- 保有耐力接合ってなに?
- 普通の接合と何が違うの?
- なんで「部材より接合部を強くする」設計をするの?
- 鉄骨と鉄筋では計算方法が違う?
- 現場ではどこを確認すればいい?
- 施工管理として注意すべきポイントは?
上記の様な悩みを解決します。
保有耐力接合は、構造図に「この継手は保有耐力接合とする」と書かれているのを見ても、慣れていないとピンとこない用語。でも実は「地震が来たときに、まず梁本体が降伏してエネルギーを吸収する」という、現代の耐震設計の根幹になっている考え方なんです。施工管理として、この思想を知っておくと、配筋検査・鉄骨検査での確認ポイントがクリアに見えてきます。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
保有耐力接合とは?
保有耐力接合とは、結論「接合される部材本体が降伏する(壊れる)前に、接合部が壊れないように設計された接合」のことです。
ざっくり「部材より接合部を強くした接合」が保有耐力接合、というイメージ。普通の接合が「設計荷重に耐える強度があればOK」なのに対し、保有耐力接合は「部材本体の最大耐力を超える強度を接合部に持たせる」設計思想です。
例えばH形鋼の梁を継ぎ手で接合するとき、梁の母材自体が変形・降伏するくらい強い力がかかった場合でも、接合部はまだ壊れずに耐え続ける、という設計をします。なぜこんな設計をするかと言うと、「もし接合部が先に壊れると、建物は脆性的(一気に)に崩壊する」から。逆に「接合部より部材が先に降伏すれば、エネルギーを吸収しながら粘り強く変形する」ので、地震で人命を守ることができる、という訳です。
これを構造設計の世界では「部材先行降伏型」とか「強節弱材」と呼びます。梁を弱く、節(接合部)を強く設計する、というイメージですね。
僕としては、保有耐力接合は「壊れない建物を作る」のではなく「正しい順序で壊れる建物を作る」設計思想だと感じていて、図面の「保有耐力接合」の文字を見たら、検査の解像度を1段上げて臨むべきポイントだなと思っています。
弾性・塑性の関連はこちら。

普通の接合との違い
普通の接合と保有耐力接合の違いを整理します。
| 項目 | 普通の接合 | 保有耐力接合 |
|---|---|---|
| 設計の基準 | 設計荷重に対する許容応力度 | 部材の最大耐力(全塑性モーメント) |
| 強度の余裕 | 安全率分(短期1.5、長期1.0など) | 部材の塑性耐力以上 |
| 想定する状態 | 通常使用〜中程度の地震 | 大地震時に部材が降伏した瞬間 |
| 壊れる順序 | 想定外(最弱部から) | 部材→接合部の順 |
| 適用範囲 | 一般的な接合 | 主要な耐震要素の接合部 |
つまり、保有耐力接合は「最悪の事態(大地震)でも建物が崩壊しないようにする保険」のような位置づけ。「壊れ方をコントロールする設計」と言い換えてもよいかもしれません。
弾性域・塑性域の挙動を踏まえると意味がより深く理解できる概念で、塑性ヒンジを意図的に作って粘り強さを確保する発想は、保有耐力接合と二人三脚で成り立っています。
層間変形角の関連はこちら。

なぜ「部材先行降伏」を狙うのか?
「部材を先に降伏させる」という発想が直感的にピンとこない人も多いと思うので、もう少し噛み砕いて解説します。
地震で建物に求められることは、小・中規模地震では被害なし・補修不要、大規模地震では倒壊しない(人命を守る)、というあたり。特に大規模地震では、「壊れない」ではなく「倒壊しない・粘り強く変形する」が求められます。建物の構造体には、変形しながらエネルギーを吸収することが期待されているわけです。
接合部が壊れると、その瞬間に部材同士の連続性が断たれ、柱・梁の応力分担が崩壊して一気に建物全体が傾きます。これが「脆性破壊」と呼ばれる現象。逆に部材本体(梁・柱)が降伏すると、塑性ヒンジと呼ばれる「曲がりやすい関節」みたいな部分ができて、変形を吸収しながら荷重に耐え続けるので、建物全体が粘り強く揺れに耐える形になります。
この「部材が先に降伏してエネルギーを吸収する」シナリオを実現するためには、接合部が部材より先に壊れないことが必須条件。だから、接合部に部材の最大耐力以上の強度を持たせる=保有耐力接合、という訳ですね。
部材先行降伏のメリットを箇条書きで整理しておきます。
- 塑性ヒンジが形成され、変形性能でエネルギーを吸収できる
- 建物が崩壊するまでに「段階的な壊れ方」を確保できる
- 大地震後でも局部修理で再使用できる可能性が残る
- 接合部破壊のような脆性破壊を防げる
- 設計者の想定通りの崩壊メカニズムが実現する
塑性ヒンジの形成は地震エネルギーを吸収する主役で、これを邪魔しないために接合部を強くしておく、という構造ですね。
鉄骨での保有耐力接合
鉄骨造での保有耐力接合は、主に梁の継手・柱梁接合部・ブレース接合部に適用されます。
代表例は、梁継手(梁同士を高力ボルトで接合する箇所)、柱梁接合部(柱に梁を接合する箇所=パネルゾーン)、ブレース接合部(ブレースの両端)、柱継手(柱同士の溶接接合)、というあたり。
設計上のポイントは、梁の全塑性モーメントMpを計算、接合部の最大耐力MuがMu ≥ α×Mp となるよう設計、α(保有耐力接合係数)は通常1.2〜1.3程度(設計法・接合形式で異なる)、というところ。
高力ボルトの場合、摩擦接合ではボルト本数を増やす・ボルトサイズを上げる・添え板を厚くするなどの対応で、通常の許容応力度設計よりボルト本数が1.3〜1.5倍になるのが一般的。溶接接合の場合、完全溶け込み溶接(突合せ溶接)を使用、溶接欠陥が許されないので超音波探傷試験(UT)で全数検査が標準、隅肉溶接で済む箇所も保有耐力接合では完全溶け込みに変更されるケース多数、というあたりが定石です。
裏当て金・ボルトの基本はこちら。

鉄筋(RC造)での保有耐力接合
RC造でも保有耐力接合の概念があります。梁・柱の主筋の継手・定着が対象です。
代表例は、主筋の継手(梁・柱の主筋を継ぐ箇所=ガス圧接・機械式継手・重ね継手)、梁主筋の柱への定着(梁端部の主筋を柱内に折り曲げて定着する部分)、柱主筋の柱脚定着(柱主筋を基礎やベースプレートに定着する部分)、というあたり。
設計上のポイントは、主筋の全強耐力At×σyを超える接合強度を確保、重ね継手なら重ね長さを40d〜50d以上(D値・コンクリート強度で変動)、ガス圧接・機械式継手ならJIS適合品+検査で耐力確保、というところ。
現場での確認ポイントは次のとおり。
- 重ね継手は重ね長さ・継手位置(同一断面で50%以下)を実測
- ガス圧接は膨らみの形状・寸法・冷間ねじり試験
- 機械式継手はメーカー指定のトルク・かしめ寸法
- フックや折り曲げ定着の長さも図面通り確保
- 接合部周りのかぶり厚さを必ず確保
主筋・あばら筋の関連はこちら。


現場での確認ポイント(施工管理視点)
施工管理として、保有耐力接合に関わる確認ポイントを整理します。
設計図での確認では、構造図に「保有耐力接合」の記載があるか、どの接合部が対象か(一覧で示されることが多い)、ボルト本数・サイズ・溶接の種類・脚長・重ね長さの仕様確認、というあたりをチェックします。
鉄骨製作工場での確認(ファブ検査)では次の項目を見ます。
- 高力ボルト孔の位置・サイズ精度
- 溶接の脚長・余盛・欠陥
- 完全溶け込み溶接のUT検査結果
- ミルシートで母材の鋼材グレード(SS400・SM490など)が指定通りか
- 製品マーキング(製造ロット・JIS認定)
現場での建方・本締め確認では、高力ボルトの本締めマーキング(共回りなしの確認)、トルク値の管理(M22なら600N・m前後)、摩擦面の処理(赤錆処理、ブラスト処理)、をチェック。
配筋検査での確認(RC造の場合)は、主筋の継手位置・継手長さ、ガス圧接箇所の検査記録(社内検査・第三者検査)、機械式継手の挿入長さ・かしめ状態、というあたり。中間検査・社内検査での書類確認は、鉄骨製作要領書・施工要領書に保有耐力接合の検査項目があるか、第三者検査機関の試験成績書(高力ボルト・溶接・圧接)、というところ。
僕としては、保有耐力接合の現場確認は「ボルト1本も省略できない、溶接欠陥は1個も許されない」という意識で臨むのが大事だなと感じていて、この前提が頭に入っていれば検査の精度が一段上がるなと思っています。
ミルシート・社内検査の関連はこちら。


保有耐力接合に関する情報まとめ
- 保有耐力接合とは:接合される部材が降伏する前に接合部が壊れないよう設計された接合
- 目的:部材先行降伏型の壊れ方を実現し、建物の粘り強さを確保
- 普通の接合との違い:許容応力度ではなく、部材の全塑性モーメントを基準に設計
- 鉄骨での適用:梁継手、柱梁接合部、ブレース接合部、柱継手
- 鉄筋での適用:主筋の継手・定着
- 設計係数:α=1.2〜1.3を母材耐力に乗じる
- 現場確認:図面でのマーク確認、ファブ検査、本締めマーキング、配筋検査、書類確認
- 重要性:大地震時の建物倒壊防止に直結する設計思想
以上が保有耐力接合に関する情報のまとめです。
保有耐力接合は、ぱっと見「ただボルトが多めに付いてる継手」に見えるんですが、その背景には「大地震時にどう壊れるかを設計する」という非常に重要な思想があります。「壊れない建物」ではなく「正しい順序で壊れる建物」を作っているんだ、と思いながら現場に立つと、検査の解像度が一段上がりますね。
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