- オイラー座屈の式って、結局なんで出てきたの?
- π²EI/Lcr²のπ²はどこから来た?
- 座屈長さLcrが境界条件で変わる意味は?
- 細長比って何のために出すの?
- どんな範囲ならオイラー式を使える?
- 実務で本当に使う場面は?
上記の様な悩みを解決します。
構造力学で「座屈」を勉強し始めると、必ず登場するのがオイラー座屈の式(Pcr = π²EI / Lcr²)です。文字数だけ見たらシンプルなんですが、なぜπ²なのか、Lcrの中身は何なのか、そもそもなぜEIが分子なのか、と疑問が連鎖して、最終的に「式だけ覚える」コースに入りがち。
これ、結構もったいなくて、オイラー座屈の式を一度ちゃんと腹落ちさせると、柱・横補剛・座屈長さの設計判断が一気に立体的に見えるようになります。施工管理の視点でも、横補剛をいつ・なぜ入れるか、仮設支保工の中間サポートをどう判断するか、という現場の意思決定にそのまま効いてきます。
この記事では、オイラー座屈の式の意味・座屈長さ・細長比・適用範囲・実務での使い方まで、構造力学の入口で迷いやすい論点に絞って整理します。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
オイラー座屈とは?
オイラー座屈とは、結論「理想的な弾性長柱が、軸圧縮を受けたときに横方向にたわんで突然不安定になる現象を、スイス人数学者オイラー(Euler)が1744年に微分方程式で解いた理論」のことです。
普通の柱は、軸圧縮力をかけると最初は真直ぐに圧縮されるんですが、ある臨界値(Pcr)を超えた瞬間、横方向にぐにゃっと曲がってしまいます。これが座屈で、座屈はあくまで「弾性的に」起こるところがオイラー理論のキモ。
オイラー座屈の前提
- 完全に真直ぐな理想柱(初期不整なし)
- 軸方向に集中荷重がかかる
- 材料は弾性域内(フックの法則が成立)
- 断面は両端で同じ
- 自重は無視
ぐにゃっと曲がる瞬間の荷重Pcrを座屈荷重、その時の応力を座屈応力σcrと呼びます。座屈の全体像はこちらの記事も参考にしてみて下さい。
オイラー座屈の公式
オイラーが導いた式が、構造力学のメインディッシュ。
基本式(両端ピンの場合)
Pcr = π² × E × I / L²
- Pcr:座屈荷重(N)
- E:ヤング係数(N/mm²)
- I:断面二次モーメント(mm⁴)
- L:柱の長さ(mm)
一般化した式(座屈長さLcrを使う)
両端の固定条件(境界条件)が変わると、有効な「座屈長さ」が変わります。
Pcr = π² × E × I / Lcr²
ここでLcr = K × L(Kは座屈長さ係数)。境界条件によってKが決まります。
なぜπ²が出てくるのか
「π²って何」となるのは普通の感覚なんですが、オイラー座屈の式はたわみ曲線の微分方程式を解くと自然に出てくる定数です。
たわみ曲線の式は次のようになります(ザックリ流れだけ)。
EI × (d²y/dx²) = -P × y
これはバネのような単振動の式と同じ形で、解はサイン関数になります。sin(πx/L)が境界条件(両端でたわみ=0)を満たす最初の解で、これを微分方程式に代入するとπ²/L²が出てきます。π²はサイン関数の2階微分から自然に出る定数であって、外から人為的に持ってきた数字ではない、というのが腹落ちポイント。
EIの意味
分子のEIは曲げ剛性と呼ばれる量で、柱の「曲がりにくさ」を表します。
- E(ヤング係数):材料そのものの硬さ。鋼≒205,000、コンクリート≒21,000〜33,000、木≒7,000〜12,000(単位N/mm²)
- I(断面二次モーメント):断面の形状由来の硬さ。同じ断面積でも、外側に肉が分布しているほど大きい
「同じ断面積でもパイプは無垢の丸鋼より座屈に強い」のは、Iが大きく取れるから。これがH形鋼やパイプなどの中空・薄肉断面が圧縮材として使われる理由です。
ヤング係数の話はこちらが詳しいです。

座屈長さLcrと境界条件
座屈長さは、座屈の世界観で最重要のパラメータ。境界条件で何が変わるのかを理解すると、現場の判断にそのまま効きます。
4つの典型的な境界条件と係数K
| 境界条件 | K(係数) | Lcr | イメージ |
|---|---|---|---|
| 両端ピン | 1.0 | L | 標準ケース |
| 両端固定 | 0.5 | 0.5L | 上下の倒れが拘束 |
| 片側固定・片側ピン | 0.7 | 0.7L | 上はピン、下は固定 |
| 片側固定・他端自由 | 2.0 | 2L | 片持ち柱(旗ポール) |
ここで効いてくるのが「Pcrは1/Lcr²で効く」という関係。Lcrが2倍になればPcrは1/4になります。
具体例での違い
例として、長さ4mの柱を考えると。
| 境界条件 | Lcr | Pcrの相対比 |
|---|---|---|
| 両端固定 | 2.0 m | 100(基準) |
| 片側固定・片側ピン | 2.8 m | 51 |
| 両端ピン | 4.0 m | 25 |
| 片持ち(自由端) | 8.0 m | 6.3 |
両端固定の柱は、片持ち柱の16倍の座屈荷重に耐えるわけです。「上端を何かで止めるかどうか」が、構造の効率を桁違いに左右することが分かります。
横補剛・水平つなぎが効く理由
実務でよく出てくる「横補剛」は、柱の中間に水平方向の拘束を入れて、実質的な座屈長さを半分以下にする技術です。
たとえば長さ6mの柱の中間に水平つなぎを入れて両端ピンを2つの3m両端ピンに分割すると、Lcrが6m→3mになり、Pcrは4倍に増えます。横補剛は、構造体の設計効率を一気に上げる魔法みたいなもので、鉄骨工事の梁にもこの考え方が応用されます。
座屈の全体図と横補剛の話はこちらでも触れています。

細長比とオイラー座屈
「細長比(さいちょうひ)」は、座屈設計のもう1つの主役パラメータ。
細長比の定義
λ = Lcr / i
- λ:細長比(無次元)
- Lcr:座屈長さ
- i:断面二次半径(i = √(I/A))
「柱がどれだけ細長いか」を1個の数字で表したもので、断面の太さに対して長さが何倍かのイメージで掴むと分かりやすいです。
細長比とオイラー座屈応力
オイラー座屈応力は、細長比を使うと次のようにシンプルになります。
σcr = π² × E / λ²
これはPcrの式の両辺をAで割って、I = A × i² の関係を使うと出てきます。細長比の2乗で座屈応力が小さくなる、つまり細長くなるほど弱くなることが式で確認できます。
細長比と座屈の領域分け
| 細長比λ | 領域 | 主たる破壊モード |
|---|---|---|
| 小(短柱) | 圧縮降伏領域 | 材料の降伏(座屈は起こらない) |
| 中(中間柱) | 非弾性座屈領域 | オイラー+降伏の混合 |
| 大(長柱) | 弾性座屈領域 | オイラー座屈が主役 |
細長比が小さいほど、オイラー式は使えなくなるのがポイント。詳しくは次の章で見ていきます。
オイラー座屈の限界応力と適用範囲
オイラー座屈は理想化された理論なので、実物には完全には適用できない領域があります。
限界細長比(細長比の境界)
オイラー式が使える範囲は弾性領域に限られます。降伏応力σyを超える応力では材料が降伏してしまうため、σcr ≦ σy という条件が必要。
これを式変形すると、限界細長比 λpが出てきます。
λp = π × √(E / σy)
| 材料 | E (N/mm²) | σy (N/mm²) | λp |
|---|---|---|---|
| SS400 | 205,000 | 235 | 約93 |
| SN490 | 205,000 | 325 | 約79 |
| アルミ合金 | 70,000 | 245 | 約53 |
鉄骨の場合、細長比93がオイラー式を使える境界ということ。これより細長比が大きいとオイラー領域で純粋な弾性座屈、93より小さいと非弾性領域で別の評価式(ジョンソンの式・テトマイヤーの式など)が必要です。
実物の柱と「初期不整」
オイラー式の前提は完全に真直ぐな理想柱ですが、実際の柱には初期たわみ・残留応力・載荷の偏心があります。これを考慮した実用設計では、オイラー式に安全率や低減係数をかけて使います。
| 仕様規定の例 | 内容 |
|---|---|
| 建築基準法施行令 | 柱の細長比制限(主要構造部で200以下) |
| 鋼構造設計規準 | 圧縮強度σcrを細長比領域で別式化 |
| JIS規格類 | 部材ごとの許容圧縮応力 |
オイラー式そのものを直接使うのは学術計算と概念理解の場面で、実務設計では各規準の許容応力曲線(細長比に応じてσcrが連続的に変わるカーブ)を使います。
実務での「オイラー式の現役感」
「じゃあ実務でオイラー式は使わないのか?」と言うと、そんなことはなくて。
- 概算検討で「この柱の座屈、オーダー感はどれくらい?」と当たりを付ける
- 横補剛・水平つなぎの効き具合を比較する(PcrがLcr²で変わる感覚)
- 細長比の領域分けを判断する
このような場面で、式そのものを暗算で使えるようになるとかなり強いです。現場で「この仮設支保工に中間サポート要るか?」を聞かれて即答できるくらいの感覚は、オイラー式から育ちます。
オイラー座屈の実務での使われ方
施工管理の視点で、オイラー座屈の知識がどこで効くかを整理します。
1. 鉄骨柱の設計
鉄骨造の柱の選定は座屈評価が必須。柱長さ・断面性能・横補剛位置から座屈長さを決めて、設計者が許容応力曲線で評価します。現場での横補剛取り付け位置・小梁の取り合いは、設計の前提条件にそのまま影響します。「この小梁は座屈拘束として効いている前提なんだろうな」という意識で見ると、現場の意味が変わって見えます。
鉄骨の話はこちらが詳しいです。


2. 仮設支保工・型枠支保工
型枠支保工のサポート(パイプサポート、枠組支保工)は、典型的な圧縮材で座屈評価が肝。
- サポートの長さLcr:転倒防止のための水平つなぎ間隔で決まる
- 細長比制限:労働安全衛生規則で250以下(鋼管)など規定
- 中間水平つなぎ:オイラー式でいうLcr短縮の効果
「水平つなぎを横着して入れないと、Lcrが2倍になりPcrが1/4になる」というのが現場で起こる典型的な失敗。仮設なんだから大丈夫でしょとサボると、コンクリート打設中の支保工倒壊につながります。型枠支保工の話はこちら。

3. 単管足場・足場の建枠
足場の単管・建枠柱も同じ理屈。地組から3.5m以上で水平つなぎ、5層5スパン以下に補強といった足場の構造規定は、全部オイラー座屈の考え方が背景にあるわけです。「規定だから守る」だけでなく、「Lcrが伸びるのを防ぐための水平つなぎ」と理解すると、足場点検の精度が変わります。
足場の話はこちらでも触れています。
4. 鉄筋コンクリート柱の設計
RC柱でも長柱と短柱で評価が変わるのは同じ。短柱(h/D≦4程度)はせん断破壊、中間柱は曲げ破壊、長柱は座屈・付加曲げの影響が出ます。一般的な建築物のRC柱は中間〜短柱領域で設計されますが、ピロティ柱・橋脚の独立柱などは長柱領域に入るので別評価が必要。
オイラー座屈に関する情報まとめ
- オイラー座屈とは:1744年オイラーが導いた、弾性長柱の軸圧縮による横変形の臨界荷重理論
- 基本式:Pcr = π²EI / Lcr²。π²はサイン関数の2階微分から自然に出る定数
- 座屈長さLcr:境界条件で決まる(両端ピン1.0L、両端固定0.5L、片持ち2.0L等)
- 横補剛の効き目:中間に拘束を入れるとLcrが半減し、Pcrが4倍になる
- 細長比λ = Lcr/i:柱の細長さを1つの数字で表す指標
- 適用範囲:弾性域に限る。SS400なら細長比93以上が「オイラー領域」
- 実務での出番:鉄骨柱・支保工・足場・RC柱の評価/概算と感覚の養成
以上がオイラー座屈に関する情報のまとめです。
オイラー座屈の式は、一見「式だけ覚えればOK」のテーマに見えますが、π²の出所、Lcrと境界条件、細長比、適用範囲まで一気通貫で押さえると、現場の支保工・足場・横補剛が一気に意味を持って見えてきます。「このサポートの間隔、座屈OK?」を電卓1個で判断できるくらいの感覚を養っておくと、施工管理として一段階抜け出せるテーマだと思います。
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