- 受働土圧って何のこと?
- 主働土圧との違いは?
- 計算式はどう書く?
- 山留めや擁壁でどこに効くの?
- 受働土圧の値はそのまま使っていいの?
- 受働土圧が発揮されない場合ってあるの?
上記の様な悩みを解決します。
受働土圧は、山留めの根入れ部・擁壁の前面・抗土圧杭の水平抵抗など、土が「壁を押し返す力」として効く場面で必ず登場します。値が主働土圧の何倍にもなるので、設計が一見ラクになるように見えるんですが、ここに「変形しないと出ない力」「全部は当てにできない」という落とし穴がある。本記事では受働土圧の意味から計算式、実務での扱い方、そして「設計でなぜ低減するか」までを整理します。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
受働土圧とは?
受働土圧とは、結論「壁が土に押し付けられる方向に動こうとしたときに、土が抵抗として壁を押し返す圧力」のことです。
英語では Passive Earth Pressure。日本語の「受働」は「受け止めて働く」という意味合いで、土が能動的に動くわけではなく、外力に対して抵抗する側に回っている、というニュアンスです。
主働土圧との対比で覚える
| 項目 | 主働土圧 | 受働土圧 |
|---|---|---|
| 土の状態 | 壁が土から離れる方向に動き、土が崩れて壁を押す | 壁が土に押し付けられ、土が抵抗する |
| 力の向き | 土 → 壁(押す) | 土 → 壁(受け止める、押し返す) |
| 大きさ | 小さい | 主働の数倍〜10倍以上 |
| 必要な変位量 | わずか(壁高さの 0.1% 程度) | 大きい(壁高さの 1〜5% 程度) |
| 土圧係数 Ka・Kp | Ka(小さい) | Kp(大きい) |
主働土圧との詳しい比較は別記事に整理しています。

身近なイメージ
擁壁の前面に建っている土留めや、山留め壁の根入れ部の前面の土。これらは壁が押されて土側に倒れ込もうとするのを「土が踏ん張って」止めている状態です。この踏ん張りが受働土圧。
逆に擁壁背面の土が「ザザッと崩れて壁を押す」のが主働土圧。受働は「我慢して支える側」、主働は「崩れて押す側」と擬人化して覚えると忘れにくいです。
受働土圧の計算式(ランキン・クーロン)
土圧の古典理論にはランキンとクーロンの2つの流派があり、現場では両方の式が使われます。
ランキン式(壁面が垂直・摩擦なしを仮定)
水平な地表面、垂直な壁、壁面摩擦角 δ = 0 の単純条件で書ける式。
- 受働土圧係数 Kp = tan²(45° + φ/2)
- 受働土圧(深さ z の点での圧力)p_p = γ × z × Kp + 2 × c × √Kp
- 受働土圧合力(深さ H まで) P_p = (1/2) × γ × H² × Kp + 2 × c × H × √Kp
| 記号 | 内容 |
|---|---|
| γ | 土の単位体積重量(kN/m³) |
| z | 地表面からの深さ(m) |
| H | 壁高さ(m) |
| φ | 土の内部摩擦角(°) |
| c | 粘着力(kN/m²) |
ランキン土圧の理論枠組みやクーロンとの違いは次の記事で整理しています。

クーロン式(壁面摩擦・壁面傾斜・地表面傾斜を考慮)
ランキン式を一般化したもので、壁面摩擦角 δ・壁面傾斜角 θ・地表面傾斜角 β を取り込みます。Kp の式は長いので構造設計ソフトに任せるのが普通ですが、形は次のとおりです。
Kp = cos²(φ – θ) / [ cos²θ × cos(δ + θ) × (1 – √{ sin(φ+δ)×sin(φ+β) / (cos(δ+θ)×cos(β-θ)) })² ]
Kp の代表値(垂直壁・水平地表)
| 内部摩擦角 φ | 主働 Ka | 受働 Kp | Kp/Ka |
|---|---|---|---|
| 25° | 0.41 | 2.46 | 6.0 |
| 30° | 0.33 | 3.00 | 9.1 |
| 35° | 0.27 | 3.69 | 13.7 |
| 40° | 0.22 | 4.60 | 20.9 |
φ が 35°〜40° の砂質土になると、Kp が主働 Ka の 10〜20倍に達することが分かります。これが「受働土圧は強い」と言われる根拠で、同時に「全部使うのは危険」と言われる原因でもあります。
土圧係数の詳細や内部摩擦角の意味については次の記事を参考にしてください。


受働土圧が使われる実務の場面
受働土圧は、土が「踏ん張る側」になる場面で常に登場します。建築・土木で出てくる代表3パターンを整理します。
(1) 山留め壁の根入れ部
最頻出の場面です。山留め壁は掘削側に倒れ込もうとしますが、根入れ部の前面の土が壁を押し返して止めている、という構図。
- 山留め壁の安定計算(モーメント釣り合い、たわみ法)で、根入れ部の前面に受働土圧を作用させる
- 鋼矢板・親杭横矢板・SMW壁・連壁、いずれの工法でも受働土圧が登場
- 根入れ長を決める計算で「受働土圧合力 × 余裕=主働土圧の倒そうとするモーメントに勝つ深さ」が根入れ長
SMW工法など個別の山留め工法はこちらで整理しています。

(2) 擁壁の安定計算(滑動)
擁壁は背面の土から主働土圧で押されて前に滑ろうとします。これに抵抗するのが、
- 底面と地盤の摩擦力
- 前面の根入れ部に作用する受働土圧
の2つです。擁壁の根入れが深いほど、前面の受働土圧抵抗が大きくなる。だから擁壁の根入れ深さは「凍結深度」「地耐力」だけでなく「滑動抵抗」の観点でも決まる、という訳ですね。
擁壁の基本については別記事に整理してあります。

(3) 抗土圧杭・基礎杭の水平抵抗
杭基礎には水平力(地震時の水平荷重、橋脚の制動荷重など)が作用します。この水平力に対し、
- 杭頭側面の地盤が「受働的に」杭を支える
- これを地盤反力として水平方向に評価する
杭頭の水平変位を許容しながら計算する「Chang の式」や「弾性床上の梁モデル」では、受働土圧の概念に近い地盤反力で杭を支えています。杭基礎の基本は次の記事を参考にしてください。

受働土圧を「全部は使えない」理由
ここまで「受働土圧は主働の何倍も大きい」と書いてきましたが、設計実務では受働土圧を計算式どおり全部使うことはほぼありません。なぜか。
理由1:受働土圧は変位がないと発揮されない
受働土圧は「壁が土に押し付けられる方向に動く」ことで初めて発揮される力です。実験では、
- 主働土圧の状態に達するには:壁高さの 0.1〜0.5% 程度の壁変位が必要
- 受働土圧の状態に達するには:壁高さの 1〜5% 程度の壁変位が必要
つまり、受働土圧の最大値を出すには壁高さの数%もの変形が必要で、これは構造物としては「ほぼ壊れている」状態。実用設計では、許容される変形量に応じて受働土圧の発揮率を 30〜50% 程度に低減して使うのが一般的です。
理由2:安全率を大きく取る慣習
擁壁の安定計算では、
- 主働土圧:1.0 倍(そのまま使う)
- 受働土圧:0.5 倍(半減して使う)
- 滑動抵抗の安全率:1.5 倍以上
のような形で、受働土圧側を厳しめに扱います。これは「変形しないと出ない」「土質変動の影響を受けやすい」「地下水の影響でも値が変わる」といったリスクを安全側に倒すため。
理由3:粘着力 c を期待しすぎない
ランキン式では受働土圧の項に「2c√Kp」という粘着力項が出てきますが、粘着力 c の値は土質試験で得られる平均値であり、長期的には軟化やクリープで値が下がる可能性があります。粘性土地盤の受働土圧では、c を期待しすぎない(c = 0 で計算する、または安全率を別途取る)アプローチもあります。
理由4:根入れ部の地盤が乱れている場合
山留め根入れ部の地盤は、掘削の影響で乱れていることがあります。掘削で前面側の応力が解放されてゆるんだ土では、当然受働土圧も低下する。だから根入れ部の地盤改良が併用される現場では、改良強度と組み合わせた受働土圧の評価が行われます。地盤改良の概要はこちらで整理しています。

現場で受働土圧を扱うときの注意点
施工管理として、受働土圧の設計値が現場でちゃんと発揮されるかは、施工で大きく変わります。
山留めの根入れ部に水が回ると弱る
掘削底面の地下水を引いていない(地下水低下が不十分な)状態で根入れを掘り進めると、根入れ部の土が水を含んでゆるみ、受働土圧が著しく低下します。釜場排水・ディープウェル・揚水井戸の運用は、受働土圧を設計どおり発揮させるための実務的な要件です。
地盤改良の品質チェック
改良地盤の受働土圧を計算で見込んでいる場合、改良強度(一軸圧縮強度 qu)の実測値が設計値を満たしているかを必ず確認する。改良杭の供試体強度試験は、根入れ部の受働土圧そのものを検証していると言ってもいい。
観測施工で変位を実測する
大規模な山留めや地下工事では、傾斜計やひずみ計で壁の変位を実測しながら掘削を進めます。設計時に見込んだ受働土圧が発揮されているかは、壁の変位量で間接的に確認できる。観測値が想定を超えてきたら、ストラットの増設や腹起こしの強化で対処、というのが観測施工の基本です。
周辺構造物への影響
受働土圧を期待しているということは、その分の土に変形を許容している、ということ。山留め周辺に既存構造物がある場合、受働土圧設計に伴う土の変形が、隣接建物の沈下や傾斜を起こす可能性があります。隣接建物の沈下計測やレベル管理は、受働土圧を見込む設計とセットで考えるべき項目です。
受働土圧に関する情報まとめ
- 受働土圧とは:壁が土に押し付けられる方向に動こうとしたとき、土が抵抗として壁を押し返す圧力
- 主働との違い:受働は主働の数倍〜20倍にもなる。ただし発揮には壁高さの数%の変位が必要
- 計算式(ランキン):Kp = tan²(45° + φ/2)、P_p = (1/2)γH²Kp + 2cH√Kp
- 使われる場面:山留め根入れ部・擁壁の滑動抵抗・杭基礎の水平抵抗
- 設計実務での扱い:計算値の 30〜50% 程度に低減、安全率 1.5 以上、c を期待しすぎない
- 現場での注意:地下水管理、改良地盤の強度確認、観測施工、隣接構造物への影響
以上が受働土圧に関する情報のまとめです。「主働土圧は怖い、受働土圧は頼もしい」という素朴な対比で覚えていると、設計実務では「なぜ受働土圧を半分にしてるんですか」「なぜ余裕度をもっと取らないんですか」と聞かれて答えに詰まります。受働土圧は「数字は大きいが、変位許容と一体の力」と理解しておくと、山留め計画書や擁壁の安定計算を読むときの解像度が一段上がりますよ。
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