- 主働土圧ってなに?
- 受働土圧との違いは?
- 静止土圧もあるの?
- 計算式(ランキン・クーロン)が難しい
- 山留めや擁壁でどう使い分けるの?
- 現場で何を意識すればいい?
上記の様な悩みを解決します。
「主働土圧」と「受働土圧」は土質工学の中核概念で、山留め壁・擁壁・地下外壁の設計を理解するときの最初の関門。「壁が土を押し返す側か、土に押される側か」という土と壁の相対運動で名前が変わるだけなので、図でイメージできれば一気に頭に入ります。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
主働土圧と受働土圧とは?
主働土圧と受働土圧とは、結論「土と壁の相対的な動きによって決まる、土が壁にかける圧力の2つの状態」のことです。
英語では Active Earth Pressure(主働土圧) と Passive Earth Pressure(受働土圧)。19世紀の物理学者ランキン(Rankine)とクーロン(Coulomb)が定式化した古典的な土圧理論です。
主働と受働の覚え方
最大のポイントは「主体になっているのは誰か」で名前が決まること。主働土圧は土が主役で、壁が土から離れる方向に動くとき土が壁を押す力。受働土圧は壁が主役で、壁が土に押し付けられる方向に動くとき土が壁を受け止める力、という違い。
ざっくりイメージ
例えば、地面に垂直に立った擁壁を考えると、擁壁が前に倒れたら後ろの土が崩れて押し寄せる→主働土圧(土が押す)、擁壁が後ろに押し込まれたら後ろの土が抵抗する→受働土圧(土が押し返す)、擁壁が動かなければ土も静止→静止土圧(中間の値)、という3パターン。
この3つの状態のうち、主働土圧が最も小さく、受働土圧が最も大きい値になります。
主働土圧 < 静止土圧 < 受働土圧
なぜ大きさが違うのか
土が動く方向で、内部のせん断力(粒子同士の摩擦)の働く向きが変わるからです。主働状態は土が緩んで(崩れて)壁を押す→摩擦が壁から離れる方向に働く→圧力は小さい、受働状態は土が締め付けられて壁を支える→摩擦が壁を支える方向に働く→圧力は大きい、静止状態は摩擦が中立→中間の値、というメカニズム。
建築でなぜ重要か
地下を掘れば必ず土圧が出てきます。山留め壁の設計、擁壁の安定計算、地下外壁の構造計算、地下タンクの側壁、基礎の根入れ、というあたりすべてで、主働土圧と受働土圧を使い分けて安全側に設計します。
3種類の土圧(主働・静止・受働)
土圧は壁と土の動きで3種類に分類されます。
①静止土圧(Earth Pressure at Rest)
静止土圧は、壁が動かない状態の土圧、記号はP0またはK0、値は主働と受働の中間、用途は地下外壁・剛な壁・動かない構造物、というあたり。
②主働土圧(Active Earth Pressure)
主働土圧は、壁が土から離れる方向に動く(壁の前進)、土が緩んで壁を押す、記号はPaまたはKa、値は3種類の中で最小、用途は擁壁設計(土側の力)・地下外壁の設計(控えめに見たい時)、というあたり。
③受働土圧(Passive Earth Pressure)
受働土圧は、壁が土に押し付けられる方向に動く(壁の後退)、土が締め固められて壁を受け止める、記号はPpまたはKp、値は3種類の中で最大、用途は山留めの根入れ抵抗・擁壁の前面抵抗、というあたり。
3種類の関係
| 状態 | 壁の動き | 土の状態 | 値 | 土圧係数 |
|---|---|---|---|---|
| 主働 | 壁が前進 | 緩む | 小 | Ka < 1 |
| 静止 | 動かず | 中立 | 中 | K0 ≒ 0.5 |
| 受働 | 壁が後退 | 締まる | 大 | Kp > 1 |
土圧係数の目安(土の内部摩擦角φ=30°の場合)
土圧係数の目安は、Ka≒0.33(主働)、K0≒0.50(静止)、Kp≒3.00(受働)、という関係。
→ 受働は主働の約9倍。圧倒的に大きい。
主働土圧と受働土圧の計算式
最もよく使われるランキン式を中心に整理します。
①ランキン式の前提条件
ランキン式の前提条件は、壁背面が鉛直(傾きなし)、地表面が水平、壁と土の摩擦はゼロとして扱う、内部摩擦角φで土の強度を表す、というあたり。
②主働土圧係数 Ka
Ka = tan²(45° − φ/2)
または等価式
Ka = (1 − sin φ) / (1 + sin φ)
③受働土圧係数 Kp
Kp = tan²(45° + φ/2)
または等価式
Kp = (1 + sin φ) / (1 − sin φ)
④静止土圧係数 K0
K0 ≒ 1 − sin φ
(ヤキー(Jaky)の経験式)
⑤主要な土の摩擦角ごとの係数
| 内部摩擦角 φ | Ka | K0 | Kp |
|---|---|---|---|
| 25° | 0.41 | 0.58 | 2.46 |
| 30° | 0.33 | 0.50 | 3.00 |
| 35° | 0.27 | 0.43 | 3.69 |
| 40° | 0.22 | 0.36 | 4.60 |
| 45° | 0.17 | 0.29 | 5.83 |
→ 角度が大きい(強い土)ほど主働土圧は小さく、受働土圧は大きくなる。
⑥土圧の大きさ(深さ z での値)
主働土圧(深さ z での圧力):
Pa(z) = Ka × γ × z
受働土圧:
Pp(z) = Kp × γ × z
ここでγは土の単位体積重量(kN/m³、通常17〜20kN/m³)、zは地表からの深さ(m)です。
⑦土圧の合計(壁高さ H 全体)
主働土圧の合力:
Pa = (1/2) × Ka × γ × H²
受働土圧の合力:
Pp = (1/2) × Kp × γ × H²
→ H²(高さの2乗)に比例するので、深く掘るほど一気に土圧が増大。
⑧クーロン式
ランキン式の発展版で、壁背面が傾斜している、地表面が傾斜している、壁と土の摩擦角δがある、というケースを考慮できる、より汎用的な式。土留め設計では実務上クーロン式が使われることも多いです。
主働土圧と受働土圧の建築での使い方
実際の建築・土木で、主働・受働をどう使い分けているかを整理します。
①山留め壁の設計
地下を掘る時の山留め壁では、背面側(掘削していない地盤側)に主働土圧が壁を押す、掘削側(掘削後の地盤側)の根入れ部の前面で受働土圧が壁を支える、という構図。
→ 主働土圧の合力 ≦ 切梁の支保力 + 受働抵抗 となるように設計します。
②擁壁の安定計算
擁壁が転倒・滑動・支持力で破壊しないかを検討するとき、擁壁背面の土圧を主働土圧、擁壁前面の土の抵抗を受働土圧、として計算します。
③地下外壁
地下室の壁は基本的に動かないので、設計では静止土圧を使うのが原則。ただし、簡略化のために主働土圧で代用することもあります。
④基礎の根入れ抵抗
杭基礎・直接基礎の根入れ部分では、横力(地震時の水平力)に対する抵抗として受働土圧を見ます。
⑤地下タンクの側壁
地下タンクの周囲は、空タンク時は内側にかかる外水圧+主働土圧(壁が内側に押される)、満水時は内側からの水圧+背面土圧の差し引き、という両ケースで照査が必要。
⑥仮設山留めの実例
ビルの地下工事で、山留め鋼矢板(シートパイル)の設計時に、背面を主働土圧で設計、根入れ部を受働土圧で支える、切梁を上から段階的に水平支持、という構造で、主働+切梁+受働のバランスで成立させます。
ボイリング(地下水起因の山留め事故)は別記事も参考にしてください。

主働土圧と受働土圧と施工管理
施工管理として、土圧を直接計算する場面はほぼありませんが、設計の意図を理解するシーンは多々あります。
①設計図書の読み方
山留め計画書には、想定主働土圧(kN/m)、受働抵抗(kN/m)、切梁設置段数とプレストレス、土圧係数の根拠(Ka、Kp)、が記載されます。「設計時にどんな土性状を想定しているか」を読み取る習慣が大事。
②土質試験報告書との照合
設計時の前提(φ=30°など)と、現場で実施した土質試験の結果が違っていれば、設計の見直しが必要。標準貫入試験のN値、内部摩擦角φ、単位体積重量γ、粘着力c、というあたりがチェック対象。
→ 現場で「設計時より弱い土だった」と分かったら、施工計画を再検討。
標準貫入試験は別記事も参考にしてください。

③切梁の段取り
主働土圧は深さの2乗で増えるので、掘削深度が深いほど切梁を多段化する必要があります。1段目切梁が深さ2m位置、2段目切梁が深さ4m位置、3段目切梁が深さ6m位置…という段取り。
各段の切梁は、その上の主働土圧合力を支える設計。
④地下水位の影響
地下水位がある場合、土圧に水圧(水柱の重量)が加算されます。土の単位体積重量は地下水以下では水中重量で扱う必要があり、計算が変わります。
⑤掘削速度・切梁設置タイミング
主働土圧は時間経過とともに変動することがあります(クリープ)。掘削後すぐに切梁を入れず、土が動く時間を作ると土圧が増えるリスクが出ます。1段ごとに切梁・トラック・土の流れを最短で連動させる工程管理が大事。
⑥隣接建物への影響
山留め壁が変位(横にずれる)すると、背面の土が動き、隣接建物の沈下につながります。施工中は壁の変位計測が必須。
⑦ヒヤリハットとして
ある中規模オフィスビルの地下工事で、山留め設計の前提φ=28°(粘性土)に対し、実際の地盤調査で出てきた値がφ=22°(軟弱粘性土)だったケースを見たことがあります。設計事務所と再協議の上、切梁の段数を1段追加+ウェルポイントで地下水位低下で対応。土圧の前提条件は「土の強さφ次第で2倍以上変動する」ということを、設計から施工までの関係者全員で共有しておくのが大事です。
基礎工事の全体像は別記事も参考にしてください。

主働土圧と受働土圧に関する注意点
最後に、現場で誤解しやすいポイントをまとめます。
①「主働=土が攻める」「受働=土が守る」
主と受のニュアンスを間違えると、設計式の意味が分からなくなります。主働=土が主役で攻める、受働=壁が動いて土に当たる側と覚える。
②静止土圧の使い分け
地下外壁のように「動かない壁」は、本来静止土圧K0で設計すべき。主働土圧で計算すると過小評価になる可能性があります。
③受働土圧をフルに見込めない
理論上は受働土圧が大きいですが、それを発揮するためには壁が土側に大きく動く必要がある。実際の構造物ではそんなに動かないので、安全側に1/2〜1/3に抑えることが多い。
④水圧の取り扱い
地下水位以下の土圧は、有効応力(土の重さ−浮力)+水圧で計算。水圧は深さに比例して直線的に増える。
⑤粘性土と砂質土の違い
粘性土と砂質土の違いは、砂質土が内部摩擦角φで強度を表す、粘性土が粘着力cで強度を表す、短期と長期で挙動が違う(クリープ)、というあたり。
⑥地震時の土圧
地震時は土圧が増大します。「地震時主働土圧」を別途計算する必要あり(もん岡式・物部・岡部式が代表的)。
⑦長期と短期
擁壁の安定計算では、長期(常時)と短期(地震時)で別の係数を使います。短期は土圧が増えるので、安全率も別建て。
N値による地耐力換算は別記事も参考にしてください。

主働土圧と受働土圧に関する情報まとめ
最後に、主働土圧と受働土圧の重要ポイントを整理します。
- 主働土圧と受働土圧とは:土と壁の相対的な動きで決まる土圧の2つの状態。壁が土から離れる時の主働、土に押し付けられる時の受働
- 3種類の土圧:主働<静止<受働。壁の動きで決定
- 計算式:ランキン式 Ka=tan²(45−φ/2)、Kp=tan²(45+φ/2)。土圧の合力はH²(高さの2乗)に比例
- 建築での使い方:山留め設計(主働で攻め・受働で受け)、擁壁の安定計算、基礎の根入れ抵抗、地下タンクの側壁
- 施工管理視点:設計図書の前提読解、土質試験との照合、切梁の段取り、地下水位の影響、隣接建物の沈下計測
- 注意点:静止土圧との使い分け、受働土圧をフルに見込めない、水圧の足し算、地震時の増大、粘性土と砂質土の違い
以上が主働土圧と受働土圧に関する情報のまとめです。
主働土圧と受働土圧は「壁と土が一緒に動く力学」で、図でイメージできれば公式は後から付いてきます。山留め設計が成立する前提条件、擁壁が倒れない理由、地下外壁の鉄筋量の根拠、すべてが土圧の理解で立体化します。一通り主働土圧と受働土圧の基礎知識は理解できたと思います。
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