- ひずみテンソルってなに?
- そもそもテンソルって何?
- 3×3 の行列の中身がどうなってるか分からない
- 主ひずみって何?
- 応力テンソルとどう違う?
- 施工管理で使う場面はあるの?
上記の様な悩みを解決します。
ひずみテンソルとは、結論「3次元空間のある1点における「ひずみの状態」をすべて表現する3×3の行列」のことです。中学・高校で学ぶ「ひずみ=伸び率」は 1方向のひずみ(単軸ひずみ)ですが、実際の建物・部材では 複数方向にひずみが同時に起きています。これを 9個の成分(うち独立は6個)でまるごと表現するのがひずみテンソル。建築の世界では FEM(有限要素法)解析や コンクリートの3次元ひび割れ評価で必ず登場し、構造設計者・解析担当者にとっては避けて通れない概念です。記号は ε(イプシロン)。本記事では「行列の中身は何を意味しているか」「主ひずみは何の話か」「現場で出てくる場面はあるか」までを、施工管理の視点で初心者向けに整理します。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
ひずみテンソルとは?
ひずみテンソルとは、結論「3次元空間のある1点で、3方向すべてのひずみと、それらの間の角度変化を1つの行列で表したもの」のことです。
記号は ε(または εij)、3行3列の 3×3行列で表されます。
ε = | εxx εxy εxz |
| εyx εyy εyz |
| εzx εzy εzz |
「テンソル」とは何か
テンソルは、ひと言で言うと「スカラー・ベクトルの拡張概念」。
| 種類 | 例 | 階数 |
|---|---|---|
| スカラー(0階テンソル) | 温度、密度、エネルギー | 1個の数 |
| ベクトル(1階テンソル) | 力、速度、変位 | 3個の成分(x, y, z) |
| テンソル(2階以上) | 応力、ひずみ、慣性モーメント | 9個以上の成分 |
→ 力(ベクトル)は「方向と大きさ」を持ちます。応力やひずみは「方向と方向の関係」を表すので、2方向の情報が必要。だから 3×3=9個の成分になる、というのがテンソルの直感です。
1次元のひずみとの関係
中学・高校の「ひずみ=伸び/元の長さ」は、
ε = ΔL / L
これは1方向の伸びだけを見た 単軸ひずみで、ひずみテンソルの中でいうと εxx(または εyy、εzz のいずれか1つ)に相当します。3次元空間で本格的に変形を扱うときは、9個の成分すべてを考える必要がある、というのがテンソル化の動機です。
応力ひずみ曲線の話はこちら。

ひずみテンソルの9成分の意味
3×3 の行列の中身を 対角成分と 非対角成分に分けて見ます。
①対角成分(垂直ひずみ)
εxx, εyy, εzz
それぞれ x、y、z方向の単軸ひずみ。「その方向に何%伸びたか」を表します。
| 成分 | 意味 |
|---|---|
| εxx | x 方向の伸び率 |
| εyy | y 方向の伸び率 |
| εzz | z 方向の伸び率 |
→ コンクリート供試体を圧縮試験すると、軸方向(仮に z)に縮み εzz<0 になり、横方向(x, y)にはポアソン効果で膨らんで εxx>0、εyy>0 になります。1つの試験体の中で3方向同時にひずみが起きているわけです。
②非対角成分(せん断ひずみ)
εxy, εyz, εzx(および εyx, εzy, εxz)
これらは 2方向の間の角度変化を表す せん断ひずみ。
| 成分 | 意味 |
|---|---|
| εxy | xy 平面内のせん断ひずみ(直角がどれだけ歪んだか) |
| εyz | yz 平面内のせん断ひずみ |
| εzx | zx 平面内のせん断ひずみ |
→ せん断ひずみは「もともと直角だった2辺の、直角からのズレの半分」と定義されます。物理的には「正方形が平行四辺形に歪む量」をイメージすると分かりやすい。
③対称性で独立成分は6個
ひずみテンソルは 対称テンソルで、
εxy = εyx
εyz = εzy
εzx = εxz
→ つまり 9 個の成分のうち独立なのは 6個(垂直ひずみ3個+せん断ひずみ3個)。これが、3次元の応力解析で「6成分のひずみベクトル」と呼ばれるものの正体です。
④工学ひずみとテンソルひずみの注意
実務では「工学ひずみ γ」と「テンソルひずみ ε」で 2倍ずれます。
γxy = 2 × εxy
→ 工学ひずみは「直角からの全ズレ角度」、テンソルひずみは「その半分」、という定義の違い。教科書や解析ソフトの出力で混同しやすいポイントです。FEM 解析の出力で「ひずみ」と書かれていたら、テンソル定義か工学定義かを必ず確認しましょう。
剛性マトリクスの話はこちら。

ひずみ硬化との関係はこちら。

主ひずみと固有値
ひずみテンソルの 主ひずみは実務でよく出てくる概念。
①主ひずみとは
ひずみテンソル ε の 固有値として求まる3つの値で、ε1、ε2、ε3(ε1≥ε2≥ε3)と表します。
物理的には「3次元空間で座標軸を回転させたとき、せん断成分がすべてゼロになる、純粋な垂直ひずみだけの状態」。
②なぜ主ひずみが重要か
実際の応力状態では「どの方向で材料が 最大に伸びているか」「どの方向で 最大に縮んでいるか」が重要。これが ε1(最大主ひずみ)と ε3(最小主ひずみ)です。
→ コンクリートのひび割れは 最大主ひずみ ε1を超えると発生します。ε1 の方向と直角に ひび割れが入る、というのが主ひずみとひび割れの関係。
③主ひずみの3次元的な視覚化
主ひずみを使うと、3次元のひずみ状態は「3つの主軸方向の伸び縮み」だけで表現できます。これを ひずみ楕円体と呼び、
- ε1=ε2=ε3:球(等方変形)
- ε1>ε2=ε3:紡錘形
- ε1>ε2>ε3:3軸不等の楕円体
→ FEM 解析の 可視化で、主ひずみ方向を 矢印で表示することがよくあります。これを見ると「この部材は、この方向に最も引張られている」が直感的に分かります。
④主ひずみと主応力の対応
弾性域では 応力テンソルと ひずみテンソルは 同じ主軸を持ちます(フックの法則の3次元版)。なので「最大主応力の方向=最大主ひずみの方向」と覚えてOK。
主応力との関係はこちら。

応力テンソルとの違い
ひずみテンソルとよく対比されるのが 応力テンソル。
①定義の違い
| 項目 | ひずみテンソル ε | 応力テンソル σ |
|---|---|---|
| 単位 | 無次元(変形比) | N/mm²(圧力) |
| 表すもの | 物体の変形(幾何学的) | 物体内部の力(物理的) |
| 計測方法 | ひずみゲージ・3次元 DIC | 直接測れない(計算で求める) |
| 対称性 | 対称(独立6成分) | 対称(独立6成分) |
→ ひずみは「どれだけ伸びたか」(変形)、応力は「どれだけ力がかかっているか」(内力)。両者は フックの法則で結ばれますが、別物です。
②フックの法則(3次元版)
弾性体では、応力テンソル σ とひずみテンソル ε の関係は、
σij = Cijkl × εkl
- Cijkl:剛性テンソル(4階テンソル、独立成分21個)
→ 等方性材料(鋼やコンクリート)では、剛性テンソルがヤング率 E とポアソン比 ν の2つの定数に集約されます。
③材料試験で得られるもの
| 試験 | 直接測れるもの | 計算で求めるもの |
|---|---|---|
| 引張試験 | 力 F、伸び ΔL(→ ε) | 応力 σ=F/A |
| 圧縮試験 | 力 F、変位(→ ε) | 応力 σ=F/A |
→ 厳密に言うと、ひずみは直接計測できる(ゲージや変位計で)、応力は計測値から計算で求めるもの。これが「ひずみは現実、応力は推定」と言われる理由です。
④建築実務での使い分け
| 場面 | 主に使う |
|---|---|
| 設計(許容応力度計算) | 応力(許容応力度との比較) |
| FEM 解析の可視化 | ひずみ(変形量で見る) |
| 実物計測(実験・センサー) | ひずみ(直接測れる) |
| ひび割れ評価 | 主ひずみ(限界ひずみとの比較) |
→ 設計者は「応力で語る」、解析・実験担当は「ひずみで語る」、というのがざっくりした住み分け。
ヤング率・ポアソン比の話はこちら。


施工管理でひずみテンソルが出てくる場面
施工管理として、現場でひずみテンソルが直接出てくる場面は 多くないですが、以下のシチュエーションで「話の前提として知っておくと便利」というケースがあります。
①FEM 解析報告書を読むとき
特殊形状の建物(シェル構造、3次元トラス、複雑な接合部)の設計では、構造設計者から FEM 解析報告書が出てきます。そこに「主ひずみコンター図」が載っていて、色の濃いところほどひずみが大きい=応力集中が起きているサイン。「ε1 が0.001を超える領域」など、限界値との比較で評価されます。
→ コンター図を見る側が「主ひずみとは何か」を知っていると、設計者との会話が成り立ちます。
②コンクリートの3次元ひび割れ解析
ダム・原子力施設・大型橋脚など、コンクリートの マスコン部材では、温度応力・乾燥収縮による 3次元ひび割れが問題になります。これを評価するには、主ひずみが限界引張ひずみを超えたかどうかを見ます。一般のRC 造ではあまり出てきませんが、マスコンや特殊構造物を扱う現場では頻出。
マスコンクリートの話はこちら。

③実物計測(モニタリング)
橋梁・大型建築物の 健全度モニタリングでは、構造体に ひずみゲージを貼って常時計測します。1方向のゲージなら単軸ひずみ、3方向ゲージ(ロゼット)を使うと 平面ひずみテンソル(2×2行列)が得られます。これを使って 主ひずみ・主応力を逆算する、というのがモニタリングの基本フロー。
④地震応答の事後評価
大地震後の 構造ヘルスモニタリングで、建物に取り付けたセンサーのデータからひずみテンソルを推定し、「どの部材で塑性ひずみが進んだか」を評価します。これは大地震直後の 使用継続可否の判断で重要視されます。
⑤現場での会話で出てきたら
施工管理が直接ひずみテンソルを計算する場面は少ないですが、構造設計者・FEM 解析担当者との会話で「最大主ひずみが許容値の8割」「ひずみ集中が見られる」というフレーズが出てきたら、それは「この点で局所的に大きく変形している」という意味。「応力集中の話と何が違うのか」と聞いて、解析の前提を確認するクセをつけると、設計の意図が読み取れます。
応力ひずみ曲線・降伏点の話はこちら。

ひずみテンソルに関する注意点
①テンソルひずみと工学ひずみの混同に注意
教科書やソフトの出力で「γ」と「ε」が混在している場合、せん断成分が2倍ずれるので必ず単位系を確認。
②2次元(平面ひずみ)と3次元(テンソル)を区別する
平面応力・平面ひずみ問題では2×2行列(独立成分3個)、3次元では3×3行列(独立成分6個)。2D解析の結果を3Dと混同しないこと。
③ひずみは「微小変形」前提
通常のひずみテンソルは 微小ひずみ(ε ≪ 1)を前提にしています。大変形を扱うときは「グリーンひずみ」「アルマンシひずみ」などの 有限ひずみテンソルを使う必要があります。建築では通常無視できますが、地震被災後の塑性大変形を厳密に評価する研究分野では区別されます。
④主ひずみと主応力の方向は弾性域だけ一致する
塑性変形が始まると、応力とひずみの主軸が ずれることがあります(主軸の回転)。塑性解析を読み解くときは要注意。
⑤実用上は「主ひずみ」「ミーゼスひずみ」を見るのが現実的
ひずみテンソル6成分をそのまま読むより、主ひずみ ε1, ε2, ε3 や 相当ひずみ(ミーゼスひずみ)で1値に集約してから評価するのが実務的。FEM ソフトはこれらを自動で計算してくれます。
ひずみテンソルに関する情報まとめ
- ひずみテンソル:3次元の1点でのひずみ状態を表す3×3対称行列、記号 ε
- 9成分:垂直ひずみ3個(εxx, εyy, εzz)+せん断ひずみ6個(εxy=εyx 等)。独立成分は6個
- テンソルひずみと工学ひずみ:せん断成分で2倍ずれる(γxy = 2×εxy)
- 主ひずみ:ひずみテンソルの固有値 ε1, ε2, ε3。座標軸を回転させてせん断成分をゼロにした状態
- 応力テンソルとの違い:応力は内力(N/mm²)、ひずみは変形(無次元)。フックの法則で結ばれる
- 施工管理での出番:FEM 解析報告書の主ひずみコンター、3D ひび割れ解析、ひずみゲージモニタリング、地震応答の事後評価
- 注意点:①テンソル/工学ひずみの2倍差、②2D/3Dの区別、③微小変形前提、④弾性域以外は主軸が回転する、⑤実用は主ひずみ・ミーゼスひずみで集約
以上がひずみテンソルに関する情報のまとめです。「テンソル」と聞くと身構えがちですが、結局は「3次元の伸び縮みと角度変化を、まとめて9個の数で書いたもの」。日常の現場で直接計算することはなくても、FEM 解析の報告書や 構造ヘルスモニタリングで必ず出てくる概念なので、構造設計者と話す際の 共通言語として押さえておくと便利な知識ですね。
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