- ボルトの許容せん断応力度って結局なに?
- 長期と短期で値がどう変わるの?
- F値からどうやって計算するの?
- 高力ボルトと普通ボルトで考え方が違うって本当?
- 一面せん断・二面せん断ってどっちで数えるの?
- 結局ボルト何本必要か、どう出すの?
- 摩擦接合と支圧接合でせん断の扱いは?
- 図面のボルト本数、根拠を聞かれると答えに詰まる
上記の様な悩みを解決します。
ボルトの許容せん断応力度は、鉄骨の接合部が「何本のボルトで持つのか」を決める根っこの数字です。ここが曖昧なままだと、施工図のボルト本数を鵜呑みにするしかなく、現場で「この本数で合ってる?」と聞かれても根拠を持って答えられません。今回は定義・長期短期の考え方・F値との関係といった基本を押さえた上で、施工管理目線で「高力ボルトと普通ボルトの違い」「一面・二面せん断の数え方」「本数計算の流れ」「摩擦接合と支圧接合の扱いの差」まで、現場でつまずくポイントを整理しました。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
ボルトの許容せん断応力とは?
ボルトの許容せん断応力度とは、結論「ボルトの断面が、せん断(横ずれさせる力)に対して安全に負担してよい応力の上限値」のことです。単位はN/mm²で表します。
接合部でボルトに働く代表的な力は「引張(軸方向に引き抜かれる力)」と「せん断(軸に直交してずらされる力)」の2種類です。梁と柱をつなぐガセットプレートやスプライスプレートのように、部材同士が面でずれようとする継手では、ボルト1本1本がこのずれを止める役割を担います。このとき1本あたりが受け持てるせん断の限界を、断面積あたりの応力で表したものが許容せん断応力度です。
大事なのは、この値が「材料の壊れる強さそのもの」ではなく、そこに安全率を見込んで下げた「使ってよい上限」だという点です。壊れる強さ(せん断強さ)に対して、長期荷重・短期荷重それぞれに応じた安全率を掛けて許容値を決めています。だから同じボルトでも、常時かかる長期荷重に対する許容値と、地震や風などの短期荷重に対する許容値では数字が変わります。
応力そのものの考え方を整理したい場合はこちらが詳しいです。

僕の感覚だと、施工管理としてはここを「材料の限界のさらに内側に、安全のマージンを取った線引き」と捉えておくと十分です。設計者が構造計算で使う数字ではありますが、現場でボルト本数の妥当性を判断したり、継手の変更が出たときに「本数を増やす必要があるか」を一次的に見立てるうえで、意味を分かっているのと丸暗記なのとでは対応の質がまるで変わります。
ボルトの許容せん断応力度の値と長期・短期
許容せん断応力度は、鋼材の基準強度Fから決まります。せん断は引張に比べて弱く効くため、F値をそのまま使うのではなく「√3で割る」考え方が基本です。長期と短期の関係は次の通りです。
| 区分 | 許容せん断応力度 fs | 考え方 |
|---|---|---|
| 長期 | F ÷(1.5×√3) | 基準強度に長期の安全率を見込んだ値 |
| 短期 | F ÷ √3 | 長期の1.5倍(地震・風など短期荷重用) |
Fは鋼材ごとに決まる基準強度で、普通ボルト(中ボルト)の母材がSS400相当なら板厚40mm以下でF=235N/mm²が代表値です。これを上の式に当てはめると、長期の許容せん断応力度はおおむね90N/mm²前後、短期はその1.5倍、という水準感になります。数値の根拠は建築基準法施行令第90条・第92条や日本建築学会「鋼構造設計規準」にあるので、設計上の正確な値は必ず最新の規準・告示で確認してください。
このF値の扱いは鋼材共通のロジックなので、SS400やF値そのものを整理しておくと理解が早いです。

現場目線で言えば、覚えておくと効くのは「短期は長期の1.5倍」という関係です。地震力や風荷重を含む短期の検討では許容値が1.5倍に緩む、つまり同じ継手でも短期のほうがボルトが余裕を持つ、という感覚さえ持っておけば、検討条件が長期か短期かで話が噛み合わなくなる事故を防げます。許容応力度計算全体の枠組みはこちらで補完できます。

高力ボルトと普通ボルトでせん断の考え方が違う
ここが一番の勘所です。同じ「せん断で力を伝える」ように見えても、高力ボルトと普通ボルトでは力の伝わり方が根本的に違い、許容せん断力の求め方も別物になります。
普通ボルト(中ボルト)は、ボルトの軸そのものがせん断で踏ん張って力を伝えます。つまり「許容せん断応力度×ボルト軸断面積」で1本あたりの許容せん断力が出る、素直な考え方です。一方、高力ボルトの摩擦接合は、強く締め付けて板同士を押し付け、その摩擦力で力を伝えます。ボルト軸のせん断ではなく「板がすべり出すかどうか」で決まるため、許容せん断力はすべり係数と締付け張力から算定します。
| 項目 | 普通ボルト(せん断・支圧) | 高力ボルト(摩擦接合) |
|---|---|---|
| 力の伝達 | ボルト軸のせん断・板の支圧 | 板と板の摩擦 |
| 決まり方 | 許容せん断応力度×軸断面積 | すべり係数×締付け張力×摩擦面数 |
| すべり係数μ | 使わない | 0.45(標準的な錆面等) |
| 施工管理の要点 | 緩み・本数 | 締付けトルク・摩擦面の管理 |
| 代表用途 | 二次部材・仮設・小規模 | 主要な鉄骨継手 |
高力ボルト摩擦接合そのものの仕組みは、この記事が深掘りしています。

高力ボルトの規格(F10T・S10Tなど)で数字がどう変わるかは、こちらも合わせて読むと整理できます。

僕としては、施工管理が押さえるべき本質は「高力ボルトのせん断は、軸の強さじゃなく摩擦で決まる」という一点だと思っています。だからこそ摩擦接合では、締付けトルクの管理や摩擦面(黒皮除去・自然発錆・すべり止め処理)の状態が、そのまま許容せん断力の前提になる。ここを理解していると、なぜミルシートやトルク管理記録がうるさく問われるのかが腹落ちします。高力ボルトの全体像はこちらから辿れます。

一面せん断・二面せん断で許容耐力が倍変わる
せん断面の数え方は、本数計算で最も間違いやすいところです。ボルトが「何枚の板の境界でせん断されるか」で、1本あたりの許容せん断力が丸ごと倍になったりします。
ボルトが2枚の板をつなぐ(重ね継手)とき、ずれる境界はボルト軸の1か所だけなので一面せん断です。ボルトが3枚重ね(中央の板を両側の板で挟む添え板継手)をつなぐときは、ずれる境界がボルト軸に2か所できるので二面せん断になり、同じボルトでも許容せん断力は2倍として扱えます。
| せん断面数 | 板の重なり方 | 1本あたり許容せん断力 |
|---|---|---|
| 一面せん断 | 2枚重ね(重ね継手) | 基本値のまま |
| 二面せん断 | 3枚重ね(両面添え板) | 基本値の2倍 |
有効断面積の考え方や、ボルト孔による断面欠損は下記が参考になります。

正直なところ、この一面・二面の取り違えは、実務でも試験でも定番のミスです。「添え板が両面に入っているか、片面か」を継手のディテールで確認すれば判断できるので、施工図を見るときは板の枚数とボルトが横切る境界の数を必ず数える癖をつけると安全です。断面欠損とセットで見ておくと、継手の弱点になりやすい箇所も見えてきます。

ボルト本数の計算の流れ
許容せん断応力度が分かると、継手に必要なボルト本数を出せます。流れはシンプルで、次の手順で考えます。
- 継手に働くせん断力(設計用の外力)を把握する
- ボルト1本あたりの許容せん断力を求める(許容せん断応力度×軸断面積×せん断面数、または摩擦接合の算定式)
- 必要本数=継手のせん断力 ÷ 1本あたり許容せん断力(端数は切り上げ)
- 支圧・縁端距離・ピッチなど他の条件も満たすか確認する
- 長期・短期の両方で検討し、厳しいほうで決める
例えば、継手に短期で400kNのせん断が働き、高力ボルト1本あたりの許容せん断力(該当条件)が70kNだとすれば、400÷70=5.7…で、切り上げて6本必要、といった具合に見当がつきます。実際には摩擦面数や規格で1本あたりの値が変わるため、正確な1本あたり許容せん断力は鋼構造設計規準の早見表で拾うのが確実です。
ボルトの締付けはトルク管理と直結します。トルクの単位や考え方はこちらで補えます。

実務だと、施工管理がこの計算を一から回す場面は多くありません。ただ「本数×1本あたりの耐力=継手が持つ力」という骨格を持っておくと、設計変更で継手のせん断力が増えたときに「なら本数か規格を上げる必要がありそうだ」と即座に反応できます。逆にこの骨格がないと、施工図の本数変更が来ても妥当性を判断できず、丸呑みするしかなくなります。
現場・図面でつまずくポイントと注意点
最後に、許容せん断応力度まわりで施工管理が実際にハマりやすいポイントを整理します。数字の丸暗記より、こういう落とし穴を知っておくほうが現場では効きます。
- 長期と短期を取り違える(短期は1.5倍、地震時の検討条件を混同しない)
- 一面せん断と二面せん断の数え間違いで本数の根拠がずれる
- 高力ボルトを普通ボルトの感覚で「軸のせん断」で考えてしまう
- 摩擦面の処理不良(黒皮・塗装・油)で摩擦接合の前提が崩れる
- 引張とせん断が同時に働く継手で、せん断だけ見て引張を見落とす
引張が絡む継手では、せん断と引張を同時に受ける「組合せ応力」の検討が必要になります。引張側の許容応力度はこちらが参考になります。

現場目線で言えば、一番怖いのは摩擦面の管理です。高力ボルトの許容せん断力は「板がすべらない」ことが大前提なので、摩擦面に油が付いた、想定外の塗装が乗った、というだけで前提そのものが崩れます。締付けトルクの記録と摩擦面の状態確認は、単なる書類仕事ではなく、許容せん断応力度の前提を担保する行為だと捉えておくと、検査の意味がぶれません。
ボルトの許容せん断応力に関する情報まとめ
- 定義:ボルト断面がせん断に対して安全に負担してよい応力の上限値(単位N/mm²)
- 長期・短期:長期はF÷(1.5√3)、短期はその1.5倍(F÷√3)
- F値:鋼材の基準強度から決まる(正確な値は施行令・鋼構造設計規準で確認)
- 高力ボルトと普通ボルトの違い:普通は軸のせん断、高力(摩擦接合)は板の摩擦で決まる
- せん断面:一面か二面かで1本あたりの許容せん断力が倍変わる
- 本数計算:継手のせん断力÷1本あたり許容せん断力を切り上げ、長期短期の厳しいほうで決める
- 注意点:長期短期の取り違え、せん断面の数え間違い、摩擦面管理、引張との組合せ
以上がボルトの許容せん断応力に関する情報のまとめです。
ボルトの許容せん断応力度は、突き詰めると「継手が何本のボルトで持つか」を裏で決めている数字です。長期短期の関係、F値からの決まり方、高力ボルトと普通ボルトで考え方が変わること、せん断面の数え方、この4点を押さえておけば、施工図のボルト本数を根拠を持って読めるようになります。数字を丸暗記するより、力の伝わり方をイメージできることのほうが、現場では確実に武器になるはずです。
ボルトの許容せん断応力に関するよくある質問
Q1:許容せん断応力度と許容せん断力は何が違いますか?
許容せん断応力度は「断面積あたり」の上限値(N/mm²)で、材料の性質から決まる単価のような数字です。対して許容せん断力は、それにボルトの軸断面積とせん断面数を掛けて出す「1本あたりが負担できる力」(kNなど)で、実際の本数計算に使うのはこちらです。応力度が単価、許容せん断力が金額、とイメージすると混同しません。
Q2:なぜせん断はF値を√3で割るのですか?
引張に比べてせん断は材料が弱く効くためです。金属の降伏を扱うミーゼスの考え方では、せん断で降伏に達する応力が引張の約1/√3になります。この関係を許容応力度に持ち込んで、せん断の許容値をF÷√3(短期)としているわけです。だから同じ鋼材でも、せん断の許容値は引張より小さくなります。
Q3:高力ボルトの許容せん断力はどこで調べればいいですか?
日本建築学会「鋼構造設計規準」の早見表で、規格(F10T等)・呼び径・摩擦面数ごとの1本あたり許容せん断力が整理されています。摩擦接合はすべり係数と締付け張力から決まるため、普通ボルトのように応力度×断面積では出ない点に注意してください。設計図書や構造計算書に採用値が明記されていることも多いので、まずはそちらを確認するのが早いです。
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