- まわし溶接ってなに?
- なんで端部をわざわざ回し込む必要があるの?
- まわし長さの基準は?
- 図面の溶接記号にはどう書くの?
- 全周溶接とどう違うの?
- 現場で確認すべきポイントは?
上記の様な悩みを解決します。
まわし溶接(回し溶接)は、結論「すみ肉溶接の端部を、被溶接材の角を回り込むように連続させて施工する溶接」のことです。直線で終わらせると端部に応力が集中して割れや剥離の起点になりやすいため、端部をおおむね脚長の2倍以上回り込ませて応力集中を緩和する目的で行われます。日本建築学会の鉄骨工事技術指針や JASS 6 などでも「端部にはまわし溶接を施す」という規定があり、特に T継手・L継手のフィレット端部、ガセットプレートの取り合いなど応力が三次元的に集中する場所では必須の技術。図面では溶接記号に「◯(フラッグ)」を付けて指示します。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
まわし溶接とは?
まわし溶接とは、結論「すみ肉溶接の端部を、被溶接材の角を回り込むように連続的に施工する溶接」のことです。
英語では end return weld または wrap-around weld、returned weld。「端部回し」「回し溶接」「まわし」と呼ばれることもあります。
典型的な施工イメージ
例えば、フランジの端にガセットプレートを取り付けるとき、ガセットの片面・反対面・もう片方の片面と、3方向にすみ肉溶接を入れます。ここで端部の処理が分かれ、直線で終わらせる施工は溶接を端部でブツッと切るため端部に応力集中が発生するNGパターン。一方、まわし溶接は端部で90°曲げて短く回し込み、応力をなめらかに伝えるOKパターン、という構図。この「端部で90°回す」のがまわし溶接の本質。距離はわずか脚長の2〜3倍程度ですが、効果は大きいです。
まわし溶接が出てくる継手の例
| 継手の種類 | まわし溶接の対象 |
|---|---|
| ガセットプレート × フランジ | ガセット端部の3辺溶接 |
| 補剛材 × ウェブ | スチフナの端部 |
| ブラケット × 柱 | ブラケット下端 |
| デッキ受け金物 × 梁 | 受け金物の端部 |
| ベースプレート × 柱 | プレート角部(必要に応じて) |
| L形鋼の端部 | 接合部周り |
「応力集中」とは何か?
物体に荷重が作用すると、形状の急変部(角・端部・穴のまわり)には応力が集中します。具体的な数値で言うと、フィレットの止端部の応力は平均応力の3〜5倍以上になることもあり、そこから疲労亀裂が始まります。これを緩和するためにまわし溶接で応力をなめらかに分散させるわけです。
溶接欠陥の話はこちらの記事もどうぞ。

まわし溶接が必要な理由
なぜわざわざ端部を回し込むのか、力学的・実務的な理由を整理します。
①端部の応力集中を緩和する
すみ肉溶接の端部は、溶接金属が薄くなりやすい(クレーター部)、母材との境界(止端部)が応力集中点になる、端部だけ突然支持が切れて不連続な応力集中が発生する、という3つの問題を同時に抱えています。これらをまとめて緩和するのがまわし溶接。「直線で終わらせず、端部を回す」ことで、応力の伝達がなめらかになります。
②端部からの剥離を防ぐ
特に薄板の溶接では、端部からの剥離(peeling failure)が問題になります。まわし溶接で端部を二方向から押さえると、剥離力を抑えられます。
③クレーター割れの予防
すみ肉溶接の端部は溶接金属が薄くなる「クレーター部」になり、ここからクレーター割れが発生しやすい。まわし溶接で端部を脚長の2〜3倍回し込めば、クレーター部が応力経路から外れる位置に移ります。
④疲労寿命の向上
繰返し荷重が作用する部材(橋梁、クレーン梁、鉄骨架台など)では、端部の応力集中が疲労破壊の起点になります。まわし溶接の有無で疲労寿命が数倍〜10倍変わることもあります。
⑤地震時の塑性ヒンジ部での挙動改善
地震時にエネルギーを吸収する塑性ヒンジ領域では、繰り返し変形による疲労が発生します。まわし溶接で端部の応力集中を緩和することで、塑性域での破壊リスクを低減できます。
⑥規準による要求
日本建築学会「鋼構造接合部設計指針」「鋼構造設計規準」、JASS 6「鉄骨工事」などで、すみ肉溶接の端部にはまわし溶接を施すこと、まわし長さは脚長の2倍以上、といった規定があり、規準遵守の観点でも必須となっています。
鉄骨継手についてはこちらの記事もどうぞ。

まわし溶接の長さ・寸法
実務で押さえておきたいまわし長さの基準を整理します。
①基本のまわし長さ
まわし長さ ≧ 脚長 S × 2
JASS 6 や鋼構造接合部設計指針の基本規定。
例:脚長 6 mm のすみ肉溶接 → まわし長さ 12 mm 以上。
②応力が大きい場合の推奨値
まわし長さ = 脚長 S × 2〜3
③図面表記での意味
設計図に「まわし溶接」と書かれているとき、特に長さの指定がなければ脚長の2倍と解釈するのが一般的です。
④全周溶接との違い
| 項目 | まわし溶接 | 全周溶接 |
|---|---|---|
| 範囲 | 端部のみ短く回り込む | 部材の全周をぐるっと回る |
| 目的 | 応力集中緩和、クレーター割れ防止 | 防水・防錆・全方向の応力受け |
| 図面記号 | フラグ記号「◯」 | フラグ記号「●(または◯in solid)」 |
| まわし長さ | 脚長の2倍程度 | 全周 |
| 用途 | ガセット端部、補剛材端部、T継手 | 配管溶接、密閉部、屋外鋼材 |
⑤溶接記号での表現
JIS Z 3021(溶接記号)では、三角フィレットマーク+端部の○(オープン)がまわし溶接、三角フィレットマーク+端部の●(ソリッド)が全周溶接、という記号体系。「◯ = まわし、● = 全周」というのが基本パターンですね。
⑥施工上のポイント
施工上のポイントは、端部を90°回す際は溶接トーチを連続的に動かすこと(一度切ると再開時にビードが乱れる)、まわした後のビード端部で再びクレーターができないよう徐々に引き上げて停止すること、まわし開始位置と終了位置のビード厚みが均一になるよう注意すること、というあたり。
⑦薄板でのまわし溶接の注意
板厚 6 mm 以下の薄板では、まわし溶接で反対側まで熱が通りすぎて貫通する事故が発生しやすい。脚長を抑える、電流を下げる、ストリンガー(直線ビード)にするなどの調整が必要。
⑧連続まわしと不連続まわし
連続まわしは両端を回す(標準)、不連続まわしは片端のみ回す(特殊用途、応力方向が一方向の場合)、という使い分け。通常は両端まわしが基本です。
溶接姿勢についてはこちらの記事もどうぞ。

まわし溶接が必要な部位の例
実際にどんな部位で必要になるか、現場の典型例を整理します。
①ガセットプレートの取り合い
鉄骨ブレースの取り付けに使うガセットプレート(接合プレート)の周辺は、ブレース材→ガセットプレート→柱・梁、と力が流れる経路の端部。ガセット端部の応力集中で剥がれる事故が多いため、必ずまわし溶接が要求されます。
②補剛材(スチフナ)の端部
H形鋼の梁・柱に取り付ける補剛板(スチフナ)の端部は、局部座屈を防ぐ役割を担う部材。端部からはがれると補剛効果がなくなるため、まわし溶接で端部を確実に固定します。
③ブラケットの端部
柱や壁から張り出すブラケットの取り付け部は、自重・偏心荷重で曲げモーメントが集中するポイント。端部のまわし溶接で確実に支持を確保します。
④デッキ受け金物
デッキスラブを受ける受け金物(タイトフレーム、デッキエンドアングル)の端部は、風圧・地震力で繰り返し荷重を受ける部分。端部疲労を防ぐためのまわし溶接が必要です。
⑤排煙窓・サッシ周りのアングル
開口部周りに取り付けるサッシアングルの端部は、風圧・温度応力で繰り返し荷重を受ける箇所。雨水浸入も防ぐ意味でまわし溶接を入れます。
⑥階段ササラ桁の取り付け
階段の主桁と踏板の取り付け金具は、歩行による繰り返し荷重を受ける部位。端部疲労を防ぐためまわし溶接が要求されます。
⑦設備架台・配管支持架台
天井から吊られる設備架台や、床に据え付ける配管支持金物の端部は、振動・偏心荷重を受ける箇所。まわし溶接で端部を補強します。
⑧手摺り・ハンドレールの取り付け
手摺りの支柱と踏板の取り付け部は、利用者の体重や寄りかかり荷重を受ける部位。端部から脱落しないようまわし溶接で補強します。
⑨吊り金物・揚重金物
クレーンで吊るための仮設金物は動荷重がかかるため、まわし溶接で疲労破壊を防ぐ必要があります。
ベースプレートまわりの話はこちらの記事もどうぞ。

まわし溶接の施工管理ポイント
現場で施工管理者がチェックすべき要点を整理します。
①事前確認
事前確認では、設計図の溶接記号で「○」(まわし溶接)が指示されているか、脚長Sとまわし長さ(脚長の2倍以上)が明記されているか、鋼種(SS400、SM490、SN490)と溶接材料(YGW18、YGW16)の適合性、板厚と溶接姿勢(下向き、横向き、立向き、上向き)の組み合わせ、というあたりを押さえます。
②施工前打ち合わせ
施工前打ち合わせでは、鉄骨工場とのWPS(溶接施工要領書)でまわし溶接の手順を確認、端部処理の方法(クレーター処理、回し方)を確認、検査・記録のタイミングを決める、という3点を整理しておきます。
③溶接中の確認
溶接中の確認は、端部でビードが直線で切れていないか(切れていればまわし不足)、まわした後のビードがジグザグになっていないか(連続性確認)、脚長×2倍以上のまわし長さが確保されているか、というポイントを目視で見ていきます。
④外観検査でのチェック
外観検査では、端部を90°回り込んでいるか、まわし溶接のビード幅が母材すみ肉と同等か、アンダーカット(母材が削れている)がないか、オーバーラップ(母材に乗り上げている)がないか、端部のクレーターが処理されているか、というあたりが要チェック項目。
⑤超音波探傷試験(UT)でのチェック
応力集中部のまわし溶接は、UT でブローホールやスラグ巻き込みなどの欠陥を確認します。建築鉄骨で UT が要求されるのは主に完全溶け込み溶接ですが、重要部のすみ肉溶接でも追加 UT が指示されることがあります。
⑥不良対応
まわし溶接が不足していた場合の対応としては、追加溶接を行う(もとの溶接を清掃した上で)、板厚や鋼種により予熱・後熱が必要な場合あり、補修溶接の前に研磨で仕上げ面を削り落とす、という手順を踏みます。
⑦記録の残し方
記録は、まわし溶接の有無を写真記録する、WPSとPQR(溶接施工法確認試験記録)を整理する、工場検査記録(鉄骨製作工場)と現場検査記録(建築現場)の二重管理を行う、というのが基本ライン。
[talk words=’ある現場で、鉄骨工場から納入された大型ガセットプレートの溶接について、検査官から「ここのまわしが脚長の2倍に満たないので、追加溶接してください」と指摘されたことがありました。鉄骨工場の溶接工が「いつもの感覚で回した」ら、明らかに足りなかったわけです。鉄骨工場の WPS(溶接施工要領書)に「まわし長さ12 mm以上(脚長6mm × 2倍)」と書いてあったのに守られていなかった。発注者として工場検査の段階でまわし溶接のスケール写真を要求するようになり、それ以降は同じトラブルが起きていません。「まわし溶接の長さ」という地味な数字でも、図面・WPS・現場検査・写真記録が4点セットで揃ってないとプロセスとして信頼できないんですね。’ name=”” avatarimg=”https://seko-kanri.com/wp-content/uploads/2020/02/c-run.png” avatarsize=70 avatarbdcolor=#d0d0d0 avatarbdwidth=1 bdcolor=#d0d0d0]
鉄骨製作工場の検査については、こちらの記事もどうぞ。

まわし溶接に関する情報まとめ
- まわし溶接とは:すみ肉溶接の端部を、被溶接材の角を回り込むように連続施工する溶接
- 別名:回し溶接、端部回し、end return weld、wrap-around weld
- 必要性:端部の応力集中緩和、クレーター割れ防止、剥離防止、疲労寿命向上
- まわし長さ:脚長 × 2倍以上(応力大きい場合は2〜3倍)
- 図面記号:すみ肉マーク + 「○」フラグ
- 全周溶接(●)との違い:まわしは端部のみ、全周は部材の全周
- 必要な部位:ガセット、補剛材、ブラケット、デッキ受け、サッシアングル、階段、設備架台
- 施工管理:図面確認・WPS確認・外観検査・写真記録の4点セット
以上がまわし溶接に関する情報のまとめです。
一通りまわし溶接の基礎知識は理解できたかなと思います。「直線で終わらせず、端部を脚長の2倍以上回り込ませる」というシンプルなルールですが、その背後には応力集中の緩和・クレーター割れの予防・疲労寿命の向上という構造的に重要な意味が詰まっています。図面の溶接記号「○」を見たら反射的に「あ、まわし溶接だな」と分かること、そしてビード端部のスケール写真でまわし長さ12mm以上を確認できる目線──これが鉄骨工事の施工管理者の基本所作。地味な技術でも、構造の安全性を支える重要な一手だと意識しておきたいですね。
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