- 引張鉄筋ってなに?
- 圧縮鉄筋とどう違うの?
- 梁・スラブ・柱でどこに配置されてる?
- 引張鉄筋の応力負担ってどう計算するの?
- 引張鉄筋の配筋ルールは?
- 配筋検査では何を見ればいい?
上記の様な悩みを解決します。
引張鉄筋は、鉄筋コンクリート構造で「コンクリートが苦手な引張力を肩代わりする主役」として絶対に欠かせない部材。コンクリートは引張に弱い、鉄筋は引張に強いという材料特性の組み合わせを活かした設計になっており、「引張側に主筋を入れる」という配置ルールがすべての出発点です。配筋検査で上端筋と下端筋の見極めができるようになると、施工管理として一段プロらしい目線で図面を読めるようになりますね。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
引張鉄筋とは?
引張鉄筋とは、結論「鉄筋コンクリート部材の引張側に配置されて、引張力を負担する鉄筋」のことです。
英語では Tension Reinforcement または Tensile Rebar。記号では at(引張鉄筋断面積)として構造計算書に登場します。
ざっくりイメージすると
シンプルな単純梁の中央に荷重を載せると、
- 梁の下側が伸びる(引張側)
- 梁の上側が縮む(圧縮側)
このうち、伸びる下側に配置する鉄筋が引張鉄筋ですね。逆に上側(圧縮側)に配置する鉄筋は圧縮鉄筋。「梁の下端筋が引張鉄筋」というのが、最もシンプルな単純梁での理解。
なぜ引張鉄筋が必要か
コンクリートと鉄筋の引張強度を比較すると、
| 材料 | 圧縮強度 | 引張強度 | 引張/圧縮比 |
|---|---|---|---|
| コンクリート(Fc24) | 24 N/mm² | 約2 N/mm² | 約1/12 |
| 鉄筋(SD345) | 345 N/mm²(降伏点) | 345 N/mm²(降伏点) | 1/1 |
コンクリートの引張強度は圧縮強度の約1/10程度しかない。だから引張がかかる部分には、コンクリートに頼らず鉄筋に肩代わりさせるのが鉄筋コンクリート(RC)構造の根本思想ですね。
「コンクリートは圧縮、鉄筋は引張」という役割分担。これが理解できると、なぜRC造の梁の下端に太い主筋がたくさん入っているか、なぜ片持ち梁の上端に主筋を入れるかなど、配筋設計の意図がスッと腹落ちします。
鉄筋と鉄骨の違いは別記事も参考にしてください。

引張鉄筋と圧縮鉄筋の違い
引張鉄筋を理解するには、圧縮鉄筋との対比が一番分かりやすいです。
①基本的な役割の違い
| 項目 | 引張鉄筋 | 圧縮鉄筋 |
|---|---|---|
| 配置位置 | 引張側 | 圧縮側 |
| 受ける力 | 引張力 | 圧縮力 |
| 主目的 | 曲げモーメントの引張側を負担 | コンクリートの圧縮を補助 |
| 必要性 | 必須(RC造の前提) | 必要に応じて |
| 記号 | at | a’c |
②圧縮鉄筋を入れる理由
引張鉄筋はRC造で必須ですが、圧縮鉄筋は必要に応じて入れるものです。圧縮鉄筋を入れる主な理由は、
- クリープ変形の抑制:コンクリートだけだと長期的にクリープ(少しずつ縮む)が進むのを抑制
- ひずみ硬化を待つ:地震時に圧縮側のコンクリートが破壊する前に、塑性域でエネルギー吸収
- 複鉄筋比の確保:地震時の靱性確保のため、引張:圧縮 ≧ 一定比率にする規定
「引張鉄筋は引張を肩代わりする主役、圧縮鉄筋は粘りを補強する補助役」と覚えておくと整理しやすい。
③単鉄筋梁・複鉄筋梁
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 単鉄筋梁 | 引張鉄筋のみ配置 |
| 複鉄筋梁 | 引張鉄筋+圧縮鉄筋を両方配置 |
実務の建築RC梁はほぼすべて複鉄筋梁。単鉄筋梁は教科書上の概念に近く、実物では地震時の靱性確保のため両側に主筋を入れるのが基本です。
④曲げモーメントの方向で入れ替わる
ここがポイント。地震時には曲げモーメントの方向が反転するため、
- 通常時:下側が引張、上側が圧縮
- 地震時(左方向の力):上側が引張、下側が圧縮(部分的に逆転)
つまり「引張側」「圧縮側」は固定されず、荷重条件で入れ替わるわけです。だからRC梁の上下両方に同等以上の主筋を入れる複鉄筋設計が必須になっています。
複鉄筋比などの設計指標は配筋ルールの章で詳しく説明します。
引張鉄筋の配置位置(部材別)
引張鉄筋がどこに入っているかは、部材の種類と荷重条件で決まります。
①梁(単純梁)の場合
| 位置 | 主筋の配置 | 役割 |
|---|---|---|
| 中央付近 | 下端筋(主筋) | 正の曲げモーメントの引張側 |
| 端部(柱との接合部) | 上端筋(主筋) | 負の曲げモーメントの引張側 |
連続梁では中央は下端引張、端部は上端引張となるため、スパン中央〜支点で主筋を入れ替える配筋が一般的。
②片持ち梁(バルコニー・庇)の場合
| 位置 | 主筋の配置 |
|---|---|
| 全長 | 上端筋が主筋(下端ではない!) |
片持ち梁は根元(固定端)で上側が引張になります。バルコニーの主筋は上端というのが配筋検査での超重要ポイント。逆に入れたらバルコニーが崩落するレベルの欠陥ですね。
③スラブ(床板)の場合
| 位置 | 主筋の配置 |
|---|---|
| スパン中央 | 下端筋(主筋)+上端筋(補強) |
| 支点(梁との接合部) | 上端筋(主筋) |
スラブも梁と同じく、スパン中央は下端引張・支点は上端引張。連続スラブの上端筋は支点上で密に配置されます。
④柱の場合
柱は主に圧縮を受ける部材ですが、地震時には曲げモーメントが作用するため、
| 位置 | 主筋の配置 |
|---|---|
| 柱4隅 | 主筋(4本以上) |
| 中間 | 中間筋(必要に応じて) |
地震時の曲げモーメントが反転するため、柱は対称配筋(4辺すべてに同等の主筋)が原則。柱に「引張鉄筋」と「圧縮鉄筋」を厳密には区別せず、対称に配置するのが一般的です。
⑤耐震壁の場合
耐震壁は面内せん断と曲げを受けるため、
- 縦筋・横筋を格子状に配置(壁筋)
- 端部に集中縦筋(柱筋に相当、引張・圧縮の主役)
壁の端部の縦筋が地震時の引張鉄筋として機能。一般部は壁筋で構成し、引張・せん断・温度応力を分担。
あばら筋(スターラップ筋)の解説は別記事を参照してください。

引張鉄筋の応力分担と計算
引張鉄筋の本数や太さは、作用する曲げモーメントから計算で決めます。
①基本式(単鉄筋梁の場合)
許容応力度設計法での梁の必要鉄筋断面積は、
at = M / (ft × j × d)
- at:必要引張鉄筋断面積(mm²)
- M:曲げモーメント(N・mm)
- ft:鉄筋の許容引張応力度(N/mm²)
- j:応力中心間距離(≒7/8d)
- d:有効せい(mm)
「ft × j × d」が分母にきて、鉄筋強度・応力中心距離・有効せいで耐力が決まる関係。覚えやすいシンプルな式です。
例題:梁中央の引張鉄筋本数
スパン6m、等分布荷重w=20kN/m の単純梁を想定。
最大曲げモーメント:
M = w × L² / 8 = 20 × 6² / 8 = 90 kN・m
梁断面 B×D = 300×600 mm、有効せいd≒530 mm、SD345(ft=215 N/mm²)使用なら、
at = 90 × 10⁶ / (215 × (7/8) × 530) ≒ 902 mm²
D22鉄筋1本=387 mm² なので、3本配置で1161 mm²となり必要本数を満たします。
②複鉄筋梁の場合
圧縮鉄筋を含めた釣り合い式から、引張鉄筋・圧縮鉄筋の必要本数を求めます。一般には圧縮鉄筋を入れることで引張鉄筋を減らすことができ、構造的には両方をバランス良く配置するのが一般的。
③複鉄筋比 pt’
複鉄筋比とは、
pt’ = a’c / at
- a’c:圧縮鉄筋断面積
- at:引張鉄筋断面積
地震時の靱性確保のため、
| 構造種別 | 複鉄筋比の目安 |
|---|---|
| 一般的な梁 | 0.4以上 |
| 耐震性能を重視 | 0.6〜1.0 |
| 全主筋を上下対称 | 1.0 |
「下端と上端の主筋本数の比率」が複鉄筋比。最近の建築ではほぼ1.0(上下対称)が一般化しています。
④引張鉄筋比 pt
pt = at / (b × d)
- b:梁幅
- d:有効せい
引張鉄筋比の上限・下限が建築基準法で規定されており、
- 最小:0.4%(梁の場合)
- 最大:釣り合い鉄筋比の0.75倍(脆性破壊防止)
「鉄筋を入れすぎても入れなさすぎてもダメ」というのが構造設計のルール。
⑤許容応力度・終局耐力の使い分け
| 設計法 | 使う鉄筋応力度 |
|---|---|
| 許容応力度設計(一次設計) | 許容引張応力度ft(SD345で215 N/mm²) |
| 終局耐力計算(二次設計) | 鉄筋の降伏点強度(SD345で345 N/mm²) |
通常時は安全係数を見込んだ許容応力度、地震時は降伏点で設計する2段階の構成ですね。
引張鉄筋の配筋ルール
引張鉄筋の配置で守るべきルールを整理します。
①かぶり厚さ
引張鉄筋を含む全主筋には最小かぶり厚さの確保が必須。
| 部位 | 最小かぶり厚さ |
|---|---|
| 屋内梁・柱 | 30 mm |
| 屋外梁・柱 | 40 mm |
| 土に接する基礎・地中梁 | 60 mm |
かぶり不足は鉄筋の腐食・コンクリート剥離の原因。配筋検査の重点項目。
②定着長さ Ld
引張鉄筋の端部は、十分な定着長さを確保する必要があります。
Ld = α × d
- α:定着係数(フックなしで40、フックありで30程度)
- d:鉄筋径
「引張側に飛び出した鉄筋の根元が抜けないだけの長さ」を本体構造側に飲ませる。これが不足すると引き抜けて引張鉄筋として機能しないので致命的。
③継手位置・継手長さ
引張鉄筋の継手は、
- 応力の小さい位置で継ぐ(梁の場合、スパンの中央寄り)
- 継手の1/2を同位置に集中させない(千鳥配置)
- 継手長さは40d以上(重ね継手の場合)
最近は機械式継手やガス圧接が主流ですが、いずれも継手位置の規定は同じく守る必要あり。
④鉄筋間隔
| 項目 | 規定 |
|---|---|
| 鉄筋径×1.5以上 | 鉄筋同士の最小あき |
| 25 mm以上 | 鉄筋径が小さい場合の最小あき |
| 粗骨材最大寸法×1.25以上 | コンクリートの充填性確保 |
鉄筋間隔が狭すぎるとコンクリートが充填されず、ジャンカの原因に。
⑤フックの規定
引張鉄筋の端部にフック(180°、90°など)を設けることで定着力を増やせます。
| フック種類 | 角度 | 用途 |
|---|---|---|
| 180°フック | 半円 | 帯筋・あばら筋 |
| 135°フック | 鋭角 | 帯筋(耐震性能要求時) |
| 90°フック | 直角 | 主筋の端部 |
地震性能要求時には135°フックが標準化されています。
鉄筋結束は配筋検査の基本のひとつ。別記事も参考になります。

引張鉄筋に関する施工管理の着眼点
配筋検査・施工現場で引張鉄筋を見るときのチェックポイントを整理します。
①上端筋・下端筋の取り違え
最も致命的なミスが上端筋と下端筋を取り違えて配置すること。
- 通常梁の中央:下端が太いのが正解
- 片持ち梁:上端が太いのが正解
- 連続梁の支点上:上端が太いのが正解
配筋図と現物を照合して、太い主筋がどちら側にあるかを必ず確認。
②本数・径の照合
配筋図で「4-D22」と書かれていたら、D22鉄筋を4本配置。本数が1本でも違うと設計耐力が満たせません。配筋検査では本数のカウントが基本。
③定着長さの実測
引張鉄筋の端部が規定の定着長さLd以上飲み込んでいるか実測で確認。短いと致命的。スケールで現物を測るのが確実ですね。
④継手位置・継手長さ
機械式継手ならカプラーの装着状態、ガス圧接なら圧接部のふくらみ・偏心、重ね継手なら継手長さを確認。
⑤かぶり厚さの確保
スペーサー(型枠と鉄筋の間に挟む部材)の設置間隔・高さでかぶり厚さが決まります。スペーサーが少ない・倒れている・潰れていると、コンクリート打設時に鉄筋が動いてかぶり不足に。
⑥結束線の状態
鉄筋同士は結束線で固定されています。結束が甘いと、コンクリート打設時の振動で鉄筋がズレて配置精度が崩れます。結束線の本数・締め具合を確認。
⑦コンクリート打設時の鉄筋への踏みつけ防止
職人さんがコンクリート打設時に鉄筋を踏みつけて沈めると、引張鉄筋の有効せいが下がって耐力が落ちます。作業足場の設置や踏み台板の準備で、鉄筋を踏まずに済む動線を確保。
⑧配筋検査記録の保管
配筋検査の写真・チェックシートは竣工後数十年にわたって保管。後の改修工事や瑕疵対応で必要になるため、撮り忘れ・記録漏れがないように。
配筋検査の進め方は別記事でも整理しています。

引張鉄筋に関する情報まとめ
最後に、引張鉄筋の重要ポイントを整理します。
- 引張鉄筋とは:RC部材の引張側に配置して、引張力を負担する鉄筋。記号at
- 圧縮鉄筋との違い:引張側に配置されるか、圧縮側に配置されるか。引張鉄筋は必須、圧縮鉄筋は補助
- 配置位置:通常梁→下端、片持ち梁→上端、スラブ支点→上端、柱→対称配筋
- 計算式:at = M / (ft × j × d)、引張鉄筋比0.4%以上、複鉄筋比0.4〜1.0
- 配筋ルール:かぶり厚さ・定着長さLd・継手位置・鉄筋間隔・フック角度
- 地震時には方向が反転:複鉄筋(上下両方に主筋)が現代の標準
- 施工管理の着眼点:上下取り違え防止、本数・径、定着、継手、かぶり、結束、踏みつけ防止、記録
以上が引張鉄筋に関する情報のまとめです。
引張鉄筋は「コンクリートが苦手な引張をすべて肩代わりする」RC造の主役。部材ごとに引張側がどこか(梁の下端、片持ち梁の上端、スラブ支点の上端)を読み取れる目線が、配筋検査で一段プロらしい質問ができるようになる出発点です。とりわけバルコニーや庇の上端筋は崩落事故に直結する超重要ポイントなので、施工管理として絶対に取り違えないように見ておきたいですね。一通り引張鉄筋の基礎知識は理解できたと思います。
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