- H鋼ってどれくらいの強度があるの?
- 鋼種で強度って変わる?
- H-200やH-300で耐えられる荷重ってどれくらい?
- 許容応力度ってどう決まる?
- たわみは強度と関係ある?
- 現場で気をつけることは?
上記の様な悩みを解決します。
「このH鋼ってどれくらいの強度ある?」と聞かれて、サイズ表だけ眺めても答えは出ません。H鋼の強度は 「鋼種(SS400・SM490など)の降伏点」×「サイズ(断面)の幾何性能」 という2つの掛け算で初めて決まるからです。鋼種が同じでも H-200×100 と H-400×200 では桁が違いますし、同じサイズでも鋼種を SM490 に上げれば耐力が大幅にアップします。今回は施工管理視点で、H鋼の強度をどう捉えるかを整理してみます。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
H鋼の強度とは?「鋼種」と「サイズ」の掛け算
H鋼の強度とは、結論「鋼種が持つ材料強度(降伏点・引張強さ)と、断面寸法から決まる幾何性能(断面係数Z・断面二次モーメントI)の組合せ で決まる耐荷重性能」のことです。
「H鋼の強度」と一言で言っても、実は2つの軸を分けて考える必要があります。
軸①:鋼種(材料そのものの強さ)
| 鋼種 | 降伏点 [N/mm²] | 引張強さ [N/mm²] | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| SS400 | 235(板厚16mm以下は245) | 400〜510 | 軽微な構造、汎用 |
| SM400 | 235 | 400〜510 | 溶接構造(橋梁・建築) |
| SN400 | 235〜355(板厚で変動) | 400〜510 | 建築の主要構造(要綱適合) |
| SM490 | 325 | 490〜610 | 中高層建築、橋梁 |
| SN490 | 325〜355 | 490〜610 | 建築の主要構造 |
| SM520 | 365 | 520〜640 | 高強度橋梁 |
軸②:サイズ(断面の幾何性能)
| 呼称 | 高さH [mm] | 幅B [mm] | ウェブt₁ | フランジt₂ | 断面係数Zx [cm³] | 断面二次モーメントIx [cm⁴] |
|---|---|---|---|---|---|---|
| H-200×100 | 200 | 100 | 5.5 | 8 | 184 | 1,840 |
| H-250×125 | 250 | 125 | 6 | 9 | 324 | 4,050 |
| H-300×150 | 300 | 150 | 6.5 | 9 | 481 | 7,210 |
| H-350×175 | 350 | 175 | 7 | 11 | 775 | 13,600 |
| H-400×200 | 400 | 200 | 8 | 13 | 1,170 | 23,500 |
つまり、「鋼種でMpa(材料の強度)」「サイズでZ・I(形の強度)」 の2つを掛け合わせると初めて「曲げ耐力」「せん断耐力」が出る、という構造です。
H鋼の基本(規格・サイズの一覧)はこちら。

鋼材の許容応力度の話はこちら。

鋼種別の許容曲げ応力度(強度の上限)
実際の構造計算では、鋼種ごとに「許容応力度(短期・長期)」が決まっています。これがH鋼が「壊れない範囲で耐えられる応力」の上限です。
主な鋼種の許容曲げ応力度(建築基準法・鋼構造設計基準)
| 鋼種 | 長期許容曲げ応力度 fb [N/mm²] | 短期許容曲げ応力度 [N/mm²] |
|---|---|---|
| SS400 | 156(F値235 ÷ 1.5) | 235 |
| SM400 | 156 | 235 |
| SN400 | 156 | 235 |
| SM490 | 216(F値325 ÷ 1.5) | 325 |
| SN490 | 216 | 325 |
| SM520 | 243 | 365 |
長期許容応力度は「F値(基準強度)÷ 1.5」で求めます。短期(地震・風)は1.5倍まで使えます。
SS400 と SM490 の差
- SS400:許容曲げ応力度 156 N/mm²
- SM490:許容曲げ応力度 216 N/mm²
つまり同じH鋼サイズでも 鋼種をSS400→SM490に変えるだけで約1.4倍の曲げ耐力アップ。「サイズを上げるか、鋼種を上げるか」が構造屋さんの悩みどころです。
許容曲げ応力度の詳細はこちら。

降伏点の意味はこちら。

サイズ別の曲げ耐力(H-200〜H-400の目安)
「このH鋼で何kN・mまで耐えられる?」という問いに概算で答えるのが 許容曲げモーメント Ma = fb × Z です。
SS400・SM490 の許容曲げモーメント概算(長期)
| H鋼サイズ | Zx [cm³] | SS400 Ma [kN・m] | SM490 Ma [kN・m] |
|---|---|---|---|
| H-200×100 | 184 | 28.7 | 39.7 |
| H-250×125 | 324 | 50.5 | 70.0 |
| H-300×150 | 481 | 75.0 | 103.9 |
| H-350×175 | 775 | 120.9 | 167.4 |
| H-400×200 | 1,170 | 182.5 | 252.7 |
計算は Ma [N・mm] = fb × Z = 156 × 184,000 = 28,700,000 N・mm ≒ 28.7 kN・m という具合(SS400・H-200×100 の例)。
たとえば H-300×150 の梁スパン6m に等分布荷重 w が乗ると…
- 単純梁の最大曲げモーメント:Mmax = wL² /8
- SS400 で許容Mmax = 75 kN・m
- 75 = w × 6² /8 → w = 16.7 kN/m まで耐えられる
これに自重(H-300×150 で約 0.36 kN/m)を引くと、積載荷重として約 16.3 kN/m まで使える計算です。
ポイント:実設計では「曲げ」だけでなく「たわみ」「せん断」「横座屈」も同時にチェック
実際の梁設計では、許容曲げモーメントだけでなく たわみ(L/250以下を目安)、せん断応力度(フランジ・ウェブ)、横座屈(横補剛が効いているか) の4つを同時に確認します。許容曲げが満たせていても、たわみで NG → 結果的にサイズアップ、というパターンが現場では多いです。
最大曲げモーメントの基本はこちら。

たわみの計算式はこちら。

横座屈の話はこちら。

H鋼のたわみと強度の関係
「強度=壊れない」と「たわみ=動かない」は別の話。実務では「壊れる前にたわみで使い物にならない」ケースがほとんどです。
たわみ式(単純梁・等分布荷重)
δ = 5wL⁴ /(384 × E × I)
- E:ヤング率(鋼材なら 205,000 N/mm²、SS400・SM490ともに同じ)
- I:断面二次モーメント [mm⁴]
重要:ヤング率 E は鋼種で変わらない
- SS400 → E = 205 GPa
- SM490 → E = 205 GPa
- SN400 → E = 205 GPa
つまり 「強い鋼種にしてもたわみは減らない」。鋼種を SS400 から SM490 に変えても、曲げ耐力は1.4倍になりますが、たわみは1mmも減りません。たわみを減らしたいなら 断面を大きくして I を稼ぐ、これが鋼構造の鉄則です。
ヤング率の話はこちら。

断面二次モーメントの基本はこちら。

H鋼強度に関する施工管理の注意点
最後に、施工管理として現場で押さえておきたい注意点を整理します。
注意点①:構造計算書の「鋼種」と納入材の「鋼種」を必ず照合
構造計算では SM490 で計算しているのに、納入材が SS400 だった、という事例は工場ファブで稀に発生します。降伏点が SS400=235、SM490=325 なので、強度が約3割低い材料が現場に来る ことを意味します。ミルシートの鋼種記号(SS400/SM490/SN490B 等)を必ず照合しましょう。
ミルシートの読み方はこちら。

注意点②:「強度がある」と「使い勝手がある」は別
H鋼サイズを上げれば強度は上がりますが、自重も増えますし、運搬・建方の手間も増えます。とくに6m超のロングH鋼は、トラックの荷台寸法・市街地の搬入経路・タワークレーン揚重重量の制約で「サイズアップが現場をストップさせる」こともあります。設計と施工で 構造強度 vs 施工性のトレードオフ を共有しておくのが大事です。
注意点③:開孔・切欠きで強度はガクッと落ちる
H鋼のウェブやフランジに後施工で穴をあけると、その断面の応力集中で強度が大幅に落ちます。特に 配管・配線貫通の後施工切欠き は、構造設計者の事前承認なしにやるのは厳禁。事前に「貫通許容範囲」を構造図でもらっておきましょう。
開孔の補強の話は防火区画貫通とも関連します。

注意点④:横座屈に注意(特に長スパン梁)
長スパンのH鋼梁は、上フランジが圧縮されて 横方向にたわむ「横座屈」 で先に壊れることがあります。スラブやデッキで上フランジを押さえている前提で構造計算しているケースが多いので、施工順序として 「横補剛が効くまで上に荷重を載せない」 のが鉄則です。
物流倉庫の機械室で、ケーブルラックの吊り金物を H-300×150 の梁フランジに固定する作業を任されたことがあります。構造図の梁断面表に小さく「貫通孔 φ22 max・ウェブ NG」の注記があったのを見落とし、職人さんに「φ25 で開けて」と指示。後の構造監理者立会で発覚し、補修プレート(PL-100×100×9)を溶接で当てる手戻りに。プレート溶接そのものは大したことなくても、塗装の補修・周辺ケーブル類の一時撤去・養生で半日が消えました。後で図面を見直すと、フランジの応力検討で φ25 だと縁端距離不足で許容応力を超えていた、という構造的にも不味い穴あけだったんですね。梁の付帯穴あけは、構造図の脚注まで読まないと事故ります。
ボルト孔の規格はこちら。

H鋼の強度に関する情報まとめ
- H鋼の強度:「鋼種の降伏点」と「断面の幾何性能」の掛け算 で決まる
- 鋼種別F値:SS400=235、SM490=325(板厚で変動あり)
- 許容曲げ応力度:SS400=156、SM490=216 N/mm²(長期)
- サイズ別Ma:H-300×150・SS400で長期 75 kN・m が目安
- たわみは鋼種で変わらない:鋼種アップしてもE=205で同じ
- たわみを減らすには:断面アップ(I増加)が王道
- 施工注意:鋼種照合、後施工開孔、横座屈、運搬制約を確認
以上がH鋼の強度に関する情報のまとめです。
「H鋼ってどれくらい強い?」という素朴な問いに正しく答えるには、鋼種とサイズの2軸を分けて考える発想が大事になります。同じサイズでも鋼種をSM490にすれば1.4倍の曲げ耐力、同じ鋼種でもサイズを上げれば断面係数のオーダーで強度が変わる。一通りH鋼の強度に関する基礎知識は理解できたと思います。
合わせて、関連するH鋼・鋼材・許容応力度の知識もチェックしておきましょう。









