- 座屈荷重ってなに?
- オイラーの式ってどう使うの?
- 計算したら何が分かる?
- 設計でどう許容値に落とすの?
- 短柱・中柱・長柱で違う?
- 施工管理で意識する場面は?
上記の様な悩みを解決します。
「座屈荷重」は、圧縮を受ける鉄骨柱・ブレース・支保工パイプの安全性の上限を示す数値で、構造設計の中盤で必ず登場します。「許容圧縮応力度の根拠」にもなっているので、設計図書を読むときに「この柱はなんでこの寸法なのか」が腑に落ちるようになります。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
座屈荷重とは?
座屈荷重とは、結論「圧縮を受ける細長い部材が、まっすぐな状態を保てなくなり、横にたわみ始める限界の荷重」のことです。
英語ではCritical Buckling LoadまたはEuler Load(オイラー荷重)と呼ばれ、記号は通常PcrまたはPeです。
→ ざっくり、「細長い柱を押し続けると、ある荷重で横にたわみ始める、その境目」が座屈荷重、というイメージです。
「座屈」と「座屈荷重」の違いと意味
座屈(Buckling)が現象そのもの(細長い圧縮部材が突然横にたわむ)、座屈荷重(Critical Buckling Load)が座屈が始まる限界荷重の値(数値)、という関係です。
座屈荷重を超えると何が起きるかというと、Pcr未満では部材は直線のまま圧縮を受ける(安定)、Pcrに達した瞬間に横方向の小さな乱れで部材が大きくたわみ始める、Pcrを超えるとたわみが急増し座屈崩壊、というプロセス。座屈の怖さは「降伏前に折れる」点にあり、鋼材は降伏まで余裕があっても、長柱では座屈で先に降伏してしまうため、降伏応力でなく座屈荷重が設計を支配します。
座屈荷重の本質
座屈荷重の本質は、部材の長さが長いほど座屈荷重は急激に小さくなる、部材の断面二次モーメントIが大きいほど座屈荷重は大きい、材料のヤング率Eに比例、端部の境界条件(固定/ピン)で座屈荷重が変わる、というあたり。「同じ材料・同じ断面でも、長さと支持条件で座屈荷重が桁違いに変わる」のが特徴です。
オイラーの座屈荷重式
座屈荷重を計算する基本式が、レオンハルト・オイラーが18世紀に導いたオイラーの式です。
基本式と各項の意味
オイラーの式(基本形)は「Pcr = π² × E × I / (Lk)²」。Pcrは座屈荷重(N)、π²は定数(約9.87)、Eはヤング率(N/mm²)、Iは断面二次モーメント(mm⁴)、Lkは座屈長さ(有効座屈長さ・mm)、という意味です。

各項の意味を整理すると、Eが材料の硬さ(鋼材は205,000N/mm²、コンクリートは20,000N/mm²前後)、Iが断面の太さ・配置(中立軸から遠いほど大きい)、Lk²が分母にあるので長さが2倍になると座屈荷重は1/4になる、というあたり。
オイラー式は実質的に「EI / Lk²」にπ²を掛けた形なので、「曲げ剛性EIが大きいほど、長さが短いほど」座屈荷重が大きくなる、というシンプルな関係です。
具体例と強軸・弱軸
H-200×100×5.5×8(SS400)の柱、座屈長さLk=3000mmの場合、E=205,000N/mm²、弱軸まわりのI_y=134cm⁴≈1,340,000mm⁴、Pcr=π²×205,000×1,340,000/(3000)²≈301,000N≈30トン、という計算になります。実際には安全率を考慮して、許容圧縮荷重はこれよりかなり小さくなります。
→ H形鋼は弱軸方向で座屈しやすく(Iが小さいため)、設計では両方向で座屈チェックして小さい方を採用、弱軸座屈を抑えるため横補剛材(小梁)を入れる、というのが定石です。

オイラー式の適用条件
オイラー式は「弾性座屈」を前提にしているので、座屈時に応力が降伏点を超えていない、部材の細長比λ(後述)が大きい(長柱・中柱)、短柱では降伏応力が支配するためオイラー式は使えない、という制約があります。
座屈長さ(有効座屈長さ)
オイラー式のLkは「実際の部材長L」ではなく、「座屈変形に応じた有効長さ」です。これを座屈長さ(Effective Length)と呼びます。
支持条件と座屈長さ係数
部材の両端の支持条件で座屈変形のモードが変わり、同じ実長Lでも座屈時の波長が違うと有効長さが変わります。座屈長さLk=K×L(Kが座屈長さ係数)で計算します。
支持条件と座屈長さ係数Kの関係を表で整理しておきます。
| 支持条件 | K | Lk | 座屈強度 |
|---|---|---|---|
| 両端ピン | 1.0 | L | 標準 |
| 一端固定・他端自由(片持ち) | 2.0 | 2L | 低い(標準の1/4) |
| 両端固定 | 0.5 | 0.5L | 高い(標準の4倍) |
| 一端固定・他端ピン | 0.7 | 0.7L | やや高い |
| 一端固定・他端ロール | 1.0 | L | 標準 |
→ 「片持ちと両端固定で座屈強度が16倍違う」というインパクトを覚えておくと、設計の前提に敏感になれます。

実務でのLkの決め方と横補剛
実務でのLkの決め方は、鉄骨柱で基礎側はピン or 固定・屋根側はピン or 連続でK=0.5〜1.0で設計、鉄骨ブレースで両端ピン接合が原則でK=1.0、仮設支保工で両端の固定状態を慎重に評価、木造柱で両端ピン仮定が多い、というあたり。
弱軸方向の中間に水平ブレースや小梁を入れて拘束する横補剛では、拘束された区間ごとに座屈長さを計算、結果として弱軸のLkが短くなり座屈荷重が大きくなる、という効果があります。
座屈長さ係数の図解的なイメージは、両端ピンが座屈変形は半波(ハーフ・サイン)、両端固定が座屈変形は1波(フル・サイン)の半分でより細かい、片持ちが座屈変形は1/4波で最も大きく曲がる、というあたり。「座屈時のたわみ波長が短いほど、座屈長さは短く、座屈荷重は大きくなる」わけです。
座屈荷重と細長比
座屈荷重を計算する際、細長比λという指標が重要になります。
細長比の定義と分類
細長比は「λ=Lk/i」で定義されます。λは細長比(無次元)、Lkは座屈長さ、iは断面二次半径(√(I/A))。断面二次半径iは断面が「細長い」のか「ずんぐり」しているかを示す尺度です。
細長比による分類を表で整理しておきます。
| 細長比 | 分類 | 座屈の支配要因 |
|---|---|---|
| λ < 30〜40 | 短柱 | 降伏応力(座屈しない) |
| 30〜40 ≤ λ ≤ 100 | 中柱 | 弾塑性座屈(降伏+座屈の合成) |
| λ > 100 | 長柱 | 弾性座屈(オイラー式適用) |
長柱・短柱・中柱と限界細長比
長柱(弾性座屈)は細長比が大きく座屈時の応力が降伏点未満、オイラーの式がそのまま適用可能、鋼材ブレース・足場の支柱、というあたり。短柱(圧縮降伏)は細長比が小さく座屈する前に降伏応力に達する、座屈は実質的に発生せず圧縮降伏で破壊、ボルト・短いポスト・太い柱、というところ。中柱(弾塑性座屈)はオイラー式は使えず経験式で評価、日本では鋼構造設計規準による許容応力度を使用、構造設計の実務で最も多く扱う領域、というのが特徴。
限界細長比は弾性座屈と弾塑性座屈の境目で、鋼材なら λp≈√(π²E / σy)程度、SS400・SN400Bならλp≈100程度、これを超える長さなら長柱・未満なら中柱以下、というのが分け方。長柱・中柱・短柱の境目は「設計式が違うから区別する」のが本質です。
座屈荷重と許容値
実務では「座屈荷重の値」そのものを使うのではなく、安全率で除した許容値を使います。
安全率と許容圧縮応力度
座屈荷重は理論限界値で、現実の部材は初期不整・残留応力で理論より弱いので、設計では座屈荷重の1/2〜1/3程度を許容値とします。鋼構造設計規準の許容圧縮応力度fcが実用値です。
鋼構造設計規準(2017年改訂)では、許容圧縮応力度fcは細長比λに応じて、短柱(λ≤限界細長比λp)でfc=F/1.5(F:基準強度)、長柱(λ>限界細長比λp)でfc=π²E/(1.5×λ²)、中柱は上記2式を細長比で補間、と計算します。
SN490B(F=325)の例では、λ=50でfc≈200N/mm²(降伏支配に近い)、λ=100でfc≈130N/mm²(中柱の弾塑性領域)、λ=150でfc≈60N/mm²(長柱、弾性座屈)、というあたり。
許容圧縮荷重P_aは「P_a=fc×A」(A:断面積、fc:許容圧縮応力度)で計算し、設計ではP_a≧設計荷重を満たせばOK、というのがチェック方法です。
限界状態設計・仮設材
限界状態設計法(LRFD)では設計用座屈耐力Pnとして扱い、短期・長期、地震時・常時で許容値が変わる、鉄骨学会基準・建築学会基準で具体式が異なる、というのが現代の設計の流れ。
仮設材での座屈評価として、単管支柱・足場・サポートは座屈計算が必須、厚生労働省の安全衛生規則で「許容圧縮力」が定められている部材も、現場で過剰荷重をかけない計画が大事、というあたりが施工管理として意識するポイントです。

座屈荷重を活かした設計の流れ
実務で座屈荷重を計算→設計に落とすまでの流れを整理します。
設計の8ステップ
座屈荷重を反映した設計の流れは、設計荷重の把握(鉛直荷重・水平荷重・圧縮部材の軸力N)→ 部材の仮定(形状・寸法・材質)→ 座屈長さの決定(端部支持条件を評価してKを決定、Lk=K×L)→ 細長比の計算(λ=Lk/i、強軸・弱軸の小さい方を使う=弱軸支配)→ 許容圧縮応力度の計算(λに応じてfcを求める、λ≤λpなら短柱式、λ>λpなら長柱式)→ 許容圧縮荷重の計算(P_a=fc×A、N≤P_aならOK)→ 不足なら断面を大きくする(Iを大きく、Lを短く、材質を上げる、端部支持を強く)→ 周辺構造との整合確認(床・梁との取り合い、接合部の剛性、他応力との合算)、という流れになります。
→ 「軸力 vs 許容圧縮荷重」のシンプルな比較に落ちるところまで、いくつかの段階を踏むのが座屈設計の流れです。
ある中規模工場の鉄骨柱で、設計時のK=1.0(両端ピン仮定)で許容値ギリギリだったところ、現場で柱頭の継手ボルト本数が増えて実質的に固定端に近くなり、結果的に余裕が増したという例を聞いたことがあります。逆に「設計が固定端前提なのに、現場ではピンに近い接合になっていた」ケースは怖くて、実態の支持条件が設計前提と一致しているかを施工管理として確認する意義があります。
座屈荷重と施工管理
施工管理として座屈荷重を意識する場面は、仮設・建方・設計確認の3シーンが代表的です。
仮設・建方・整合確認
仮設支保工の安全性は、型枠支保工・足場の支柱は圧縮を受ける長柱、メーカー仕様書の許容圧縮力を遵守、高さに応じた水平つなぎ(水平ブレース)で座屈長さを短く、というあたり。
鉄骨建方時の仮設材は、仮支柱・仮ステーで建方途中の不安定状態を補強、強風時の倒壊は座屈強度を超える水平荷重で発生、風荷重を考慮した仮設計画、を意識します。
設計支持条件と現場の整合は、設計のK値と現場の実際の接合状態が合っているか、「ピン接合のはずがガセット剛性で固定的」「固定のはずが基礎ボルトの精度で実質ピン」といった齟齬を監理者・設計者と確認、というのが大事です。
初期不整・複合・確認資料
部材の損傷・初期不整は、運搬・建方時の曲がり・凹みで座屈強度低下、規定値を超える初期不整は部材交換または現場調整、受入検査で寸法・形状を確認、というあたり。
軸力+曲げの複合は、純粋な圧縮だけでなく曲げモーメントも同時に作用、二次効果(P−δ効果)で座屈強度がさらに低下、設計で複合応力チェックを実施、というのが現代設計のスタンダード。
座屈計算の確認資料として、設計者から構造計算書を取り寄せ座屈長さ・細長比・許容応力度を確認、現場で「この柱は短柱?中柱?長柱?」を即答できると話が早い、仕口部の処理が設計前提と一致しているか目視確認、を意識します。
H形鋼の規格・寸法詳細は別記事でも整理しています。

座屈荷重に関する情報まとめ
- 座屈荷重とは:圧縮部材が直線状態を保てなくなり、横にたわみ始める限界荷重
- オイラーの式:Pcr=π²EI/(Lk)²、ヤング率・断面二次モーメント・座屈長さで決まる
- 座屈長さLk:実長L×座屈長さ係数K、両端ピンK=1.0、両端固定K=0.5、片持ちK=2.0
- 細長比λ=Lk/i:短柱(λ<30〜40、降伏支配)、中柱(弾塑性座屈)、長柱(λ>100、弾性座屈)
- 許容圧縮応力度fc:座屈荷重を安全率1.5で除した値、鋼構造設計規準で細長比に応じた式
- 設計の流れ:軸力→断面仮定→座屈長さ→細長比→許容応力度→断面チェック→不足なら見直し
- 施工管理視点:仮設支保工の許容、建方時の支持条件、部材の初期不整、設計前提と現場実態の整合
以上が座屈荷重に関する情報のまとめです。
座屈荷重は「降伏前に折れる」メカニズムを定量化した指標で、鉄骨柱・ブレース・サポート材・足場支柱まで、圧縮を受けるあらゆる部材で必須の評価項目です。オイラーの式・座屈長さ・細長比までを反射で扱えるようになると、設計図書の柱寸法の根拠が立体的に見えてきます。一通り座屈荷重の基礎知識は理解できたと思います。
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