保有水平耐力とは?計算ルート、Ds値、Fes、必要保有水平耐力など
- 保有水平耐力ってそもそも何?
- 必要保有水平耐力との違いは?
- ルート3とどう関係するの?
- Ds値とかFesって何を表してるの?
- 施工管理が押さえておくべきポイントは?
上記の様な悩みを解決します。
保有水平耐力は、簡単に言うと「建物が地震で水平方向に揺さぶられた時、最終的にどれだけの力に耐えてから壊れるか」を数値化したもので、ルート3の構造計算で必ず登場する指標です。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
保有水平耐力とは?
保有水平耐力とは、結論「大地震時に建物が崩壊する直前まで、どれだけの水平力(横向きの力)に耐えられるかを示す耐力」のことです。
英語では Qu と表記され、単位は kN(キロニュートン)。各階ごとに算定されます。
許容応力度等計算(ルート1・ルート2)では「地震で建物がここまで変形しても部材が壊れない」を確認するのに対して、保有水平耐力計算(ルート3)では「想定を超える大地震が来た時、どこかが崩壊するまでに建物全体としてどれだけ持ちこたえるか」を見る、というイメージです。
ざっくり言うと、ルート1・2は「キズが入らないか」を見るチェック、ルート3は「最後の一線を超えるまで何kNか」を見るチェック、と切り分けると分かりやすいですね。
なぜ保有水平耐力という考え方が必要なのか
中地震では建物は弾性範囲(変形が戻る範囲)内で挙動しますが、大地震ではどうしても部材の一部が降伏(塑性化)します。降伏した部材は剛性が一気に落ちるので、許容応力度の世界の式では追えません。
そこで「降伏した後も粘り強く力を伝えていけるか」を別途確認する必要があり、その答えとして導入されているのが保有水平耐力という指標、という訳です。
保有水平耐力と構造計算ルートの関係
建築物の構造計算には大きくルート1・ルート2・ルート3があり、保有水平耐力計算が登場するのは原則ルート3です。
| 計算ルート | 主な確認項目 | 保有水平耐力 |
|---|---|---|
| ルート1 | 許容応力度計算+仕様規定 | 不要 |
| ルート2 | 許容応力度計算+層間変形角・剛性率・偏心率の確認 | 原則不要 |
| ルート3 | 許容応力度計算+層間変形角の確認+保有水平耐力の確認 | 必要 |
中規模~大規模の建物、形状的に偏心率や剛性率が引っかかる建物、あるいは壁の少ないラーメン構造の建物などは、ルート3に進むケースが多いです。
詳しい構造計算ルートの分け方は構造計算ルートの記事にまとめているので、合わせて読んでみてください。
ルート3を採用するときの実務インパクト
ここは施工管理側として重要なところです。ルート3を選ぶと以下のような影響が出ます。
- 構造解析モデルが詳細化するため、構造設計のフィー(設計料)が上がりやすい
- 確認申請に加えて構造計算適合性判定(適判)が原則必要になる
- 適判のスケジュールが入るので、確認申請の通過まで通常より2〜4週間長く見ておくのが無難
- 部材変更が出ると保有水平耐力の再計算が走り、「ちょっと梁を1サイズ大きくしたい」が想像以上に重い意思決定になる
僕も過去に電気の盤位置の関係で柱の取り合いを変えてもらおうとして、構造担当から「ルート3だから保有も全部回し直しになるよ」と言われ、結局盤側を寄せた経験があります。ルート3案件で構造に絡む変更を出すときは、必ず一度構造担当に「この変更で保有再計算入りますか?」を確認するのがおすすめです。
保有水平耐力を構成する3つの要素(Ds・Fes・Qun)
保有水平耐力の確認は、実際の建物の耐力 Qu と「必要保有水平耐力 Qun」を比べる作業です。Qunは以下の式で表されます。
Qun = Ds × Fes × Qud
それぞれの要素を見ていきましょう。
Ds値(構造特性係数)
Ds は建物の靭性(ねばり強さ)を表す係数で、おおむね 0.25〜0.55 の範囲で決まります。値が小さいほど「壊れにくく粘り強い構造」を意味し、Qun が小さくなる=必要な耐力が下がる、つまり経済的な設計につながります。
Ds値の決まり方をざっくり言うと以下の通りです。
- ラーメン構造で、部材の塑性化のしかたが望ましい順に進む(梁が先に降伏する=梁崩壊形)と Ds は小さく済む
- 柱が先に降伏する崩壊形(柱崩壊形)になると粘りが少ないと判定され Ds が大きくなる
- 鉄骨造のFA・FB・FC・FDといった部材ランク区分や、RC造のFA・FB・FC・FDの区分により Ds が変動する
「梁の方が先に壊れるように設計するほど Ds が小さくて済む」というのが、構造設計者がいう「梁崩壊形を狙う」の意味です。
Fes(剛性率と偏心率による割増)
Fes は形状特性係数と呼ばれ、各階の剛性率 Rs と偏心率 Re によって決まる割増係数です。
- 剛性率 Rs が 0.6 を下回る階 → Fs(剛性率による割増)が 1.0 を超える
- 偏心率 Re が 0.15 を超える階 → Fe(偏心率による割増)が 1.0 を超える
- Fes = Fs × Fe
つまり「上下方向で剛性のばらつきがある建物(ピロティ階を持つ建物など)」や「平面的にプランが偏った建物」は、その分だけ必要保有水平耐力が大きくなる、という仕組みです。
剛性率は剛性、偏心率は別途まとめていますので、計算の中身を理解したいときはそちらを参照してください。
Qud(標準せん断力係数による地震層せん断力)
Qud は建物の各階に作用する地震層せん断力の標準値です。Co=1.0(大地震想定)として算定する地震層せん断力で、要は「大地震時にこの階に何kNの水平力がかかると想定するか」の数字、と思ってもらえればOKです。
保有水平耐力の確かめ方(Qu ≧ Qun の判定)
各階ごとに以下を確かめます。
Qu(保有水平耐力)≧ Qun(必要保有水平耐力)
Qu は荷重増分解析(プッシュオーバー解析)で求めます。建物全体に水平力を少しずつ増やしながら掛けていって、どこかの部材が降伏すると剛性が落ちる、その繰り返しで「もうこれ以上力に耐えられない」という臨界点を捕まえる、という解析です。
実務では構造解析ソフト(SS7、BUILDシリーズ、midas Gen など)が回しますが、結果を見るときは以下を最低限チェックしておくとよいでしょう。
- 各階で Qu/Qun が 1.0 以上か
- 余裕度のばらつきが大きすぎないか(特定階だけ 1.05 ギリギリだと変更時に怖い)
- 崩壊形が想定通り(梁崩壊形を狙ったなら本当に梁から降伏しているか)
なお、必要保有水平耐力以上の Qu があれば即OKというわけではなく、層間変形角の確認や、特定の構造形式における追加の検討(柱梁耐力比の確認など)も必要です。
保有水平耐力に関する施工管理上の注意点
ここまで「設計者の話」っぽく見えるかもしれませんが、施工管理にとっても無視できないポイントがあります。
1. 図面変更の影響を甘く見ない
ルート3案件では、たとえ「梁を1サイズ大きくする」程度の話でも、保有水平耐力・崩壊形・Ds値が一気に動く場合があります。建築側の意匠変更、設備側のスリーブ要求、外部足場との取り合いなど、構造に触れる変更が出たら必ず構造担当に「保有耐力への影響」を確認しましょう。
2. 配筋・鉄骨ディテールはDs値の前提
Ds値は「想定通りの靭性が確保される」ことを前提にしています。たとえば梁端の主筋定着、柱のあばら筋ピッチ、鉄骨柱のスチフナ・ダイアフラムが適切に施工されていなかったら、計算上の靭性が出ません。配筋検査・鉄骨建方検査で「ここはDs値の前提だから」と意識して見るだけでも、検査の目線が変わります。
僕は電気施工管理出身ですが、ある現場で躯体の鉄筋検査に立ち会わせてもらった時、構造担当から「ここは梁崩壊形を効かせてる場所だから、特にあばら筋のピッチと定着は厳しく見て」と注意喚起されたのを覚えています。設計の意図を共有してもらえると、なぜそのディテールが大事なのかが腹落ちしますね。
3. 既存不適格建物の改修ではここを評価する
既存建物の耐震診断・耐震補強でも保有水平耐力(に相当する Is値や q値)が指標になります。Is値0.6以上が一つの目安、というアレです。改修系案件を回す時はこの考え方が下地になっているので、用語くらいは押さえておきたいところ。
保有水平耐力に関する情報まとめ
- 保有水平耐力とは:大地震時に建物が崩壊する直前までに耐えられる水平力 Qu
- 計算ルート:原則ルート3で算定、ルート1・2では原則出てこない
- 構成要素:Qun = Ds × Fes × Qud(Dsが小さいほど経済的設計)
- 確認方法:Qu ≧ Qun を各階で確認、層間変形角や崩壊形も合わせて確認
- 施工管理目線:図面変更で再計算が走る/配筋・鉄骨ディテールはDs値の前提
以上が保有水平耐力に関する情報のまとめです。
ルート3案件を担当することになったら、構造設計者と施工管理がどこで協議しながら進めるかをセットで把握しておくと、現場での意思決定スピードが大きく変わってきます。合わせて構造計算ルート・層間変形角・ラーメン構造あたりも目を通しておくと、構造担当との会話がぐっとスムーズになりますよ。

