たない高張力鋼(HT780など)は、0.2%耐力で降伏点を定義。試験法も違うので、ミルシートの記載が「降伏点」か「耐力」かを確認。
4. 温度・歪み速度の影響
高温下では降伏点が下がります(火災時の崩壊評価で重要)。逆に衝撃荷重(地震、爆発)では降伏点が上がる傾向(歪み速度依存性)。耐火・耐震・耐衝撃でそれぞれ異なる降伏点を使い分ける必要がある。
5. 降伏点は「最低値保証」
ミルシートに記載される降伏点は 「最低保証値以上」 で書かれます。実際の鋼材は規格値より高いことが普通(SS400なら280〜320N/mm²が実測値の中央値)。設計では規格値を使い、実材ではそれを少し上回る、という運用です。
降伏点に関する情報まとめ
- 降伏点とは:材料が弾性から塑性に切り替わる境目の応力値(記号 σy または fy)
- 応力ひずみ曲線:上降伏点と下降伏点があり、設計では下降伏点を使う
- 主要鋼材:SS400 = 245、SM490 = 325、SN490B = 325、SD345 = 345(単位 N/mm²)
- F値との関係:F = min(σy, 0.7σu)。SS400やSM490ではF=降伏点
- 設計での使い方:許容応力度、終局強度、部材選定、接合部設計
- 注意点:板厚依存、降伏棚なし材は0.2%耐力、温度・歪み速度依存、最低保証値
以上が降伏点に関する情報のまとめです。
降伏点は構造設計の 基礎中の基礎の数字 で、ここを押さえれば許容応力度・F値・終局強度がすべて繋がって理解できます。施工管理としては、ミルシートで降伏点の記載を確認し、図面の鋼材記号と一致しているかを照合するのが日常業務。鋼材の品質管理は降伏点と引張強さで判断するクセを付けると、構造設計者との会話の質が一段上がります。鋼材・剛性率・耐震計算と合わせて、構造力学の基礎パッケージで押さえておきましょう。







