- せん断弾性係数って何?
- ヤング率(縦弾性係数)と何が違うの?
- G = E / [2(1+ν)] の式の意味は?
- 鋼材やコンクリートのGの値はいくつ?
- 単位はN/mm²でいいの?kN/mm²?
- 構造設計のどこで使うの?
上記の様な悩みを解決します。
せん断弾性係数(G)は、結論「せん断応力をせん断ひずみで割った、せん断変形の起こりにくさを表す物性値」のことです。記号は G、単位は N/mm²(または kN/mm²)。ヤング率 E(縦方向の伸びにくさ)と並ぶ材料の弾性定数で、両者は G = E / [2(1+ν)](νはポアソン比)の関係でつながっています。鋼材なら G ≒ 79,000 N/mm² が代表値で、ねじり計算や横座屈、せん断変形の照査など部材を「斜めにずらす力」が絡む場面では必ず登場する物性値。意外と苦手な人が多い分野ですが、考え方自体はヤング率とほぼ同じなので、一回整理すると一気に楽になります。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
せん断弾性係数とは?
せん断弾性係数とは、結論「せん断応力 τ をせん断ひずみ γ で割った値」のことです。
英語では shear modulus または modulus of rigidity。記号は G が標準。「横弾性係数」「剛性率(構造計算の剛性率とは別物)」とも呼ばれます。
定義式
G = τ / γ
- G:せん断弾性係数 [N/mm² または GPa]
- τ(タウ):せん断応力 [N/mm²]
- γ(ガンマ):せん断ひずみ [無次元、ラジアン]
「せん断」とは何か?
せん断(shear)とは「ハサミで紙を切るように、面を平行にずらす力」のこと。例えば、
- 立方体の上面に水平方向の力を加えると、立方体は平行四辺形にゆがむ
- このとき、上面の水平移動量を高さで割った値がせん断ひずみ γ
- 加えた水平力を面積で割った値がせん断応力 τ
- これらの比がせん断弾性係数 G
「弾性係数」と呼ばれる理由
弾性係数というのは「応力をひずみで割った量」全般の総称。代表的な3つを並べると、
| 弾性係数 | 記号 | 定義 | 表す変形 |
|---|---|---|---|
| ヤング率(縦弾性係数) | E | σ / ε | 引張・圧縮 |
| せん断弾性係数(横弾性係数) | G | τ / γ | せん断 |
| 体積弾性係数 | K | -p / (ΔV/V) | 全方向圧縮 |
E は「縦」、G は「横」、K は「体積」で覚えると整理しやすいです。
せん断弾性係数のイメージ
- G が大きい材料 → せん断方向に変形しにくい(ガラス、鋼材)
- G が小さい材料 → せん断方向に変形しやすい(ゴム、樹脂)
ヤング率Eと同じく「変形のしにくさ=硬さの指標」と理解すればOK。
ヤング率の基礎についてはこちらの記事もどうぞ。

せん断弾性係数の公式:ヤング率Eとの関係
実務で一番使う関係式は、ヤング率E、ポアソン比ν、せん断弾性係数G をつなぐ式です。
①最重要公式
G = E / [2(1 + ν)]
- G:せん断弾性係数 [N/mm²]
- E:ヤング率 [N/mm²]
- ν(ニュー):ポアソン比 [無次元]
②等方性材料の前提
この式は 「等方性で線形弾性の材料」 にだけ成り立ちます。鋼材・コンクリート・木材(部分的に)など、構造設計で扱う多くの材料はこの近似で十分。
③式の意味
弾性体の独立な物性値は実は3つしか必要ない(E、G、ν)うち、等方材料ではE と ν を決めればGが自動的に決まることを意味する重要な式です。
逆に変形すると、
ν = E / (2G) − 1
G から ν を逆算することもできます。
④鋼材で実際に計算してみる
鋼材の代表値:E = 205,000 N/mm²、ν = 0.3 を入れると、
G = 205,000 / [2 × (1 + 0.3)]
= 205,000 / 2.6
≒ 78,846 N/mm²
≒ 79,000 N/mm²
「鋼材のG ≒ 79,000 N/mm²」は鉄骨構造設計で常用される暗記値。
⑤コンクリートで計算してみる
コンクリートの代表値:E = 25,000 N/mm²(Fc = 30 N/mm²のRC)、ν = 0.2 を入れると、
G = 25,000 / [2 × (1 + 0.2)]
= 25,000 / 2.4
≒ 10,400 N/mm²
⑥アルミで計算してみる
アルミの代表値:E = 70,000 N/mm²、ν = 0.33 を入れると、
G = 70,000 / [2 × (1 + 0.33)]
= 70,000 / 2.66
≒ 26,300 N/mm²
⑦GとEの比は約0.4倍
ν = 0.3(鋼材)の場合、G ≒ E / 2.6 ≒ 0.385 × E。
「せん断弾性係数はヤング率の約4割」と覚えると、Gの値の感覚が頭に入ります。
ポアソン比についてはこちらの記事もどうぞ。

鋼材・コンクリート・木材の代表値
設計実務で押さえておきたい主要材料のG値を一覧にします。
①主要材料のせん断弾性係数(標準値)
| 材料 | ヤング率 E [N/mm²] | ポアソン比 ν | せん断弾性係数 G [N/mm²] |
|---|---|---|---|
| 構造用鋼(SS400・SM490等) | 205,000 | 0.30 | 79,000(建築学会標準) |
| ステンレス SUS304 | 197,000 | 0.30 | 75,800 |
| アルミニウム合金 | 70,000 | 0.33 | 26,300 |
| 普通コンクリート(Fc24) | 22,000 | 0.20 | 9,200 |
| 普通コンクリート(Fc30) | 25,000 | 0.20 | 10,400 |
| 高強度コンクリート(Fc60) | 33,000 | 0.20 | 13,750 |
| 木材(スギ・繊維方向) | 7,000 | 0.30〜0.40 | 350〜700(縦せん断) |
| 木材(スギ・繊維直角方向) | 200〜500 | — | 数十〜数百 |
| ゴム | 1〜10 | 0.49 | 0.3〜3.4 |
②鋼材のG値(建築学会値 vs 国際標準)
実は、鋼材のG値は規準書によって微妙に違います。
- 日本建築学会「鋼構造設計規準」:G = 79,000 N/mm²
- 国際標準(ASTM、Eurocode等):G ≒ 80,000 N/mm² ≒ 81,000 N/mm²
設計実務ではどちらを使ってもいいですが、規準書に従って統一するのが無難。日本国内案件なら 79,000 N/mm² を選ぶのが一般的です。
③コンクリートのG値の特殊性
コンクリートはひび割れ前と後で剛性が大きく違う材料。せん断ひび割れが入った後はGの値が0.1〜0.3倍に低下するため、構造解析では「ひび割れ後の有効剛性」を使うことがあります。
④木材は方向で大きく違う
木材は異方性が強い材料で、繊維方向と繊維直角方向でGの値が1桁以上違う。木造建築の構造計算では、せん断面の向きを必ず指定する必要があります。
⑤ゴムや樹脂のG値
ゴムはν ≒ 0.5(非圧縮性)に近いため、Gが極端に小さい。免震ゴムや制振ダンパーの設計はGが主役の世界。
材料の物性値全般についてはこちらの記事もどうぞ。

単位の扱いと換算
G の単位は迷いやすいので、押さえておきます。
①基本単位
1 Pa(パスカル) = 1 N/m²
1 MPa = 10⁶ Pa = 1 N/mm²
1 GPa = 10⁹ Pa = 1,000 N/mm² = 1 kN/mm²
②鋼材のG値の単位表記
G = 79,000 N/mm² = 79 GPa = 79 kN/mm²
「N/mm²で表記すると79,000、GPaにすると79」を覚えておけば、文献を読むときに混乱しません。
③古い単位(kgf/mm²)の換算
1 kgf/mm² = 9.81 N/mm² ≒ 10 N/mm²
G = 8,000 kgf/mm² ≒ 78,500 N/mm² ≒ 79,000 N/mm²
古い教科書では「G = 8,000 kgf/mm²」と書かれている場合があります。kgfをNに直すには約10倍で OK。
④国際的な慣用
| 国・分野 | 単位 | 鋼材のG値 |
|---|---|---|
| 日本(建築) | N/mm² | 79,000 |
| 日本(土木) | N/mm² | 79,000 |
| ヨーロッパ(Eurocode) | GPa | 81 |
| アメリカ(ASTM) | psi | 11,500,000 psi(≒ 79,300 N/mm²) |
⑤見慣れない単位への翻訳
英語の文献で「G = 11.5 × 10⁶ psi」と書かれていたら、1 psi ≒ 0.00689 N/mm² で換算して、約 79,200 N/mm² → 鋼材だな、と判断できます。
ひずみ・応力の関係についてはこちらの記事もどうぞ。

せん断弾性係数を使う構造計算の場面
「Gをわざわざ覚えるのは何のため?」を実務シーン別に整理します。
①ねじり剛性の計算
部材にねじりモーメント T が作用すると、ねじれ角 θ が発生します。その関係式は、
θ = T × L / (G × J)
- T:ねじりモーメント [N·mm]
- L:部材長さ [mm]
- G:せん断弾性係数 [N/mm²]
- J:ねじり定数(断面のねじり剛性) [mm⁴]
ねじり剛性 GJ という量は、ねじりに対する抵抗力そのもの。Gが大きいほどねじれにくく、Gが小さいほどねじれやすい。
②横座屈(ラテラル・トーショナル・バックリング)の計算
H形鋼の梁が横座屈するとき、ねじり剛性 GJ がブレーキ役として効きます。横座屈耐力の式に G が必ず登場するため、Gを知らないと横座屈の許容曲げ応力度が出せません。
③せん断変形の照査
短スパン梁や深い梁では、曲げ変形だけでなくせん断変形も無視できなくなります。せん断変形量は、
δs = (Q × L) / (G × As)
- Q:せん断力 [N]
- L:スパン [mm]
- G:せん断弾性係数 [N/mm²]
- As:せん断有効断面積 [mm²]
「せん断剛性 GAs」という形でGが登場します。
④免震・制振装置の設計
免震ゴムや粘性ダンパーは、Gが小さい材料を使って意図的に変形させる装置。設計上、Gは性能スペックそのもの。
⑤RC造のせん断剛性低下
RC造の梁・柱はせん断ひび割れ後に剛性が大きく低下します。構造解析では「ひび割れ後の有効G」を別途設定することが多く、Gを単一値ではなく「変動するパラメータ」として扱う必要があります。
⑥木造のせん断壁の評価
木造の耐力壁の許容耐力は、せん断弾性係数と壁の構成(合板厚・釘ピッチ)で決まる。木造建築でも G は基幹パラメータです。
⑦応力解析(FEM)の入力値
汎用FEMソフトは、線形解析の場合 E と ν を入力するだけで G を内部計算してくれます。ただし非線形解析や材料モデル設定では G を直接入力するシーンもあるため、Gの値を知らないと構造解析が組めません。
[talk words=’ある現場で、若手構造設計者が「鉄骨梁のたわみが大きすぎる、断面を一回り上げないと」と言って図面を書き直そうとしていたところ、ベテランから「曲げ変形だけ計算した?せん断変形は?」と指摘されたことがあって、確認してみるとスパンが短い梁だったため、曲げ変形に対してせん断変形が3割近く効いていた──というケースがありました。教科書では「せん断変形は無視できる」とよく書かれますが、せい/スパン比が1/8を切るような深い梁ではGの効き方が大きく変わります。「Gは縦弾性係数の4割しかないから、断面係数より断面積でアシストする」くらいの感覚を持っていると、薄っぺらい設計から一段抜けますね。’ name=”” avatarimg=”https://seko-kanri.com/wp-content/uploads/2020/02/c-run.png” avatarsize=70 avatarbdcolor=#d0d0d0 avatarbdwidth=1 bdcolor=#d0d0d0]
横座屈そのものはこちらの記事もどうぞ。

せん断弾性係数に関する情報まとめ
- せん断弾性係数とは:せん断応力 τ をせん断ひずみ γ で割った値(G = τ / γ)
- 別名:横弾性係数、shear modulus、modulus of rigidity
- 単位:N/mm²、GPa、kN/mm²
- ヤング率Eとの関係:G = E / [2(1 + ν)]
- 鋼材の代表値:G ≒ 79,000 N/mm² ≒ 79 GPa(建築学会値)
- コンクリート Fc30:G ≒ 10,400 N/mm²
- アルミ:G ≒ 26,300 N/mm²
- 木材は異方性が強く、繊維方向で1桁違う
- G ≒ E × 0.4(鋼材のν=0.3前提)
- 用途:ねじり剛性、横座屈耐力、せん断変形、免震ゴム、RCせん断剛性、FEM入力
以上がせん断弾性係数に関する情報のまとめです。
一通りせん断弾性係数の基礎知識は理解できたかなと思います。G = E / [2(1+ν)] という式と、鋼材のG ≒ 79,000 N/mm² さえ覚えておけば、ねじり・横座屈・せん断変形のどの計算にも入っていけます。「G はヤング率Eの約4割」という感覚があれば、Gの値の妥当性チェックも一瞬。せん断方向の変形は曲げ変形の影に隠れて見落とされがちですが、深い梁・短スパン・ねじりが効く部材では一気に主役級になります。Gを軽視しない目線が、構造設計者の地味なレベルアップポイントですね。
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