- 強化ガラスって、見た目は普通のガラスと同じ。何が違うの?
- 施主に「割れないガラス」って説明していいの?
- 割れたら粒みたいになるって本当?ケガしにくい?
- 寸法が合わなかったら、現場で切ったり穴をあけたりできる?
- 倍強度ガラスや合わせガラスとは、どう使い分ければいい?
- 何もしていないのに突然割れたって聞いた。原因は?
- 強化ガラスかどうか、現場で見分ける方法はある?
上記の様な悩みを解決します。
強化ガラスとは、板ガラスを熱処理して表面に圧縮の力を持たせ、割れにくくしたうえで、割れると細かい粒状になり、破片が当たっても負傷のおそれが少ないガラスです。ネット上の解説はガラス販売店や工事会社の記事が多く、製品としての特徴紹介が中心で、「割れないんですよね」と聞かれたときに割れ方や自然破損をどこまで伝えるか、という話にはあまり触れられていません。この記事では、施主への伝え方と、強化後に加工できない前提で製作図に決めておくことまで整理します。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、施主への説明や製作図のチェックを任されたばかりの方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
強化ガラスとは?普通のガラスより強くなる仕組み
強化ガラスとは、結論「熱処理でガラスの表面に圧縮応力層をつくり、同じ厚さのフロート板ガラスより割れにくくしたガラス」のことです。普通のガラスとの違いは、ガラスの内部に残っている力のかかり方にあります。
規格上の位置づけから押さえます。日本産業標準調査会(JISC)のJIS検索では、JIS R 3206が規格名称「強化ガラス」として登録されていて、最新改正年月日は2023年6月20日です。板硝子協会の「強化ガラス・倍強度ガラス使用手引書」(2011年2月初版)は、冒頭で「本パンフレットは、「熱処理ガラス」に分類される「強化ガラス(JIS R 3206)」と「倍強度ガラス(JIS R 3222)」についてまとめたものです。」と書いています。強化ガラスは、倍強度ガラスと並ぶ熱処理ガラスの一つという扱いです。
つくり方は、AGCのGlass Plaza「強化ガラス」のページが順を追って説明しています。フロート板ガラスを軟化温度(約650℃)付近まで加熱したあと、表面に空気を吹き付けて急冷します。表面は先に温度が下がって縮みながら固まり、内部は遅れて縮もうとしますが、先に固まった表面の層がその縮みを抑えます。その結果、同ページの言葉では「ガラス表面には圧縮応力層、ガラス内部には引張り応力層が生じた状態になります。」。
強さの目安は、板硝子協会の手引書が「耐風圧強度、熱割れ強度等は、同厚フロート板ガラスの約3.5倍。」としています。比べる相手は同じ厚さのフロート板ガラスで、比べているのは耐風圧強度や熱割れ強度などです。熱割れ強度もこの約3.5倍に含まれているので、「熱で割れにくいって本当?」への答えは、この資料の範囲では「同厚のフロート板ガラスより熱割れ強度が高い」になります。一方でAGCのGlass Plaza「よくあるご質問[強度]」は、強化ガラスについて「ガラス表面の硬度を高くしたものではありません。」と書いています。高くなっているのは耐風圧強度や熱割れ強度などの強度で、表面そのものが硬くなったわけではない、という区別です。
僕がこの章で一番押さえてほしいのは、強化ガラスの注意点のうち次の3つが、表面の圧縮応力層と内部の引張応力層のバランスに結び付けて説明されていることです。AGCの「テンパライト・注意事項・品質保証等」と板硝子協会の手引書を読むと、どれも応力のバランスで書かれています。
- 強化処理のあとは、切断も孔あけも切り欠きもできない(AGCは、全体として応力のバランスが保たれていることを理由に挙げている)
- 割れるときは、バランスが崩れて一瞬で全面が細かい粒状になる(AGC)
- 異物がつくった傷が引張応力層にあると、そこからひび割れが進み、バランスが崩れた時点で割れる(板硝子協会)
この3つは、あとの章でそれぞれ扱います。表面と内部の力がつり合った状態で出荷されるガラスだと捉えておくと、「後から加工できない」「割れるときは全面が一度に割れる」「異物が原因で、いつ割れるか読めない割れ方がある」が、ばらばらの注意書きではなく一続きの話として頭に入ります。
強化ガラスの割れ方と、施主への伝え方
結論、強化ガラスは「割れにくいガラス」であって、割れないわけではありません。施主に「割れないんですよね?」と聞かれたら、まずそこを正直に返すところから始めます。
割れ方は、AGCのGlass Plaza「テンパライト・注意事項・品質保証等」がはっきり書いています。破損時には表面の圧縮応力層と内部の引張応力層のバランスが崩れ、「一瞬にしてガラスの全面が細かく粒状に破損します。」とされています。同じページには「施工条件によっては破損時にガラスが脱落することがあります。」「破砕しても粒が離れずに破片の塊になることもあります。」ともあり、破損時には音を伴う場合があるとも書かれています。通常は粒がバラバラになりますが、施工条件によっては脱落することも、粒が離れずに塊になることもある、ということです。
安全ガラスと呼ばれる理由は、割れたときの破片の形にあります。板硝子協会の手引書は強化ガラスの破損性状を「細かい粒状になり、破片が当たっても負傷のおそれが少ないことが特徴です。」とし、そのため「ガラスを用いた開口部の安全設計指針」で安全ガラスとされている、と説明しています。この指針を示した国土交通省(旧建設省)の通達の別添の解説にも、「合わせガラス及び強化ガラスは安全ガラスとして用いられている」とあります。
もう一つ、施主にも職人さんにも共有しておきたいのが端部の弱さです。セントラル硝子の「強化ガラスのご注意」は「強化ガラスは、面内に比べエッジ部は、耐衝撃強度が弱くなります。」「ガラス面やエッジに傷をつけますと、強度が低下します。」としています。AGCの注意事項ページも「ガラスのエッジとサッシなどの金属との直接接触は、絶対に避けてください。」と書き、板硝子協会の手引書にも「ガラス面やガラスの角、小口に傷をつけないようにしてください。」とあります。搬入で角を床に突かない、ガラス扉の小口に台車や脚立を当てないといった養生の段取りに、この注意書きを落として読むのが実用的だと思います。
防犯について聞かれたときも、先に線を引いておきます。AGCの注意事項ページは強化ガラスについて「防犯性は高くありません。」とし、板硝子協会の手引書も「強化ガラス、倍強度ガラス単体使用では防災・防犯性能はありません。」としています。「強いガラス」という言葉から侵入対策まで期待されやすいので、ここは聞かれる前に伝えておくほうが食い違いが起きません。
ここまでと、後の章で扱う自然破損を施主に伝える内容として並べると、次の6つです(出典は各段落のとおり)。
- 同じ厚さのフロート板ガラスより割れにくいが、割れないわけではない
- 割れるときは一瞬で全面が細かい粒状になり、破片が当たっても負傷のおそれが少ない
- 施工条件によっては割れたときに脱落することがあり、粒が離れず塊になることもある
- 端部(エッジ・小口)は面内より衝撃に弱く、傷がつくと強度が下がる
- 硫化ニッケルなどの異物がきっかけで割れることがあり、いつ割れるかの正確な推定は難しい(板硝子協会)
- 防犯性は高くない
言い方にすると、たとえば「同じ厚さの普通の板ガラスより割れにくくて、割れても細かい粒になるので、破片が当たってもけがをするおそれが少ないガラスです。ただ、割れないわけではありません。割れるときは全面が一度に粒になり、施工の条件によってはそのまま外れて落ちたり、粒が離れずに塊になったりすることもあります。ガラスの中に混ざった異物がきっかけで割れることもあり、いつ割れるかを正確に見通すのは難しいとされています。端をぶつけると弱く、傷がつくと強度が下がります。防犯用のガラスでもありません」くらいが、資料の範囲を出ない説明になります。正直なところ、ここを「割れない」と言い切ってしまうと、後の章で扱う自然破損が起きたときに、それまでの説明と話が合わなくなります。
倍強度ガラス・合わせガラス・網入りガラスとの違い|割れたあとに残るかで選ぶ
結論、4つのガラスは「どれが一番強いか」ではなく、「割れたあとにどうなるか」と「どの指針・告示に位置付けられているか」で分けると、選定で迷いにくくなります。
まず混同されやすい倍強度ガラスです。板硝子協会の手引書によると、倍強度ガラスは強化ガラスよりもおだやかに冷却してつくり、耐風圧強度、熱割れ強度等は同厚フロート板ガラスの約2倍です。破損性状は「強化ガラスのように粒状に割れずに、フロート板ガラスに近い割れ方となります。」とされています。同じ手引書は一般出入口扉などに使う場合について、「倍強度ガラスは安全ガラスではないので合わせガラスにするなど破損脱落の防止処理が必要です。」と書いています。名前に「強度」が入っていても、安全設計指針で安全ガラスとされているのは強化ガラスの側です。
今回確認した資料に書かれている範囲だけで、4つを並べると次のとおりです。強さの欄と、強化ガラス・倍強度ガラスの割れ方・位置付けの欄は板硝子協会の手引書、合わせガラスの欄は国土交通省(旧建設省)通達の別添、網入板ガラスの欄はセントラル硝子のよくあるご質問とAGC・セントラル硝子の注意事項によります。
| ガラス | 強さの目安(同厚フロート板ガラス比) | 割れ方・位置付け |
|---|---|---|
| 強化ガラス(JIS R 3206) | 耐風圧強度、熱割れ強度等 約3.5倍 | 細かい粒状に割れる。安全設計指針で安全ガラス |
| 倍強度ガラス(JIS R 3222) | 耐風圧強度、熱割れ強度等 約2倍 | フロート板ガラスに近い割れ方。安全ガラスではない |
| 合わせガラス | この記事では扱わない | 安全ガラスとして用いられている |
| 網入板ガラス | この記事では扱わない | 耐火・準耐火建築物の屋根(トップライト)で該当するのは鉄材で補強された網入板ガラス。強化ガラスには加工できない |
僕の考えでは、使い分けは「割れたあと、その場にガラスが残っていてほしいか」という問いに置き換えると実用的です。割れたときの破片によるけがを減らしたい場所なら、粒状に割れる強化ガラスが候補になります。一方、板硝子協会の手引書は、落下高さと厚さの組み合わせで示した高所や、人通りが多い箇所、庇・屋根トップライト等の水平や傾斜面に強化ガラスを使う場合には、合わせガラスにするなどの飛散・脱落防止処置を推奨しています(高さと厚さの条件は最後の章で扱います)。
屋根は別の話になります。板硝子協会の手引書は「※建築基準法上の「耐火構造の屋根」の該当部分は、網入りガラスとする必要があります。」としています。セントラル硝子のよくあるご質問も、「強化ガラスは屋根に使えますか?」に対して「原則として、強化ガラス単体では使うことはできません。」と答え、耐火・準耐火建築物では屋根(トップライト)に耐火構造が要求され、該当するガラスは告示で例示された「鉄材で補強された網入板ガラス」しかない、と理由を説明しています。なお、網入板ガラス・線入板ガラスを強化ガラスにすることはできないと、AGCとセントラル硝子がどちらも注意事項に書いています。
防火設備との関係も、「強化ガラスなら使える」とは言えません。板硝子協会の手引書は注記で「耐熱強化ガラスも強化ガラスに含まれます。」としています。国土交通省の技術的助言(国住指第4397号)は、防火設備のガラスについて、網入りガラスのほか「防火上有効に炎を遮ることができることが確認されている耐熱強化ガラス、耐熱結晶化ガラスなどの防火ガラスについても、告示に位置付けることとした。」と説明しています。実際の告示を見ると、平成31年3月29日の国土交通省告示第470号で平成12年建設省告示第1360号(防火設備の構造方法を定める件)が改正され、耐熱強化ガラスには「厚さが六・五ミリメートル以上であり、かつ、エッジ強度が二百五十メガパスカル以上であるものに限る。」という限定が付いています。告示に位置付けられたのは厚さ6.5ミリ以上かつエッジ強度250MPa以上の耐熱強化ガラスで、JIS R 3206の強化ガラスならどれでも防火設備に使えるわけではありません。防火設備が要る開口部では、ガラスの種類だけで判断せず、設計図書・確認検査機関・メーカーに仕様を確認してください。
合わせガラスの構造や種類については、こちらで整理しています。

網入りガラスの種類と、網入りならではの割れ方は別の記事で扱っています。

断熱を目的に選ぶ真空ガラスと複層ガラスの違いは、こちらにまとめています。

強化ガラスは後から切れない|製作図の段階で決め切る寸法と加工
結論、強化ガラスは強化処理のあとに寸法も形も変えられないので、製作図の段階で寸法と加工を全部決め切ることが、発注の段取りの中心になります。
加工できないことは、AGCとセントラル硝子が注意事項で明記しています。AGCのGlass Plaza「テンパライト・注意事項・品質保証等」は、強化ガラスと熱処理ガラスに共通する注意として、全体として応力のバランスが保たれているため「強化処理後の切断はできません。正確な使用寸法でご注文ください。」とし、強化処理後の孔あけや切り欠きも同じ理由でできないとしています。セントラル硝子の「強化ガラスのご注意」も「製造後の切断および孔あけ、面取り、切り欠き、曲げなどの加工はできません。寸法および形状は正確にご注文ください。」と書いています。セントラル硝子の記載には、面取りと曲げまで入っています。
つまり、搬入してから寸法が合わないと分かっても、ガラス側を詰めて納める手段が残っていません。採寸や製作図の寸法が違っていれば、そのガラスは使えず作り直しになる、という前提で工程を組むことになります。さらにAGCの注意事項ページには「製法上寸法精度はフロート板ガラスより悪くなります。」ともあります。個人的には、枠やパーテーションの溝に対してガラス寸法を攻めすぎない納まりかどうかを、製作図のチェックで設計者とガラス業者に確かめておくのが安全だと感じます。
発注前に決め切っておく項目を、AGCとセントラル硝子の注意事項に出てくる寸法・形状・加工の語から拾うと、次の6つです。
- 製作寸法(縦×横)と呼び厚さ
- 形状(矩形でなければ形がわかる図)
- 孔あけの有無と、位置・大きさ
- 切り欠きの有無と、位置・寸法
- 面取りの有無と仕様
- 曲げの有無
孔に金物やボルトが通るガラス扉やパーテーションでは、孔の位置と一緒に、孔のまわりの納まりも決めておきます。セントラル硝子の「強化ガラスのご注意」は「ガラスのエッジ部や孔あけ部はサッシなどの金属部との接触を絶対に避けてください。」としているので、金物との取り合いも製作図で見ておく項目です。
建具表に「強化ガラス t10」と書かれていても、そこで読み取れるのは種類と厚さまでです。上の6つが製作図のどこで決まっているかまで追って、はじめて発注できる状態になります。図面の厚み表記の読み方は、こちらで確認できます。

作れる大きさには上限と下限があり、上限はメーカーによって違います。AGCのGlass Plaza「テンパライト」商品ページの寸法表と、セントラル硝子の「品種・仕様」にあるテンパレックスの寸法を並べると次のとおりです。
| 呼び厚さ | AGC テンパライト 最大寸法(mm) | AGC テンパライト 制約面積(m²) | セントラル硝子 テンパレックス 最大寸法(mm) |
|---|---|---|---|
| 4ミリ | 2,400×1,200 | 2.40 | 2,000×1,200 |
| 5ミリ | 2,600×1,800 | 4.32 | 2,400×1,800 |
| 6ミリ | 3,600×2,440 | ― | 3,600×2,400 |
| 8・10・12・15・19ミリ | 4,500×2,440 | ― | 4,800×2,400 |
最小寸法は、AGCのテンパライト、セントラル硝子のテンパレックスとも250×100ミリです。AGCの4ミリ・5ミリには制約面積があるので、最大寸法の縦と横をどちらもいっぱいに取った大きさでは作れません。また同じ呼び厚さでも、8〜19ミリの最大寸法はAGCが4,500×2,440ミリ、セントラル硝子が4,800×2,400ミリと違います。AGCの商品ページには「ガラスの品種・寸法などは予告なく変更することがありますのでご了承ください。」ともあるので、大きな開口では、製作図を描く前に採用するメーカーの最新の寸法表で当たっておきます。
強化ガラスの自然破損とヒートソーク処理
結論、強化ガラスは硫化ニッケルなどの異物がきっかけで割れることがあり、ヒートソーク処理でその頻度は下げられますが、すべてを取り除くのは難しいとされています。
原因について、板硝子協会の手引書はこう説明しています。「ガラスには製造過程でさまざまな異物が混入します。その一つに硫化ニッケル(NiS)があります。」竣工後、硫化ニッケルは環境の変化を受けて「大部分が数日~数年の間に4%ほど体積膨張し、ガラス内部に微少な傷をつくることがあります。」。その傷が引張応力層内にあると、そこを起点にひび割れが徐々に成長し、圧縮応力層と引張応力層のバランスが崩れた時点で破損します。同じ手引書は「異物が破損につながるか、いつ破損するかは異物の大きさや形状、位置、ガラスの使用環境により大きく異なり正確な推定は困難です。」とも書いています。
その対策がヒートソーク処理です。板硝子協会の手引書はヒートソーク処理を「強化加工後に再加熱処理し、異物が含まれている強化ガラスを人工的に破壊させる方法」と説明し、「この処理により、破損の発生頻度を低減することはできますが、すべて除去することは難しいのが現状です。」としています。なお同じ手引書によると、倍強度ガラスも強化ガラスと同様に自然破損する場合がありますが、非常に稀であることと、割れ方がフロート板ガラスに近いことから、ヒートソーク処理は行われていません。
注意したいのは、ヒートソーク処理をするかどうかがメーカー・品種・厚さで違うことです。AGCの注意事項ページは「強化ガラスのヒートソーク処理の実施については、品種により異なります。」としたうえで、「商品、構法にかかわらず、呼び厚さ6ミリ以上の強化ガラス製品には全数ヒートソーク処理を実施しています。」と書いています。一方でAGCのテンパライト商品ページには、呼び厚さ4ミリ・5ミリのガラスは不意の破損の発生確率が比較的低いため、ヒートソーク処理を施さない<テンパライトNS>を用意している、という注記があります。セントラル硝子は「品種・使用部位に応じてヒートソーク処理を施しています。」という書き方です。ヒートソーク処理の有無は「強化ガラスだから入っている」と決めつけず、発注時に品種と仕様で確かめます。
自然破損で割れたときに誰の負担になるか、保証の対象になるかは、この記事では扱いません。そのうえで現場目線で言えば、あとから経緯を説明できるように記録を残しておくのが、施工管理として打てる備えです。残しておきたいのは次の4つです。
- 発注したガラスの品種名・呼び厚さと、ヒートソーク処理の有無
- 納品されたガラスの品種がわかる書類
- 施主に割れ方と自然破損の可能性を伝えた日と内容(打合せ記録など)
- 割れたときに撤去する前の状態の写真と、打刻マークがあればその写真
AGCは1995年7月以降に出荷している強化ガラス製品(フレームレスファサードに使用するものなどを除く)に品種・製造年月・製造工場などの情報のマークを打刻しているので(次の章)、マークの写真があれば、メーカーに問い合わせるときに品種を伝えやすくなります。
強化ガラスが使われる場所と、現場での見分け方
結論、強化ガラスの使いどころを考えるときに出てくるのは、通達で示された「ガラスを用いた開口部の安全設計指針」と、板硝子協会加盟3社の推奨です。見分け方の手がかりは、AGCが1995年7月以降に出荷している強化ガラス製品の打刻マークです(テンポイント構法など、フレームレスファサードに使用する強化ガラスを除く)。
安全設計指針は、建設省住指発第116号(昭和61年5月31日)の住宅局建築指導課長通達として、特定行政庁建築主務部長あてに出されたものです。通達は「貴職におかれても、本指針を行政上の参考として活用することにより、ガラスによる日常生活上の重大な傷害等の防止を図られたい。」としています。別添の目的には「人体衝突に関する安全設計法はいままでに用意されていない。」という問題意識が書かれていて、人がガラスにぶつかったときの安全を扱う指針だと分かります。セントラル硝子のよくあるご質問も、指針は「法令や告示とは違い、ガイドラインのようなもの」と考えられる、と答えています。指針そのものは参考という位置付けですが、耐火・準耐火建築物の屋根(トップライト)では告示で例示された「鉄材で補強された網入板ガラス」しか該当しないとセントラル硝子のよくあるご質問が説明しており、防火設備では平成31年の国土交通省告示第470号による改正で、耐熱強化ガラスに厚さとエッジ強度の条件が付いています。告示でガラスの種類や条件が決まっている場所もあるので、場所ごとに設計図書で確認します。
高さの目安は、板硝子協会の手引書にある使用基準が具体的です。手引書は「板硝子協会加盟3社では、下記の使用基準を推奨しています。」とし、強化ガラスを次のような場所に使う場合には、合わせガラスにするなどの飛散・脱落防止処置を施すことを推奨しています。
- 落下高さが3m以上(厚さ6ミリ以上)の高所
- 落下高さが16m以上(厚さ5ミリ以下)の高所
- 人通りが多い箇所
- 庇・屋根トップライト等の水平面や傾斜面
3mと16mは、厚さとの組み合わせで示された推奨です。水平面や傾斜面について、同じ手引書は、万一破損した場合に比較的大きな破片の塊となって落下する恐れがあるため、人が乗ることを前提としない場合でも、使用する高さにかかわらず強化ガラス・倍強度ガラスの単板使用や複層ガラス下側への使用を避けて、合わせガラスにすることを推奨しています。AGCの注意事項ページも、地上または床面(歩行面)からガラス上端部までの高さが「表の16m、または3mを超える高さ」に強化ガラスを使う場合には、強化合わせガラスの採用や全面に飛散防止フィルムを貼るなど、施工法に応じた落下防止措置をとるよう求めています。高さの測り方や「以上」「超える」の書き方は資料ごとに違うので、該当しそうな高さの開口では、設計段階で採用メーカーの資料を当たっておきます。
現場で強化ガラスかどうかを確かめたいときは、まず打刻マークを探します。AGCの注意事項ページによると、AGCでは1995年7月以降に出荷している全ての強化ガラス製品に、品種・製造年月・製造工場などの情報のマークを打刻しています(テンポイント構法など、フレームレスファサードに使用する強化ガラスを除く)。テンパライト商品ページにも、透明タイプ<テンパライト>と型板タイプ<ミストロンエース>のガラス面には「TEMPERLITE」のマークが打刻されている、とあります。今回確認できたのはAGCの打刻の記載だけなので、マークが見当たらないことだけで強化ガラスではないと決めないでください。その場合は、納品書や発注記録、メーカーへの問い合わせで品種を確かめます。
型板ガラスそのものの特徴を知りたいときは、別の記事で扱っています。

見え方のクセもあります。セントラル硝子は、光の当たる角度と見る角度によって「ガラス表面に偏光による特殊な模様が見えることがあります」とし、製造上避けられない現象としています。AGCも「生産時の部分的な温度差の影響で、筋状あるいは斑状の模様が生じる場合があります。日射の状況によっては虹色に見えます。」「熱処理の影響により、通常の板ガラスと比較して、反射像や透視像のゆがみは大きくなります。」と書いています。3つとも、見分け方としてではなく注意事項として書かれているものなので、実務だと、模様やゆがみを見分け方には使わず、引き渡し前に施主へ伝えておく項目として扱うほうが使いやすいです。
強化ガラスに関する情報まとめ
- 強化ガラスとは:フロート板ガラスを加熱・急冷し、表面に圧縮応力層、内部に引張り応力層をつくったガラス。耐風圧強度・熱割れ強度等は同厚フロート板ガラスの約3.5倍(板硝子協会)で、表面の硬度を高くしたものではない(AGC)
- 割れ方と施主への説明:割れにくいが割れないわけではない。割れると一瞬で全面が細かい粒状になり、破片が当たっても負傷のおそれが少ない。施工条件によっては脱落することがあり、粒が離れず塊になることもある。端部は面内より衝撃に弱く傷で強度が下がり、防犯性は高くない。異物による自然破損があり、その時期の正確な推定は難しいこともあわせて伝える(AGC・板硝子協会・セントラル硝子)
- 倍強度・合わせ・網入りとの違い:倍強度ガラスは耐風圧強度・熱割れ強度等が同厚フロート板ガラスの約2倍でフロート板ガラスに近い割れ方、安全ガラスではない(板硝子協会)。耐火・準耐火建築物の屋根(トップライト)に強化ガラス単体は原則使えず(セントラル硝子)、網入・線入板ガラスは強化にできない(AGC・セントラル硝子)。防火設備の告示に位置付けられた耐熱強化ガラスは厚さ6.5ミリ以上かつエッジ強度250MPa以上に限られる(国土交通省告示第470号)
- 後から切れない:AGCは強化処理後の切断・孔あけ・切り欠き、セントラル硝子は切断・孔あけ・面取り・切り欠き・曲げなどの加工ができないと明記。最大寸法はメーカーと呼び厚さで違い、AGCの4ミリ・5ミリには制約面積がある
- 自然破損とヒートソーク処理:硫化ニッケルなどの異物で割れることがあり、ヒートソーク処理で頻度は下げられるがすべて除去するのは難しい(板硝子協会)。AGCは呼び厚さ6ミリ以上に全数実施で4ミリ・5ミリには処理しない品種もあり、セントラル硝子は品種・使用部位に応じて実施
- 使われる場所と見分け方:安全設計指針は通達で行政上の参考。板硝子協会加盟3社は落下高さ3m以上(厚さ6ミリ以上)・16m以上(厚さ5ミリ以下)の高所、人通りが多い箇所、水平面や傾斜面で合わせガラスなどの処置を推奨。AGCは1995年7月以降に出荷の強化ガラス製品に打刻マーク(フレームレスファサード用などを除く)
以上が強化ガラスに関する情報のまとめです。
強化ガラスで後から困る場面は、寸法や加工を詰め切らないまま製作図を返したときと、「割れない」と受け取られたまま引き渡したときの2つに集まると僕は考えています。建具表に強化ガラスとあったら、製作寸法と呼び厚さ・形状・孔あけ・切り欠き・面取り・曲げの6つを製作図で決め切り、採用メーカーの寸法表に収まるか、ヒートソーク処理の有無を品種と仕様で確かめます。あわせて、落下高さと厚さの組み合わせ、人通りの多さ、水平面や傾斜面か、屋根(トップライト)や防火設備に当たらないかを設計図書で確認しておきます。
施主には、割れにくいが割れないわけではないこと、割れると一瞬で全面が粒状になり破片が当たっても負傷のおそれが少ないこと、施工条件によっては脱落したり、粒が離れず塊になったりすること、異物がきっかけで割れることがありその時期の正確な推定は難しいこと、端部の傷や衝撃に弱いこと、防犯性は高くないことを先に伝えます。そして発注した品種・厚さ・ヒートソーク処理の有無、納品書類、説明した日と内容を残し、割れたときは撤去前の写真と、打刻マークがあればその写真を撮る。ここまで済ませておけば、発注でも説明でも後から慌てずに済むはずです。
建具の種類と建具表の読み方から整理し直したいときは、こちらを見てください。

ガラス扉を開き戸で納めるときの金物の種類は、こちらにまとめています。

強化ガラスについて現場で聞かれやすい5つの質問
Q1:施主に「割れないガラス」と説明してもいいですか?
説明しないほうがよいです。耐風圧強度や熱割れ強度などは同じ厚さのフロート板ガラスより高いものの(板硝子協会)、割れると一瞬で全面が粒状になり、施工条件によっては脱落することがあり、粒が離れず塊になることもあります(AGC)。硫化ニッケルなどの異物がきっかけで割れることもあり、いつ割れるかの正確な推定は難しいとされています(板硝子協会)。破片が当たっても負傷のおそれが少ない点と、端部の傷や衝撃に弱く防犯性は高くない点を、あわせて伝えます。
Q2:強化ガラスは防火設備の窓に使えますか?
JIS R 3206の強化ガラスならどれでも使えるわけではありません。平成31年の国土交通省告示第470号で防火設備の告示に位置付けられた耐熱強化ガラスは、厚さ6.5ミリ以上かつエッジ強度250MPa以上のものに限られます。この条件を満たせば使えるという意味ではないので、防火設備が要る開口部では、設計図書・確認検査機関・メーカーに仕様を確認してください。
Q3:強化ガラスはどれくらいの大きさまで作れますか?
メーカーと呼び厚さで違います。8・10・12・15・19ミリの最大寸法は、AGCのテンパライトが4,500×2,440ミリ、セントラル硝子のテンパレックスが4,800×2,400ミリです。AGCの4ミリ・5ミリには制約面積があり、縦横とも最大の寸法では作れません。
Q4:ヒートソーク処理をすれば、自然破損はなくなりますか?
なくなるとは言えません。板硝子協会の手引書は、頻度は下げられるがすべて除去するのは難しいとしています。実施もメーカー・品種・厚さで違い、AGCは呼び厚さ6ミリ以上に全数、4ミリ・5ミリには処理しない品種もあり、セントラル硝子は品種・使用部位に応じてです。
Q5:現場で寸法が合わないとき、強化ガラスを切って合わせられますか?
できません。AGCは強化処理後の切断・孔あけ・切り欠きが、セントラル硝子は切断・孔あけ・面取り・切り欠き・曲げなどの加工ができないと注意事項に明記しています。寸法・呼び厚さ・形状と加工の有無は、製作図の段階で決め切ります。
