- 地震層せん断力係数ってなに?
- 「Ci」って何の記号?
- Z・Rt・Ai・C0って結局どう決めるの?
- 1階と最上階で値が違うのはなぜ?
- 1次設計と2次設計で計算が変わるって本当?
- 構造計算書のどこに書いてあるの?
- 現場で読むときに何を見ればいい?
上記の様な悩みを解決します。
地震層せん断力係数とは、結論「建物の各階に作用する地震力(層せん断力)を、その階より上の建物重量で割った無次元の係数」のことです。記号は Ci。建築基準法施行令第88条に定められた 地震力計算の中核で、構造設計者が一次設計(許容応力度計算)でまず最初に求めるのがこの値。Ci は Z(地域係数)×Rt(振動特性係数)×Ai(高さ方向分布係数)×C0(標準せん断力係数) の4つの係数の積で決まります。「式は知ってるけど、各係数の意味が腹落ちしない」「上の階ほど Ci が大きいのに、なぜ下の階の方がせん断力は大きくなるのか」と詰まる人が多いポイントを、施工管理が構造計算書を読み解く視点で整理します。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
地震層せん断力係数とは?
地震層せん断力係数とは、結論「建物の各階に作用する地震力の大きさを、上載重量で正規化(無次元化)した係数」のことです。
記号は Ci(i は階数を表す添字)。各階ごとに値が違うのが最大の特徴です。建築基準法施行令第88条と、関連する 建設省告示第1793号で決め方が定められています。
1階当たりの層せん断力 Qi
Ci を使うと、各階の層せん断力 Qi は次のように書けます。
Qi = Ci × Wi
- Qi:i 階に作用する 層せん断力(kN)
- Ci:i 階の 地震層せん断力係数(無次元)
- Wi:i 階より上の 建物重量(固定荷重+積載荷重、kN)
つまり Ci は「i 階より上の建物重量の何倍の水平力が、i 階の柱・耐震壁に効くか」を表す比率。Ci=0.2 なら、上階重量の 2割の水平力が i 階のせん断力になる、という直感で読めます。
「層せん断力」という用語の意味
層せん断力とは、ある階の 柱・耐震壁の断面を水平に切ったときに、そこに作用する水平力の合計。建物に地震が来ると、各階の柱・壁が せん断力(横方向のずれの力)を負担して上階の慣性力を地盤に伝えていきます。Qi はその階の柱・壁が持たないといけない水平力、Ci はその大きさを上載重量に対する比率で表したもの、という関係です。
地震荷重そのものの全体像はこちらにまとめています。

地震層せん断力係数の計算式(Ci=Z×Rt×Ai×C0)
地震層せん断力係数の 公式は次の通り。
Ci = Z × Rt × Ai × C0
- Z:地域係数(0.7〜1.0)
- Rt:振動特性係数(建物固有周期と地盤種別で決まる、0〜1.0)
- Ai:高さ方向の分布係数(1階で1.0、上階ほど大きい)
- C0:標準せん断力係数(一次設計で0.2、二次設計で1.0)
4つの係数を 掛け算するシンプルな式ですが、各係数に「何を表しているか」の物理的な意味が詰まっています。
式を読み解く順序
実務で Ci を計算するときは、ふつう次の順番で各係数を決めます。
- C0(=0.2 または 1.0)を決める → 一次設計か二次設計かで先に確定
- Z を地域別表から拾う → 建設地が決まれば一意に決まる
- 建物固有周期 T を計算する → 鉄骨造や RC 造で簡易式があり、これが Rt の入力になる
- Rt を地盤種別+T から求める → 告示の式 or 図表で読む
- Ai を各階ごとに計算する → 階ごとに値が変わるのでループになる
- Ci = Z × Rt × Ai × C0 を各階で計算
→ Z と C0 は 建物全体で共通、Rt も全階共通(建物固有周期は1つ)。階ごとに値が変わるのは Ai だけ、というのが構造を理解するうえで重要です。
許容応力度計算のフローはこちらに整理しています。

各係数(Z・Rt・Ai・C0)の意味
①地域係数 Z
地域ごとの 地震頻度・強度を反映した係数。
| 地域 | Z |
|---|---|
| 沖縄県 | 0.7 |
| 北海道東部・北部、九州南西部の一部 | 0.8 |
| 北海道南西部、関西の一部 | 0.9 |
| その他の大半の地域(東京・大阪等) | 1.0 |
→ 過去の地震動記録から地震が 少ない地域は Z を下げて設計を経済化、多い地域は基準値(1.0)で設計、という考え方。沖縄が0.7なのは「過去に大きな地震が記録されていないから」で、近年の知見で「Z は0.9以上にすべきでは」と議論があります。
②振動特性係数 Rt
建物の 固有周期 Tと 地盤種別で決まる、地震動のスペクトル特性を表す係数。
| 地盤種別 | 想定地盤 | Tc(基準周期) |
|---|---|---|
| 第1種地盤 | 岩盤・洪積層など堅い地盤 | 0.4秒 |
| 第2種地盤 | 第1種にも第3種にも該当しない地盤(標準) | 0.6秒 |
| 第3種地盤 | 沖積層(軟弱地盤) | 0.8秒 |
Rt の式は、
- T < Tc:Rt = 1.0
- Tc ≤ T < 2Tc:Rt = 1 – 0.2 × (T/Tc – 1)²
- T ≥ 2Tc:Rt = 1.6 × Tc / T
→ 短い周期(背の低い建物)では Rt=1.0 で頭打ち、長い周期になるほど Rt が小さくなる。これは「長周期建物は地震で揺れにくい」という共振現象を反映したもの。短周期側で頭打ちにしているのは安全側に倒すため。
③高さ方向分布係数 Ai
各階ごとの 層せん断力の分布を表す係数。1階で Ai=1.0、上階ほど大きくなります。
Ai = 1 + (1/√αi - αi) × 2T / (1 + 3T)
- αi:i 階より上の建物重量を、全建物重量で割った比(0〜1)
- T:建物の固有周期(秒)
→ 物理的には「地震では上階ほど揺さぶられて加速度が大きくなる」ことを反映。最上階の Ai は 2〜3倍になることが多く、塔屋や屋上設備の設計ではこれが効いてきます。
④標準せん断力係数 C0
地震規模の基準値で、
- C0 = 0.2:一次設計(許容応力度計算、中地震レベル)
- C0 = 1.0:二次設計(保有水平耐力計算、大地震レベル)
- C0 = 0.3 以上:軟弱地盤(第3種地盤)の 木造建築物
→ 「200gal の地動加速度」を200/980≒0.2と無次元化したもの、というのが C0=0.2 の起源。0.2 はあくまで 一次設計の中地震用なので、大地震に対する 保有水平耐力を確認する二次設計では C0=1.0 を使います。
剛性率・偏心率の話はこちらに整理しています。


計算例:5階建ての Ci
具体例で Ci の挙動を見ていきます。
前提条件
- 5階建て、各階の建物重量 1,000kN(合計5,000kN)
- 地域:東京(Z=1.0)
- 地盤:第2種地盤、建物固有周期 T=0.5秒
- 一次設計(C0=0.2)
- 第2種地盤の Tc=0.6秒なので、T=0.5<Tc より Rt=1.0
Ai の計算
各階で αi を求めて Ai を計算します(細かい計算は省略しますが、5階建ての標準的な値)。
| 層 | 上載重量 Wi | αi | Ai |
|---|---|---|---|
| 5階 | 1,000 kN | 0.20 | 約2.20 |
| 4階 | 2,000 kN | 0.40 | 約1.66 |
| 3階 | 3,000 kN | 0.60 | 約1.36 |
| 2階 | 4,000 kN | 0.80 | 約1.13 |
| 1階 | 5,000 kN | 1.00 | 1.00 |
Ci と Qi の計算
Ci = 1.0 × 1.0 × Ai × 0.2 = 0.2 × Ai
| 層 | Ci | Wi | Qi = Ci×Wi |
|---|---|---|---|
| 5階 | 0.44 | 1,000 | 440 kN |
| 4階 | 0.33 | 2,000 | 660 kN |
| 3階 | 0.27 | 3,000 | 810 kN |
| 2階 | 0.23 | 4,000 | 920 kN |
| 1階 | 0.20 | 5,000 | 1,000 kN |
ここで初心者がつまずくポイント
「Ci は最上階が大きい(0.44)のに、なぜ層せん断力 Qi は1階が大きい(1,000kN)のか?」
→ 答えは Wi(上載重量)が下階ほど大きいから。Ci は「比率」、Wi は「絶対値」。1階は 5階分の重量を背負っているので、比率が小さくても絶対値では大きくなります。
直感的に言うと、「上の階は揺さぶられ方は激しいが、軽い。下の階は揺さぶられ方は穏やかだが、重い荷物を背負っている」。結果として 下の階ほど苦労する、という現代建築の鉄則がここで現れます。
1階のせん断力 Qi=1,000kN の意味
5階建て・全重量5,000kN の建物に対して、1階に 1,000kN(=全重量の20%)の水平力が作用するということ。これは C0=0.2 が「全建物重量の20%の水平力に耐える」という設計思想そのものを表しています(一次設計)。
水平荷重の全体像はこちらに整理しています。

1次設計と2次設計の違い
①1次設計(許容応力度計算)
中規模地震(震度5強程度、再現期間50年)に対して、建物が 損傷しないことを確認する設計。
- C0 = 0.2
- 各部材の応力が 許容応力度以内に収まることをチェック
- 木造2階建て・小規模 RC 造などはここで完結
→ 「ふつうの地震で壊れない」を確かめるのが一次設計。
②2次設計(保有水平耐力計算)
大規模地震(震度6強〜7、再現期間500年)に対して、建物が 倒壊しないことを確認する設計。
- C0 = 1.0(一次設計の 5倍)
- 各階の 保有水平耐力 Quが、必要保有水平耐力 Qun を上回ることをチェック
- 必要保有水平耐力:Qun = Ds × Fes × Qud
- Ds:構造特性係数(粘り強さで0.25〜0.55)
- Fes:形状特性係数(剛性率・偏心率の悪さで1.0〜1.5)
- Qud:C0=1.0で計算した層せん断力
→ 「大地震でも倒壊しない」を確かめるのが二次設計。
1次設計と2次設計の使い分け
| 項目 | 1次設計 | 2次設計 |
|---|---|---|
| C0 | 0.2 | 1.0 |
| 想定地震 | 中地震(年1回程度) | 大地震(数百年に1回) |
| 確認内容 | 損傷限界 | 倒壊限界 |
| 適用建物 | すべての建築物 | 高さ31m超 or 特定建築物 |
| 設計手法 | 許容応力度計算 | 保有水平耐力計算 |
→ 高さ60m以下の建物は 1次設計+2次設計の 2段階チェックが原則(ルート3)、簡略化したのが ルート1(高さ20m以下、ブレース構造などの一部)と ルート2(壁量+剛性率・偏心率チェック)。
2025年4月の建築基準法改正との関係
2025年4月施行の建築基準法改正で、いわゆる 「4号特例」が縮小され、木造2階建ても構造計算が原則必要になりました。木造2階建てでも一次設計(許容応力度計算)を行い、Ci での層せん断力チェックが標準ワークになります。設計の現場では Ci の意味を理解する 意匠・施工側の人も増えていく流れです。
壁量計算(木造の地震力検討)はこちら。

層間変形角の話はこちら。

地震層せん断力係数を扱うときの注意点
施工管理が 構造計算書を読むときや 設計者と話すときに押さえておきたいポイント。
①Ci が異常に大きい階に注目する
構造計算書の Ci 一覧を見て、ある階だけ Ci が突出して大きいときは「Ai が偏っている=重量配分が偏っている」サイン。塔屋(PH 階)や 重い屋上設備(高架水槽・室外機)がある建物では、最上部の Ai が 2.5〜3倍になることがあり、設備計画の段階で意匠・構造とのすり合わせが効いてきます。
②Z=1.0 が想定されているか確認する
物件によっては「節電のため」「地盤がいいから」と Z を下げる提案が出ることもありますが、Z は地域で決まるため設計者の裁量で動かしません。設計者から「Z=0.9で計算した」と言われたら、告示の地域区分表を確認するクセをつけると安心です。
③Rt は固有周期 T の精度に依存する
T は建物の 形状・剛性に依存する値で、設計初期の 概算値を使うか、FEM 解析の固有値解析結果を使うかで Rt が変わります。設計が進んで T が大きくなると Rt が小さくなり Ci が下がる、という変化が起きるので、設計の各段階で Ci を再計算しているかは構造設計者に確認するポイント。
④C0=0.2 は「最低限」と理解する
C0=0.2 の地震力で許容応力度計算が通ったとしても、それは「中地震で部材が降伏しない」というだけ。施工管理の立場では「この建物は震度7に耐えられるのか」と聞かれることがありますが、それは二次設計(C0=1.0)で確認しているので、保有水平耐力計算の結果を見ないと答えられない、という認識が大事です。
⑤数値は「1次設計」か「2次設計」かを必ず明示する
「Ci=0.2」と聞いたら必ず「それは一次設計?二次設計?」と確認しましょう。一次設計では Ai=1.0 の最下層で Ci=0.2 になりますが、二次設計では同じ最下層でも C0=1.0 を使うので Ci=1.0 と桁が違います。設計図書で Ci の表が出てきたら、ヘッダの設計区分をまず確認するクセをつけると、誤読が防げます。
地盤種別・N 値の話はこちら。


地震層せん断力係数に関する情報まとめ
- 地震層せん断力係数 Ci:各階に作用する層せん断力を上載重量で正規化した無次元係数。Qi=Ci×Wi
- 計算式:Ci = Z × Rt × Ai × C0
- Z(地域係数):0.7〜1.0、地域別に固定。東京・大阪等は1.0
- Rt(振動特性係数):建物固有周期と地盤種別で決まる。短周期建物は1.0
- Ai(高さ方向分布係数):階ごとに変わる。1階で1.0、上階ほど大きい(最上階は2〜3倍)
- C0(標準せん断力係数):一次設計0.2 / 二次設計1.0
- 計算例:5階建てで1階の Qi=1,000kN(全重量の20%、C0=0.2の意味そのまま)
- 直感に反するポイント:上階ほど Ci は大きいが、Wi が小さいので Qi は下階ほど大きい
- 施工管理の読み方:①Ci が突出して大きい階に注目(重量偏在のサイン)、②Z は告示で固定、③Rt は固有周期 T の精度に依存、④C0=0.2 は最低限、⑤一次設計か二次設計かを必ず確認
以上が地震層せん断力係数に関する情報のまとめです。Ci は構造計算の 入り口の式ですが、各係数に「地震動・建物・地盤の物理」が詰まっています。施工管理が構造計算書を読むときは「Ci の数字」だけでなく「なぜその値になっているか」まで読み解けると、設計者との会話の解像度が一段上がります。Ci の周辺概念(剛性率・偏心率・層間変形角)は連動して動くので、関連記事も合わせて読むと理解が深まりますね。
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