- ひずみ硬化ってなに?
- 加工硬化と何が違うの?
- 応力ひずみ線図のどこに出てくる?
- なぜ硬くなるの?
- 建築構造ではどう使われている?
- メリットとデメリットは?
上記の様な悩みを解決します。
ひずみ硬化は、結論「塑性変形を続けていくと、材料が前より硬く(降伏しにくく)なっていく現象」のことです。応力ひずみ線図では、降伏棚を抜けてから引張強さに向かって応力が再び上昇していく区間として現れます。建築構造の世界では、この「降伏してもすぐには壊れず、もうひと粘りしてから壊れる」性質が、地震時の安全余裕の源泉になっています。「降伏比」「保有耐力接合」といった用語の背景にあるのが、まさにひずみ硬化なんですよね。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
ひずみ硬化とは?
ひずみ硬化とは、結論「塑性変形が進むほど、材料がさらに変形しにくくなっていく現象」のことです。
英語では strain hardening または work hardening。日本語では「ひずみ硬化」「加工硬化」「ワークハードニング」と呼ばれ方が複数ありますが、いずれもほぼ同じ現象を指す用語です(後述)。
ひずみ硬化のイメージ
ひずみ硬化のイメージは、針金を1回曲げるともう一度同じ場所を曲げるのが少し硬く感じる、アルミの缶を何度もつぶすとつぶれにくくなる、鉄筋を曲げ戻しすると曲げた箇所だけ折れやすくなる、というあたり。
これらは全部、塑性変形によって材料の内部組織が「さらなる変形に抵抗する状態」に変わっていく現象です。
現象を一言で言うと
降伏した材料は、そのままズルズルと変形し続けるわけではなく、変形が進めば進むほど追加で必要な応力が増えていく。これがひずみ硬化の本質ですね。
応力ひずみの基礎を先に押さえたい方はこちらをどうぞ。

ひずみ硬化と加工硬化の違い
呼び方が複数あるので、整理しておきます。
| 用語 | ニュアンス | 主に使われる場面 |
|---|---|---|
| ひずみ硬化(strain hardening) | 連続的な引張・圧縮試験でのひずみ進行に対する硬化 | 構造力学・材料力学の教科書 |
| 加工硬化(work hardening) | 圧延・鍛造・冷間加工など、外力を加えて成形した結果としての硬化 | 金属材料学・加工現場 |
| ワークハードニング | 加工硬化の英語そのまま | 海外文献・SI論文 |
結論:基本的に同じ現象
3つの用語はすべて「塑性変形によって降伏応力が上がる現象」を指しています。違いは「どんな場面で名付けたか」だけ。学術的にはひずみ硬化が正式な用語、現場では加工硬化が定着している、という温度差があります。
しいて使い分けるなら
しいて使い分けるなら、静的引張試験の応力ひずみ線図を語るときはひずみ硬化、圧延や曲げ加工で材料が硬くなった話は加工硬化、というあたり。
建築構造設計の文脈では、ひずみ硬化で表記しておけば学術文献ともすり合わせやすいですし、現場で「加工硬化」と呼ばれても同じ現象を指していると分かれば困ることはありません。
塑性ひずみそのものの話はこちらの記事でもまとめています。

応力ひずみ線図のどこに出る?
応力ひずみ線図上での位置を整理します。
鋼材(SS400・SN490Bなど)の典型的な線図
鋼材の典型的な線図は、①弾性域(直線、傾きはヤング率E)、②上降伏点・下降伏点、③降伏棚(応力ほぼ一定でひずみだけ進む区間)、④ひずみ硬化域(応力が再び上昇する区間)、⑤最大応力点(引張強さσ_u)、⑥破断、という流れ。
ひずみ硬化域の特徴
ひずみ硬化域の特徴は、降伏棚を抜けた直後から始まる、応力ひずみ曲線は下に凸の右肩上がり、引張強さに達するまで応力もひずみも伸び続ける、傾きを「ひずみ硬化係数H」と呼ぶ(ヤング率Eより小さい)、というあたり。
降伏比との関係
ひずみ硬化が大きい材料ほど、降伏点 σ_y と引張強さ σ_u の差が大きくなります。これを表す指標が降伏比 = σ_y / σ_uで、降伏比が小さい材料ほど粘りが大きい=ひずみ硬化を活かせる、という関係になります。SN490Bなどの建築構造用鋼材は、この降伏比に上限が設けられているのがポイントです。
降伏比の話はこちらの記事で詳しく整理しています。

塑性域全体の見取り図はこちらでもどうぞ。

なぜひずみ硬化が起こる?
ミクロ視点で「なぜ材料は塑性変形すると硬くなるのか」を整理します。
結晶レベルの話
金属材料の塑性変形は転位(てんい)という線状の欠陥が、結晶の中を滑り運動することで起こります。塑性ひずみが進むと転位の数がどんどん増えていき、転位どうしが絡み合って動きにくくなっていく。これがひずみ硬化のミクロな正体です。
ざっくりイメージ
ざっくりイメージとしては、最初は道路が空いていて車(転位)はスイスイ走る→弾性的に動ける、車が増えると渋滞しはじめ動きにくくなる→ひずみ硬化が始まる、渋滞がひどくなるとほぼ動けない→材料が破断に近づく、という流れ。
「渋滞が進むほど、追加で押し込むために大きな力(応力)が必要になる」という理屈ですね。
温度との関係
ひずみ硬化は冷間加工(常温〜数百℃以下)で目立ちます。高温では転位が再配列して硬化が打ち消されてしまうため、熱間加工では起こりにくい。建築鉄骨の現場でも「冷間曲げ加工した部位は性能が変わるから注意」と扱われるのは、ひずみ硬化の置き土産が残っているからです。
建築構造でのひずみ硬化の活用
建築構造設計の現場で、ひずみ硬化はどのように使われているのかを整理します。
①保有水平耐力の余裕としての活用
地震時の保有水平耐力計算では、降伏点 σ_y の応力で部材が降伏する前提を置きますが、現実には降伏後にひずみ硬化で耐力がさらに伸びていきます。この余裕分が「設計値より少し粘ってくれる安全代」として機能している、というのが構造設計者の考え方です。
②保有耐力接合の根拠
鉄骨ラーメン構造の梁端部接合は、「梁が先に降伏し、接合部は破断しない」という保有耐力接合の原則で設計されます。降伏比に上限を設けてひずみ硬化を確実に発揮させる材料(SN材)を使うのが、この設計法の前提です。SN490B などの建築構造用鋼材が指定される本当の理由がここですね。
③冷間加工部の性能変化
鉄骨ファブで角形鋼管を冷間プレスで成形すると、コーナー部にひずみ硬化が入ります。降伏点は上がるけれど靱性は下がる、という両刃の性質があるため、コーナー部の溶接や設計上の取り扱いに注意が必要。建築構造で冷間成形角形鋼管を使うときの注意事項として、構造関係技術基準で明文化されています。
④鉄筋の曲げ戻し禁止
鉄筋の曲げ戻しが原則禁止されているのも、この一連のひずみ硬化+靱性低下が理由。一度曲げた鉄筋を戻すと、その箇所だけ硬化と微小割れが進んで、地震時に脆性破壊しやすくなるんです。
⑤地震時のエネルギー吸収
ひずみ硬化があるおかげで、降伏した部材も「じわじわと耐力を伸ばしながら大きく変形する」ことができます。これは地震エネルギーの吸収という意味で非常に大事で、ひずみ硬化のない材料(脆性材)は降伏即破壊なので地震に弱い。鉄骨が建築構造で重宝される根拠でもあります。
鉄骨ブレースの粘り方の話はこちらでも触れています。

[talk words=’以前、保有耐力接合の話を構造担当の先輩から教わったときに「降伏点だけ高くてもダメ。引張強さとの差がないと粘らない」と言われた一言が、今でも頭に残っています。SN材の規格表に降伏比の上限が80%や85%と書いてあるのを見て、ひずみ硬化を確実に活かすために材料側で縛りを入れているのだと納得しました。’ name=”” avatarimg=”https://seko-kanri.com/wp-content/uploads/2020/02/c-run.png” avatarsize=70 avatarbdcolor=#d0d0d0 avatarbdwidth=1 bdcolor=#d0d0d0]
ひずみ硬化のメリット・デメリット
最後にメリット・デメリットを整理します。
メリット
メリットは、降伏後も耐力が伸びる→地震時の安全余裕になる、大きな塑性変形を許容できる→エネルギー吸収能力が高くなる、加工技術として活用可能→冷間加工で強度アップ、応力集中を緩和→局部的に降伏しても全体が一気に壊れにくい、というあたり。
デメリット
デメリットは、加工部の靱性低下→冷間加工部の脆性破壊リスク、残留応力の発生(材料の中に内部応力が残る)、加工性の低下(一度硬化した素材は再加工しづらい)、設計値とのズレ(公称値より実際の降伏耐力が高くなりすぎることも)、というあたり。
「ひずみ硬化はありがたい味方だが、過信すると痛い目を見る」という温度感が建築構造の標準的なスタンスですね。
ひずみ硬化に関する情報まとめ
- ひずみ硬化とは:塑性変形が進むほど降伏応力が上がる現象
- 別名:加工硬化(work hardening)、ワークハードニング
- 応力ひずみ線図:降伏棚を抜けた後の上昇区間(ひずみ硬化域)
- 仕組み:転位が増えて絡み合い、動きにくくなる
- 建築での活用:保有水平耐力の余裕、保有耐力接合、エネルギー吸収
- 注意点:冷間加工部の靱性低下、鉄筋の曲げ戻し禁止
- 関係する材料指標:降伏比 σ_y / σ_u(小さいほどひずみ硬化を活かせる)
以上がひずみ硬化に関する情報のまとめです。
一通りひずみ硬化の基礎知識は理解できたかなと思います。「降伏してもすぐには壊れず、もうひと粘りする性質」がひずみ硬化の本質。建築鉄骨の保有耐力接合、地震時の靱性、SN材の降伏比上限、冷間加工角形鋼管の注意点……どれもひずみ硬化を出発点にすると一本の線でつながっていきますよ。
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