- 土留めと擁壁ってどう違うの?
- 仮設と本設って何が違う?
- 土留めの工法にはどんなものがあるの?
- L型・重力式・もたれ式の擁壁の違いは?
- 宅地造成等規制法って何?
- 施工管理で何をチェックすべき?
上記の様な悩みを解決します。
「土留め」と「擁壁」は土圧を抑える点では似ていますが、仮設か本設か、どこに使うかで全く別物として区別されます。掘削工事と造成工事、両方を経験する施工管理者にとって基礎中の基礎の概念なので、ここで腹落ちさせておきましょう。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
土留めと擁壁の違いとは?
土留めと擁壁の違いとは、結論「土留めは仮設で工事中だけ使う仮の壁、擁壁は本設で永久に使う構造物」のことです。
両者を表で整理します。
| 項目 | 土留め(山留め) | 擁壁 |
|---|---|---|
| 用途 | 掘削工事中の崩壊防止 | 段差地・造成地の永久支え |
| 位置付け | 仮設構造物 | 本設構造物(建築物) |
| 耐用期間 | 工事期間中(数ヶ月) | 50年以上 |
| 施工後 | 撤去または埋め殺し | 永久残置 |
| 法的位置付け | 労働安全衛生法(仮設物) | 建築基準法・宅地造成等規制法 |
| 設計者 | 施工者の担当 | 設計者・構造設計者 |
つまり「工事のために一時的に使うのが土留め、土地を造ったら一生残るのが擁壁」、というのが本質的な違いです。
土留めの種類と工法
土留めにも工法ごとにいくつかのタイプがあり、現場の地盤・掘削深さ・隣接条件で使い分けます。
親杭横矢板工法
最もスタンダードな土留め工法。H鋼を一定間隔で打ち込み、間に木製の矢板(横矢板)を入れていく方式。
親杭横矢板の特徴
親杭横矢板の特徴は、H鋼ピッチ1〜2m・横矢板厚30〜50mm程度というスペックで、浅い掘削(〜10m程度)に向くタイプ。地下水位以下では使えない(横矢板の隙間から水が来る)のが弱点ですが、コストが安く施工も簡単で、都市部の小〜中規模工事で最も多く採用される定番工法です。
シートパイル(鋼矢板)工法
凹凸断面の鋼矢板を連続して打ち込んでいく方式。遮水性があるのが大きな特徴。
シートパイルの特徴
シートパイルは、地下水位以下でも使える(継手部に止水材)のが最大の強み。振動・騒音が大きいので市街地は油圧圧入式で対応し、中〜深い掘削(10〜20m)に向きます。港湾・河川工事でも使われ、リース材で施工後撤去するのが標準パターンです。
SMW(ソイルセメント連続壁)工法
地中でセメントと土を撹拌し、その中にH鋼を建て込むことで遮水壁を作る方式。
SMWの特徴
SMWは高い遮水性(地下水を完全遮断)が特長で、騒音・振動が小さく市街地に適します。深い掘削(〜30m)に対応でき、大型杭打ち機で施工する形。コストはシートパイルより高いものの、市街地・大規模工事での採用が多い工法です。
地中連続壁工法
最も大規模な土留め工法。RCの本格的な壁を地中に作るもので、本設構造物として残すこともある。
地中連続壁の特徴
地中連続壁は、壁厚600〜1500mm・深さ50m以上も可能なヘビー級工法。超高層ビル・地下鉄工事で採用され、工事費は高いものの、本設の地下外壁として使えるのが大きなメリットです。
地盤改良の話はこちらに書きました。

擁壁の種類と工法
擁壁は本設構造物なので、永久強度・耐震性・維持管理を考えた設計になります。
L型擁壁
最もポピュラーな擁壁タイプ。RC(鉄筋コンクリート)でL字形断面を作る方式。
L型擁壁の特徴
L型擁壁は、高さ1.5〜5m程度に対応し、底版の自重と土の重量で安定する形式。L型の他に逆T型、片持ち梁型もあり、戸建て住宅の擁壁・宅地造成で多用されています。JIS規格のプレキャスト製品もあるため、工期短縮できるのも強み。
重力式擁壁
無筋コンクリートまたは石積みで、自重だけで土圧に抵抗するタイプ。
重力式擁壁の特徴
重力式擁壁は、高さ1〜3m程度に対応し、鉄筋を使わず無筋コンクリートで作れるシンプル構造。古くからある工法(明治期からの石積みなど)で、大きな自重が必要なので底版が広くなる傾向。経年での前傾・転倒に注意が必要です。
もたれ式擁壁
切土・盛土の山側にもたれかけるように作る擁壁。
もたれ式擁壁の特徴
もたれ式擁壁は、自然斜面に寄りかかる構造で、土圧の一部を斜面で受け持つので薄い断面でOK。道路法面や崩壊しやすい斜面の補強に使われ、表面はコンクリート吹付けや石積みで仕上げます。
ブロック積擁壁
コンクリートブロック(間知ブロック・大型ブロック)を積み上げる方式。
ブロック積擁壁の特徴
ブロック積擁壁は、高さ5m程度まで対応(モノによる)で、比較的安価なのが特徴。透水性があり、裏面排水処理が容易な点も使いやすく、戸建てや小規模造成で多用されています。
宅地造成等規制法と擁壁
擁壁は建築物として法律的に扱われ、特に宅地造成等規制法で詳しく規定されています。
宅造法の主な規定
宅造法の主な規定としては、高さ2m超の擁壁は許可申請が必要、切土・盛土の境界で擁壁を設置、擁壁背面の排水処理(水抜き孔)、構造計算による安全性確認、完了検査と維持管理、というあたりが要点。
宅造法(宅地造成及び特定盛土等規制法)は2023年の改正で名称・規制範囲が拡大していて、盛土規制法として強化されています。これは熱海土石流災害を受けた制度改正で、不適切盛土への規制が強くなりました。
土留め・擁壁で重要な要素
両方に共通して大事なのが、水と土圧の処理。
水抜き穴(水抜きパイプ)
擁壁の背面側には必ず水抜き穴を設けます。
水抜き穴の規定
水抜き穴の規定は、直径75mm以上のVP管、配置間隔3m²に1個以上、地表・路面から所定の高さに配置、背面は透水性砕石または透水マットで覆う、というあたり。水抜きを設けないと擁壁背面に水圧が溜まり、設計時の土圧の何倍もの力で擁壁が倒れます。透水層→水抜き穴→排水溝という流れを作るのが鉄則。
主働土圧と受働土圧
土留め・擁壁の設計で出てくる重要概念が主働土圧と受働土圧。
| 用語 | 状態 | 大きさ |
|---|---|---|
| 主働土圧 | 土が崩れようとする方向に壁が動く | 小さい |
| 静止土圧 | 壁が動かない | 中 |
| 受働土圧 | 壁が土を押す方向に動く | 非常に大きい |
土留め・擁壁の安全側設計では、主働土圧を作用側、受働土圧を抵抗側として算定するのが標準的なやり方です。
施工管理での注意点
土留め・擁壁の施工管理で見るべきポイントを5つ。
土留め・擁壁の施工管理ポイント
施工管理ポイントは大きく5つ。①仮設計算書の確認として、土留めの計算前提(地下水位、土質)が現場と合うかをチェック。②計測管理として、山留め壁の変位、支保工の応力、地下水位を実測。③裏込め土の品質として、擁壁背面の透水層・締固めの確認。④水抜き穴の貫通として、設計通りに穿孔されているか、目詰まりがないか。⑤完了検査として、擁壁の鉛直度、ひび割れ、表面仕上げのチェック、という流れ。
特に②の計測管理が重要。土留め工事では「観測施工法」という考え方があり、施工中に山留め変位や周辺地盤の沈下を毎日計測して、許容値超過の兆候があれば施工計画を見直すのが標準的なやり方です。
「事前の計算通りに施工したから大丈夫」ではなく、「実測しながら危険が見えたら止める」のが土留め工事の安全管理の基本姿勢になります。
土留め・擁壁で起きがちなトラブル
現場で実際に起こる失敗パターン。
土留め・擁壁のあるある失敗
あるある失敗としては、①山留めの変位過大→隣家沈下(計測管理を怠って許容値超過)、②擁壁背面の水圧で倒壊(水抜き穴の不足・目詰まりで滞水)、③裏込めの締固め不良(擁壁背面が陥没して舗装にひび)、④盛土規制法の許可未取得(高さ2m超の擁壁を無許可で施工)、⑤擁壁の鉄筋かぶり不足(海沿いで塩害による錆とひび割れ)、というあたりが頻発パターン。
特に①の「山留め変位→隣家沈下」は、訴訟・賠償につながる重大事故。市街地工事では隣接構造物の傾斜計・沈下計を必ず設置し、許容値(隣家への影響度合いに応じて1/500〜1/1000程度)を超えたら即座に止める判断が必要です。
土留めと擁壁の違いに関する情報まとめ
- 土留めとは:掘削工事中に土の崩壊を防ぐ仮設構造物
- 擁壁とは:段差地・造成地で土圧を永久に支える本設構造物
- 土留めの工法:親杭横矢板/シートパイル/SMW/地中連続壁
- 擁壁の種類:L型/重力式/もたれ式/ブロック積み
- 宅造法:高さ2m超で許可申請必要、2023年の改正で規制強化
- 共通の要点:水抜き処理/土圧計算/計測管理
- 頻発トラブル:山留め変位、水抜き不良、裏込め締固め不良、許可漏れ
以上が土留めと擁壁の違いに関する情報のまとめです。
一通り土留めと擁壁の基礎知識は理解できたと思います。「土留め=仮設、擁壁=本設」というシンプルな区別と、「水抜きと観測施工法」という共通の要点を押さえれば、現場での判断軸が定まります。
合わせて読みたい関連記事はこちら。






