- 有効断面積ってなに?
- 総断面積とどう違う?
- ボルト孔があると引かないとダメ?
- 計算ってどうやる?
- 引張と圧縮で扱いが違う?
- 設計図でどこに書いてある?
上記の様な悩みを解決します。
「有効断面積」(ゆうこうだんめんせき)は鉄骨設計でほぼ毎日出てくる概念で、結論を一言でいうと 「ボルト孔やノッチで欠損した分を差し引いた、実際に応力を伝える断面積」のことです。鉄骨の引張部材では、ボルト孔の分だけ断面が欠けるため、設計上は「総断面積より小さい有効断面積」を使うのが原則。これを知らずに総断面積で応力計算すると、ボルト孔位置で先に降伏 or 破断する事故につながります。施工管理として現場で鉄骨の接合部を見るときも、「孔径×板厚 = どれだけ欠損しているか」を即座に判断できると、品質管理の解像度が一気に上がります。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
有効断面積とは?
有効断面積とは、結論「部材の総断面積から、孔や切り欠きなど断面欠損を差し引いた、応力を実際に伝える断面積」のことです。
英語では effective cross-sectional area。記号は Ae や An(ネット断面積)、Ag(総断面積)などが対比的に使われます。
ざっくりイメージすると
長さ100mm×厚さ10mm = 1,000mm²の鋼板があるとき、
- 総断面積(Ag) = 1,000mm²
- 鋼板の中央に直径20mmのボルト孔1つ → 欠損 = 20×10 = 200mm²
- 有効断面積(Ae) = 1,000 – 200 = 800mm²
→ 鋼板を引っ張るとき、応力を実際に負担できるのは800mm²ぶん。総断面積1,000mm²で計算してしまうと 応力評価が甘くなるわけです。
有効断面積の主な発生源
何で欠損が出るか:
- ボルト孔(最も頻出、鉄骨接合部)
- リベット孔(古い建物の鋼構造)
- ノッチ(切り欠き、加工跡)
- ねじ部の谷径(ボルト・ターンバックルなど)
- 接合金物の溶接欠陥(やや特殊なケース)
→ 「設計図と実物で断面が違う」場所はすべて有効断面積の対象。
なぜ有効断面積を考えるのか
鋼構造の引張破壊は 「断面の最も弱い場所」で起こる。応力の集中が最大になるのはどこかというと、
- 孔が並んだ位置 → 応力集中点
- 切り欠き先端 → 応力集中点
→ 「断面欠損のある場所で先に壊れる」のが鋼構造の常識。だから設計者は「最も欠損が大きい断面」を 有効断面積として扱い、そこで応力評価をします。
応力・ひずみの基本はこちらの記事も参考にしてください。

総断面積と有効断面積の違い
混同されやすいのが「総断面積(Ag)と有効断面積(Ae)」です。
①それぞれの定義
| 用語 | 記号 | 何の面積か |
|---|---|---|
| 総断面積 | Ag (Gross area) | 設計時の 公称断面積。欠損を考慮しない |
| 有効断面積 | Ae (Effective area) | 総断面積からボルト孔などの欠損を差し引いた 実際の有効断面 |
| ネット断面積 | An (Net area) | 有効断面積とほぼ同義(米国基準では区別) |
→ JIS・建築学会の鋼構造設計規準では「有効断面積=ネット断面積」として扱うことが多い。
②使い分けのルール
| 検討内容 | 使う断面積 |
|---|---|
| 圧縮材の強度検討 | 総断面積 Ag |
| 引張材の強度検討 | 有効断面積 Ae |
| 座屈長さ・座屈強度 | 総断面積 Ag |
| 接合部の支圧・端あき | 総断面積 |
→ 「圧縮は総、引張は有効」が一番ざっくりした覚え方。圧縮は 孔が閉じるイメージで応力が回避されるが、引張は 孔の周りで応力が集中するため有効断面積が支配的になる。
引張荷重・引張応力の基本はこちらの記事も参考にしてください。

③実務での例
直径20mmボルト孔1つ、板厚9mmの場合の欠損面積:
- 1つあたり:20 × 9 = 180mm²
- 1段の場合:1×180 = 180mm²欠損
- 千鳥配置の場合:孔位置を斜めで計算(s²/4gルールを使う)
→ 千鳥配置(zigzag)では 斜め断面の欠損を計算するため、s²/4gの加算項を使った特殊な式が必要になります。
ボルト孔控除の計算方法
実務で最もよく使うのが「ボルト孔を引いた有効断面積の計算」です。
①基本ルール:孔径
ボルト孔径は ボルト径+2〜3mmで開ける(JIS B 1186)が、有効断面積を計算するときの 控除孔径は ボルト径+2mmを採用するのがJIS鋼構造設計規準。
例:M20ボルト(φ20)の場合、孔径 = 20+2 = 22mm
②直線配置(in-line)の場合
ボルトが1直線上に並ぶ場合、
Ae = Ag - n × d × t
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| Ae | 有効断面積 |
| Ag | 総断面積 |
| n | 控除する孔の数(直角断面で交わる孔の数) |
| d | 孔径(=ボルト径+2mm) |
| t | 板厚 |
例:板幅100mm×板厚10mm、M20ボルト2本直線配置の場合、
- Ag = 100 × 10 = 1,000mm²
- 孔径 d = 22mm、孔数 n = 2、板厚 t = 10mm
- Ae = 1,000 – 2 × 22 × 10 = 560mm²
③千鳥配置(zigzag)の場合
ボルトが斜めに並ぶ場合は、斜め断面の経路長を計算するために s²/(4g)補正を加える。
Ae = Ag - n × d × t + Σ(s² × t / 4g)
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| s | ボルトピッチ(部材軸方向) |
| g | ゲージ間隔(部材軸直交方向) |
→ 斜め経路は 直線経路より長いため、欠損が緩和される効果がある。これを式で表現したのがs²/4gルール。
④ねじ部の谷径
ボルトやアンカーボルトの ねじ部分は 谷径(谷の直径)が有効断面径になる。
例:M20ボルトのねじ部、谷径 17.65mm
有効断面積 = π × (17.65/2)² ≒ 245mm²(M20の 公称軸断面 314mm²より小さい)
→ ボルトの引張耐力を計算するときは、谷径から算出する有効断面積で検討する必要があります。
ボルトの基本はこちらの記事も参考にしてください。

引張部材での扱い
鉄骨の 引張ブレースや 吊り棒で、有効断面積が支配的になる典型例です。
①引張耐力の計算式
引張部材の 降伏耐力と 破断耐力を比較し、小さい方が設計値になる。
降伏耐力 Ny = Ag × Fy (総断面積 × 降伏点)
破断耐力 Nu = Ae × Fu (有効断面積 × 引張強さ)
- Fy:降伏点(SS400で235N/mm²)
- Fu:引張強さ(SS400で400N/mm²)
→ 「孔の少ない部分で降伏 vs 孔の多い断面で破断」のどちらが先に来るかを比較する。
②現実的にどっちが効くか
実務では、通常は降伏耐力が支配(Agベース)するが、
- 接合部に孔が密集 → 破断耐力が支配(Aeベース)
- ガセットプレートの幅が狭い → 破断耐力が支配
→ 「ガセットプレートを設計するときは、ボルト本数だけでなく 有効断面積で破断耐力を確認」が鉄則。
材料強度・降伏点の基本はこちらの記事も参考にしてください。


③許容応力度設計での書き方
許容応力度設計法では、
許容引張力 = Ae × ft
ft = 許容引張応力度(SS400長期で156N/mm²)
→ シンプルな掛け算ですが、Aeが過小評価されると断面不足になる怖さがある。
許容引張応力度の基本はこちらの記事も参考にしてください。

施工管理での確認ポイント
「現場で何を見ればいいか」という実務寄りの整理です。
①ボルト孔の精度管理
ボルト孔の 位置精度・孔径は 欠損面積に直接影響する。
- 孔径精度:ボルト径+2.0mm±0.5mm(JIS B 1186)
- ピッチ:設計図通り±2mm
- ゲージ:設計図通り±1mm
→ 「孔がガバガバに大きい」と有効断面積が想定より小さくなる。孔径ゲージで全数チェックが現場の鉄則。
②現場での具体例(独自エピソード)
ある倉庫(S造平屋・スパン25m級)の 鉄骨柱脚の引張ブレース(F12T-M20ボルト4本、片側ガセット)の組立検査で、ベテランの鳶長から「ガセットの板幅、足りなくない?」という指摘を受けた経験があります。
- 当時のガセット仕様:板幅100mm × 板厚9mm
- 当時の孔配置:M20×2本(直線、ピッチ50mm)
- 自分の計算:Ag = 100×9 = 900mm²、控除2×22×9=396mm²、Ae = 504mm²
- ブレースの設計引張力 175kN → 必要Ae = 175,000/156 = 1,122mm²
→ 必要Ae 1,122mm² > 実際Ae 504mm² で 断面不足。ベテランの「幅足りない」感覚が当たっていた。
その後、設計図に戻って ガセット板幅を150mmに修正し、追加ボルト2本(2列千鳥)で再計算して妥当性を確認。実物大きさの感覚を持っている職人さんが、ボルト孔の欠損を 目で見抜いた瞬間でした。
教科書の「有効断面積=総断面積-控除」が、現場では「この大きさのガセットで、孔がこれだけ並んでたら破断するでしょ」という 直感的な品質管理につながる、というリアルなエピソードです。
スプライスプレートはこちらの記事も参考にしてください。

③図面チェックの優先順序
設計図を受け取ったら、
- ボルト径と 孔径の整合性(M20で孔22mmか)
- ガセット板幅と 板厚(欠損後Aeを暗算)
- ボルト本数と 配置(直線か千鳥か、s²/4g補正)
- 必要Aeとの比較(設計引張力 ÷ 許容引張応力度)
→ この4ステップで「設計が成立しているか」が瞬時に分かるようになる。
有効断面積に関する情報まとめ
最後に、有効断面積の重要ポイントを整理します。
- 有効断面積とは:総断面積からボルト孔などの欠損を差し引いた、応力を実際に伝える断面積(記号Ae)
- 総断面積との違い:Ag = 公称断面積、Ae = 欠損後の実有効断面
- 使い分けルール:圧縮は総断面積Ag、引張は有効断面積Ae
- 計算式:Ae = Ag – n×d×t (直線配置)、Ae = Ag – n×d×t + Σ(s²t/4g) (千鳥配置)
- 孔径:JIS鋼構造設計規準では ボルト径+2mmで控除
- 設計上の要点:引張部材は降伏耐力(Ag×Fy) vs 破断耐力(Ae×Fu)の小さい方が支配
- 施工管理視点:ボルト孔径精度、ガセット板幅、必要Aeとの照合
以上が有効断面積に関する情報のまとめです。
有効断面積は「断面欠損を正しく評価する」という鋼構造設計の根幹ルールで、引張部材で最も効いてくる概念。施工管理として現場でガセットを見るときも、「Ag – 孔×板厚 = どれだけAeが残っているか」を暗算できるようになると、ボルト本数や板幅の妥当性を即座に判断できるようになりますよ。一通り基礎知識は理解できたと思います。
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