- 偏心率の計算ってどうやるの?
- 剛心と重心の違いをまず知りたい
- 偏心距離はどう求める?
- 弾性半径ってどう計算する?
- 偏心率の許容値(0.15)の根拠は?
- L型平面や凹凸の多い建物で気をつけることは?
上記の様な悩みを解決します。
偏心率は「建物の重心と剛心がどれくらいズレているか」を表す指標で、地震時のねじれ挙動を判定するうえで欠かせない値です。ただ、計算式そのものはシンプルでも、「剛心の求め方」「弾性半径の出し方」のところで詰まりやすい項目でもあります。本記事では、偏心率の計算手順を、公式・計算例・実務上の注意点までまとめて整理していきます。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
偏心率の計算とは?
偏心率の計算とは、結論「建物の重心と剛心の距離(偏心距離)を、その方向の弾性半径で割って、ねじれの起きやすさを数値化する作業」のことです。
公式はシンプル。Re_x = e_y / r_e_x(X方向の偏心率)、Re_y = e_x / r_e_y(Y方向の偏心率)、というかたち。ここで e_x・e_yが重心と剛心の偏心距離(mm)、r_e_x・r_e_yが弾性半径(mm)。
X方向の偏心率なのに、なぜ e_y(Y方向の偏心距離)を使うのか、と最初は混乱しやすいですが、地震がX方向に作用したとき、平面のY方向にズレた剛心が建物をねじろうとする、と考えると腑に落ちます。詳しい意味や2025年基準改正の議論は別記事でも整理しています。

計算ステップ1:重心の求め方
偏心率の計算は、まず「重心(質量中心)」を求めるところから始まります。
重心の基本式
各層に作用する地震力 P_i(または各部材の質量)を使って、重心X座標がG_x = Σ(P_i × x_i) / Σ(P_i)、重心Y座標がG_y = Σ(P_i × y_i) / Σ(P_i)、という式で求めます。ここで x_i・y_i は各質量要素の位置、P_iは各質量要素の重さ(または地震力)です。
実務での簡略化
実務的には「層単位の重心」を出します。つまり、その階の床荷重・壁・柱・梁などの全質量を合算した重心位置を、平面上の (X, Y) 座標で求めます。整形な矩形プランなら、重心はほぼ平面の幾何中心になります。
重心がずれるケース
重心がずれるケースは、平面の一部だけ屋上階がある(ペントハウスがある)、重い設備(受水槽、エレベーター機械室など)が片側に寄っている、壁の厚みが部分的に厚い(コア壁が片寄っている)、というあたり。
これらの場合は、重心が平面中心からズレるので、剛心との距離が広がりやすくなります。
計算ステップ2:剛心の求め方
次に「剛心(水平剛性の中心)」を求めます。ここが計算で一番手間がかかります。
剛心の基本式
各部材(柱、耐震壁、ブレース)の水平剛性 K_i を使って、剛心X座標がS_x = Σ(K_yi × x_i) / Σ(K_yi)、剛心Y座標がS_y = Σ(K_xi × y_i) / Σ(K_xi)、という式。ここで K_xiがi番目の部材のX方向水平剛性、K_yiがi番目の部材のY方向水平剛性、x_i・y_iが部材の位置です。
つまり「X方向に力が作用したときの剛心」と「Y方向に力が作用したときの剛心」は、それぞれ別の式で求まる、というのがポイントです。
柱・耐震壁の水平剛性の求め方
柱の水平剛性はK = 12EI/h³(両端固定の場合)または3EI/h³(片持ちの場合)、耐震壁は曲げ剛性とせん断剛性の合成(壁の長さLが長いほどせん断成分が支配的)、という関係。
簡易な手計算では、柱については「12EI/h³ または K = 1/(D/(12EI/h³))」みたいなフレーム解析で求めます。実務では構造計算ソフトが自動的に出してくれます。
剛心がずれるケース
剛心がずれるケースは、片側だけに耐震壁・コア壁がある(階段室・エレベーター室がプラン端部)、L字型・コの字型プラン、柱の太さが部分的に大きい(ファサード側だけ太いなど)、というあたり。
剛心の位置は、耐震壁の有無で大きく動きます。「重心は平面中心、剛心は壁側にずれる」というパターンが一番典型的な偏心の発生原因です。
計算ステップ3:偏心距離と弾性半径の求め方
重心 G(G_x, G_y) と剛心 S(S_x, S_y) が出たら、偏心距離は単純に座標差を取ります。偏心距離X方向はe_x = | G_x – S_x |、偏心距離Y方向はe_y = | G_y – S_y |、というかたち。
絶対値で扱うのが基本です。
注意点:方向の解釈
X方向の偏心率を計算するときに使うのは「e_y(Y方向の偏心距離)」です。これはX方向の地震力が、Y方向にズレた剛心まわりに建物をねじろうとするためです。ここで混乱すると以降の計算がすべてズレるので、覚え方として「偏心率の添え字と、偏心距離の添え字は逆になる」と意識すると失敗しません。
弾性半径の意味
弾性半径は「ねじり剛性 K_θ」と「並進剛性 K」の比から求まる、ねじれに対する建物の踏ん張りの指標です。
弾性半径の式
弾性半径の式は、r_e_x = √(K_θ / K_x)、r_e_y = √(K_θ / K_y)、という関係。ここで K_x・K_yが各方向の水平剛性の合計、K_θが剛心まわりのねじり剛性。
ねじり剛性の式
剛心から各部材までの距離 r_i を使って、K_θ = Σ(K_xi × y_i²) + Σ(K_yi × x_i²)、という式。ここで x_i・y_i は剛心からの距離です(重心からではない点に注意)。
計算の流れまとめ
計算の流れは7ステップ。①重心の位置を求める、②剛心の位置を求める、③偏心距離 e_x・e_y を求める、④各部材の水平剛性を集計(K_x・K_y)、⑤ねじり剛性 K_θ を求める、⑥弾性半径 r_e_x・r_e_y を求める、⑦偏心率を計算(Re_x = e_y / r_e_x、Re_y = e_x / r_e_y)、という流れ。
数式そのものはシンプルですが、ステップが多いので「どこで計算ミスをしているか」を切り分ける癖をつけるのが大事ですね。
偏心率の計算例
イメージを掴むために、簡単な計算例を1つ挙げます。
設定
矩形プラン 20m × 10m の1層モデル。柱は全部で6本(角と中央に1本ずつ、すべて同じ剛性 K=1)。Y方向に長さ8mの耐震壁が、プラン東端の柱列に追加されている(剛性 K_w = 10)。
重心
均等な床荷重を仮定。重心は平面中心(X=10m, Y=5m)。
剛心(X方向荷重に対して)
X方向の柱の水平剛性が同じなら、X方向の剛心はY座標としては平面中心(Y=5m)にある。
Y方向の剛心は、Y方向の剛性をX座標で重み付け:
- S_x = (6×1×10 + 10×20) / (6×1 + 10) = (60 + 200) / 16 = 260/16 ≒ 16.25m
剛心は東側(壁のある側)に大きく寄ります。
偏心距離
偏心距離は、e_x = | 10 – 16.25 | = 6.25m、e_y = | 5 – 5 | = 0m、という結果。
X方向に大きな偏心が出ました。
弾性半径
剛心まわりのねじり剛性は柱と壁の剛性を距離の2乗で重み付けして計算。簡単のため省略しますが、おおむね r_e_x = 7m とすると、
- 偏心率 Re_y = e_x / r_e_y = 6.25 / 7 ≒ 0.89
→ 許容値の 0.15 を大きく超え、不可。
設計対応
設計対応は、反対側(西端)にも耐震壁を追加し剛心を平面中心に戻す、壁の本数・長さを調整して剛心位置を重心に近づける、構造形式そのもの(ラーメンとブレース、コア配置)の再検討、というあたり。
このように、片側にだけ耐震壁を寄せると、計算上の偏心率が許容値を超えるパターンが起きやすいです。
偏心率の許容値と計算上の注意点
建築基準法の許容値
建築基準法施行令第82条の6および国土交通省告示で、偏心率は 0.15 以下とすることが定められています。これを超える場合は、ねじれ補正係数(割増係数)を地震力に乗じる必要があります(最大1.5倍程度)。詳しい根拠や2025年基準改正の議論は元記事を参照ください。

計算上の注意点1:地震入力方向ごとに2方向計算
X方向、Y方向それぞれで偏心率を計算します。片方が満足していても、もう片方が0.15を超えていれば全体としてアウトです。
計算上の注意点2:層ごとに計算
偏心率は層ごとに違う値になります。1階だけ満足しても、上層階で0.15超えになることがあります。ピロティ構造(1階だけ柱、上階に壁多数)で起きがちなパターンです。剛性率との関係も合わせて理解しておくと、判定がスムーズになります。

計算上の注意点3:耐震壁の取り扱い
耐震壁の剛性は柱の数倍〜数十倍になります。そのため、耐震壁の配置が偏心率を支配します。設計初期で耐震壁を1枚追加する・撤去するだけで、偏心率が0.05から0.20に飛ぶこともあります。
計算上の注意点4:L型・凹凸プラン
L型・コの字型・凹型プランは、重心と剛心がそもそも一致しにくいので、初期から「対称配置の壁・ブレース」を意識して設計しないと偏心率が抑えられません。プランニング段階で構造担当と意匠担当が早めに連携する必要があります。
計算上の注意点5:層間変形角との並行確認
偏心率は「ねじれの起きやすさ」を見る指標、層間変形角は「層ごとの変形の大きさ」を見る指標。両者は別物ですが、地震応答を見るときには連動して確認する必要があります。

構造計算ソフトでの偏心率の出し方
実務では、構造計算ソフトが自動的に偏心率を計算してくれます。代表的なソフトは以下のとおりです。
主な構造計算ソフト
主な構造計算ソフトは、BUILD.一貫(構造システム)、SS7(ユニオンシステム)、super build/SS3(同上)、midas Gen、STAN/3D、というラインナップ。
これらのソフトを使うと、入力したフレームモデルから自動的に重心・剛心・偏心率・弾性半径を出力できます。手計算する機会は減りましたが、ソフトのアウトプットの「妥当性チェック」のためには、計算手順をきちんと理解しておく必要があります。
ソフトの出力で見るべきポイント
ソフトの出力で見るべきポイントは、各層の偏心率(X方向・Y方向)、偏心距離(e_x・e_y)、弾性半径(r_e_x・r_e_y)、ねじれ補正係数(Fe)、というあたり。
偏心率が0.15を超えていれば、その層・その方向に対してねじれ補正係数 Fe が自動で乗ります。Feが1.5の上限に達している場合は、設計の見直しが必要なサインと言えます。
手計算で再現するメリット
手計算で再現するメリットは、設計初期のスタディで素早く判定できる(ラフモデルでざっくり把握)、「壁を1枚動かすと偏心率がどれくらい変わるか」の感覚が掴める、ソフトのインプットミスを発見しやすい、というあたり。
設計事務所では、初心者がソフトを動かす前に、手計算で偏心率を出す訓練をやることが今でも多いです。理屈を理解してからソフトを使うことで、結果の妥当性チェックができるようになります。
偏心率の計算に関する情報まとめ
- 偏心率の計算とは:偏心距離 ÷ 弾性半径 で、ねじれの起きやすさを数値化する作業
- 公式:Re_x = e_y / r_e_x、Re_y = e_x / r_e_y(添え字に注意)
- 計算ステップ:重心 → 剛心 → 偏心距離 → 水平剛性 → ねじり剛性 → 弾性半径 → 偏心率
- 許容値:建築基準法で 0.15 以下、超える場合はねじれ補正係数 Feを乗じる
- 注意:X・Y両方向、層ごと、耐震壁配置の感度、L型プラン
- 実務:構造計算ソフトが自動計算、手計算は妥当性チェック用に押さえる
以上が偏心率の計算に関する情報のまとめです。計算ステップが多いので一見複雑ですが、「重心と剛心の距離が、弾性半径に対してどれくらいの割合か」というシンプルなコンセプトを押さえれば、流れは意外と一本道です。設計初期から「偏心率は壁配置で決まる」という感覚を持って計画すると、構造計算で詰まる場面がぐっと減りますよ。
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