- 上降伏点ってなに?
- 下降伏点とどう違うの?
- 応力ひずみ曲線のどこを見ればいい?
- SS400だと値はいくつ?
- 設計に使う降伏点はどっちなの?
- ミルシートに「降伏点」と書いてあるけど上下どっち?
上記の様な悩みを解決します。
上降伏点は、結論「軟鋼の引張試験で、応力ひずみ曲線が最初に折れる『ピークの値』」のこと。試験機で鋼材を引っ張ると、ある瞬間に応力がポンと跳ね上がってから一気に下がる現象が起きて、このピークが上降伏点、その後落ち着いた水平領域が下降伏点。設計で使う「降伏点」は基本的に下降伏点を採用するのですが、ミルシートには上降伏点が記載されているケースもあって、ここがけっこう混乱ポイント。本記事ではこの「ピーク値と落ち込み値」の違いを応力ひずみ曲線とセットで整理しておきましょう。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
上降伏点とは?
上降伏点とは、結論「軟鋼の引張試験において、応力ひずみ曲線が初めて折れ曲がる時のピーク値」のことです。
英語では upper yield point または upper yield stress。記号は σuy または ReH(JIS・ISO表記)。単位は N/mm²(=MPa)。
上降伏点が出る現象
軟鋼(SS材・SN材・SM材など、低炭素鋼の総称)を引張試験機にかけて少しずつ引っ張っていくと、
- 最初は応力ひずみが直線(弾性域)
- ある応力で応力がピンと跳ね上がる(上降伏点)
- その直後に応力がストンと落ち込む(下降伏点へ移行)
- 一定の応力でひずみだけが伸びる(降伏棚=降伏プラトー)
- 再び応力が上昇(ひずみ硬化)
- 引張強さに達して破断
という挙動を示します。「ピンと跳ね上がってからストンと落ちる」この瞬間こそが上降伏点。試験機のチャートで確認すると、本当に針がガクッと動くので、見ればすぐ分かるレベルの現象です。
なぜ上降伏点が出るのか
軟鋼の中の 転位(結晶のずれ)が動き始めるのに必要な力と、動き始めたあとに必要な力が違うため、と説明されています。要は 「最初の一押し」 に必要な力と、「動き出してからの維持」 に必要な力の差ですね。動き出すまでは結晶の固定(コットレル雰囲気)が抵抗するけれど、いったん抜け出すと一気に滑り出す、というイメージ。
金属によって出方が違う
- 軟鋼(SS400・SN400他):明確な上降伏点と降伏棚が出る → 上下降伏点が両方ある
- 高強度鋼(SS490・SM490他):降伏点がはっきり出にくく、0.2%耐力で代用
- アルミ・銅:そもそも明確な降伏点が出ない → 0.2%耐力ベースで設計
つまり「上降伏点が出るのは軟鋼だけの特徴」と言えます。建築構造で主役の SS400・SN材は典型的な軟鋼なので、この上下降伏点の議論がストレートに当てはまります。
応力ひずみ全体像はこちらに整理してあります。

上降伏点と下降伏点の違い
上降伏点と下降伏点を、機能面で並べておきます。
| 項目 | 上降伏点 σuy | 下降伏点 σly |
|---|---|---|
| 出現タイミング | 弾性域から塑性域への最初のピーク | ピーク後に落ち着いた水平値 |
| 値の傾向 | 下降伏点よりやや高い(数N/mm²〜十数N/mm²) | 安定した値 |
| 試験条件の影響 | 試験速度・グリップ・温度に敏感で値が変動しやすい | 比較的安定 |
| 物理的意味 | 転位が動き出す瞬間 | 動き出した後の維持に必要な応力 |
| 設計での扱い | 通常使わない(再現性が低いため) | 設計の降伏点として採用(再現性が高い) |
| JIS規格での扱い | 規格上の最低値の規定対象 | 規格上の最低値の規定対象 |
「設計で使うのは下降伏点」
実務でよく聞く「SS400 の降伏点は 235 N/mm²」という値は、下降伏点を指しています。設計用には「ばらつきの少ない安定値」が欲しいので、上下が出る材料では下降伏点を採用するのが定石。ただし規格本文では「降伏点」と書かれているケースも多く、上下の区別を明示しないところがあるので、混乱の元になるんですね。
「ミルシートの『降伏点』はどっちか」
ミルシートに書かれている降伏点の値は、メーカー・試験条件で上下どちらを記載しているかが異なるのが実情。「Yield Point(YP)」表記なら上降伏点採用が多く、「ReH / ReL」(JIS/ISO記号)なら上下が明示されています。買い手側としては 「JIS/規格上の最低値以上か」だけ確認すれば実務上は十分です。

応力ひずみ曲線の中での位置
実際の応力ひずみ曲線と上下降伏点の位置関係を整理しておきます。
軟鋼の応力ひずみ曲線(典型形)
- 比例限度(点①):応力ひずみがほぼ完全に直線。フックの法則が成立
- 弾性限度(点②):荷重を抜けば残留ひずみゼロで戻る上限
- 上降伏点(点③):応力がピンと跳ね上がるピーク
- 下降伏点(点④):上降伏点直後の落ち込み値
- 降伏棚(区間③〜⑤):応力が一定でひずみだけ伸びる区間
- ひずみ硬化開始(点⑤):再び応力上昇
- 引張強さ(点⑥):応力ピーク
- 破断(点⑦):くびれて分離
実務的な大きさ感:
- 弾性限度 ≒ 比例限度 ≒ 200 N/mm² 程度(SS400)
- 上降伏点 ≒ 240〜260 N/mm²(SS400 の代表値)
- 下降伏点 ≒ 235〜245 N/mm²(SS400 の代表値)
- 引張強さ ≒ 400〜500 N/mm²(SS400 の規格範囲)
「比例限度〜上降伏点〜下降伏点〜引張強さ〜破断」のうち、構造設計で主役になるのは 下降伏点(≒設計用降伏点)と 引張強さ(F値の上限を決めるための値)の2つです。
上降伏点を超えると何が起きる?
上降伏点までは弾性体扱いですが、超えた瞬間に 転位が一斉に滑り出して塑性変形へ。応力ひずみが落ち込んで降伏棚に入り、もう 荷重を抜いても完全には元に戻らない状態になります。鉄骨が「降伏した」「塑性化した」と言われるのは、この瞬間以降のことを指します。
弾性域から塑性域への遷移については、こちらにも整理してあります。

主要鋼材の上下降伏点の値
実務でよく出てくる鋼材の降伏点規格値を整理しておきます。
JIS規格・建築構造用 主要グレード
| 材質 | 板厚区分 | 規格降伏点(最低値) | 規格引張強さ(範囲) |
|---|---|---|---|
| SS400 | 16mm 以下 | 245 N/mm² 以上 | 400〜510 |
| SS400 | 16mm 超 40mm 以下 | 235 N/mm² 以上 | 400〜510 |
| SS400 | 40mm 超 100mm 以下 | 215 N/mm² 以上 | 400〜510 |
| SN400A/B/C | 12mm 以下 | 235 N/mm² 以上 | 400〜510 |
| SN400B | 12mm 超 40mm 以下 | 235〜355 | 400〜510 |
| SN490B/C | 12mm 超 40mm 以下 | 325〜445 | 490〜610 |
| SM490 | 16mm 以下 | 325 N/mm² 以上 | 490〜610 |
注意点
- これらの規格値は設計上の保証最低値。実物のミルシート値は数十N/mm²上回るのが普通です(ばらつきを織り込んだ最低値設定)
- SN材は 降伏点に上限値が設定されている点が特徴。例えばSN400Bは上限355に頭打ち。これは「強すぎる材料は塑性ヒンジが想定外の場所に出るので耐震性能が下がる」という考え方に基づくもの
- F値(建築基準法上の基準強度)はこれらの規格降伏点をベースに、引張強さの2/3で頭打ちしたもの
例えば SS400(板厚 22mm)のミルシート実値が「降伏点 280 N/mm²、引張強さ 460 N/mm²」なら、
- 規格最低値(235)はクリア → 設計OK
- 設計上はあくまで F = 235 N/mm² で計算(実値は使わない)
という整理になります。


設計で使う降伏点はどっち?
結論からまとめると、
設計で使うのは「下降伏点」または「規格降伏点(最低値)」
理由:
- 上降伏点は試験速度・グリップ条件でばらつきが大きい
- 下降伏点は再現性が高く、安定した値
- 構造設計は「ばらつきを織り込んだ最低値」を基準にしないと安全側に振れない
規格降伏点 = ほぼ下降伏点という関係
JIS G 3101(SS材)、JIS G 3136(SN材)、JIS G 3106(SM材)などの規格本文では、降伏点として 「下降伏点(または0.2%耐力)以上」 という形で最低値を規定しています。実質的に「規格降伏点 ≒ 下降伏点ベース」と理解しておけば実務上問題ありません。
F値(基準強度)との関係
F値は構造設計上の基準値で、「規格降伏点と引張強さの2/3のうち、小さい方」で決まります。SS400なら、
- 規格降伏点:235 N/mm²
- 引張強さ最低値の2/3:400 × 2/3 ≒ 267 N/mm²
- 小さいほう = 235 N/mm² がF値
このF値を1.5で割ったものが長期許容引張応力度(156 N/mm²)、F値そのものが短期許容引張応力度(235 N/mm²)。「降伏点(下)→ F値 → 許容応力度」の流れで設計に組み込まれていきます。
許容引張応力度の流れはこちらに整理しています。

僕も新人時代、ミルシートに 「降伏点 280 N/mm²」と書いてあるのを見て、「え、SS400の規格は235のはずなのに、なんで280?数値ミス?」と先輩に確認したことがあります。「ミルシートはあくまで実測値、設計はあくまで規格最低値」「規格より上回るのは当然で、それが品質保証」と教わって、目から鱗でしたね。「実値は規格より大きいのが当たり前。ピッタリ最低値なんてミルシートはむしろ要警戒」という感覚は、施工管理として現場に立つと自然と身についてきます。
上降伏点に関する情報まとめ
- 上降伏点とは:軟鋼の引張試験で応力ひずみ曲線が最初に折れるピーク値
- 下降伏点との違い:上は試験条件で変動しやすいピーク値、下は安定した水平値
- 設計で使うのは下降伏点(≒規格降伏点):再現性が高く安全側に振りやすいため
- 応力ひずみ曲線:弾性 → 上降伏点 → 下降伏点 → 降伏棚 → ひずみ硬化 → 引張強さ → 破断
- 主要値:SS400 降伏点235以上、SN400B 235〜355、SM490 325以上(板厚40mm以下基準)
- ミルシート実測値は規格最低値より数十N/mm²大きいのが普通
以上が上降伏点に関する情報のまとめです。
上降伏点・下降伏点は 「軟鋼ならではの2段階降伏」 という独特の現象で、初学者がつまずきやすいところ。「ピンと跳ね上がるのが上、落ち着いた値が下、設計は下を使う」というシンプルな整理を頭に入れておけば、構造計算書とミルシートの数字の関係がクリアに見えてきますよ。一通り基礎知識は理解できたと思います。
合わせて、降伏点の周辺概念や鋼材規格の押さえどころも整理しておくと、構造の読み解き力が一段アップしますよ。




