- 引張荷重ってなに?
- 引張力・引張応力度とどう違うの?
- 単位はNとkNのどっちで書く?
- 計算方法ってどうやるの?
- SS400やSD345だと許容値はいくつ?
- 現場のどこで「引張荷重」が出てくるの?
上記の様な悩みを解決します。
引張荷重は、結論「部材を両端から引き伸ばす方向にかかる外力」のことで、ボルト・アンカー・鉄筋・吊りワイヤーなど「引っ張られる部品」の設計で必ず登場する基本量です。教科書だと「引張力」と一緒くたに説明されがちですが、外から加わる力(荷重)と、部材の内部に発生する応答(応力)は別物として整理しないと、ミルシートの読み方や許容値の使い分けで必ず詰まります。本記事では「引張荷重 → 引張力 → 引張応力度」の3段階を切り分けつつ、SS400・SD345・F10Tハイテンションボルトの実用値まで一気に整理しておきましょう。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
引張荷重とは?
引張荷重とは、結論「部材を引き伸ばす方向に作用する外力」のことです。
英語では tensile load(テンサイルロード)または tension load。記号は P や N(Normal force の N)が使われます。「Normal force(軸方向力)」と呼ばれることもあり、軸力(じくりょく)の中でプラス側=引張、マイナス側=圧縮という整理になります。
引張荷重がかかる代表的な部位
引張荷重がかかる代表的な部位は、鉄骨ブレース(筋かい)の引張側、屋根トラスの下弦材、高力ボルト(ハイテンションボルト)の軸方向、アンカーボルト(耐震・耐風時の引抜方向)、吊り天井のワイヤー・吊りボルト、鉄筋コンクリート梁の引張側鉄筋、クレーンの吊り具・玉掛けワイヤー、というあたり。
「部材が引き伸ばされる方向に外から押し込まれる力」というのが基本イメージ。地震時の柱脚アンカーや、風荷重で持ち上げられる屋根のホールダウン金物など、構造設計で「この部材は引張で効かせる」と決めた箇所には必ずこの引張荷重が作用しています。
引張荷重・引張力・引張応力度の違い
施工管理として一番つまずきやすいのが、「引張荷重」「引張力」「引張応力度」の3つを混同してしまうこと。
| 用語 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| 引張荷重 P | 部材に外から作用する引っ張り力(外力) | N、kN |
| 引張力 N | 部材内部で釣り合っている軸方向力(内力) | N、kN |
| 引張応力度 σ | 単位面積あたりの引張力 | N/mm²、MPa |
整理のコツ
外から押されてくるエネルギー(荷重)と、その押されたエネルギーに対して部材内部で発生する反力(力)と、断面1mm²あたりに換算した値(応力度)。3者は場面によって呼び分けます。
設計図書・荷重表では「引張荷重 100 kN」のように外力ベースで書く、構造計算書では「引張力 N = 100 kN」のように内力として釣り合い計算、許容応力度の照査では「引張応力度 σ = 100,000 ÷ 200 = 500 N/mm²」と単位面積に換算、というかたち。
つまり同じ「100 kN」でも、見ている視点が「外から見るか・部材内部から見るか・断面に均すか」で呼び方が変わるんですね。引張の読み方や複合語については別記事に整理しているので、用語面で混乱したらそちらもどうぞ。

引張荷重の単位
引張荷重の単位は、結論「N(ニュートン)またはkN(キロニュートン)」が標準です。
SI単位系(現行)
SI単位系は、N(ニュートン)が「質量1kgの物体に1m/s²の加速度を生じる力」、kN(キロニュートン)が1kN = 1,000Nで建築構造ではこちらが主役、というあたり。
従来単位(参考)
従来単位は、kgf(重量キログラム)が1kgf ≒ 9.80665N ≒ 9.81N、tf(重量トン)が1tf = 1,000kgf ≒ 9,807N ≒ 9.81kN、というあたり。
換算の早見
| 単位 | 換算 |
|---|---|
| 1 kN | ≒ 102 kgf |
| 1 tf | ≒ 9.81 kN |
| 100 kN | ≒ 10.2 tf |
| 10 N | ≒ 1 kgf |
古い設計図書や職人さんの会話では「3トン引っ張る」「5トン耐力」のように tf 表記が出てきますが、現行のJIS・建築基準法ベースの構造計算書はすべて kN 表記。図面の数値が tf で書かれていたら、頭の中で「× 9.81 ≒ 約10倍してkNに換算」する癖をつけておくと混乱しません。
引張荷重の計算方法
引張荷重の計算は、考え方によって2パターンあります。
①「外力としての引張荷重」を求める計算
外力としての引張荷重を求める計算は、死荷重(部材自重)×部材数、風荷重・地震荷重などの水平力×引張側分担分、機械装置の自重×吊り点数、地下水圧による浮き上がり力、というあたり。
設計用の引張荷重を求める段階ですね。「この鉄骨ブレースには地震時に何kNの引張がかかるか」「このアンカーには風で何kN引き抜かれるか」を計算します。
②「許容できる引張荷重」を求める計算(耐力計算)
許容引張荷重 P = 許容引張応力度 σa × 有効断面積 A
ここでσaが許容引張応力度(N/mm²)、Aが引張を受ける有効な断面積(mm²)。
具体例で考えてみます。
例:M20ハイテンションボルト1本の引張耐力
ボルト材質F10T(引張強さ1,000 N/mm²、降伏点900 N/mm²)、軸断面積(M20ねじ部の有効断面積)A = 245 mm²、短期許容引張応力度σa = 約500 N/mm²(材料規格・告示による)、許容引張荷重 ≒ 500 × 245 = 122,500 N = 約123 kN、という計算。
「F10TのM20ボルト1本で、短期は約120kN引っ張れる」というのは、現場でも頻出の数字。アンカーボルトの本数決めや、引張側ブレースの取り付けボルト本数を決める基準値ですね。
応力ひずみの基本を押さえておくと、この耐力計算の前提がもっと腑に落ちますよ。

主要鋼材・鉄筋の引張荷重まわりの値
実務で頻出する材料の引張側の代表値を整理しておきます。
鋼材(建築用)
| 材質 | 降伏点 | 引張強さ | 短期許容引張応力度(目安) |
|---|---|---|---|
| SS400 | 235以上(厚さ40mm以下) | 400〜510 | 235 N/mm²(短期) |
| SN400B | 235〜355 | 400〜510 | 235 N/mm²(短期) |
| SM490 | 325以上 | 490〜610 | 325 N/mm²(短期) |
| STKR400 | 235以上 | 400〜540 | 235 N/mm²(短期) |
※短期許容応力度は、長期の概ね1.5倍。建築基準法施行令・告示2466号などで定められた値が使われます。
鉄筋
| 材質 | 降伏点(規格降伏点) | 短期許容引張応力度 |
|---|---|---|
| SD295A/B | 295〜(D29以下:規格による) | 295 N/mm²(短期) |
| SD345 | 345〜440 | 345 N/mm²(短期) |
| SD390 | 390〜510 | 390 N/mm²(短期) |
ハイテンションボルト
| ボルト | 引張強さ | 1本あたり短期許容引張荷重(M20軸断面245mm²) |
|---|---|---|
| F8T | 800 N/mm² | 約 98 kN |
| F10T | 1,000 N/mm² | 約 122 kN |
これらの値はミルシート(鋼材試験成績書)で実測値を確認できます。図面で「F10T M20を6本使用」と指示されていれば、引張耐力は単純計算で約122kN × 6本 = 約732kNまで耐える。地震時の引抜力がそれ以下に収まるかをチェックするのが、構造図照査の基本動作ですね。


現場で引張荷重が問題になる場面
施工管理として「引張荷重」が頭に浮かぶシーンを整理しておきます。
①玉掛け・揚重作業
クレーンで梁を吊り上げるときのワイヤー1本にかかる引張荷重を計算しないと、スリングの本数・サイズが決められません。「質量5tの梁を4点吊り、吊り角度60度」なら、1本あたり約 14.4 kN(≒1.47tf)の引張がかかる──こうした数値感覚は鉄骨建方の必須スキル。
②アンカーボルトの引抜照査
地震時・台風時に、柱脚や屋根が「持ち上げられる方向」に力を受けます。アンカーボルト1本あたりの引張荷重が許容値を超えていないか、構造計算書の「アンカー検討表」で必ず確認します。
③吊り天井・吊りボルト
天井下地に取り付けたエアコン・照明器具・スピーカーの自重 × 安全率が、吊りボルト1本の引張荷重。1m間隔の野縁受けが600N/m²の天井荷重を負担すると、吊りボルト1本あたり約180Nの引張、と概算できます。
④トラス下弦材・引張ブレース
H鋼ブレースの引張側、屋根トラス下弦材、ターンバックルブレースの軸力が引張荷重そのもの。特にX型ブレースの場合、地震時には「片方が引張・もう片方が圧縮」になるため、引張用に引張耐力照査、圧縮用に座屈照査──の2方向検討が必要になります。


僕も電気工事の現場で、ケーブルラックの吊りボルトに重量配電盤を吊ろうとして、構造担当に「M10吊りボルト1本だと引張耐力が足りない、M12に変えるか吊り点を増やせ」と差し戻された経験があります。電気屋でも「重量物の吊り=引張荷重の検討」は避けて通れない世界なんですよね。
引張荷重に関する情報まとめ
- 引張荷重とは:部材を引き伸ばす方向に作用する外力
- 引張力・引張応力度との違い:荷重(外力)→ 力(内力)→ 応力度(単位面積換算)
- 単位:N(ニュートン)、kN(キロニュートン)。1kN ≒ 102kgf、1tf ≒ 9.81kN
- 計算:許容引張荷重 P = 許容引張応力度 σa × 有効断面積 A
- 代表値:SS400 短期235 N/mm²、SD345 短期345 N/mm²、F10T M20 約122kN/本
- 現場での出番:玉掛け・アンカー引抜・吊り天井・引張ブレース・トラス下弦材
以上が引張荷重に関する情報のまとめです。
引張荷重は「外から引っ張る力」ですが、現場では アンカーの引抜・ボルトの締付軸力・ワイヤーの吊り張力 など、構造の安全に直結する場面で必ず出てきます。「100kNと書かれていたら、約10tの大型車を持ち上げる相当の力」と肌感覚を持っておくと、図面の数値の重みが伝わりやすいですよね。一通り基礎知識は理解できたと思います。
合わせて、ボルトや鉄筋といった「実際に引張を受ける部材側」の知識も押さえておくと、構造図の読み取り精度がグッと上がりますよ。





