- 固定モーメント法ってどういう手法?
- クロス法と同じもの?
- 分配率と伝達率って何?
- 計算手順がイメージできない
- たわみ角法との違いは?
- 現代の実務でも使うの?
上記の様な悩みを解決します。
固定モーメント法は、別名モーメント分配法やクロス法とも呼ばれる、不静定構造を手計算で解くための代表的な手法。たわみ角法と並んで構造力学のメイン手法ですが、たわみ角法より直感的で「やっていることが目に見える」のが特徴です。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
固定モーメント法とは?
固定モーメント法とは、結論「節点を一旦固定→解放→不釣り合いモーメントを部材に分配→他端に伝達、を反復して解く手法」のことです。
たわみ角法との一番の違いは、連立方程式を立てないこと。代わりに、節点を「固定状態」から少しずつ「実際の状態」に近づける反復計算で答えに収束させていきます。
呼び名のバリエーション:
- 固定モーメント法:日本語の正式名称
- モーメント分配法:機能(モーメントを分配する)に着目した呼び方
- クロス法(Cross method):開発者ハーディ・クロス(Hardy Cross)の名前から
どれも同じ手法を指します。試験問題や教科書で名前が違っても焦らないでOK。
特に多スパンの連続梁を手計算で解くのに向いており、剛度比と荷重項さえあれば、表計算式に書き出せばどんどん進められる、という実用性の高さがあります。
不静定構造そのものについてはこちらで触れています。

固定モーメント法の登場人物:分配率・伝達率・固定端モーメント
具体的な計算に入る前に、3つの基本概念を整理しておきます。
1. 固定端モーメント(FEM、Fixed-End Moment)
部材の両端を固定したと仮定したときに、荷重によって生じる端モーメント。等分布荷重wL²/12、中央集中荷重PL/8など、教科書の公式集に並んでいる値です。これが反復計算の出発点になります。
2. 分配率(Distribution Factor)
ある節点に集まる複数の部材のうち、「どの部材がモーメントをどれだけ負担するか」の割合。
- 分配率 = 当該部材の剛度K / 節点に集まる全部材の剛度の合計
- すべての部材の分配率を足すと1(100%)になる
剛度Kが大きい部材ほど、たくさんモーメントを負担する。剛い部材が頑張る、と覚えると感覚的に正しいです。
3. 伝達率(Carryover Factor)
ある部材の片方の端にモーメントを加えたとき、反対の端にどれだけ伝わるかの割合。両端固定の等断面部材なら1/2(0.5)が標準値。
つまり、分配されたモーメントの半分が反対側の節点に流れていく、というイメージ。これが反復計算で隣の節点に「飛び火」する仕組みです。
Kの計算(剛度)
剛度K=I/L(断面二次モーメント÷部材長)。これを基準値で割って剛比kにすれば計算が見やすくなります。たわみ角法でも使う共通概念ですね。
固定モーメント法の解く手順
実際の計算手順は、おおむね以下の流れ。
手順①:剛度Kと分配率を計算
各部材のKを出して、各節点ごとの分配率を計算しておく。
手順②:固定端モーメントを算定
各部材に作用する荷重から、両端を固定したと仮定したときの端モーメントを算定。教科書の公式集を見て拾う形。符号の取り方は統一しておくのがポイント(時計回り+など)。
手順③:節点ごとの不釣り合いモーメントを計算
各節点に集まる部材の固定端モーメントの合計を出す。本来は節点モーメントの合計はゼロ(外力モーメントと釣り合う)でなければいけないので、合計が0でなければそれが「不釣り合いモーメント」。
手順④:不釣り合いモーメントを分配
不釣り合いモーメントの符号を反転して、各部材に分配率に応じて配分。これで節点は釣り合った状態になる。
手順⑤:分配した分の半分を反対端に伝達
各部材で分配されたモーメントの1/2を反対端に飛ばす。これで反対側の節点が再び不釣り合いになる。
手順⑥:反対側の節点で③〜⑤を繰り返す
反復するごとに不釣り合いモーメントが小さくなっていき、十分小さくなったら計算終了(収束)。
手順⑦:各部材ごとにすべての段階のモーメントを合計
固定端モーメント+分配されたモーメントの累計=最終的な端モーメント。
教科書では節点ごとに表を作って、上から「FEM、分配①、伝達①、分配②、伝達②、…、合計」と書き並べていく形式が定番です。
固定モーメント法の計算例(連続梁の概念)
具体例を概念だけで追ってみます。
条件設定
- 3支点の連続梁ABC(左から固定支点A、中間支点B、固定支点C)
- スパンAB=L1、BC=L2、剛度K1、K2
- スパンABに等分布荷重w作用
- スパンBCに荷重なし
手順を概念で追うと
- 固定端モーメントを算定。スパンABの両端にwL1²/12(符号は左右で反転)。スパンBCには荷重がないので0
- 節点Aと節点Cは固定支点なので動かない(モーメントはそのまま)
- 節点Bに集まる部材ABと部材BCの分配率を計算(K1とK2の比から)
- 節点Bの不釣り合いモーメント(=部材ABの右端のwL1²/12)を符号反転して、AB側とBC側に分配率に応じて配分
- 分配された分の半分が、それぞれA端、C端に伝達される
- A端、C端は固定支点なので「終わり」(伝達されたモーメントはそのまま受け取られる)
- 節点Bで再び不釣り合いはほぼなくなり、収束
連続梁の場合、固定支点が「モーメントを吸収する端点」として機能するので、反復回数が少なくて済むのがメリット。多スパン連続梁では固定モーメント法のほうがたわみ角法より圧倒的に楽な傾向があります。
固定モーメント法とたわみ角法の使い分け
両者の違いをもう一度整理しておきます。
| 項目 | 固定モーメント法 | たわみ角法 |
|---|---|---|
| アプローチ | 反復計算で収束させる | 連立方程式を解く |
| 未知数 | なし(直接モーメントを操作) | たわみ角θ、部材回転角R |
| 直感性 | 高い(やっていることが目に見える) | やや抽象的 |
| 得意分野 | 多スパン連続梁、節点移動なし | 小規模ラーメン、節点移動あり |
| 計算量 | 反復するほど精度が上がる | 一度の連立で完結 |
| 手計算しやすさ | 表形式で書き並べやすい | 式の整理が大事 |
経験則的な使い分け
- 連続梁(多支点・水平荷重なし):固定モーメント法が圧倒的に楽
- 小規模ラーメン(節点が少ない):たわみ角法がスマート
- 節点移動を考慮する必要がある場合:たわみ角法(または固定モーメント法の修正版)
- 試験で出題される問題:どちらが出ても解けるように両方の手順を覚える
たわみ角法の話はこちらで詳しく解説しています。

現代実務での固定モーメント法の位置づけ
「結局、現代でも手計算で固定モーメント法は使うのか?」という疑問が湧きそうですが、実務的にはほぼマトリクス法(行列計算)に置き換えられているのが現状。
実務ソフトはマトリクス法
一貫構造計算プログラムなどは、内部で剛性マトリクス法(直接剛性法)を使って一気に解いている。固定モーメント法のような反復は、現代的な計算機では非効率なので採用されません。
それでも学ぶ意義
ただし、固定モーメント法を学ぶ意義は十分にあります。
- 概算チェックができる:簡単な連続梁なら、固定モーメント法で30分も掛けずに概算が出せる。ソフトの結果が大きくズレていたら気づける
- 設計ミーティングでの議論ツール:「ここの剛度を上げると、この節点にもっとモーメントが集まる」という直感が分配率の発想で説明できる
- 構造力学の理解が深まる:剛度・分配率・伝達率という概念は、すべての構造解析手法の前提
- 試験対策:一級建築士の構造系科目では計算問題として頻出
施工管理の立場で固定モーメント法を直接使うことはほぼないですが、「梁の剛度を上げるとどう応力が変わるか」を構造設計者と話すときに、分配率の発想を知っていると会話が成り立ちやすいんですね。
剛性率・偏心率の話と直結する話で、関連記事はこちら。


固定モーメント法の注意点
符号の規約に注意
固定モーメント法は符号を間違えると一気に答えが狂います。時計回りを+にするのか、左回りを+にするのかを最初に決めて、計算が終わるまで貫くこと。教科書によって規約が違うので、解説を読むときも要注意です。
剛度の比で十分なケースが多い
剛度Kは絶対値(I/Lの実数値)で計算しなくても、剛比k(部材間の比)で十分なケースが多い。実数値を入れると桁が合わなくなりやすいので、まずは比で扱ってみる。
収束判定
反復計算なので「いつ終わるか」が問題。不釣り合いモーメントが固定端モーメントの1〜5%以下になれば収束と判定するのが一般的。試験では2〜3回反復で十分なケースがほとんど。
節点移動がある場合は別の手順が必要
ラーメン構造で水平荷重があり、節点が水平移動する場合は、固定モーメント法だけでは解けません。「層方程式(せん断力釣り合い)」を追加する修正版を使う必要があり、これが結構複雑。素直にたわみ角法やマトリクス法に切り替えるほうが楽なケースも多いです。
固定モーメント法に関する情報まとめ
- 固定モーメント法とは:節点を固定→解放→分配→伝達の反復で不静定構造を解く手法
- 別名:モーメント分配法、クロス法(Cross method)
- 3つの基本要素:固定端モーメント、分配率、伝達率(標準1/2)
- 解く手順:剛度・分配率算定→FEM算定→不釣り合いを分配→反対端に伝達→反復→合計
- 得意分野:多スパン連続梁、節点移動なしの構造
- 苦手分野:節点移動ありのラーメン構造
- たわみ角法との違い:反復で収束させる(固定モーメント法)vs 連立方程式(たわみ角法)
- 現代実務:マトリクス法に置き換えられているが、概算チェックや学習用に重要
- 符号規約:最初に決めて貫く。途中で変えると一気に答えが狂う
以上が固定モーメント法に関する情報のまとめです。
固定モーメント法は「やっていることが目に見える」のが最大の魅力で、計算過程を表に書き出してみると、不釣り合いモーメントが反復のたびに小さくなって、答えに近づいていく様子が直感的に分かります。連続梁を10分で解けるようになると、構造設計の現場感覚が一段上がるはずです。
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