- 応力ひずみ曲線って結局なにを表すグラフ?
- 縦軸・横軸はどっちが応力でどっちがひずみ?
- 比例限度・弾性限界・降伏点…点が多すぎて混乱する
- 引張強さと降伏点の違いは?ヤング率はどこ?
- SS400の降伏点・引張強さっていくつ?
- 降伏比って何?なんで耐震で気にするの?
- SS400とSN材は何が違う?アルミに降伏点がないって本当?
- 教科書のグラフ説明じゃなく、実務での意味が知りたい
上記の様な悩みを解決します。
応力ひずみ曲線は、構造の教科書にも資格試験にも必ず出てくる基本のグラフですが、点の名前が多くて覚えにくく、「で、現場では何の役に立つの?」が見えにくい単元でもあります。解説記事の多くは機械部品設計の視点で書かれていて、建築の許容応力度設計や耐震での「降伏比」といった、施工管理がぶつかる文脈が抜けがちです。
今回は応力ひずみ曲線の見方とSS400の数値という基本を押さえた上で、現役の施工管理目線で「降伏比と耐震(粘り強さ)の関係」「SS400とSN材の違い」「なぜ降伏点の約2/3で設計するのか」まで、実務でつながる形で整理しました。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
応力ひずみ曲線とは?
応力ひずみ曲線とは、結論「材料を引っ張っていったときの、応力(縦軸)とひずみ(横軸)の関係を描いたグラフ」のことです。S-Sカーブ(Stress-Strainカーブ)とも呼ばれます。
引張試験機に試験片をセットし、両端からじわじわ引っ張りながら「どれだけの力で(応力)」「どれだけ伸びたか(ひずみ)」を記録してプロットすると、その材料がどんな力でどう変形し、最後にどう壊れるかが一本の線で見えてきます。鋼材の引張試験はJIS Z 2241に方法が定められています。
要するに、このグラフ1枚で「弾性(戻る変形)の範囲」「降伏(戻らなくなる点)」「最大の強さ」「壊れるまでの粘り」が全部読み取れる、材料の“健康診断書”のようなものです。応力やひずみそのものの意味が曖昧なら、先に基礎を押さえておくと曲線が読みやすくなります。


正直なところ、応力ひずみ曲線は「点の名前を暗記するグラフ」ではなく、「弾性→降伏→塑性→破断という材料の一生を1本で表した図」と捉えると、各点が何のためにあるのかが腑に落ちます。
応力とひずみの基礎(σ・ε・ヤング率)
曲線の軸になっている2つの量を、式で押さえておきます。
- 応力 σ(シグマ):部材の内部に生じる単位面積あたりの力。σ=F(力)÷A(断面積)。単位はN/mm²(=MPa)
- ひずみ ε(イプシロン):元の長さに対する変形量の割合。ε=ΔL(伸び)÷L₀(元の長さ)。単位はなし(無次元、%でも表す)
たとえば断面積100mm²の鋼材を10,000Nで引っ張れば、応力は10,000÷100=100N/mm²。元の長さ100mmが0.05mm伸びたなら、ひずみは0.05÷100=0.0005です。
そして、グラフの最初の直線部分の傾き(応力÷ひずみ)がヤング率(縦弾性係数)Eです。ヤング率は「変形のしにくさ=剛性」を表し、値が大きいほど同じ力でも変形しにくい材料です。鋼は約205GPa(=205,000N/mm²)、アルミは約70GPaで、アルミは鋼の約1/3しかありません。だから同じ断面でもアルミのほうがよくたわむわけですね。ヤング率の詳しい話はこちらが参考になります。

応力ひずみ曲線の見方(各点の流れ)
軟鋼(SS400のような一般的な鋼)の応力ひずみ曲線は、次の順で点が並びます。混乱しやすいので、流れで覚えるのがコツです。
| 点 | 名称 | 何が起きるか |
|---|---|---|
| ① | 比例限度 | 応力とひずみが比例(直線)する限界。傾きがヤング率 |
| ② | 弾性限界 | 力を抜けば元に戻る限界。これを超えると変形が残る |
| ③ | 上降伏点 | 応力が一旦ガクッと下がる、降伏の始まり |
| ④ | 下降伏点 | ほぼ一定の応力でひずみだけが進む(降伏棚) |
| ⑤ | 引張強さ | 加工硬化で再上昇し、耐えられる最大の応力 |
| ⑥ | 破断 | くびれ(ネッキング)が進み、最終的に切れる |
ポイントは大きく2つです。
まず降伏点(③④)。ここを超えると材料は「塑性変形」に入り、力を抜いても元に戻らなくなります。軟鋼は上降伏点でカクッと落ちてから、下降伏点でほぼ一定の力のまま伸びる「降伏棚」が現れるのが特徴です。構造設計では、この降伏点を「ここまでは元に戻る、安全に使える限界の目安」として扱います。
次に引張強さ(⑤)。降伏後にいったん粘って応力が再び上がり、耐えられる最大値に達した点です。降伏点と引張強さは別物で、「降伏点=戻らなくなり始める力」「引張強さ=壊れる手前の最大の力」と区別してください。弾性と塑性の境目の話は、こちらも合わせて読むと理解が深まります。

SS400の数値(降伏点・引張強さ・ヤング率)
建築で最もよく使われる鋼材のひとつ、SS400の代表的な数値を押さえておきます。SS400という名前の「400」は、引張強さの下限(400N/mm²)を表しています。
| 項目 | おおよその値 |
|---|---|
| 降伏点 | 板厚16mm以下で245N/mm²以上(JIS G 3101) |
| 引張強さ | 400〜510N/mm² |
| ヤング率 | 約205,000N/mm²(約205GPa) |
| 密度 | 約7,850kg/m³ |
ここで施工管理が一度は引っかかるのが、「JISの降伏点(245N/mm²)」と「建築のF値(基準強度235N/mm²)」が違う、という点です。JISは材料の規格としての最低保証値、F値は建築基準法に基づく構造計算で使う基準強度で、SS400ではF=235N/mm²と定められています。さらにSS400は板厚が厚くなると降伏点の規定値が下がる(厚さ40mm超で215N/mm²など)ので、「板厚で値が変わる」のも実務での注意点です。SS400全般の数値はこちらに詳しくまとめています。

降伏比と耐震・SN材・0.2%耐力
ここが、機械設計向けの解説サイトがほとんど触れない、建築ならではの論点です。
降伏比=降伏点 ÷ 引張強さで計算します。SS400なら、ざっくり235〜245 ÷ 400〜510 で、おおよそ0.6前後です。
なぜこれを気にするのか。降伏比が低い(降伏点と引張強さの差が大きい)ほど、降伏してから破断するまでの「粘れる余地」が大きい、つまり地震で大きく変形しても粘り強く耐えられる、ということだからです。逆に降伏比が高い材料は、降伏したらすぐ破断に近づくので、急に壊れやすい。耐震を考える建築では、この「粘り強さ(塑性変形能力)」が極めて重要になります。
そのため建築構造用の鋼材SN材(JIS G 3136)には、SS400にはない規定があります。SN材のB種・C種は、降伏点の範囲(上限と下限)や降伏比の上限(おおむね80%以下)、シャルピー衝撃値などが規定されていて、「狙った順番で粘って壊れる」よう品質がコントロールされています。柱・梁などの主要構造部材にSS400ではなくSN材を使うのは、この耐震性能のためです。
なお、アルミやステンレス、一部の高張力鋼には、軟鋼のような明確な降伏点(降伏棚)が現れません。その場合は0.2%耐力——塑性ひずみが0.2%生じたときの応力——を降伏点の代わりの基準にします。塑性ひずみの考え方はこちらが参考になります。

現場目線で言えば、降伏比は「数字そのもの」より「低いほど地震で粘れる」という方向さえ押さえておけば、なぜ建築でSN材が使われるのかが腑に落ちます。
【実務編】なぜ降伏点を基準に設計するのか
「壊れる力(引張強さ)」ではなく「戻らなくなる力(降伏点)」を設計の基準にするのはなぜか。これも応力ひずみ曲線が分かると一発で理解できます。
建物は、使っているうちに永久変形(塑性変形)が残っては困ります。だから「元に戻る範囲(弾性域)の中で使う」のが大原則で、その限界が降伏点なわけです。引張強さ(壊れる手前)を基準にすると、壊れはしなくても変形が残ってしまうので、基準には使いません。
実際の許容応力度設計では、さらに余裕(安全率)を見ます。建築では、
- 長期許容応力度 = F(基準強度)÷ 1.5
- 短期許容応力度 = F(地震・暴風など短時間の荷重に対して)
とするのが基本です。SS400ならF=235なので、長期の許容引張応力度は235÷1.5=約157N/mm²。これはちょうど「降伏点の約2/3」にあたります。「降伏点の2/3で設計する」と言われるのは、この長期許容応力度(F÷1.5)のことなんですね。許容応力度計算の全体像はこちらに詳しいです。

つまり、応力ひずみ曲線の「降伏点」→建築の「基準強度F」→「長期許容応力度=F/1.5」という流れで、グラフと実際の設計がひとつながりになっています。引張応力や許容応力度の具体は、こちらも合わせて見ておくと実務でつながります。

応力ひずみ曲線でつまずきやすい注意点
最後に、現場・実務で勘違いしやすいポイントを挙げておきます。
降伏点と引張強さを混同しない
降伏点は「戻らなくなり始める力」、引張強さは「壊れる手前の最大の力」です。設計の基準は降伏点(建築ではF値)であって引張強さではない、という点を取り違えないことが大事です。
JIS値と建築のF値を区別する
SS400の降伏点はJISでは245N/mm²以上ですが、構造計算で使う基準強度Fは235N/mm²です。材料規格の値と、設計で使う基準値は別物だと押さえておきましょう。さらに板厚が厚くなると規定値が下がる点も忘れないようにしたいところです。
公称応力と真応力は違う
一般的な応力ひずみ曲線は、初期の断面積で計算した「公称応力」で描かれます。実際にはくびれて断面が減るので、本当の応力(真応力)は終盤で公称値より大きくなります。試験のグラフが終盤で下がるのは材料が弱くなったからではなく、公称応力で描いているためです。詳しくはこちらで整理しています。

グラフの形は材料で変わる
軟鋼のような明確な降伏棚があるのは一部の鋼材だけで、アルミ・ステンレス・高張力鋼は0.2%耐力を使います。「どの材料も同じ形」と思い込まないことが大切です。
僕の考えでは、応力ひずみ曲線は「点の暗記」で終わらせず、降伏点→F値→許容応力度、降伏比→耐震、という実務とのつながりまで押さえると、資格試験でも現場でも一気に使える知識になると思っています。
応力ひずみ曲線に関する情報まとめ
- 応力ひずみ曲線とは:材料を引っ張ったときの応力(縦軸)とひずみ(横軸)の関係グラフ(S-Sカーブ)
- 基礎:応力σ=F/A(N/mm²)、ひずみε=ΔL/L₀(無次元)、直線部の傾きがヤング率
- 見方:比例限度→弾性限界→上下降伏点→引張強さ→破断の流れ
- SS400:降伏点245N/mm²以上(t16以下)、引張強さ400〜510、ヤング率約205GPa、建築のF値は235
- 降伏比:降伏点÷引張強さ(SS400で約0.6)。低いほど地震で粘れる→SN材は降伏比に上限規定
- 0.2%耐力:明確な降伏点がない材料(アルミ等)で降伏点の代わりに使う基準
- 実務:降伏点(F値)を基準に、長期許容=F/1.5(降伏点の約2/3)で設計
- 注意点:降伏点と引張強さの混同/JIS値とF値の区別/公称応力と真応力の違い
以上が応力ひずみ曲線に関する情報のまとめです。
応力ひずみ曲線は、点の名前を覚えるだけだと試験用の知識で終わってしまいますが、「降伏点→F値→許容応力度」「降伏比→耐震」という線でつかむと、構造図の鋼種選定やミルシートの読み方まで現場で生きてきます。鋼材の数値や許容応力度とあわせて押さえておくと、構造まわりで強くなれます。




