構造計算書やミルシートに出てくる「許容引張応力度」「F値」「長期/短期」。鉄骨や鉄筋の検査でSS400やSD345の刻印を見るたびに、「この値って結局なんの意味なんだ?」とモヤッとしますよね。
- 許容引張応力度って結局なんの値なの?
- 応力度と許容応力度って何が違うの?
- 長期と短期、なんで2つあるんだ?
- F値とか、長期はF÷1.5とか、意味が分からず暗記してる
- SS400やSD345の値って、いくつになるの?
- 現場でこの材料が図面通りか、どう確認すればいい?
上記の様な悩みを解決します。
許容引張応力度は、部材が引張で「ここまでなら耐えていい」とされる上限の値です。数値の暗記だけだとすぐ忘れますが、長期・短期の意味とF値の理屈を押さえると、一気に腑に落ちます。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、構造が苦手な方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
許容引張応力度とは?
許容引張応力度とは、結論「部材が引張に対して許容できる応力度の上限値」のことです。
少しだけ言葉を整理します。引張力が部材に作用すると、断面の中に「引張応力度」が生じます。これは断面積あたりにかかる力で、単位はN/mm²(=MPa)です。この生じた応力度が、材料ごとに決められた「許容引張応力度」を超えないことを確認するのが、構造設計の基本動作になります。応力度そのものの考え方は応力とはや引張応力で押さえられます。
つまり「許容引張応力度」は材料の性能で決まる“上限ライン”、「引張応力度」はその部材に実際に生じている値、という関係です。ここを混同しているとずっと分かりにくいので、まず分けて考えるのがコツですね。
そして許容引張応力度には、長期と短期の2つがあります。
- 長期許容引張応力度:常時かかる荷重(自重・積載など)に対する上限
- 短期許容引張応力度:一時的な荷重(地震・風・積雪など)に対する上限
この長期・短期の区別が、許容応力度を理解する最初の山場です。次の章で詳しく見ていきます。
長期と短期の違い
長期と短期の違いは、結論「荷重がどれだけの時間かかり続けるか」で分けられています。
長期は、建物の自重や人・物の重さのように、常にかかり続ける荷重に対するものです。一方の短期は、地震や台風、積雪のように、一時的・短時間だけかかる荷重に対するもの。同じ材料でも、力が長く加わり続けると余裕を多めに見ておきたいし、短時間なら材料の本来の強さまで使える、という考え方です。
イメージとしては、人間が重い荷物を持つのと同じです。短時間なら全力で持てても、ずっと持ち続けるのはきつい。だから長期はより安全側(小さい値)、短期は材料の限界に近いところ(大きい値)まで許容する、という訳ですね。
実務では、こう使い分けます。
- 長期荷重時に生じた応力度 → 長期許容引張応力度と比較する
- 短期荷重時に生じた応力度 → 短期許容引張応力度と比較する
数値の大小としては、必ず「短期 > 長期」になります。短期のほうが大きい力まで許してよい、というのは、上の「短時間なら耐えられる」という材料の性質に対応しているんですね。
許容引張応力度の求め方
許容引張応力度の求め方は、結論「鋼材なら長期=F/1.5、短期=F」というシンプルな式です。
ここで主役になるのが「F値(エフち)」です。F値は基準強度と呼ばれ、材料ごとに建築基準法の告示で決められています。鋼材ではおおむね降伏点(または引張強さの一定割合)をもとに定められた値で、これが許容応力度のすべての出発点になります。降伏点そのものは降伏点が参考になります。
鋼材の許容引張応力度は、このF値を使って次のように出します。
- 長期許容引張応力度 = F / 1.5
- 短期許容引張応力度 = F
ここで「なぜ長期は1.5で割るのか?」が、暗記で済ませがちな最大のポイントです。これは安全率です。長期は常時かかる荷重なので、降伏点(F)に対して1.5倍の余裕を見て、その手前で抑える。短期は一時的なので安全率を1.0として、材料の基準強度Fまで使い切る。だから短期=F、長期=F/1.5になる、という理屈です。安全率の考え方は安全率で深掘りできます。
なお、実際に生じている応力度を許容引張応力度で割った値を検定比と呼びます。検定比が1.0以下なら「許容範囲内=OK」という判定です。断面算定の最終チェックがこの検定比で、許容応力度計算の全体像は許容応力度計算にまとめています。僕の整理では、F値→長期短期→検定比、という流れさえ掴めば、許容引張応力度の話は8割が見通せます。
SS400の許容引張応力度
SS400の許容引張応力度は、結論「長期156N/mm²、短期235N/mm²」(板厚40mm以下の場合)です。
SS400は一般構造用圧延鋼板で、現場でも図面でも頻出の鋼材です。基準強度Fは板厚で変わり、板厚40mm以下でF=235N/mm²。これを使うと次のようになります。
- 長期 = F/1.5 = 235/1.5 ≒ 156N/mm²
- 短期 = F = 235N/mm²
注意したいのが板厚の影響です。板厚が40mmを超えるとF=215N/mm²に下がるため、長期は約143N/mm²、短期は215N/mm²になります。厚い鋼材ほど基準強度が下がる、という点は見落としやすいので押さえておきたいところです。SS400の素性そのものは応力ひずみ曲線でSS400の降伏点と合わせて見ると、F値の出どころが理解しやすいです。
ちなみにSN400もF=235で、許容引張応力度はSS400と同じ値になります。値が同じでも、溶接性や品質の安定性ではSN材のほうが構造用に向いているという違いがあるので、そこは後の施工管理の章で触れます。
SD345・鉄筋の許容引張応力度
鉄筋(異形鉄筋)の許容引張応力度は、結論「短期=F、長期はF/1.5だが“上限値”がある」のが鋼材との大きな違いです。
代表的な異形鉄筋の値を並べます。SD345ならF=345N/mm²で、短期は345。長期はF/1.5=230になりますが、上限が設けられていて、径によって215または195に頭打ちになります。他の規格も同様に長期上限を持ちます。
- SD295:短期295/長期195(上限)
- SD345:短期345/長期215(D29未満)または195(D29以上)
- SD390:短期390/長期195(上限)
ポイントは「なぜ鉄筋の長期には上限があるのか」です。これは鉄筋を強く効かせすぎると、鉄筋コンクリートのひび割れ幅が大きくなってしまうためです。高強度の鉄筋でも、長期(常時)の状態ではひび割れを抑えるために許容値を頭打ちにしている、という配慮ですね。だから「F/1.5で計算したのに表の値と合わない」と感じたら、それは上限が効いているからです。SD345の素性は本文で触れたとおりですが、配筋まわりの実務はD22鉄筋なども合わせて見ると現場とつながります。
個人的には、この「長期上限」を知っているかどうかが、暗記組と理解組の分かれ目だと思っています。鋼材の感覚で鉄筋の長期をF/1.5と思い込むと、値がズレて混乱しますからね。
施工管理目線:ミルシートで材料を確認する
ここが現場の本丸です。施工管理として大事なのは、結論「納入された材料が図面通りのF値を持つ材料か、ミルシートで確認すること」です。
構造計算は設計者が許容引張応力度を使って成立させていますが、その前提は「図面通りの材料が入っていること」です。SS400で計算した部材に、規格外の材料が混ざっていたら計算の根拠が崩れます。そこで施工管理は、鋼材検査証明書=ミルシートで材料を裏取りします。ミルシートの見方はミルシートに詳しくまとめています。
ミルシートで確認したい主なポイントはこのあたりです。
- 鋼種・規格:図面の指定(SS400/SN400B/SD345など)と一致しているか
- 機械的性質:降伏点・引張強さがF値の根拠(規格値)を満たしているか
- 寸法・板厚:板厚区分(40mm以下/超え)でF値が変わる点と整合しているか
- ロット・刻印照合:現物の刻印・ラベルとミルシートが同じロットか
特に図面がSN材指定なのに納入がSS400、というケースは要注意です。許容引張応力度の数値は同じでも、SS400は降伏点のばらつきや溶接性の面で主要構造部材には不向きとされ、SN材が指定されることが多いからです。値が同じだから良い、ではなく、規格指定そのものを満たしているかを見るのが施工管理の役割です。
実務だと、許容引張応力度は「計算する数字」というより「材料がその数字を出せる規格かを確認する基準」として効いてきます。検査では断面欠損も論点で、ボルト孔のぶん有効断面が減る点は断面欠損も参考にしてください。
許容引張応力度に関するよくある質問
最後に、よく出る疑問をQ&Aでまとめます。
Q. 許容引張応力度の単位は?N/mm²とMPaは同じ?
A. 単位はN/mm²で、MPa(メガパスカル)と完全に同じです。156N/mm²は156MPaと読み替えられます。構造計算書ではN/mm²表記が一般的です。
Q. F値(基準強度)は降伏点と同じ?
A. ほぼ降伏点をベースにしていますが、厳密には告示で材料・板厚ごとに定められた値です。降伏点と引張強さのどちらか小さい側を基準に決められており、引張強さそのものとはイコールではありません。
Q. なぜ鉄筋は長期に上限があって、鋼材にはないの?
A. 鉄筋はコンクリートと一体で働くため、強く効かせすぎるとひび割れ幅が大きくなります。これを抑えるため、長期許容引張応力度に上限が設けられています。鋼材(鉄骨)にはこの制約がないので、長期はF/1.5のままです。
Q. SS400で計算されているのに、SN材が指定されるのはなぜ?
A. 許容引張応力度の数値はSS400もSN400も同じですが、SN材は降伏点の範囲や溶接性が構造用に管理されています。地震時に塑性変形を期待する主要構造部材では、品質の安定したSN材が選ばれる、という背景があります。
許容引張応力度に関する情報まとめ
許容引張応力度について、要点を整理します。
- 許容引張応力度とは:部材が引張で許容できる応力度の上限値(N/mm²=MPa)
- 長期と短期:荷重の継続時間で区別。必ず短期>長期
- 求め方(鋼材):長期=F/1.5、短期=F。1.5は安全率
- SS400:長期156・短期235(板厚40mm以下)。板厚超で低下
- 鉄筋(SD345等):短期=F、長期はF/1.5だが上限あり(ひび割れ抑制)
- 施工管理:ミルシートで規格・F値の根拠・板厚を照合する
以上が許容引張応力度に関する情報のまとめです。
数値の暗記より、「F値→長期F/1.5・短期F→検定比」という流れと、「なぜ1.5なのか・なぜ鉄筋に長期上限があるのか」の理屈を押さえるほうが、現場でも試験でも応用が効きます。施工管理としては、計算の数字を覚えるだけでなく、その材料が図面通りかをミルシートで確かめるところまでが仕事です。関連してせん断応力や圧縮応力も合わせて読むと、引張以外の許容応力度まで一気に見通せますよ。

