- 引張力ってなに?
- 引張荷重・引張応力とどう違う?
- 計算式は?
- どこで使われている?
- ボルトや鉄筋にどう効くの?
- 施工管理で気をつけることは?
上記の様な悩みを解決します。
引張力とは、結論「部材を両端から引き伸ばす方向に作用する内力(軸力の引張側)」のことです。記号はN(Normal force:軸力)またはT(Tension)、単位はkN。中学校の理科で「物体を引っ張る力」と習った概念ですが、構造力学では「部材を実際に伸ばす内力」としてもう少し厳密に扱われます。混同しやすい用語に「引張荷重」(外から作用する力)と「引張応力」(断面の単位面積あたりの力)がありますが、これらは「外力か内力か」「全体か単位面積か」で意味が違います。本記事では、引張力の定義・計算・関連用語との違い、ボルト・鉄筋・PC鋼材・吊り足場など現場で引張力が効く具体例、施工管理での確認ポイントまでを整理します。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
引張力とは?
引張力とは、結論「部材を両端から引き伸ばす方向に作用する力、すなわち軸力(N)のうち引張側のもの」のことです。
英語では Tensile Force、単位は kN(キロニュートン)または N(ニュートン)。
軸力としての位置づけ
部材に作用する内力は、部材軸方向の力である軸力N(引張力+Nまたは圧縮力−N)、部材軸に垂直な力であるせん断力Q、部材を曲げる力である曲げモーメントM、の3つに分類されます。引張力は軸力の引張側です。圧縮力との違いは「符号」のみで、扱う公式や考え方の枠組みは同じです。
引張力が起きる典型的な状況
引張力が起きる典型的な状況は、吊り材(シャンデリア・看板・足場の吊りロープなど、上から吊られた物を支える材)、トラスの斜材・上弦材(梁や橋の構造体で引張側になる部材)、PC鋼材(プレストレストコンクリートでコンクリートに圧縮を与えるための引張材)、接合部のアンカーボルト(柱脚で転倒モーメントによって引き抜かれる側のボルト)、鉄筋コンクリート梁の引張側鉄筋(梁下端=正曲げ時で引張側を担う鉄筋)、というあたり。
→ 「重力に対抗して支える材」「梁の引張側を担う材」が引張力を受ける、と覚えると分かりやすい。
引張力と圧縮力の違い
| 項目 | 引張力 | 圧縮力 |
|---|---|---|
| 方向 | 部材を伸ばす方向 | 部材を縮める方向 |
| 符号 | +N(プラス) | -N(マイナス) |
| 設計上のリスク | 接合部破断、降伏 | 座屈、圧壊 |
| 得意な材料 | 鉄、PC鋼材、ロープ | コンクリート、レンガ |
→ 鉄は引張・圧縮どちらも強いですが、コンクリートは引張に弱い(引張強度は圧縮の1/10)。だからRC造では「引張側に鉄筋を配置する」のが基本。
引張荷重との違いはこちら(外力としての扱い)。

引張力の計算
引張力の計算式を整理します。
①断面に作用する引張応力との関係
引張力 N が断面積 A に均等に作用するとき、σ = N / A。σは引張応力(N/mm²)、Nは引張力(N)、Aは断面積(mm²)。
→ 部材内部のすべての断面で、内力としての引張力 N は同じ値(外力の釣合い)。応力は断面積に依存して変わるので、断面積が小さい場所ほど応力が大きくなり、そこから破壊が始まります。
②外力からの引張力の求め方
外力(引張荷重)と引張力(内力)は、ふつう同じ値になります。
例:100kN の重りを天井から吊るすロープ。重りの重さ(外力)は100kN、ロープに作用する引張力(内力)も100kN。
→ 力のつり合いから、外力=内力(軸力)。
③トラス部材の引張力
トラス構造では、節点で力のつり合いを立てて各部材の軸力を求めます。水平方向 ΣFx = 0、鉛直方向 ΣFy = 0、を解くと各部材の軸力(引張+ or 圧縮−)が求まる、というかたち。節点法または断面法で計算します。
④引張力 → 伸びの計算
引張力 N が作用すると、部材は伸びます。フックの法則から、ΔL = N × L / (E × A)。ΔLは伸び(mm)、Nは引張力(N)、Lは元の長さ(mm)、Eはヤング率(N/mm²)、Aは断面積(mm²)。
→ 例:長さ1m、断面積100mm² の鋼棒(E=205,000 N/mm²)に N=10kN を加えると、ΔL = 10,000 × 1,000 / (205,000 × 100) ≒ 0.49mm。
⑤許容引張力の決め方
部材が安全に負担できる引張力は、N_a = σ_a × A。σ_aは許容引張応力度(材料・設計方針による)、Aは(有効)断面積。
→ 例:SS400(許容引張応力度 σ_a=156 N/mm²)、断面積 A=2,000mm² の場合、許容引張力 N_a = 156 × 2,000 = 312,000N ≒ 312kN。
応力ひずみ曲線・降伏点はこちら。


ヤング率の話はこちら。

引張応力・引張荷重との違い
「引張力」「引張応力」「引張荷重」は混同されやすい用語ですが、意味が微妙に違います。
①3つの用語の比較
| 用語 | 英語 | 単位 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 引張荷重 | Tensile Load | kN, kgf | 外から作用する外力 |
| 引張力 | Tensile Force | kN, N | 部材内部に伝わる内力(軸力) |
| 引張応力 | Tensile Stress | N/mm² | 断面の単位面積あたりの引張力 |
→ 「外力 → 内力 → 応力」と細分化していく順序で覚えると整理しやすい。
②具体例で違いを見る
吊りロープに100kgの物体(重力1kN)が吊られているとき、引張荷重は1kN(重りからロープに作用する外力)、引張力も1kN(ロープ内部に伝わる内力、外力と同じ値)、引張応力は1kN ÷ ロープ断面積(ロープが太いほど応力は小さくなる)、という関係。
→ 引張荷重・引張力は同じ値になりがちですが、引張応力は断面積で変わる。これが用語を区別する実用上の意義。
③設計実務での使い分け
| 場面 | よく使う用語 |
|---|---|
| 設計荷重の規定 | 引張荷重(外力) |
| 構造計算の力学解析 | 引張力(軸力) |
| 部材断面の検定 | 引張応力(許容応力との比較) |
→ 「ボルトに作用する引張荷重を求める → ボルト軸の引張力(=荷重)→ 引張応力(応力=引張力÷断面積)」というように、設計フローの段階ごとに用語が変わります。
④応力でなく力を使うべき場面
接合部のボルト・アンカーの検定では、引張力(kN)で扱うことが多いです。
→ ボルト1本あたりの許容引張力として表で与えられているため。応力ではなく力単位で「N=○○kN ≤ Na(許容引張力)」とチェックします。
引張鉄筋の話はこちら。

現場での引張力の例
実際の建築現場で、引張力が作用している部分の代表例を整理します。
①RC梁の下端鉄筋
単純梁の中央部で正曲げが発生すると、梁下端の鉄筋が引張力を受けます。梁の上端は圧縮(コンクリートが負担)、梁の下端は引張(鉄筋が負担、コンクリートはひび割れ)、という分担。
→ コンクリートは引張で割れますが、鉄筋がその引張力を負担することで構造が成り立つ。これがRC造の根本原理。
②鉄骨柱脚のアンカーボルト
地震時に柱脚に転倒モーメントが作用すると、片側のアンカーボルトが引き抜かれる方向(引張)になります。風下側のアンカーボルトは引張力で引き抜かれ、風上側のアンカーボルトは圧縮力で押し込まれる、というかたち。
→ 設計では「最大引張力 ≤ アンカーボルトの引抜耐力」を確認します。
ベースパックの話はこちら。

③PC鋼材(プレストレスト・コンクリート)
PC工法では、PC鋼材を強い引張力で引っ張った状態でコンクリートに定着させ、コンクリートに圧縮プレストレスを与えます。PC鋼材の引張力は1〜3 MN(メガニュートン)級で、これがコンクリートには圧縮力として作用します。
→ 「鋼材は引張で頑張り、コンクリートは圧縮で頑張る」を最大限活かしたのがPC工法。
④トラス材
屋根トラスや橋梁トラスでは、各部材が引張または圧縮の軸力部材になります。上弦材は圧縮(曲げモーメントの圧縮側)、下弦材は引張(曲げモーメントの引張側)、斜材・束材は荷重分布で引張・圧縮どちらにもなる、というかたち。
→ トラスの引張材は細い鋼材でも十分(引張は座屈しないため)、圧縮材は太くする、というのがトラス設計の基本。
トラス梁の話はこちら。

⑤吊り足場・吊り材
工場・ホールなど、吊り足場を使う現場では、ワイヤーロープが大きな引張力を受けます。ワイヤーロープの引張力は足場全重量+積載荷重の半分(左右で分担)、安全率は荷重の10倍以上(労働安全衛生規則)、というのが基準。
→ 足場の組立てでは、ワイヤーの直径・本数・取り付け位置で許容引張力を確保します。「引張力の計算は施工計画書の重要項目」、というのが足場設計の常識。
吊足場の話はこちら。

⑥プリカ・ロープ吊り設備
エレベーター、クレーンの吊り構造でもロープに引張力が常時作用。点検基準はメーカー仕様で許容引張力が決まっています。
引張力に関する施工管理の注意点
施工管理として、現場で引張力を扱うときのチェックポイントを整理します。
①接合部・継手の検定を確認する
引張力を受ける部材は接合部が破断のリスク。ボルト接合では許容引張力(メーカー仕様)×ボルト本数、鉄筋継手ではJIS規格の継手強度(A級・B級・C級)、溶接ではのど厚×溶接長×許容応力度、というのが検定の基本式。
→ 「引張部材の力 ≤ 接合部の許容引張力」を施工図と構造計算書で照合するクセをつけると安心。
鉄筋継手の話はこちら。

②有効断面積で考える
引張力を負担する断面積は、ボルト孔・ねじ部の断面減少を引いた有効断面積で計算します。鉄筋は呼び径×断面積(カタログ値)、鉄骨は総断面積−ボルト孔欠損、アンカーボルトは有効断面積(ねじ部の最小断面積)、というのが基本。
→ 総断面積で計算すると過小設計になるため、必ず有効断面積を使うこと。
有効断面積はこちら。

③定着長を確保する
引張力を受ける鉄筋・アンカーは、コンクリート内の定着長 La を確保しないと、力が伝わる前にすっぽ抜けます。通常の異形鉄筋なら30d〜40d、フック付き鉄筋なら20d〜30d、アンカーボルトは径や材質ごとに規定、という基準値。
→ 配筋検査で「鉄筋の重ね継手長さ・定着長」をチェックするのは、引張力の伝達を確保するため。
鉄筋定着の話はこちら。

④腐食・経年劣化に注意
引張部材は、断面欠損(腐食、傷)で断面積が減少すると、応力が一気に上がって破断します。屋外露出のターンバックル・ワイヤーなら目視点検+打撃音検査、アンカーボルトは錆の進行度を定期点検、というのが対応。
→ 「引張部材は欠損に弱い」を頭に入れて、点検頻度を上げるのが施工管理の基本姿勢。
⑤プレストレス導入時の管理
PC鋼材の引張力導入時は、ジャッキの油圧計とPC鋼材の伸び量を測定して、設計引張力どおりに導入されているかを確認します。「引張力 ≒ 油圧×ジャッキ面積」「伸び量 ≒ 引張力×L/(E×A)」の2系統で二重確認するのがプレストレス管理の鉄則。
引張力に関する情報まとめ
- 引張力:部材を引き伸ばす方向に作用する内力(軸力Nの引張側)、単位kN
- 計算式:応力 σ = N / A、伸び ΔL = N×L/(E×A)、許容引張力 N_a = σ_a × A
- 引張荷重・引張応力との違い:荷重は外力、引張力は内力、応力は単位面積あたりの引張力
- 現場の例:①RC梁の下端鉄筋、②鉄骨柱脚アンカーボルト、③PC鋼材、④トラス下弦材・斜材、⑤吊り足場のワイヤー
- 設計上のリスク:接合部の破断、有効断面積の確保、定着長、腐食、プレストレス導入時の管理
- コンクリートと鉄の役割分担:コンクリートは圧縮、鉄筋・PC鋼材は引張を担当(RC・PCの根本原理)
- 施工管理の注意点:①接合部・継手の検定、②有効断面積、③定着長、④腐食点検、⑤プレストレス管理
以上が引張力に関する情報のまとめです。「引張力」は構造力学の3大内力(軸力・せん断・曲げ)の1つで、現場では鉄筋・ボルト・PC鋼材・吊り材など、目に見える形で頻繁に出てくる概念。「引張荷重・引張力・引張応力」を正しく区別できるようになると、構造計算書や施工計画書を読む目線が一段上がりますね。
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