- 弾性体ってなに?
- 剛体や塑性体とどう違うの?
- フックの法則ってよく聞くけど何のため?
- ヤング率と弾性体ってどんな関係?
- 鋼材やコンクリートも弾性体として計算していいの?
- 弾性域を超えるとどうなる?
上記の様な悩みを解決します。
弾性体は、結論「力を加えると変形し、力を取り除くと元の形に戻る物体」のこと。建築・土木の構造計算は、ほぼすべての材料を 「降伏点までは弾性体として扱う」という前提で組み立てられています。鋼材・コンクリート・木材・アルミ・ガラス、すべて設計弾性域では弾性体扱い。フックの法則 σ = E · ε がこの世界観の中心式で、ヤング率 E はその比例定数。本記事では「弾性体ってどんな世界?」から「実物の建築材料はどこまで弾性体か」までを一気に整理しておきましょう。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
弾性体とは?
弾性体とは、結論「力を加えると変形し、力を取り除くと完全に元の形に戻る物体」のことです。
英語では elastic body または elastic material。物理用語としての厳密な定義は、
- 応力とひずみが完全に1対1対応している
- 荷重を抜けば残留ひずみがゼロで元に戻る
- 変形にエネルギー損失がない(理想弾性体)
という条件を満たす物体を指します。輪ゴムを引っ張って離すと元に戻る、あれが弾性体の象徴的なイメージ。バネも同じで、つぶしても引っ張っても、力を抜けば元の長さに戻ります。
建築材料の弾性体イメージ
| 材料 | 弾性体として扱える範囲 |
|---|---|
| 鋼材(SS400・SD345等) | 降伏点まで(235〜345 N/mm²) |
| コンクリート(Fc24) | 圧縮では基準強度の1/3〜1/2程度まで |
| 木材 | 比例限度まで(樹種・等級による) |
| アルミ | 0.2%耐力まで |
| ガラス | 破壊までほぼ完全弾性 |
「ほぼ弾性体」と「完全な弾性体」
建築で扱う実材料は、厳密には完全弾性体ではないものの、設計範囲内では十分に弾性体として扱えることが分かっています。コンクリートでも「圧縮基準強度の1/3以下」の応力なら、応力ひずみ関係はほぼ直線。設計許容応力度はその範囲内に収まるよう決められているので、設計上は弾性体として安心して計算できる、という訳ですね。
応力ひずみの全体像はこちらに整理してあります。

剛体・塑性体・粘弾性体との違い
弾性体と紛らわしい類似概念を整理しておきます。
| 物体 | 力を加えると | 力を抜くと | 例 |
|---|---|---|---|
| 剛体 | 変形しない | – | 理論上の理想物体(実在しない) |
| 弾性体 | 変形する | 完全に元に戻る | バネ、ゴム、設計弾性域の鋼材 |
| 塑性体 | 変形する | 元に戻らない | 降伏後の鋼材、油粘土 |
| 粘弾性体 | 変形する(時間依存) | 時間をかけて部分的に戻る | コンクリートの長期挙動、アスファルト |
剛体(rigid body)
「絶対に変形しない物体」という理論上の概念。建築の力学計算では、支点反力の計算や安定モーメントの計算で「梁を剛体として扱う」といった割り切りに使います。「変形を考えない時の力の計算」という割り切り型の世界観ですね。
塑性体(plastic body)
降伏点を超えた領域では、鋼材は塑性体として振る舞います。塑性変形は元に戻らない(残留変形が残る)ので、地震で塑性化した部材は「壊れたわけではないが、もう設計値では使えない」という扱いになります。鉄骨の靭性設計や、降伏ヒンジを意図的に作る制振設計はこの塑性域を活用する考え方。
粘弾性体(viscoelastic body)
時間が経つと挙動が変わる物体。コンクリートのクリープ(長期変形) や 乾燥収縮、アスファルト舗装のわだち(夏場に重荷重で凹むやつ)が代表例。「常温・短時間なら弾性体、長期・高温なら粘弾性体」と切り替わるイメージで設計上の扱いも別になります。
設計上は 基本「弾性体」、必要に応じて塑性域 or 長期は粘弾性挙動を補正、という階層構造になっているのが現実の構造設計です。
弾性域から塑性域までの流れは、こちらの記事も参考になります。

フックの法則と弾性体の関係
弾性体を表す最も有名な式が フックの法則 です。
σ = E × ε
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| σ | 応力(応力度) | N/mm² |
| E | ヤング率(縦弾性係数) | N/mm² |
| ε | ひずみ | 無次元(mm/mm) |
フックの法則の意味
「応力 σ は、ひずみ ε に比例する。比例定数がヤング率 E」というシンプルな関係。
- バネの伸び ∝ 引っ張る力 → ばね定数
- 鉄骨の伸び ∝ 引張応力 → ヤング率
身近なバネの世界観をそのまま固体材料に持ち込んだのがフックの法則です。応力とひずみの関係が直線的=弾性体、と言い換えてもほぼ同じ意味になります。
主要材料のヤング率(参考値)
| 材料 | ヤング率 E |
|---|---|
| 鋼材(SS400他、共通) | 約 205,000 N/mm² |
| アルミ(A5052他) | 約 70,000 N/mm² |
| コンクリート(Fc24) | 約 22,500 N/mm² |
| 木材(針葉樹・繊維方向) | 約 7,000〜9,000 N/mm² |
| ガラス | 約 70,000 N/mm² |
ヤング率が大きい=硬い、伸びにくい弾性体。鉄骨の方が木造より3桁倍硬い、という関係は実務感覚と一致します。
ヤング率の詳細はこちらにまとめてあります。

弾性体の3つの弾性係数
弾性体を扱うときは、応力の方向と変形の方向の組み合わせで3つの弾性係数を使い分けます。
①ヤング率 E(縦弾性係数)
- 応力:軸方向の引張・圧縮
- 変形:同じ方向の伸び縮み
- 関係:σ = E · ε
軸力に対する硬さ。柱・梁・ブレースの軸力解析で主役。
②せん断弾性係数 G(横弾性係数)
- 応力:せん断応力
- 変形:せん断ひずみ
- 関係:τ = G · γ
せん断や捻りに対する硬さ。ボルト軸断面のせん断破壊や、軸の捻り変形で出てきます。
③体積弾性係数 K
- 応力:等方圧力(あらゆる方向から同じ圧力)
- 変形:体積変化
- 関係:p = K · (ΔV / V)
土圧・水圧・気圧のように全方位から押されたときの変形を扱う係数。地盤工学・流体力学でよく使われます。
3つの係数の関係
理想的な等方弾性体では、E・G・K・ポアソン比 ν が1つの式で結びつけられることが知られています。
G = E / [2 × (1 + ν)]
鋼材の場合、ヤング率 205,000・ポアソン比 0.3 を代入すると、せん断弾性係数 G ≒ 78,800 N/mm²。これも構造計算でよく出てくる定番値ですね。

建築材料を弾性体として扱う条件
建築の世界では「実材料を弾性体扱いしていい範囲」が、告示・基準で実質決められています。
鋼材
降伏点までは弾性体扱いが定石。SS400なら 235 N/mm² 以下、SM490なら 325 N/mm² 以下。実物のミルシート値はこれより1〜2割大きい場合が多いですが、設計はあくまで規格降伏点ベースで弾性域を区切ります。
コンクリート
圧縮基準強度の 1/3〜1/2 以下の応力範囲では、応力ひずみ関係がほぼ直線。Fc24 なら 8 N/mm² 程度 までが弾性体扱いの実質的な範囲で、長期許容圧縮応力度(8 N/mm²)はちょうどこの範囲に収まるように決められています。「許容応力度内なら弾性体」は偶然ではなく、計算前提を成立させるための設計ですね。

木材
比例限度(応力ひずみ直線が崩れ始める点)までが弾性体扱い。樹種・等級・含水率・荷重時間で大きく変わるので、JAS規格・建築基準法の基準強度が安全側に設定されています。
RC造の合成断面
鉄筋コンクリート造では、鉄筋とコンクリートが一体で弾性挙動する前提で曲げモーメントの分担計算をします。両者のひずみが等しい(完全付着)として計算する 弾性理論が、RC梁・スラブの基本設計理論ですね。

弾性域を超えるとどうなる?
弾性体として扱える範囲を超えた挙動も簡単に押さえておきます。
①降伏(鋼材の場合)
降伏点を超えると、応力ひずみ曲線が水平に寝ます。「同じ応力でひずみだけが進む」プラトー領域。荷重を抜くと、伸びた分のいくらかが残留ひずみとして残り、元の長さには戻りません。これが塑性変形=弾性体ではなくなった状態。
②ひび割れ(コンクリートの場合)
引張側のコンクリートは、引張強度を超えるとひび割れて分担を失います。RC梁では「引張側はコンクリートが効かなくなり、鉄筋だけで引張に耐える」状態に移行。これも厳密にはもう弾性体ではなく、塑性化+部分破壊が混在した状態。
③クリープ(コンクリートの場合)
長期荷重をかけ続けると、コンクリートは時間とともに変形が進行します。1〜3年で長期ひずみが初期ひずみの2〜3倍まで進むのが代表的な値。これは弾性体では説明できない粘弾性的な挙動で、長期たわみの計算では別途クリープ係数で割り増します。
④地震時の塑性化
新耐震設計の基本思想は、「中規模地震では弾性域、大地震では塑性域に踏み込んで耐える」という二段構え。塑性域を狙って活用するため、塑性ヒンジを作りやすい靭性のある材料設計、という発想が建物のねばりにつながっています。
僕も電気施工管理時代、地震後に建物の構造点検に立ち会ったとき、「外見上はピンピンしているのに、構造担当が梁端部にチョークでマークを入れて『ここ降伏ヒンジで塑性化した可能性がある』と説明していた」シーンを覚えています。「弾性体だった鋼材が塑性化した瞬間、設計の世界観がガラッと変わる」を実物で目の当たりにした、忘れられない経験ですね。
弾性体に関する情報まとめ
- 弾性体とは:力を加えると変形し、力を抜くと完全に元に戻る物体
- 剛体・塑性体・粘弾性体との違い:剛体は変形なし、塑性体は戻らない、粘弾性体は時間で挙動が変わる
- フックの法則:σ = E × ε(応力 = ヤング率 × ひずみ)
- 弾性係数3兄弟:ヤング率 E、せん断弾性係数 G、体積弾性係数 K
- 鋼材:降伏点まで、コンクリート:基準強度の1/3〜1/2、木材:比例限度まで弾性体扱い
- 弾性域を超えると:降伏・ひび割れ・クリープ・塑性化など、別の挙動領域に移行
以上が弾性体に関する情報のまとめです。
弾性体は 「設計弾性域=弾性体」 という割り切りで、構造計算が成立する前提を作っている存在。「実材料は完全弾性体ではないが、許容応力度の範囲内では十分に弾性体として扱える」という構造設計の知恵が、現代建築の安全性を支えていると言えます。弾性体に関する情報は一通り理解できたと思います。
合わせて、弾性係数や応力ひずみの周辺知識も押さえておくと、構造計算書の読み解き力が一段アップしますよ。




