- 主働土圧と受働土圧って結局どっちがどっち?
- なんで擁壁は主働土圧で設計するの?
- 計算式(Ka・Kp)の意味が知りたい
- 静止土圧との違い・大小関係は?
- 山留めの「根入れの受働抵抗」ってどういうこと?
- 掘削側と背面側で土圧が違うの?
- ランキンとクーロンはどう使い分ける?
- 現場で土圧って何に効いてるの?
上記の様な悩みを解決します。
主働土圧と受働土圧は、山留めや擁壁の構造計算書に必ず出てくる用語ですが、「壁が動く向き」で名前が変わるだけなので、一度イメージで掴めば毎回迷わなくなります。逆に、ここを丸暗記で済ませると「なぜ擁壁は主働で設計するのか」「山留めの根入れがなぜ効くのか」といった現場の判断につながりません。
この記事では、主働土圧・受働土圧の定義と静止土圧を含めた大小関係、Ka・Kpの計算式とランキン・クーロンの理論を押さえた上で、現役の施工管理目線で一番つまずく「山留めの掘削側と背面側で土圧がどう効くか」「擁壁設計でどちらを使うか」を、現場の意味とセットで整理しました。
なるべく分かりやすい表現でまとめていくので、土圧が苦手な方や施工管理技士の勉強中の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
主働土圧と受働土圧とは?
主働土圧とは結論「壁が背面の土から離れる向きに動こうとするときに、土が壁を押す力」のことで、受働土圧とは「壁が土を押し込む向きに動くときに、土が壁を押し返す抵抗力」のことです。
ポイントは「壁がどっちに動くか」だけです。擁壁を例にすると、背面の土に押されて擁壁がほんの少し前(土から離れる方向)に動きます。このとき背面の土がゆるんで崩れかかり、壁を押してくる力が主働土圧です。逆に、何かが壁を土の側へ押し込むと、土は締め固められて壁を押し返してきます。この押し返しが受働土圧です。
覚え方としては、「主働=主体的に動く壁から逃げる土(離れる)」「受働=受け身で押し返す土(押される)」と動詞のイメージで結びつけると、現場目線で言えば毎回どっちがどっちか迷わなくなります。土圧そのものの全体像はこちらでも整理しているので、用語の地図として先に押さえておくと理解が速いです。

なお、この2つに加えて壁がまったく動かないときの「静止土圧」があり、合わせて3種類で考えるのが基本です。次の章で3つの大小関係を整理します。
主働土圧・受働土圧・静止土圧の違いと大小関係
主働土圧・静止土圧・受働土圧の大小関係は、結論「主働土圧 < 静止土圧 < 受働土圧」です。壁の動く向きと量で、土圧は小さくも大きくもなります。
3種類を整理すると次のようになります。
| 種類 | 壁の動き | 土圧の大きさ | 主な場面 |
|---|---|---|---|
| 主働土圧 | 土から離れる向きに動く | 最小(係数Ka<1) | 擁壁・山留め背面 |
| 静止土圧 | 動かない | 中間(係数K0) | 地下外壁・剛な壁 |
| 受働土圧 | 土を押し込む向きに動く | 最大(係数Kp>1) | 山留めの根入れ抵抗 |
ここで効いてくるのが「変位」です。主働土圧はごくわずかな変位(壁高さHに対しておよそ0.001H〜0.005H程度)で発現します。一方、受働土圧が完全に発揮されるには、それよりかなり大きな変位が必要になります。この差が後で効いてくる重要なポイントで、「受働土圧は大きいけれど、それを出すには壁が大きく動かないといけない=そのまま全部は当てにしにくい」という設計上の悩みにつながります。
静止土圧は壁が動かない状態の土圧で、地下室の外壁のような剛な壁で考えます。ただし擁壁では1/1000程度のごく小さな変形でも主働状態に移行すると考えられるため、設計では静止土圧ではなく主働土圧を使うのが一般的です。静止土圧の詳しい扱いはこちらが参考になります。

主働土圧・受働土圧の計算式
主働土圧・受働土圧は、共通の式に「土圧係数」を掛け替えるだけで計算できます。難しそうに見えて、構造は同じです。
粘着力を無視した砂質土の場合、壁面に作用する土圧の合力は次の形になります。
- 主働土圧:Pa = 1/2 × Ka × γ × H²
- 受働土圧:Pp = 1/2 × Kp × γ × H²
ここでγは土の単位体積重量、Hは壁の高さです。土圧は深いほど大きくなる三角形分布なので、合力の作用位置は底面から H/3 の高さになります。
係数Ka・Kpは、ランキン理論では内部摩擦角φを使って次のように表されます。
- 主働土圧係数:Ka = (1 − sinφ) / (1 + sinφ) = tan²(45° − φ/2)
- 受働土圧係数:Kp = (1 + sinφ) / (1 − sinφ) = tan²(45° + φ/2)
この式を見ると、KaとKpは互いに逆数の関係(壁面摩擦を無視した場合)になっていることが分かります。φが大きい(締まった土)ほどKaは小さく、Kpは大きくなります。例えばφ=30°ならKa=1/3、Kp=3で、受働は主働の9倍にもなります。この「9倍」という数字が、受働土圧が抵抗として頼もしい理由であり、同時に大きな変位を伴う理由でもあります。理論ごとの違いはランキン・クーロンの記事が詳しいです。

地震時には慣性力で土圧が増える「地震時土圧」を別途考え、物部・岡部式(モノノブ・オカベ法)などで評価します。通常時の主働・受働とは分けて扱う点に注意してください。
土圧係数(Ka・Kp・K0)の意味
土圧係数とは、結論「鉛直方向の土の重さ(鉛直応力)を、横向きの土圧に変換する掛け算の比率」のことです。Ka・Kp・K0はこの比率が場面ごとに違うだけです。
3つの係数を並べると、関係がはっきりします。
- K0(静止土圧係数):壁が動かないときの比率。砂質土ではK0 = 1 − sinφ で概算され、φ=30°ならK0=0.5前後
- Ka(主働土圧係数):壁が土から離れたときの比率。1.0より小さい
- Kp(受働土圧係数):壁が土を押したときの比率。1.0より大きい
大小はそのまま Ka < K0 < Kp となり、前章の土圧の大小関係に対応します。係数の意味が腹落ちすると、「φ(内部摩擦角)が大きい土ほど主働土圧が小さくなる=崩れにくい」という現場感覚と式がつながります。係数まわりのバリエーションや計算例は土圧係数の記事で深掘りしているので、計算問題で詰まったらこちらを参照してください。

山留めでの主働土圧・受働土圧の使い方
山留めでは、結論「掘削する側(前面)の受働土圧が抵抗、背面側の主働土圧が外力」という役割分担で安定を考えます。ここが主働・受働を学ぶ一番の実務的な勘どころです。
山留め壁を掘削していくと、背面の土は壁を掘削側へ押してきます。これが主働土圧で、壁を倒そうとする外力です。一方で、掘削した側の根入れ部分(地中に残っている壁の下部)には、壁が掘削側へ動こうとするのを押し返す受働土圧が働きます。つまり、根入れ部分の受働抵抗で背面の主働土圧に耐える、という構図です。
この関係から、山留め設計では次のような判断が出てきます。
- 根入れ長を確保する:受働抵抗を稼ぐために、掘削底以深に十分な根入れを取る
- 受働土圧を割り引く:大きな変位がないと受働は出ないため、安全側に全量は見込まない
- 切梁・アンカーで支える:受働だけで足りない分は、切梁やアースアンカーの反力で背面の主働土圧を受ける
根入れの考え方は根入れ深さの記事と合わせると、なぜその長さが必要かが見えてきます。

さらに、根入れが不足したり地下水位が高いと、掘削底でヒービングやボイリングといった破壊現象につながります。これらは土圧・水圧と根入れのバランスが崩れた結果なので、主働・受働の理解は安全管理にも直結します。ボイリングの仕組みはこちらが参考になります。

山留め工法そのものの選定(親杭横矢板・シートパイル・SMWなど)は、こちらで全体像を押さえられます。

擁壁での主働土圧・受働土圧の使い方
擁壁では、結論「背面の主働土圧を外力として設計し、前面の受働土圧は基本的に当てにしない(または割り引く)」のが原則です。なぜ大きい受働ではなく小さい主働で設計するのか、ここが多くの人のつまずきポイントです。
理由は変位にあります。擁壁はわずかな変形でも背面土が主働状態に移行するため、実際に作用するのは主働土圧です。前面に受働土圧という抵抗が存在はしますが、それを発揮させるには擁壁が前面側へ大きく動く必要があり、その変位は構造物として許容できません。だから「前面の受働抵抗は安全側に見込まない」という設計になります。
擁壁の安定検討では、背面の主働土圧を外力として、転倒・滑動・支持力の3つを照査します。
- 転倒:主働土圧のモーメントに対し、擁壁自重の抵抗モーメントで耐えるか
- 滑動:主働土圧の水平力に対し、底面の摩擦抵抗で滑らないか
- 支持力:合力による地盤反力が許容支持力以下か
L型擁壁や重力式擁壁など型式ごとに自重の効かせ方が違うので、主働土圧をどう受けるかも変わります。型式の違いは擁壁の種類の記事が分かりやすいです。

僕の整理では、「山留めは受働を抵抗として使う/擁壁は受働を当てにせず主働で設計する」という対比で覚えると、同じ受働土圧でも場面で扱いが逆になる理由がスッキリします。土留めと擁壁の違い自体が曖昧な場合は、こちらも合わせてどうぞ。

主働土圧・受働土圧で施工管理が気をつけること
施工管理の立場では、計算式そのものより「土圧の前提が現場で崩れていないか」を見るのが役割です。設計は一定の条件で土圧を出していますが、現場の状態がその前提とずれると危険側になります。
現場で特に注意したいのは次の点です。
- 地下水位:水位が上がると水圧が加わり、想定土圧を超える。釜場排水やウェルポイントで水位管理を行う
- 上載荷重:山留め背面に重機や残土を置くと主働土圧が増える。背面の荷重制限を守る
- 掘削手順:根入れの受働抵抗が効く前に掘りすぎると壁が動く。切梁の架設タイミングと掘削深さを連動させる
- 計測管理:壁の変位・切梁軸力・周辺沈下を計測し、想定土圧の範囲内かを確認する
- 締固め:擁壁背面の埋戻しを過度に締め固めると初期土圧が増える。適切な締固めにとどめる
これらはどれも「土圧の大きさを変えてしまう要因」です。正直なところ、土圧は目に見えないぶん、計測値と背面の状態で間接的に読むしかありません。数式を覚えるより、「水・荷重・掘削手順で土圧は簡単に増える」という感覚を持っておくほうが、現場では事故を防げます。
主働土圧・受働土圧に関するよくある質問
主働土圧・受働土圧について、勉強中や現場で質問されやすい点をまとめます。
主働土圧と受働土圧、どちらが大きいですか?という質問では、受働土圧のほうが大きくなります。係数で見るとKa<1<Kpで、φ=30°なら受働は主働のおよそ9倍です。ただし受働を発揮するには大きな変位が必要なので、大きいからといってそのまま抵抗に使えるわけではありません。
なぜ擁壁は主働土圧で設計するのですか?については、擁壁はわずかな変形で背面土が主働状態に移行するため、実際に作用するのが主働土圧だからです。前面の受働抵抗は大きな変位がないと出ないため、安全側に見込まないのが一般的です。
ランキンとクーロンはどう使い分けますか?については、ランキンは壁面摩擦を無視した簡易な理論で手計算や概算向き、クーロンは壁面摩擦や背面形状を考慮でき、擁壁の試行くさび法などで使われます。背面が複雑な道路擁壁などはクーロン系が用いられます。
地震時の土圧はどう考えますか?については、通常の主働・受働とは別に、慣性力を加えた地震時土圧として物部・岡部式などで評価します。地震時は土圧が増えるため、別途の照査が必要です。
主働土圧と受働土圧に関する情報まとめ
- 主働土圧とは:壁が土から離れる向きに動くときの土圧(最小、Ka<1)
- 受働土圧とは:壁が土を押し込むときの抵抗(最大、Kp>1)
- 大小関係:主働 < 静止 < 受働。受働は大きいが発揮に大きな変位が必要
- 計算式:Pa=1/2・Ka・γ・H²、Kp=tan²(45°+φ/2)。係数を掛け替えるだけ
- 山留め:掘削側の受働が抵抗、背面の主働が外力。根入れで受働を稼ぐ
- 擁壁:背面の主働で設計し、前面の受働は当てにしない
以上が主働土圧と受働土圧に関する情報のまとめです。
主働土圧と受働土圧は、「壁の動く向きで名前が変わる」というシンプルな原理さえ掴めば、山留めでも擁壁でも応用が効きます。山留めは受働を抵抗に使い、擁壁は受働を当てにせず主働で設計する、この対比を軸に覚えておくと現場でも試験でも迷いません。それぞれを単独でさらに深掘りしたい場合は、以下も合わせてどうぞ。




