- 静止土圧ってそもそも何の土圧?
- 主働・受働・静止の違いが整理できない
- なぜ「静止」なのに土圧がかかるの?
- 計算式 P0=½γH²K0 の意味は?
- 静止土圧係数K0はどう求める?
- K0っておよそ0.5でいいの?
- 土圧係数の大小関係はどう覚える?
- 静止土圧はどんな構造物で使うの?
- 普通の擁壁は主働で設計するんじゃないの?
- 埋戻しの転圧をかけすぎると土圧が増える?
上記の様な悩みを解決します。
静止土圧は、土圧の3種類(主働・受働・静止)の中で、地下外壁や橋台のように「動かない構造物」の設計で使われる重要な概念です。建築士や施工管理技士の試験でも土圧係数の大小関係がよく問われます。今回は定義・計算式・静止土圧係数といった基本を押さえた上で、「主働・受働との違い」「どの構造物で静止土圧を使うか」「埋戻しや地震時の施工注意」まで、試験対策と現場の判断をつなげる形で整理しました。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、土圧が苦手な方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
静止土圧とは?
静止土圧とは、結論「壁が動かない(変位ゼロの)状態で、壁の背面の土が壁に及ぼす土圧」のことです。
土圧は、壁がどう動くかによって主働・受働・静止の3種類に分かれます。このうち静止土圧は、壁がまったく動かず、背面の土も動かない、釣り合ったままの状態の土圧を指します。「静止」と付くのは壁が静止しているからで、土圧そのものが無いという意味ではありません。土は自重で横方向にも押し広がろうとするので、壁が動かなくても壁には横向きの圧力がかかります。これが静止土圧です。
土圧全体の考え方と種類はこちらにまとめています。

イメージしやすいのは、地下室の外壁です。地下外壁は周りの土に埋まっていて、ほとんど変位しません。この壁の背面にかかっているのが静止土圧です。逆に、後で説明する主働土圧は壁が土から離れる方向にわずかに動いたとき、受働土圧は壁が土を押し込む方向に動いたときの土圧で、いずれも「壁が少し動く」のが前提になります。僕の整理では、静止土圧は『壁が動かないがゆえに、土の押す力がそのまま壁に残っている状態』と捉えると、3種類の違いが見えてきます。
静止土圧の計算
静止土圧の大きさは、深さに比例して大きくなります。ある深さzでの静止土圧の強さ(単位面積あたり)は次の式で表されます。
$$p_0 = K_0 \cdot \gamma \cdot z$$
ここで $K_0$ は静止土圧係数、$\gamma$ は土の単位体積重量、$z$ は地表面からの深さです。深さzに比例するので、土圧は地表でゼロ、底部で最大になる三角形分布になります。
壁全体にかかる土圧の合力(三角形分布の面積)は、壁の高さをHとすると次の式になります。
$$P_0 = \dfrac{1}{2} \cdot K_0 \cdot \gamma \cdot H^2$$
この式は「三角形の面積=底辺×高さ÷2」と同じ構造で、底辺にあたるのが底部の土圧 $K_0\gamma H$、高さにあたるのが壁高Hです。だから $\frac{1}{2}K_0\gamma H^2$ になります。合力の作用位置は、三角形分布なので底から $\frac{H}{3}$ の高さ、つまり下から3分の1の位置にきます。この式の $H^2$ に注目すると、壁が高くなると土圧の合力は2乗で効いてくることが分かります。壁高が2倍になれば土圧は4倍です。地下が深くなるほど外壁が急激に厳しくなる理由はここにあります。2乗が絡む式の扱いはこちらが参考になります。

現場目線で言えば、この式そのものを手計算する場面は構造設計者の領域ですが、施工管理としては「土圧は深さに比例し、合力は壁高の2乗で効く」という性質を押さえておくと、計算書の土圧分布図を見たときに妥当性の見当がつきます。
静止土圧係数K0とは
計算式の中で一番分かりにくいのが、この静止土圧係数 $K_0$ です。結論から言うと、$K_0$ は「鉛直方向の圧力に対して、水平方向にどれだけの圧力が出るか」の比率です。
砂質土など通常の土では、$K_0$ はヤーキー(Jaky)の実験式で求めるのが一般的です。
$$K_0 = 1 – \sin\phi$$
ここで $\phi$(ファイ)は土の内部摩擦角で、土の粒子同士のかみ合いによる強さを角度で表したものです。たとえば内部摩擦角が30度の砂なら、$K_0 = 1 – \sin30° = 1 – 0.5 = 0.5$ となります。砂質土の内部摩擦角はおおむね30度前後なので、$K_0$ は0.4〜0.5程度になることが多く、「静止土圧係数はだいたい0.5」と覚えられているのはこのためです。
土圧係数の意味と内部摩擦角との関係はこちらで詳しく扱っています。

ただし注意したいのは、$K_0 \approx 0.5$ はあくまで砂質土の目安だという点です。粘性土ではこれより大きくなり、特に過去に大きな荷重を受けて圧密された過圧密粘土では $K_0$ が1を超えることもあります。僕の考えでは、$K_0$ は「砂なら0.5前後」という相場感を持ちつつ、計算書では土質ごとに違う値が使われていることを理解しておくのが正確です。計算書のK0が0.5から大きく外れていたら、土質や過圧密の影響を疑って設計者に確認すると、検算の精度が上がります。
主働土圧・受働土圧との違い
土圧で必ず整理しておきたいのが、静止土圧・主働土圧・受働土圧の3つの関係です。違いは「壁がどちらに、どれだけ動くか」だけです。
| 種類 | 壁の動き | 土圧の大きさ | 代表例 |
|---|---|---|---|
| 主働土圧 | 土から離れる方向にわずかに動く | 最小 | 通常の擁壁(前に倒れる側) |
| 静止土圧 | 動かない(変位ゼロ) | 中間 | 地下外壁・橋台 |
| 受働土圧 | 土を押し込む方向に動く | 最大 | 擁壁・山留めの根入れ部 |
壁が土から離れる方向に動くと、背面の土が崩れようとして土圧は最小になります。これが主働土圧です。逆に壁が土を押し込む方向に動くと、土が抵抗して土圧は最大になります。これが受働土圧です。そのちょうど中間、壁が動かない状態が静止土圧です。
したがって、土圧係数の大小関係は次のように整理できます。
$$K_A < K_0 < K_P$$
主働土圧係数 $K_A$ が最小、受働土圧係数 $K_P$ が最大、静止土圧係数 $K_0$(≒0.5)がその中間です。この大小関係は建築士・施工管理技士の試験で頻出なので、「壁が逃げれば小さく(主働)、押し込めば大きい(受働)、動かなければ中間(静止)」という動きのイメージで覚えると忘れにくいです。主働土圧と受働土圧の詳しい違いはこちらが参考になります。

ちなみに、土圧の計算理論にはランキン土圧とクーロン土圧という2つの代表的な考え方があります。理論の違いはこちらにまとめています。

実務だと、受働土圧は擁壁や山留めの「根入れ部の抵抗」として使われます。壁が前に倒れようとするのを、根入れ部分の前面の土が受働土圧で踏ん張って止める、という関係です。3種類の土圧は別々に覚えるより、1つの壁の場面でどう同時に働くかをセットで捉えると理解が深まります。
静止土圧はどんな構造物で使う?
ここが試験対策サイトではあまり触れられない、実務で一番大事な部分です。「静止土圧はどの構造物で使うのか」を整理します。結論は、変位をほとんど許さない剛な構造物には静止土圧、前傾などの変位を許容できる構造物には主働土圧を使う、という使い分けです。
静止土圧で設計する代表的な構造物は次のとおりです。
- 地下室・地下構造物の外壁:周囲を土に囲まれ、ほとんど動けない
- ボックスカルバート:箱型で剛性が高く、変位しにくい
- 橋台:上部構造に拘束され、前後に動きにくい
- 剛性の高い擁壁や、変位を許容できない擁壁
一方、通常の重力式擁壁やもたれ式擁壁は、わずかな前傾(変位)を許容できるので、より小さい主働土圧で設計するのが一般的です。主働土圧で設計すれば土圧が小さくなり、断面も経済的になります。擁壁と土留めの違いはこちらが参考になります。

つまり、「動いてもいい構造物は主働土圧で経済的に、動かしたくない構造物は静止土圧で安全側に」というのが基本的な考え方です。地下外壁を主働土圧で設計してしまうと、実際にはほとんど変位しないので土圧を過小評価することになり、危険側になります。RC擁壁の種類と設計はこちらで扱っています。

施工管理としては、自分の現場の躯体がどちらの土圧で設計されているかを計算書で確認できると、土圧分布図や配筋の意味が腑に落ちます。地下外壁の配筋が思ったより多いとき、その背景には「静止土圧で安全側に見ている」という設計判断があることが少なくありません。
静止土圧で施工管理が注意すること
最後に、静止土圧まわりで施工管理が現場で気をつけるべき点を整理します。土圧は設計だけの話に見えますが、施工のやり方で実際にかかる土圧が変わることがあります。
現場で注意すべきポイントは次のとおりです。
- 埋戻しの過転圧:締固めを強くかけすぎると、設計の静止土圧を超える「締固め土圧」が壁に作用する
- 地震時土圧の加算:地震時は通常の土圧に地震時土圧(地震時増分)が加わる
- 地下水位以下の水圧:地下水位より下では、土圧に加えて水圧を別途足す必要がある
- 埋戻し材の品質:良質な砂質土で計画通りに転圧しないと、想定した土質と土圧が変わる
特に埋戻しの過転圧は、現場で見落とされやすいポイントです。地下外壁の裏込めを大型機械で強く締め固めると、壁が動けない分だけ土圧が逃げ場を失い、設計値以上の土圧が壁に残ることがあります。狭い箇所での過度な転圧は避け、壁際は人力やランマーなど適切な締固めにする、という配慮が壁の安全につながります。腹起しや切梁で支える山留めとの関係はこちらが参考になります。

地下水位より下の壁では、土圧と水圧を分けて考える必要があります。地下水位以下の土は水中重量(浮力を引いた重量)で土圧を計算し、それとは別に三角形分布の水圧を加えるのが基本です。地下水位が高い現場で水圧を見落とすと、壁にかかる実際の圧力を大きく過小評価してしまいます。
正直なところ、静止土圧は「設計で決まった数字を施工が崩さない」ことが一番大事です。良い土で計画通りに埋め戻し、過転圧を避け、地下水を適切に処理する、この基本を守れば、設計が想定した土圧の前提が現場で守られます。
静止土圧に関する情報まとめ
- 静止土圧とは:壁が動かない(変位ゼロの)状態で背面の土が壁に及ぼす土圧
- 計算:深さzでp0=K0γz、合力はP0=½K0γH²(下から1/3の位置に作用)
- 静止土圧係数K0:K0=1−sinφ(ヤーキー)。砂質土で0.4〜0.5程度、粘性土はより大きい
- 主働・受働との違い:壁が逃げれば主働(最小)、押し込めば受働(最大)、動かなければ静止(中間)
- 大小関係:KA<K0<KP(試験頻出)
- 使う構造物:地下外壁・ボックスカルバート・橋台など変位を許さない剛な構造
- 施工注意:埋戻しの過転圧・地震時土圧・地下水位以下の水圧に注意
以上が静止土圧に関する情報のまとめです。
静止土圧は、「壁が動かない構造物の土圧」と捉えれば、主働・受働との違いがすっきり整理できます。試験では大小関係 KA<K0<KP を、現場では「どの構造物で静止土圧を使うか」と「埋戻し・地震・水圧の注意」を押さえておくと、計算書と現場の両方で土圧を読み解けるようになります。主働土圧・受働土圧・土圧係数の各記事と合わせて理解を深めてみてください。
静止土圧に関するよくある質問
Q1:なぜ「静止」なのに土圧がかかるんですか?
土は自重で押されると、横方向にも広がろうとする性質があるからです。壁が動かなくても、背面の土はこの横向きの力で壁を押し続けます。これが静止土圧です。「静止」は壁が静止していることを指すだけで、土圧がゼロという意味ではありません。むしろ壁が動かない分、土の押す力が逃げずにそのまま壁に残っている状態と考えると理解しやすいです。
Q2:静止土圧係数K0は0.5と覚えていいですか?
砂質土なら0.5前後という相場感は持っておいて問題ありません。K0=1−sinφで、砂の内部摩擦角が30度前後なのでK0は0.4〜0.5程度になるためです。ただしこれは砂質土の目安で、粘性土ではより大きくなり、過去に大きな荷重を受けた過圧密粘土では1を超えることもあります。計算書のK0が0.5から大きく外れていたら、土質や過圧密の影響を疑うと検算しやすいです。
Q3:主働土圧・受働土圧・静止土圧の大小関係は?
主働土圧係数KA<静止土圧係数K0<受働土圧係数KP、の順です。壁が土から離れる方向に動くと土圧は最小(主働)、土を押し込む方向に動くと最大(受働)、動かないとその中間(静止)になります。「逃げれば小さく、押し込めば大きく、動かなければ中間」という壁の動きのイメージで覚えると、試験でも迷いません。
Q4:普通の擁壁は主働土圧、地下外壁は静止土圧で設計するのはなぜですか?
構造物が変位を許容できるかどうかが分かれ目です。通常の重力式擁壁はわずかな前傾を許容できるので、より小さい主働土圧で設計でき、断面も経済的になります。一方、地下外壁やボックスカルバート、橋台は周囲に拘束されてほとんど変位できないため、変位を前提とする主働土圧では土圧を過小評価して危険側になります。だから動かない構造物は静止土圧で安全側に設計します。
Q5:埋戻しの転圧で土圧が増えるって本当ですか?
本当です。壁の裏込めを大型機械で強く締め固めると、壁が動けない分だけ土圧が逃げ場を失い、設計の静止土圧を超える「締固め土圧」が壁に作用することがあります。特に狭い箇所での過度な転圧は壁に負担をかけるので、壁際は人力やランマーなど適切な方法で締め固めるのが安全です。良質な埋戻し材を使い、計画通りに転圧することが、設計の前提を守ることにつながります。
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