- 木材の許容応力度ってどう決まる?
- 樹種で値はどれくらい違うの?
- 長期と短期で安全率が違うのはなぜ?
- 無等級材とJAS等級材で値が変わるって本当?
- 繊維方向と直角方向で強度が違うのはどう扱う?
- 含水率や経年で許容応力度は下がるの?
上記の様な悩みを解決します。
木材の許容応力度とは、結論「建築基準法施行令第89条で規定された、木材の設計上の応力の上限値」のことです。鉄骨やコンクリートと違って木材は 「樹種・等級・含水率・繊維方向・荷重時間」で強度が大きく変わる 特殊な構造材。スギ・ヒノキ・ベイマツ・カラマツといった主要樹種ごとに基準強度(Fc/Ft/Fb/Fs)が定められ、長期は 1.1/3、短期は 2/3という独特な安全率で割って許容応力度を出します。本記事では、樹種別の基準強度・長期短期の使い分け・無等級材とJAS等級材の違い・繊維方向と直角方向・含水率の影響まで、施工管理として 「木造設計の数字を読み解ける」レベルまで整理します。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
木材の許容応力度とは?
木材の許容応力度とは、結論「木材を構造材として使うときに、設計で許容される応力の上限値」のことです。
英語では allowable stress of wood。単位は N/mm²。
鉄骨・コンクリと違う「木材」の特殊性
木材は 天然素材ゆえに、鉄骨・コンクリとは扱いが大きく異なります。樹種で強度が異なる(スギとヒノキで2割以上違う)、繊維方向と直角方向で強度が桁違い(直角方向は繊維方向の1/10〜1/30)、含水率で強度が変わる(含水率が高いと強度低下)、長期荷重で強度が低下するクリープ破壊(長期は短期の2/3で見る)、節・割れ・腐れで強度が変動するため等級が必要、というあたりが木材ならではの特殊性。
だから「木材専用の許容応力度設計法」が建築基準法施行令第89条で別途定められています。
4種類の許容応力度
木材では 4つの応力それぞれに許容値が設定されています。
| 記号 | 意味 | 例(スギ・繊維方向) |
|---|---|---|
| Fc | 圧縮強度(圧縮で潰れる応力) | 17.7 N/mm² |
| Ft | 引張強度(引張で破断する応力) | 13.5 N/mm² |
| Fb | 曲げ強度(曲げで破断する応力) | 22.2 N/mm² |
| Fs | せん断強度(せん断で破壊する応力) | 1.8 N/mm² |
→ これらが 基準強度(Fc/Ft/Fb/Fs)で、ここから許容応力度を計算します。
「基準強度」と「許容応力度」の関係
許容応力度 = 基準強度 × (長期 1.1/3 or 短期 2/3)
長期は基準強度の1.1/3 ≒ 0.367倍、短期は基準強度の2/3 ≒ 0.667倍。つまり、 基準強度(Fc等)の3分の1〜3分の2しか設計で使えない、という 大きな安全率が掛かっています。
なぜ木材だけ安全率が大きいか
木材だけ安全率が大きい理由は、天然素材で値のばらつきが大きい、長期荷重でクリープ破壊しやすい(鉄骨・コンクリより顕著)、樹種・等級・含水率・節などで個別の強度評価が困難、耐用年数の不確かさ(腐朽・虫害)、というあたり。
このため、 建築基準法は木材に対して厳しい安全率を設定しています。
許容応力度の全体像はこちらに整理しています。


樹種別の基準強度
建築基準法施行令第89条で規定されている 主要樹種の基準強度を整理します。
①針葉樹(建築構造材の主流)
| 樹種 | Fc(圧縮) | Ft(引張) | Fb(曲げ) | Fs(せん断) |
|---|---|---|---|---|
| スギ | 17.7 | 13.5 | 22.2 | 1.8 |
| ヒノキ | 20.7 | 16.2 | 26.7 | 2.1 |
| ツガ | 19.2 | 14.7 | 25.2 | 2.1 |
| ベイマツ | 22.2 | 17.7 | 28.2 | 2.4 |
| ベイツガ | 19.2 | 14.7 | 25.2 | 2.1 |
| カラマツ | 20.7 | 16.2 | 26.7 | 2.1 |
| エゾマツ | 17.7 | 13.5 | 22.2 | 1.8 |
| トドマツ | 17.7 | 13.5 | 22.2 | 1.8 |
単位はすべて N/mm²。建築基準法施行令第89条と、平成12年建設省告示第1452号(無等級材の基準強度)が根拠。
②広葉樹(特殊用途)
| 樹種 | Fc | Ft | Fb | Fs |
|---|---|---|---|---|
| クヌギ | 27.0 | 21.0 | 36.0 | 3.0 |
| ナラ | 27.0 | 21.0 | 36.0 | 3.0 |
| ブナ | 27.0 | 21.0 | 36.0 | 3.0 |
| ケヤキ | 30.0 | 24.0 | 39.0 | 3.3 |
広葉樹は 針葉樹より約1.5倍強いですが、価格・流通量・施工性で針葉樹が主流。
③値の覚え方
主要4樹種(スギ・ヒノキ・カラマツ・ベイマツ)を中心に、スギは最低レベル(Fc=17.7、Fb=22.2)、ヒノキ・カラマツは中位(Fc=20.7、Fb=26.7)、ベイマツは高位(Fc=22.2、Fb=28.2)、という3階層で覚えると整理しやすいです。
「スギ < ヒノキ ≒ カラマツ < ベイマツ」が 主要樹種の強度順。住宅の構造材としては ヒノキ or ベイマツが標準。スギは廉価版・伝統的な構造材として使われます。
④鉄骨・コンクリとの比較(参考)
| 材料 | 基準強度(N/mm²) | 主強度の種類 |
|---|---|---|
| SS400(鋼材) | F = 235 | 降伏点 |
| Fc24(コンクリ) | F = 24 | 圧縮強度 |
| スギ(木材) | Fb = 22.2 | 曲げ強度(繊維方向) |
| ヒノキ(木材) | Fb = 26.7 | 曲げ強度(繊維方向) |
→ 木材の曲げ強度はコンクリートの圧縮強度と同程度。一方、鋼材より1桁低い。重量も鋼材の約1/10なので、強度/重量比でみれば木材は意外と健闘しています。
⑤建築実務での使い分け
建築実務での使い分けは、スギが柱・梁・土台・桁・垂木など一般的な構造材(コスト重視)、ヒノキが土台・柱で特に住宅の主要構造(耐久性重視)、ベイマツが梁・桁・棟木の長スパン(強度重視)、カラマツが構造用合板・集成材の原料・土台、というかたち。
樹種選定は 「強度+耐久性+コスト+地域性」の総合判断で決まります。
材料強度の周辺はこちらに整理しています。


長期・短期の許容応力度の計算式
基準強度から 設計に使える許容応力度への変換式を整理します。
①基本式
長期許容応力度 = 基準強度 × 1.1/3
短期許容応力度 = 基準強度 × 2/3
長期は1.1/3 ≒ 0.367倍、短期は2/3 ≒ 0.667倍。
②長期に「1.1/3」と中途半端な係数がある理由
「3分の1」と覚えてもほぼ同じ(差は1割)ですが、正式には 1.1/3。これは、木材は長期荷重でクリープ破壊するリスクがある、静的試験で得られる「短期基準強度」を長期換算で約半分にする調整、さらに3分の1の安全率を掛けて最終的に基準強度の約36.7%、という積で出る数字。実務的には「基準強度の約1/3」で大体合っています。
③樹種別の許容応力度(スギ)
スギの繊維方向の許容応力度を計算してみます。
| 応力種類 | 基準強度(N/mm²) | 長期(N/mm²) | 短期(N/mm²) |
|---|---|---|---|
| 圧縮 fc | Fc = 17.7 | 6.5(17.7×1.1/3) | 11.8(17.7×2/3) |
| 引張 ft | Ft = 13.5 | 4.95(13.5×1.1/3) | 9.0(13.5×2/3) |
| 曲げ fb | Fb = 22.2 | 8.14(22.2×1.1/3) | 14.8(22.2×2/3) |
| せん断 fs | Fs = 1.8 | 0.66(1.8×1.1/3) | 1.2(1.8×2/3) |
④樹種別の許容応力度(ヒノキ)
| 応力種類 | 基準強度 | 長期 | 短期 |
|---|---|---|---|
| 圧縮 fc | 20.7 | 7.59 | 13.8 |
| 引張 ft | 16.2 | 5.94 | 10.8 |
| 曲げ fb | 26.7 | 9.79 | 17.8 |
| せん断 fs | 2.1 | 0.77 | 1.4 |
⑤樹種別の許容応力度(ベイマツ)
| 応力種類 | 基準強度 | 長期 | 短期 |
|---|---|---|---|
| 圧縮 fc | 22.2 | 8.14 | 14.8 |
| 引張 ft | 17.7 | 6.49 | 11.8 |
| 曲げ fb | 28.2 | 10.34 | 18.8 |
| せん断 fs | 2.4 | 0.88 | 1.6 |
⑥長期と短期の使い分け
長期は自重+積載+仕上げの常時荷重で設計、短期は地震+風+雪荷重で設計、という使い分け。
長期:荷重 ≤ 長期許容応力度 を確認
短期:荷重 ≤ 短期許容応力度 を確認(地震時・台風時など)
⑦せん断応力度が小さい理由
注目すべきは せん断強度の小ささ。スギで Fs = 1.8 N/mm² は 圧縮 Fc の約 1/10。これは、木材は繊維に沿った方向に割けやすいためで、せん断は木材の弱点。 梁の支点近くのせん断検定で意外と引っかかります。
⑧長期と短期の使い分け(具体例)
土台のスギ材に、長期軸力N = 8 kN(自重+積載)、短期軸力N = 12 kN(地震時)、断面105×105 = 11,025 mm²、というケースで考えると:
長期応力度 = 8,000 / 11,025 = 0.726 N/mm² → 長期許容6.5を下回りOK
短期応力度 = 12,000 / 11,025 = 1.088 N/mm² → 短期許容11.8を下回りOK
→ 「軽い圧縮なら105角でも余裕」。土台で105角が標準として使われる根拠の1つ。
無等級材とJAS等級材の違い
設計に使う 「基準強度の数値」は、木材の 「等級」で変わります。
①無等級材とは
JAS(日本農林規格)による 目視等級区分・機械等級区分の認定を受けていない木材。建築基準法施行令第89条・告示1452号の 「無等級材」の基準強度が適用される。価格は安く流通量大、等級保証はなし(節・割れの個別評価なし)、設計値は上の表の値(スギ Fb=22.2 等)、というかたち。
②JAS等級材とは
JAS規格に従って 目視 or 機械で等級区分された木材。等級が高いほど強度値が大きい。等級区分は目視等級1級・2級・3級/機械等級M30、M60、M90、M120など、設計値は等級ごとに告示1452号で値が定められている、価格は高い(等級証明書付き)、という構成。
③スギ製材の等級別基準強度(参考、Fb=曲げ強度)
| 等級 | 規格 | Fb(N/mm²) | 適用 |
|---|---|---|---|
| 無等級材 | — | 22.2 | 一般材 |
| 目視等級1級 | JAS | 28.2 | 高品質構造材 |
| 目視等級2級 | JAS | 22.2 | 標準的構造材 |
| 目視等級3級 | JAS | 13.8 | 簡易構造材 |
| 機械等級M60 | JAS | 19.8 | 機械グレード品 |
| 機械等級M90 | JAS | 29.7 | 高グレード品 |
→ 等級が高いほど強度値が大きく、設計値で得をする。逆に等級3級だと無等級材より弱い扱い。
④構造用集成材
集成材(複数の木材を接着して大断面化)は 構造用集成材JASで別途規定。E105-F300はヤング率10.5kN/mm²・曲げ強度30N/mm²、E120-F330はヤング率12.0kN/mm²・曲げ強度33N/mm²、というのが代表的なグレード。
集成材の強度は 無等級材の1.5〜2倍になることが多く、 長スパン梁・大空間構造で活用されます。
⑤施工管理での確認ポイント
設計図書に 「機械等級M60スギ」と書かれているのに、現場で 無等級材を搬入したら、設計値より低い強度の材料で建てることになります。
確認すべき書類はJAS製材品表示票(材料の側面に貼られる)、JAS認定工場の証明書、乾燥材証明書(KD材:含水率20%以下)、というあたり。
逆に、設計が無等級材想定なのにJAS等級材を使うのは安全側なので問題なし(コストアップは別問題)。
⑥含水率の影響
木材の許容応力度は 含水率約15%(KD材)を前提に決められています。KD材(Kiln Dry)が含水率15%以下で乾燥処理済み、グリーン材(生木)が含水率20〜30%、AD材(Air Dry)が自然乾燥で含水率20%程度、というのが目安。
含水率が高い木材は強度低下するので、JAS規格では KD材(含水率20%以下)を構造材として使うことが標準。
施工要領書・JAS規格まわりはこちらに。


繊維方向と直角方向の違い
「木材は方向で強度が桁違いに違う」ことを示しておきます。
①繊維方向 vs 繊維直角方向
木材は 年輪と繊維でできているため、繊維方向(縦方向)と繊維直角方向(横方向)で強度が大きく違います。
| 樹種 | Fc 繊維方向 | Fc 繊維直角方向 | 比率 |
|---|---|---|---|
| スギ | 17.7 | 約1.0 | 1/17 |
| ヒノキ | 20.7 | 約1.3 | 1/16 |
| カラマツ | 20.7 | 約1.5 | 1/14 |
繊維直角方向の許容圧縮応力度は、繊維方向の1/15〜1/30。
②土台のめり込み
「めり込み」とは、柱の繊維方向の荷重が土台の繊維直角方向に伝達される現象。柱(縦繊維)→土台(横繊維)の接触面で、土台側に直角方向の圧縮がかかる構造で、土台の許容めり込み応力度は1.5〜2.5 N/mm²程度(繊維直角方向)。柱の長期圧縮応力度がこれを超えると、土台が沈み込む(めり込む)形になります。
→ 木造住宅の足元で 「土台にめり込みが起きていないか」は施工管理の重要チェックポイント。
③曲げ・引張・せん断の方向性
曲げFbは繊維方向の曲げが規定(直角方向は使用想定外)、引張Ftは繊維方向のみ(直角方向は1/30で実質ゼロ扱い)、せん断Fsは繊維方向と繊維直角方向で値が大きく違うが繊維方向で『割れ』が起きやすいので注意、というのが方向性の整理。
④設計での扱い
木造設計では、 常に「繊維方向」を構造軸に揃えるのが基本。柱は縦繊維で立て、梁は縦繊維を水平に寝かせる。繊維直角方向に大きな引張・曲げ・せん断をかける設計は 構造上タブー。
⑤節・割れ・腐れの影響
木材には 必ず節(ふし)・割れ・腐れがあり、ここで強度が大幅に低下します。節は繊維が分断されその周辺で応力集中、割れはすでに断面が一部失われた状態、腐れは菌・虫害で繊維が崩壊、というかたち。
JAS等級材は節・割れの位置と大きさを評価して等級分けされています。現場で『大きな節がある』『割れが深い』材料を見つけたら、構造材として使えるか設計者に確認するのが施工管理の仕事。
木材の許容応力度に関する情報まとめ
- 木材の許容応力度とは:設計上の応力上限値、建築基準法施行令89条・告示1452号で規定
- 4種類:Fc(圧縮)/Ft(引張)/Fb(曲げ)/Fs(せん断)
- 樹種別:スギFb=22.2/ヒノキFb=26.7/ベイマツFb=28.2/カラマツFb=26.7
- 長期 = 基準強度 × 1.1/3(約0.37倍)
- 短期 = 基準強度 × 2/3(約0.67倍)
- 鉄骨・コンクリより安全率が大きい理由:天然素材のばらつき・クリープ破壊・劣化
- 等級:無等級材<JAS目視2級≒3級<JAS目視1級<機械等級M60〜M120
- 繊維方向の強度は 繊維直角方向の15〜30倍
- せん断強度は 圧縮強度の1/10程度で、木材の弱点
- 施工管理:JAS表示票・含水率(KD材20%以下)・節割れの確認
以上が木材の許容応力度に関する情報のまとめです。
木材の許容応力度は 「樹種+等級+繊維方向+含水率+荷重時間」の5つの軸で決まる 特殊な構造材。鉄骨・コンクリのように 「F値で一発」とはいかないので、施工管理として 「設計が想定した樹種・等級の材料を確実に納める」目線が必須です。一通り基礎知識は網羅できたかなと思います。
合わせて、構造強度の3階層モデル・許容応力度の全体像・降伏点などの周辺概念も復習しておくと、 「鉄・コンクリ・木」の3大構造材を横断して理解できる施工管理になれますよ。






