- 構造システムってなに?構造形式とどう違うの?
- なんで「システム」って呼ぶの?
- 何種類くらいあるの?
- 鉛直力と水平力はどう分けて考えるの?
- 床は構造システムに入るの?
- 施工管理として何を意識すればいい?
上記の様な悩みを解決します。
「構造システム」は構造計画の入り口で必ず出てくる言葉ですが、「構造形式と何が違うの?」と聞かれると意外と説明に詰まる用語でもあります。結論から言うと、構造システムは「建物にかかる力を、どの部材で・どんな順番で・最終的にどこに流すか」という力の伝達経路の設計そのもの。形(ラーメン・壁式・ブレース)を選ぶ前段階で、「鉛直力をどう処理するか」「水平力をどう処理するか」「床をどう作るか」を分けて考えるのが構造計画の基本になります。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
構造システムとは?
構造システムとは、結論「建物に作用する各種の力(鉛直力・水平力)を、どの部材で受けて・どんな経路で伝えて・最終的にどこに流すかを整理した、骨組み全体の役割分担の設計」のことです。
英語では structural system(ストラクチャルシステム)。建築構造の教科書では「ストラクチャーシステム」と表記されることもあります。
ざっくりイメージすると
会社の組織図を思い浮かべてください。営業・開発・経理・総務など、役割ごとに部署が分かれていることで会社全体が機能しています。建物の骨組みも同じで、「鉛直の重さを受ける担当」「地震や風の水平力を受ける担当」「床面で力を集めて伝える担当」のような役割分担で成り立っています。
その役割分担の設計図が構造システムです。
構造システムの主な特徴
構造システムの主な特徴は、建物にかかる力を種類別に分けて考える(鉛直・水平・床)、力の伝達経路を入口から出口まで追える形で設計する、形(ラーメン・壁式・ブレース)を選ぶ前段階の概念、経済性・耐震性・空間の自由度を決める根本、というあたり。
なぜ建築で重要か
建物の耐震性能・施工性・コストは、構造システムの初期設計段階でほぼ決まると言ってもいい重要な工程です。耐震性は水平力をちゃんと逃せる経路になっているか、施工性は建方順序・接合方法が無理なく組めるか、コストは部材数・接合点数・特殊接合の数で大きく変わる、空間の自由度は無柱スパン・大開口の取りやすさ、というあたりがポイント。
構造形式との違い
「構造システム」と「構造形式」は混同されがちですが、レイヤーが違います。
| 項目 | 構造システム | 構造形式 |
|---|---|---|
| 何を扱う | 力の伝達経路 | 部材の組み方の形 |
| 抽象度 | 上位概念(役割分担) | 下位概念(形・ジオメトリ) |
| 例 | 鉛直支持・水平支持・床の組合せ | ラーメン・壁式・ブレース |
| 設計の順番 | 先 | あと |
→ 構造システムが「何をどう分担するか」、構造形式が「分担した役割を実際にどんな形で組むか」という関係です。
構造形式の詳細はこちらの記事を参考にしてください。

構造システムを構成する3つのサブシステム
構造システムは、役割の異なる3つのサブシステムの組合せで成り立つ、というのが構造計画の基本的な考え方です。
①鉛直力支持システム
建物の自重(固定荷重)・人間や家具の重さ(積載荷重)・雪の重さ(積雪荷重)などの上から下にかかる重力方向の力を、地盤まで伝える役割です。床→小梁→大梁→柱→基礎→地盤、という縦の連鎖で力を伝えます。担当部材は、柱(鉛直方向に力を集める主役)、大梁・小梁(床荷重を柱に集める)、基礎(柱からの力を地盤に分散して逃がす)、というところ。
→ 鉛直力支持システムが弱いと「床が抜ける」「梁がたわむ」「柱が座屈する」といった事故につながります。
②水平力支持システム
地震荷重・風荷重などの水平方向にかかる力を、建物全体で受けて地盤に逃がす役割です。担当部材は、耐震壁(RC造で水平力を面で受ける)、ブレース(S造で斜材で水平力を引張・圧縮で受ける)、剛接合の柱・梁(ラーメンで柱梁の曲げで水平力を受ける)、というあたり。
ブレースの仕組みはこちらの記事を参考にしてください。

水平力支持システムは、地震・台風という非日常時に建物を守る命綱。日常の鉛直力は支えていなくても、地震が来たときに初めて出番が来るシステムです。
③床システム(ダイヤフラム)
意外と忘れられがちですが、床面で水平力を集めて、水平力支持システムに伝える役割を担うのが床システムです。床スラブ(RC造で剛床として面で水平力を集める)、鋼製デッキ+コンクリート(S造で合成スラブで剛性確保)、屋根面ブレース(S造大空間で屋根面の水平剛性を確保)、というあたり。
→ 床が「地震時にしっかり水平力を集める面」として機能していないと、せっかくの水平力支持システム(耐震壁・ブレース)に力が届かず、各構面がバラバラに揺れて建物全体としての耐震性能が大きく落ちます。
スラブの基本はこちらの記事を参考にしてください。

3つのサブシステムの関係
| サブシステム | 主な対象荷重 | 主な担当部材 | 何を満たすか |
|---|---|---|---|
| 鉛直力支持 | 固定+積載+積雪 | 柱・梁・基礎 | 床のたわみ・柱の座屈 |
| 水平力支持 | 地震+風 | 耐震壁・ブレース・ラーメン | 層間変形角・倒壊防止 |
| 床(ダイヤフラム) | 水平力の収集 | 剛床スラブ・水平ブレース | 水平剛性の確保 |
→ 3つすべてがバランスよく成立して初めて建物として機能する、というのが構造システムの根本的な考え方です。
構造形式と構造システムの関係
「3つのサブシステムを具体的にどんな形で実現するか」が構造形式の話になります。同じ構造システムでも、構造形式を変えると見た目・空間・コストが変わります。
①RC造ラーメン構造の場合
| サブシステム | 担当 |
|---|---|
| 鉛直力支持 | RC柱・RC梁・RCスラブ |
| 水平力支持 | 剛接合のRC柱梁(ラーメン)+耐震壁 |
| 床 | RC床スラブ(剛床として機能) |
→ 中規模オフィスビル・分譲マンションで主流。
RC造の基礎はこちらの記事を参考にしてください。

②S造ラーメン構造の場合
| サブシステム | 担当 |
|---|---|
| 鉛直力支持 | 鉄骨柱・鉄骨梁 |
| 水平力支持 | 剛接合の鉄骨柱梁(ラーメン)+ブレース |
| 床 | デッキスラブ(合成スラブ) |
→ 中高層オフィス・倉庫・工場・大スパン建物。
S造の基礎はこちらの記事を参考にしてください。

③RC造壁式構造の場合
| サブシステム | 担当 |
|---|---|
| 鉛直力支持 | RC耐力壁・RCスラブ |
| 水平力支持 | RC耐力壁(壁全体) |
| 床 | RC床スラブ |
→ 5階建て以下の集合住宅で主流。柱・梁がなく、壁と床だけで構造を組む形式。
④S造ブレース構造の場合
| サブシステム | 担当 |
|---|---|
| 鉛直力支持 | 鉄骨柱・鉄骨梁(ピン接合中心) |
| 水平力支持 | ブレース(斜材) |
| 床 | デッキスラブ+水平ブレース(屋根面) |
→ 工場・倉庫・体育館など、開口の自由度を犠牲にしてコスト最優先の場面で。
⑤ハイブリッド型(SRC造)
S造+RC造を組み合わせたSRC造では、
| サブシステム | 担当 |
|---|---|
| 鉛直力支持 | 鉄骨入りRC柱・RC梁 |
| 水平力支持 | SRCラーメン+耐震壁 |
| 床 | RC床スラブ |
という、双方の長所を活かすシステムを組みます。
SRC造の詳細はこちらの記事も参考にしてください。

構造システムの選定基準
実務でどんな構造システムを選ぶかは、用途・規模・敷地条件・コストなどの複数の要素で決まります。
①建物用途
建物用途による選定は、住宅・宿泊施設は壁が多い→壁式構造が経済的、オフィス・店舗は大開口を取りたい→ラーメン構造、工場・倉庫は無柱大空間→ブレース併用ラーメンや門型ラーメン、病院・公共施設は耐震性重視→耐震壁+ラーメンの併用、というあたりが基本パターン。
門型ラーメンの詳細はこちらの記事も参考にしてください。

②建物規模(階数・スパン)
| 階数 | 主な構造システム |
|---|---|
| 平屋〜2階建て | 木造軸組・S造ブレース・RC壁式 |
| 3〜5階建て | RC造ラーメン・RC壁式 |
| 6〜10階建て | RC造ラーメン+耐震壁・S造ラーメン |
| 11〜20階建て | S造ラーメン+ブレース・SRC造 |
| 21階以上(超高層) | S造ラーメン(チューブ構造)+制振・免震 |
③敷地条件
敷地条件による選定は、軟弱地盤なら重量を抑えるため軽量なS造が有利、良好地盤ならRC造でも問題なし、地下水位高い場合は基礎工事との兼ね合いで構造システム選定に影響、というあたり。
④コスト・工期
コスト・工期による選定は、コスト最優先なら壁式・ブレース構造、工期短縮優先ならS造(プレキャストの活用)、意匠重視ならラーメン構造(柱梁を露出する場合も)、というあたり。
⑤耐震・耐風要求レベル
耐震・耐風要求レベルによる選定は、一般建物は建築基準法レベル、重要施設(病院・庁舎)は割増係数1.25〜1.5倍、超重要施設(原子力関連等)は性能設計+免震・制振、というあたり。
地震荷重の概要はこちらの記事を参考にしてください。

構造システムと施工管理
構造設計者が決めた構造システムを、施工管理として現場でどう実現するかの視点を整理します。
①水平力支持システムの確認
施工管理として最も気にすべきは水平力支持システムです。なぜなら、水平力は地震時にしか発生しない非日常荷重、施工不良が表に出にくく検査時に見落とされがち、いざ地震が来た時の建物の運命を左右する、という3つの理由から。
具体的なチェック項目は、耐震壁の主筋・配力筋・端部補強筋の本数、耐震壁の開口補強(D13ダブル等)、ブレースの高力ボルト本数・トルク管理、ガセットプレートの溶接長・サイズ、というあたり。
ブレースのガセットプレート周りはこちらの記事を参考にしてください。

②床システム(剛床)の確認
床スラブが剛床として機能するためには、スラブ厚と配筋がしっかり設計通り入っていることが必須。スラブ厚(150mm以上が剛床扱いの目安)、上端筋・下端筋のかぶり厚さ、スラブと梁の一体性(梁上端配筋の正しい折り曲げ)、というあたりが要点。
③接合部の重要性
構造システム上、力の流れのボトルネックになるのが接合部です。RC造なら梁主筋の柱への定着長、S造なら柱梁接合部のダイヤフラム、鉄骨ブレースならガセットプレートの座屈防止、というあたりが要注意。
ダイヤフラムの詳細はこちらの記事も参考にしてください。

④施工順序と構造システムの関係
構造システムを正しく完成させるには、施工順序にも注意が必要。ブレース構造ではブレース取付前は構造的に「未完成」状態(風雨対策が必要)、RC壁式では壁の打設順序で打継ぎ部分の品質が変わる、床スラブの先打ち・後打ちは水平剛性の発現タイミングに影響、というあたり。
⑤現場での具体例(独自エピソード)
電気工事の改修案件で、ある築40年のRC壁式構造の集合住宅で「廊下側の壁を撤去して開放廊下にしたい」という改修が出たことがあります。施工担当として現場を見に行ったとき、構造設計者から強く言われたのが「その壁は耐震壁。撤去するなら水平力支持システムが破綻する」という指摘でした。
具体的に何が問題かというと、廊下側の壁=Y方向の水平力支持システムであり、撤去すると地震時にY方向の水平剛性が大幅低下、結果として層間変形角が許容値を超える可能性、という問題。
最終的には、撤去はせずにスリットを入れて意匠だけ開放感を出す方向に変更されました。「構造システム」は、構造設計者が建物の生命線として決めているものであり、改修や設備工事で勝手に手を入れると建物全体の安全性を壊す、ということが現場で骨身に染みた一件でした。
層間変形角の詳細はこちらの記事も参考にしてください。

構造システムに関する情報まとめ
最後に、構造システムの重要ポイントを整理します。
- 構造システムとは:建物にかかる力を「どの部材で・どう伝えて・最終的にどこへ流すか」整理した骨組み全体の役割分担
- 3つのサブシステム:①鉛直力支持(柱梁基礎)、②水平力支持(耐震壁・ブレース・ラーメン)、③床(剛床ダイヤフラム)
- 構造形式との違い:構造システムは上位概念(力の流れの設計)、構造形式は下位概念(部材の組み方の形)
- 代表的な組合せ:RC造ラーメン+耐震壁/S造ラーメン+ブレース/RC壁式構造/SRC造ハイブリッド
- 選定基準:用途・規模・敷地条件・コスト・耐震要求レベルの組合せで決まる
- 施工管理視点:水平力支持システム(耐震壁・ブレース)の品質、床の剛床性、接合部の確実性、施工順序による未完成期間の管理
以上が構造システムに関する情報のまとめです。
構造システムは図面の中では直接描かれない「考え方の枠組み」ですが、構造設計者の頭の中ではこの枠組みに沿って設計が進んでいます。施工管理として現場で部材を見るとき、「この部材は鉛直力担当か、水平力担当か、床ダイヤフラム担当か?」と問いかけながら見ると、特記仕様書で重点項目に挙がっている理由がスッと腑に落ちるようになりますよ。一通り構造システムの基礎知識は理解できたと思います。
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