- 地震荷重ってなに?
- どうやって計算するの?
- C0、Z、Rt、Aiって何の係数?
- 1次設計と2次設計の違いは?
- 施工管理として何を意識すればいい?
- 過去の地震でどう変わってきた?
上記の様な悩みを解決します。
「地震荷重」は構造計算の中核で、建物が地震に耐えるかどうかを決める設計用の水平力。係数が4つも5つも出てきて初学者を混乱させますが、それぞれが「地域・地盤・建物高さ・揺れの強さ」という4つの軸を意味していると押さえれば、一気にスッキリします。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
地震荷重とは?
地震荷重とは、結論「地震時に建物にかかる水平力(揺れの力)として、構造設計で見込む荷重」のことです。
英語では Seismic Load または Earthquake Load。建築基準法施行令第88条で定義され、構造計算の中で水平荷重として扱われます。
ざっくりイメージすると
地震が来ると地面が揺れて、建物の各階に水平方向の慣性力がかかります。これが地震荷重で、1階には建物全体の重さ×地震係数、2階には上層階の重さ×地震係数×高さによる増幅…という形で各階に分布する、というイメージ。
地震荷重の特徴
地震荷重の主な特徴は、水平方向にかかる(垂直方向は固定荷重・積載荷重)、建物の重さに比例する(重い建物ほど大きい)、建物の高さで分布が変わる(上階ほど揺れが大きい)、地域・地盤で大きさが変わる、建物の構造特性(剛性・周期)で変わる、というあたり。
なぜ建築で重要か
日本は地震大国で、毎年震度4以上の地震が複数回発生します。建物が地震荷重に耐える設計になっていないと、倒壊・大破による人命喪失、機能停止による事業継続不能、復旧コストの膨大化、といったリスクにつながるため、構造計算の中で最重要の水平荷重として扱われます。
他の水平荷重との違い
| 水平荷重 | 性質 | 設計時の扱い |
|---|---|---|
| 地震荷重 | 短期・動的 | C0=0.2 を基準 |
| 風荷重 | 短期・動的(持続あり) | 設計用速度圧から |
| 土圧 | 長期・静的 | 主働土圧で計算 |
| 水圧 | 長期・静的 | 水柱重量で計算 |
地震荷重と風荷重は両方検討して、大きい方を支配荷重として設計することが多いです。
層間変形角(地震時の建物変形の指標)は別記事も参考にしてください。

地震荷重の種類
地震荷重には大きく分けて2つの考え方があります。
①静的地震荷重
静的地震荷重は、地震を水平方向の静的な力として扱う考え方で、簡略化された計算で実用的なのが特徴。一般の建物の構造計算で標準的に用いられ、建築基準法施行令の地震荷重もこの方式です。
②動的地震荷重(時刻歴解析)
動的地震荷重は、地震波を時間軸で再現して建物の応答を計算する方法で、コンピュータ解析が必要になります。高層建物・免震建物・特殊建物で実施され、過去の地震波(El Centro、神戸波、東日本波)を入力波として使うのが一般的。
実務での使い分け
| 建物種別 | 地震荷重の扱い |
|---|---|
| 木造住宅 | 壁量計算(簡略化された静的地震荷重) |
| 中低層RC・S造 | 静的地震荷重+層間変形角 |
| 高層・超高層 | 静的+動的(時刻歴)解析 |
| 免震建物 | 動的解析が必須 |
| 重要施設(病院・庁舎) | 動的解析を含めた多角検討 |
地震荷重の計算式
建築基準法施行令第88条で規定された静的地震荷重の計算式を整理します。
①基本式
Q = Ci × ΣW
ここで Q は i階より上の地震層せん断力(kN)、Ci は i階の地震層せん断力係数、ΣW は i階より上の建物重量の合計を表します。
→ i階より上の重さに係数を掛けた値が、その階の地震荷重。下の階ほど(上に乗っている重さが大きいので)大きくなります。
②地震層せん断力係数 Ci
Ci = Z × Rt × Ai × C0
これが核心。4つの係数の積です。
| 記号 | 意味 | 値の範囲 |
|---|---|---|
| Z | 地域係数 | 0.7〜1.0 |
| Rt | 振動特性係数 | 0.4〜1.0 |
| Ai | 層せん断力分布係数 | 1.0〜2.0以上 |
| C0 | 標準せん断力係数 | 0.2 or 1.0 |
③地域係数 Z
地震の発生頻度・強さの地域差を表す係数。
| 地域 | Z |
|---|---|
| 沖縄 | 0.7 |
| 福岡・北九州 | 0.8 |
| 西日本一般 | 0.9 |
| 東日本一般 | 1.0 |
| 静岡・南海トラフ沿い | 1.0 |
| 北海道沿岸 | 0.9 |
→ 沖縄は地震少ない=0.7、東日本は地震多い=1.0、というシンプルな割り付け。
④振動特性係数 Rt
建物の固有周期 T(秒)と地盤種別(第1種:硬質・第2種:普通・第3種:軟弱)を組み合わせて決まる係数です。
T = h × (0.02 + 0.01α)
ここで h は建物の高さ(m)、α は高さに対する木造の比率。
→ 建物が高くて軟弱地盤ほどRtが小さくなる(共振対策)。
| 建物 | T(秒) | Rt |
|---|---|---|
| 低層木造(5m) | 0.15 | 1.0 |
| 中層RC(30m) | 0.6 | 0.8〜1.0 |
| 高層RC(60m) | 1.2 | 0.5〜0.7 |
| 超高層(100m) | 2.0 | 0.4 |
⑤層せん断力分布係数 Ai
建物の高さ方向で、上階ほど揺れが大きくなることを表す係数。
Ai = 1 + (1/√αi − αi) × 2T / (1 + 3T)
ここで αi は i階より上の重量比、T は建物の固有周期です。
→ 建物頂部に近づくほどAiが大きくなる。最上階では2.0近く、地盤面では1.0。
⑥標準せん断力係数 C0
地震荷重の基準値で、C0=0.2が1次設計(許容応力度設計)、C0=1.0が2次設計(保有水平耐力設計)に使われます。
→ 1次設計は中規模地震(震度5強)を、2次設計は大規模地震(震度6強〜7)を想定した値。
剛性率・偏心率(建物の特性係数)は別記事も参考にしてください。


1次設計と2次設計の違い
地震荷重の計算では、2段階の設計を行います。これが日本の耐震設計の基本構造です。
①1次設計(許容応力度設計)
1次設計は、中規模地震(震度5強程度)で建物が損傷しないことが目的。使用係数はC0 = 0.2で、検証方法は各部材の応力が許容応力度内に収まるかをチェック。想定地震は再現期間50年程度の中地震です。
②2次設計(保有水平耐力設計)
2次設計は、大規模地震(震度6強〜7)で建物が倒壊しないことが目的。使用係数はC0 = 1.0で、検証方法は建物の保有水平耐力が必要保有水平耐力を上回るかをチェック。想定地震は再現期間500年程度の大地震です。
③ルートによる検証方法
建物規模・構造で適用ルートが変わります。
| ルート | 対象建物 | 内容 |
|---|---|---|
| ルート1 | 小規模建物 | 1次設計のみ+耐震壁充足 |
| ルート2 | 中規模建物 | 1次設計+層間変形角・剛性率・偏心率 |
| ルート3 | 大規模建物 | 1次設計+2次設計(保有水平耐力) |
→ ルート3が最も厳格で、超高層・特殊建物に適用。
④許容応力度の概念
1次設計の許容応力度設計では、鉄筋・鉄骨が降伏応力度の2/3以下、コンクリートが圧縮強度の1/3以下、という安全率を見て、部材が弾性範囲(壊れない範囲)で耐えるかを検証します。
⑤保有水平耐力の概念
2次設計では、建物が塑性変形(部材の一部が降伏)してでも倒壊しないかを検証。建物の靭性が重要です。
⑥両者を満たすことが必須
「1次設計だけ」「2次設計だけ」ではなく、両方とも満たす必要があるのが日本の耐震設計の基本。
壁量計算(木造の簡易耐震設計)は別記事も参考にしてください。

地震荷重の歴史的変遷
日本の地震荷重の規定は、過去の地震被害を踏まえて段階的に強化されてきました。
①1924年(市街地建築物法)
関東大震災(1923年)を契機に制定され、標準せん断力係数は0.1(建物重量の10%)でした。
②1950年(建築基準法制定)
C0が0.2へ強化され、現在の基本値の原型となりました。
③1981年(新耐震基準)
宮城県沖地震(1978年)を契機に、2段階設計(1次・2次)を導入。1次がC0=0.2、2次がC0=1.0で、これが現在の基本構造になっています。
④2000年(性能規定化)
建築基準法の性能規定化が行われ、限界耐力計算法が導入されました。
⑤2007年(構造計算適合性判定)
姉歯事件(2005年)を契機に、一定規模以上の建物は適合性判定が必須化されました。
⑥2016年(熊本地震対応)
連続地震への配慮が議論され、2025年改正につながる流れができました。
⑦2025年改正
4号特例の縮小と、木造住宅の壁量計算強化が盛り込まれました。
→ 大きな地震が起きるたびに規定が強化されてきた歴史。「過去の地震被害=現在の規定の根拠」という構造です。
地震荷重と施工管理
施工管理として、地震荷重を直接計算する場面はほぼありませんが、設計の意図を理解するシーンは多くあります。
①耐震壁の重要性
地震荷重に対する建物の耐力は、主に耐震壁で担保されます。耐震壁の配置(バランス)、鉄筋量、開口(開口があると耐力が減る)の3つが要点で、配筋検査では耐震壁の主筋・配力筋・端部補強が特に重要です。
②柱・梁接合部
地震時の水平力は、最終的に柱・梁接合部に応力集中します。具体的にはダイヤフラム、スカラップ(鉄骨)、スターラップの密配(RC)、パネルゾーンの剛性など。施工不良が出やすい場所なので、特別仕様書での重点確認部位になります。
③ブレース
S造ではブレースが地震荷重に対する主役。ガセットプレートの溶接、ボルト本数、高力ボルトのトルク管理がチェック対象です。
ブレースの詳細は別記事も参考にしてください。

④免震・制震装置
近年は免震建物・制震建物も増えており、免震ゴム支承の据付精度、ダンパーの設置位置、装置周りのクリアランスの管理が施工管理の腕の見せどころになります。
⑤実例:耐震壁の鉄筋量変更
ある中規模オフィスビルのRC造で、設計事務所から「2階のX方向耐震壁の鉄筋を当初仕様より強化(D13@200→D16@150)」という設計変更指示を受けたケースを見たことがあります。理由を聞くと、保有水平耐力計算の見直しで2階のX方向の必要保有水平耐力が増えたため。地震荷重の係数(Ai)と建物全体のバランスで、特定階だけ補強が必要になることがあります。設計変更の理由を聞くと地震荷重の理解が深まる、という良い例でした。
地震荷重に関する注意点
最後に、現場で誤解しやすいポイントを整理します。
①C0=0.2は最低基準
C0=0.2は法令上の最低基準であり、重要施設(病院・官公庁・学校)では1.25倍・1.5倍の割増を行うのが一般的。
②地震荷重と風荷重の比較
水平荷重として、地震荷重と風荷重の両方を検討して、大きい方を支配荷重とします。低層・剛な建物は地震荷重支配、高層・柔な建物は風荷重支配(場合による)になりやすい、というのが一般的な傾向です。
③地盤種別の確認
設計時の地盤種別と実際の地盤が違うことがあります。ボーリング報告書のN値で地盤種別を確認。
④高さによる係数の変化
増築で建物が高くなると、固有周期が変わり、Rt・Aiが変わります。増築時は構造計算のやり直しが必須。
⑤Z=1.0の地域でも地震が来る
Z=1.0は標準値で、それを超える地震もあります。設計用地震荷重を過大に超える地震では、想定外の被害が出る可能性があります。
⑥木造住宅の壁量計算
木造住宅は壁量計算で簡略化されますが、本質は地震荷重への抵抗。耐震壁の量が不足すると地震時に倒壊リスク。
⑦改修・リノベーション時
既存建物を改修するとき、地震荷重への耐力が変わる可能性があります。耐震診断+耐震補強が必要なケースも。
影響線(地震荷重の動的解析の基礎)は別記事も参考にしてください。

地震荷重に関する情報まとめ
最後に、地震荷重の重要ポイントを整理します。
- 地震荷重とは:地震時に建物にかかる水平力。重さ×係数で計算
- 基本式:Q=Ci×ΣW、Ci=Z×Rt×Ai×C0
- 4つの係数:地域係数Z(0.7〜1.0)、振動特性係数Rt(0.4〜1.0)、層分布係数Ai(1.0〜2.0+)、標準せん断力係数C0(0.2 or 1.0)
- 1次設計と2次設計:1次(C0=0.2)で中地震に損傷しない、2次(C0=1.0)で大地震に倒壊しない。両方を満たすのが必須
- 設計ルート:ルート1〜3で検証方法が変わる。大規模建物ほど厳格
- 歴史的変遷:1981年新耐震基準で2段階設計を導入、2007年構造計算適合性判定、2025年改正
- 施工管理視点:耐震壁の配筋・配置、柱梁接合部、ブレース、免震制震装置の据付精度
- 注意点:C0=0.2は最低基準(重要建物は割増)、風荷重との比較、地盤種別の確認、改修時の耐震診断
以上が地震荷重に関する情報のまとめです。
地震荷重の係数(Z・Rt・Ai・C0)は一見複雑に見えますが、「地域・地盤・建物高さ・揺れの強さ」という4つの軸でそれぞれの係数が割り付けられているだけ。各係数の意味を押さえると、構造計算書の地震荷重ページが「この建物の特性をどう拾っているか」として読めるようになります。一通り地震荷重の基礎知識は理解できたと思います。
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