- 特別教育は結局「資格」なのか、免許や技能講習と何が違うのか分からない
- 入場書類で「修了証を出して」と言われたが、修了証は法律で決まっているのか知りたい
- うちの作業が対象かどうか、1t未満・3t未満・10m未満といった線引きがあいまい
- 技能講習を持っていれば、特別教育は受けなくてよいのか
- eラーニングで受けた特別教育は有効なのか
- 受けさせずに作業させたら、罰則はあるのか
- 一覧の数や号番号がサイトごとに違い、どれが正しいのか分からない
上記の様な悩みを解決します。
結論、特別教育は労働者が取る資格ではなく、危険又は有害な業務につかせるときに事業者が行わなければならない教育です(労働安全衛生法第59条第3項)。対象の業務は労働安全衛生規則第36条の号で決まり、行わなかった場合は六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金です(法第119条第1号)。修了証の交付を定めた条文は確認した範囲に見当たらず、条文が求めているのは受講者と科目などの記録を三年間保存することです(安衛則第38条)。
落とし穴になりやすいのは、「修了証があること」を法定の要件のように扱ってしまう点と、「3t未満」「1t未満」のような線の手前と向こうで、特別教育と技能講習が入れ替わる点です。第36条は枝番を含めて全60項目あり、うち「十二」は削除なので、有効な号は59と数えられます(e-Gov掲載の2026年10月1日施行版をもとにした算出値)。サイトごとに一覧の数え方が違うので、この記事では条文から数えた算出値で示します。
オンラインで受けられるかは、学科と実技で扱いが分かれます。eラーニング等の通達(令和3年1月25日付、令和8年9月2日付で一部改正)の別表は、実技教育を講師と同一場所で対面により実施することとしています。この記事では、特別教育の定義と根拠、建設現場で当たる号、技能講習・免許・職長教育との違い、時間と科目、実施方法、修了証と記録、罰則の順に、条文の文言で確かめていきます。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、新規入場者教育や協力会社の書類確認を任されたばかりの若手監督にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
特別教育とは?法第59条第3項が定める事業者の義務
特別教育とは、結論「危険又は有害な業務に労働者をつかせる事業者が、その業務の安全又は衛生のために行う教育」のことです。根拠は労働安全衛生法第59条第3項で、条文は次のとおりです(e-Gov現行版・2026年10月1日施行)。
> 「事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。」
この条文の主語は「事業者」です。受ける側の労働者が自分で取りに行く資格として書かれているのではなく、雇って業務につかせる側が行う義務として書かれています(同法第59条第3項)。「誰が受けさせるのか、元請なのか雇い主なのか」と迷ったときは、まずこの主語に戻ると整理しやすくなります。
一方、免許や技能講習は同じ法律の別の条に置かれています。第61条第1項は、政令で定める業務について「免許を受けた者又は…技能講習を修了した者その他厚生労働省令で定める資格を有する者でなければ、当該業務に就かせてはならない」と定めていて、これが就業制限と呼ばれる仕組みです(労働安全衛生法第61条第1項、e-Gov現行版・2026年10月1日施行)。特別教育は第59条、就業制限は第61条と、条文の住所そのものが違うわけです。
僕は、特別教育を「人が持つ資格」としてではなく「会社が業務ごとに済ませておく教育」として捉えておくと、入場書類の見方まで一本の線でつながると考えています。安全衛生の規則全体の中でどの条がどこにあるかは、安衛則の条番号を整理した記事で全体像をつかめます。
特別教育が要る業務|安衛則第36条の号と建設現場で当たるもの
特別教育が要る業務は、労働安全衛生規則第36条に号として列挙されています。条文の柱書きは「法第五十九条第三項の厚生労働省令で定める危険又は有害な業務は、次のとおりとする」で、その下に第一号から第四十一号までが並んでいます(労働安全衛生規則第36条、e-Gov現行版・2026年10月1日施行)。
号の数え方|全60項目・うち十二は削除
第36条の号は、枝番(第四号の二、第五号の二〜第五号の四、第九号の二、第十号の二〜第十号の五など)を含めて数えると全60項目あります。このうち「十二」は「削除」とだけ書かれた空き番なので、現在中身のある号は59です(労働安全衛生規則第36条の号の見出しをe-Gov掲載の2026年10月1日施行版から数えた算出値)。
ここで気をつけたいのは、59は「号の数」であって、業務の種類の数そのものではないという点です。たとえば第四号は1つの号の中に高圧・特別高圧の充電電路の業務、低圧の充電電路の業務、配電盤室等の開閉器の操作の業務がまとめて書かれていますし、第十五号にはイ・ロの細分があります(同規則第36条第四号・第十五号)。サイトによって「◯種類」の数に違いが出るのは、こうした号の中身を分けて数えるか、建設で頻出のものだけを抜き出すかの基準の違いによるものと考えられます。
建設現場で当たる号と条文の線
建設現場で出番がありそうな号を、条文の文言に沿って要約したのが次の表です。数字の線は条文の書き方に合わせています(労働安全衛生規則第36条、e-Gov現行版・2026年10月1日施行)。
| 号 | 業務(条文の文言に沿って要約) |
|---|---|
| 一 | 研削といしの取替え又は取替え時の試運転の業務 |
| 三 | アーク溶接機を用いて行う金属の溶接、溶断等の業務 |
| 四 | 高圧(直流750V超・交流600V超、7,000V以下)・特別高圧(7,000V超)の充電電路等の敷設、点検、修理、操作の業務/低圧(直流750V以下・交流600V以下)の充電電路の敷設・修理の業務(対地電圧50V以下のもの等を除く)/配電盤室・変電室等に設置する低圧の電路のうち充電部分が露出している開閉器の操作の業務 |
| 五 | 最大荷重1トン未満のフォークリフトの運転の業務(道路上を走行させる運転を除く) |
| 五号の三 | 最大積載量が1トン未満の不整地運搬車の運転の業務(道路上を走行させる運転を除く) |
| 九 | 機体重量が3トン未満の令別表第七第一号・第二号・第三号・第六号の機械で、動力を用い、不特定の場所に自走できるものの運転の業務(道路上を走行させる運転を除く) |
| 九号の二 | 令別表第七第三号の機械で、不特定の場所に自走できるもの以外のものの運転の業務 |
| 九号の三 | 令別表第七第三号の機械で自走できるものの作業装置の操作の業務(車体上の運転者席における操作を除く) |
| 十 | 令別表第七第四号の機械で自走できるものの運転の業務(道路上を走行させる運転を除く) |
| 十号の二 | 令別表第七第五号の機械の作業装置の操作の業務 |
| 十号の三 | ボーリングマシンの運転の業務 |
| 十号の四 | 建設工事の作業を行う場合における、ジャッキ式つり上げ機械の調整又は運転の業務 |
| 十号の五 | 作業床の高さが10メートル未満の高所作業車の運転の業務(道路上を走行させる運転を除く) |
| 十一 | 動力により駆動される巻上げ機の運転の業務(電気ホイスト、エヤーホイスト、ゴンドラに係るものを除く) |
| 十五 | つり上げ荷重が5トン未満のクレーン、つり上げ荷重が5トン以上の跨線テルハの運転の業務(移動式クレーンを除く) |
| 十六 | つり上げ荷重が1トン未満の移動式クレーンの運転の業務(道路上を走行させる運転を除く) |
| 十七 | つり上げ荷重が5トン未満のデリックの運転の業務 |
| 十八 | 建設用リフトの運転の業務 |
| 十九 | つり上げ荷重が1トン未満のクレーン、移動式クレーン又はデリックの玉掛けの業務 |
| 二十 | ゴンドラの操作の業務 |
| 二十六 | 令別表第六の酸素欠乏危険場所における作業に係る業務 |
| 二十九 | 粉じん則の特定粉じん作業に係る業務(設備による注水又は注油をしながら行う作業を除く) |
| 三十 | ずい道等の掘削、ずり・資材等の運搬、覆工のコンクリートの打設等の作業に係る業務(ずい道等の内部で行われるものに限る) |
| 三十七 | 石綿則第4条第1項に掲げる作業に係る業務 |
| 三十九 | 足場の組立て、解体又は変更の作業に係る業務(地上又は堅固な床上における補助作業の業務を除く) |
| 四十 | 高さ2メートル以上で作業床を設けることが困難なところで、昇降器具により身体を保持しつつ行う作業(40度未満の斜面における作業を除く=ロープ高所作業)に係る業務 |
| 四十一 | 高さ2メートル以上で作業床を設けることが困難なところで、フルハーネス型の墜落制止用器具を用いて行う作業に係る業務(第四十号の業務を除く) |
この表で抜き出したのは59の号のうち27です(この記事での選び方による数)。ほかにも、作業室・気こう室への送気、潜水作業者への送気、再圧室の操作、高圧室内作業に係る業務(第二十号の二〜第二十四号の二)や、貨物自動車のテールゲートリフターの操作で荷の積み卸しを伴うもの(第五号の四)のように、工事の内容によって当たる号があります(同規則第36条)。
線の読み方で迷いやすい号
次の号は「未満」と書かれており、線の手前までが特別教育の対象です。第五号のフォークリフトは「最大荷重一トン未満」、第九号の建設機械は「機体重量が三トン未満」、第十号の五の高所作業車は「作業床の高さ…が十メートル未満」、第十六号の移動式クレーンと第十九号の玉掛けは「つり上げ荷重が一トン未満」と書かれています(労働安全衛生規則第36条第五号・第九号・第十号の五・第十六号・第十九号)。これらの号では、線をまたいだ側は第36条に入っていないので、そちらは就業制限の側で確かめる必要があります。
第九号の機械は条文では「令別表第七第一号、第二号、第三号又は第六号に掲げる機械」としか書かれておらず、機種名は出てきません。告示には、小型車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用/基礎工事用/解体用)、基礎工事用建設機械、車両系建設機械(基礎工事用)の作業装置の操作、ローラー、車両系建設機械(コンクリート打設用)の作業装置の操作と、別々の条が立っています(安全衛生特別教育規程第11条〜第12条の二の見出し、厚労省法令等データベース掲載)。告示の条が機械の区分ごとに分かれているので、入場書類に書かれた教育名が工程表の機械と合っているかは、告示の見出しと並べて見ると確かめやすくなります。
現場で呼んでいる機械名と条文の区分を結びつけるときは、車両系建設機械の特別教育の記事で区分ごとに確かめておくと迷いません。
電気の第四号は、高圧・特別高圧と低圧で扱いが分かれる号です。電圧の区分は条文の中で「高圧(直流にあつては七百五十ボルトを、交流にあつては六百ボルトを超え、七千ボルト以下である電圧をいう。)」のように定義されています(労働安全衛生規則第36条第四号)。高圧側は高圧電気取扱いの特別教育、低圧側は低圧電気取扱いの特別教育で、それぞれ業務の範囲を細かく扱っています。
足場の第三十九号は「地上又は堅固な床上における補助作業の業務を除く」という除外の書き方なので、補助作業であれば全部外れるわけではありません(同規則第36条第三十九号)。墜落の危険がある作業では、第四十号のロープ高所作業と第四十一号のフルハーネスが並んでいて、第四十一号は「前号に掲げる業務を除く」としています(同第四十号・第四十一号)。足場の線引きは足場の特別教育の記事、フルハーネスの対象はフルハーネスの特別教育の記事が詳しいです。
入場書類を確かめる側として押さえておきたいのは、次の4点です。
- 号の数は59(算出値)で、業務の種類の数とは一致しない
- 「未満」と書かれた号では、線を越えた側は第36条の対象外
- 第九号は条文に機種名が無く、令別表第七の号で区分される
- 第三十九号の足場は、地上又は堅固な床上の補助作業だけが除外
僕の考えでは、「建設で頻出の◯種」のような一覧を覚えるより、着工前に工程表の作業を第36条の号に1つずつ当てはめ、当たる号の番号をメモしておくほうが、協力会社に何を確認するかがはっきりします。酸欠や石綿のように工種によって急に出てくる号は、酸素欠乏危険作業の特別教育や石綿取扱い作業の特別教育で中身を確認しておくと、解体や地下の工程に入ったときに慌てずに済みます。
技能講習・免許・職長教育・作業主任者との違い
特別教育・技能講習・免許・職長教育は、いずれも労働安全衛生法に根拠がありますが、置かれている条と、誰に何を求めているかが違います。まず根拠条文で並べると次のとおりです(労働安全衛生法第59条第3項・第60条・第61条、労働安全衛生法施行令第19条、いずれもe-Gov現行版・2026年10月1日施行)。
| 区分 | 根拠条文 | 条文が求めていること |
|---|---|---|
| 特別教育 | 法第59条第3項 | 事業者が、安衛則第36条の業務につかせる労働者に特別の教育を行う |
| 免許・技能講習 | 法第61条第1項 | 政令で定める業務には、免許を受けた者・技能講習を修了した者等でなければ就かせてはならない(就業制限) |
| 職長教育 | 法第60条・施行令第19条 | 政令で定める業種で、新たに職務につく職長等(作業主任者を除く)に教育を行う |
| 作業主任者 | (法第60条の括弧書きで職長教育の対象から除かれる別の仕組み) | 本記事では扱わず、別記事で整理 |
免許・技能講習=就業制限(法第61条)
第61条第1項は「事業者は、クレーンの運転その他の業務で、政令で定めるものについては」と書き出し、免許を受けた者や技能講習を修了した者など以外を「当該業務に就かせてはならない」としています(労働安全衛生法第61条第1項)。さらに第2項は、資格のない者は「当該業務を行なつてはならない」と、働く本人にも禁止をかけています(同条第2項)。
ここが特別教育との大きな違いです。現行の第59条第3項は事業者に教育を行う義務を課しているだけで、受ける本人に「受けずに業務を行ってはならない」とは書いていません(同法第59条第3項)。就業制限は事業者と本人の両方に向いた規定、特別教育は事業者に向いた規定、と整理できます。
携帯の定めがあるのは就業制限の側(法第61条第3項)
第61条第3項は、就業制限の業務につくことができる者は「当該業務に従事するときは、これに係る免許証その他その資格を証する書面を携帯していなければならない」と定めています(労働安全衛生法第61条第3項、e-Gov現行版・2026年10月1日施行)。一方、特別教育の条文(法第59条第3項、安衛則第36条〜第39条)には、これに当たる携帯の定めは書かれていません(いずれもe-Gov現行版・2026年10月1日施行)。
この差は入場書類の扱いにそのまま響きます。就業制限の業務に係る免許証・技能講習修了証は条文が携帯を求めている書面で、特別教育の修了証は条文が携帯を求めていない書面です。同じ「修了証」という言葉でも法的な重みが違う、という点は後半の見出しで記録の話とあわせて掘り下げます。
同じ種類の機械でも、第36条の線を境に扱いが変わる
線は条文の数値で引かれています。たとえばフォークリフトは「最大荷重一トン未満」、移動式クレーンは「つり上げ荷重が一トン未満」、玉掛けは「つり上げ荷重が一トン未満のクレーン、移動式クレーン又はデリツク」までが特別教育の対象です(労働安全衛生規則第36条第五号・第十六号・第十九号)。線を越えた側は第36条に含まれていないため、法第61条第1項の就業制限で政令が定める業務に当たるかどうかを個別に確かめることになります(同法第61条第1項)。
機械ごとの線の向こう側がどうなっているかは、フォークリフトの資格の記事、クレーンの資格の記事、玉掛けの記事でそれぞれ扱っています。
「技能講習を持っていれば特別教育は要らないのか」という疑問については、現行の条文で書けるのは安衛則第37条の範囲だけです。同条は「科目の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる労働者については、当該科目についての特別教育を省略することができる」と定めています(労働安全衛生規則第37条、e-Gov現行版・2026年10月1日施行)。技能講習の修了をそのまま「特別教育が不要」と読み替える文言ではなく、科目ごとに省略できるかを事業者が判断する形です。
職長教育は法第60条で、建設業は対象業種の第一号
職長教育は特別教育の一種と思われがちですが、条が違います。法第60条は「事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなつた職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し」教育を行わなければならないと定めています(労働安全衛生法第60条、e-Gov現行版・2026年10月1日施行)。
対象業種を定める施行令第19条は、第一号に「建設業」を挙げています(労働安全衛生法施行令第19条第一号、e-Gov現行版・2026年10月1日施行)。つまり建設業の事業場では職長教育が義務になりますが、それは第59条第3項の特別教育とは別の義務で、職長教育の修了だけでは、第36条の業務の特別教育を行ったことは確認できません。教育の中身も、法第60条は「作業方法の決定及び労働者の配置に関すること」「労働者に対する指導又は監督の方法に関すること」などを挙げており、特定の機械や作業の安全を扱う特別教育とは狙いが違います(同法第60条第一号・第二号)。
たとえば、職長教育の修了だけが書かれた書類で、その職長が足場の組立てや玉掛けもする場合、第59条第3項は「労働者をつかせるとき」の教育なので、職長であっても、労働者として第36条の業務につくなら、その業務の特別教育は職長教育とは別に確認する対象になります(労働安全衛生法第59条第3項・第60条)。
作業主任者は職長教育から除かれた別の仕組み
作業主任者は、法第60条の括弧書きで職長教育の対象から除かれている別の仕組みです(労働安全衛生法第60条)。名前に同じ作業名が入っていても、特別教育とは別の制度として扱います。内容は作業主任者の記事で整理しています。
4つを見分けるときの手がかりは、次のとおりです。
- 特別教育:法第59条第3項。事業者が行う教育。条文に携帯の定めは無い
- 免許・技能講習:法第61条第1項。就業制限。本人にも禁止がかかり、書面の携帯義務がある
- 職長教育:法第60条。建設業は施行令第19条第一号で対象。特別教育とは別の義務
- 作業主任者:職長教育の対象から除かれる、別の仕組み(別記事)
現場目線で言うと、入場時に確認すべき書類の重さは「携帯義務があるか」で分けると説明しやすく、免許証・技能講習修了証などの書面を携帯しているか、特別教育は誰がどの科目を受けたかが分かるか、と確認の観点を変えるのが筋だと僕は見ています。
第39条が挙げる号の時間と科目は告示で決まる|研削といし・足場・フルハーネスの例
特別教育の時間と科目は、第39条が挙げる号については、安衛則ではなく告示で決まっています。安衛則第39条は「第三十六条第一号から第十三号まで、第二十七号、第三十号から第三十六号まで及び第三十九号から第四十一号までに掲げる業務に係る特別教育の実施について必要な事項は、厚生労働大臣が定める」と定め、これを受けた告示が安全衛生特別教育規程です(労働安全衛生規則第39条、e-Gov現行版・2026年10月1日施行/安全衛生特別教育規程=昭和47年労働省告示第92号)。
告示は業務ごとに条が分かれていて、たとえば第5条が電気取扱業務、第13条が高所作業車、第22条が足場、第24条が墜落制止用器具を用いて行う作業の特別教育です(安全衛生特別教育規程の条の見出し、厚労省法令等データベース掲載・最終改正 令和6年6月3日厚生労働省告示第213号)。なお、第39条が挙げていない号(第十四号〜第二十六号など)の細目は、この記事で確認した告示の範囲外なので触れていません。
建設現場で出番の多い3つの業務について、告示の表を並べると次のとおりです(安全衛生特別教育規程第1条・第22条・第24条、厚労省法令等データベース掲載・最終改正 令和6年6月3日厚生労働省告示第213号)。
| 業務(告示の条) | 学科の科目と時間 | 実技 |
|---|---|---|
| 機械研削用といしの取替え等(第1条) | 機械研削用研削盤、機械研削用といし、取付け具等に関する知識 4時間/機械研削用といしの取付け方法及び試運転の方法に関する知識 2時間/関係法令 1時間 | 機械研削用といしの取付け方法及び試運転の方法 3時間 |
| 足場の組立て等(第22条) | 足場及び作業の方法に関する知識 3時間/工事用設備、機械、器具、作業環境等に関する知識 0.5時間/労働災害の防止に関する知識 1.5時間/関係法令 1時間 | なし(学科教育のみ) |
| 墜落制止用器具を用いて行う作業(第24条) | 作業に関する知識 1時間/墜落制止用器具に関する知識 2時間/労働災害の防止に関する知識 1時間/関係法令 0.5時間 | 墜落制止用器具の使用方法等 1.5時間 |
学科の合計は、研削といしが7時間、足場が6時間、フルハーネスが4.5時間です(上の表の時間を足した算出値)。ここで大事なのは、告示の書き方が「時間以上行なうものとする」になっている点で、表の時間は上限ではなく下限です(安全衛生特別教育規程第1条第2項・第22条第2項・第24条第2項)。
第1条は「機械研削用といし」についての条で、自由研削用といしは第2条に別に定めがあります(同規程第1条・第2条)。手持ちのグラインダーを扱う作業でどちらに当たるかは、ディスクグラインダーの記事で機械の側から確かめられます。また、第22条の足場は「学科教育により行うものとする」とされ、実技の定めがありません(同規程第22条第1項)。足場の教育だけ実技が無いのを見て「省略されたのでは」と疑う必要はない、ということです。
アーク溶接や電気のように告示の条が別にある業務は、それぞれの条で科目と時間が決まっています。アーク溶接の特別教育の中身はアーク溶接の特別教育の記事で個別に扱っています。
誰がどう行うか|事業者の義務、eラーニング、科目の省略
特別教育を行う義務を負うのは事業者です(労働安全衛生法第59条第3項)。教育を行ったときは、受講者・科目等の記録を作成して3年間保存するところまでが事業者の側の仕事です(労働安全衛生規則第38条)。
eラーニングは学科と実技で扱いが分かれる
eラーニングについては、厚生労働省の通達「令和3年1月25日付 基安安発0125第2号ほか」があり、令和8年9月2日付 基安計発0902第1号ほかで一部改正されています。この通達は第2(2)で「e ラーニング等により安全衛生教育等を行う場合であっても、法定の科目の範囲、教育時間及び講師の要件を満たした上で、教本等必要な教材を用いて行うとともに、受講者が受講した事実を適切に確認する必要があること」としています(厚生労働省通達・令和8年9月2日改正後の本文)。
同じ通達の別表は、特別教育の行で「実技教育について、講師と同一場所で対面により実施していること」を求めています(同通達 別表「特別教育」の行)。つまり、eラーニング等で行えるのは学科の部分で、実技がある業務の実技は対面です。フルハーネスや研削といしのように告示に実技の表がある業務では、学科だけをオンラインで受けても、実技の対面が済んでいなければ教育は揃っていないことになります。
受講した事実の確かめ方も、別表の備考(※35)に3つ挙がっています(同通達 別表 備考※35)。
- (ア)受講者を1か所に集めず、ビデオ会議ツール等でリアルタイムに講師が受講状況を確認しながら行う方法
- (イ)映像教材やウェブサイト動画の再生記録、パソコンの操作記録等で受講状況を確認する方法
- (ウ)(ア)(イ)のほか、教育時間を教育を実施する者が合理的に証明できる方法
なお、この通達は前文で、令和2年3月26日付の「インターネット等を介した e ラーニングにより行われる特別教育の当面の考え方等について」(特別教育通達)を廃止するとしています(同通達 前文)。古い通達を引いた解説を見かけたら、日付を確かめておくと安心です。
科目の省略は安衛則第37条の範囲で
ベテランにも全部受けさせる必要があるのかという点は、前の見出しで触れた安衛則第37条がよりどころです。同条は、科目の全部又は一部について「十分な知識及び技能を有していると認められる労働者」については「当該科目についての特別教育を省略することができる」と定めています(労働安全衛生規則第37条、e-Gov現行版・2026年10月1日施行)。経験年数だけで一律に外せるとは書かれておらず、省略は科目単位です。
2027年4月1日施行の改正で変わること
ここからは現行ではなく、2027年4月1日に施行される改正の話です。令和7年法律第33号による改正で、労働安全衛生法第59条に第4項が加わり、「作業従事役員等は、労働者と同一の場所において前項の業務に就くときは、同項に規定する教育を受けなければならない」とされます(e-Gov掲載の2027年4月1日施行版)。作業従事役員等は、改正後の法第42条第3項で、厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業者や個人事業者(法人の場合はその代表者又は役員)である作業従事者と定義されています(同版 第42条第3項)。
あわせて、改正後の安衛則第37条第2項では、作業従事役員等が「特別教育の対象業務に係る免許を受け、又は技能講習を修了している等十分な知識及び技能を有していると認められる場合には、当該特別教育の科目の全部又は一部を受けることを要しない」とされ、第1項にも同じ趣旨の文言が挿入されます(e-Gov掲載の2027年4月1日施行版 労働安全衛生規則第37条)。現行の義務の主語が事業者であることは変わりませんが、2027年4月以降は、労働者と同じ場所で作業する役員や個人事業者も受ける側に入ってきます。足場の業務で同じ改正を扱った足場の特別教育の記事もあわせて読むと、入場確認で何を拾えばよいかがつかみやすくなります。
修了証と記録|安衛則が求めるのは記録の3年保存
安衛則第38条が求めているのは、修了証ではなく記録です。同条は「事業者は、特別教育を行なつたときは、当該特別教育の受講者、科目等の記録を作成して、これを三年間保存しておかなければならない」と定めています(労働安全衛生規則第38条、e-Gov現行版・2026年10月1日施行)。
一方、特別教育の修了証の交付を定めた条文は、確認した範囲では見当たりませんでした。労働安全衛生法と安衛則の全文(e-Gov現行版)で「修了証」が出てくる条は、法第76条(技能講習修了証)・第76条の2・附則第7条、安衛則第76条(教習修了証)・第81条・第82条(技能講習修了証)と附則の経過措置で、特別教育の条(法第59条第3項、安衛則第36条〜第39条)には出てきません。安全衛生特別教育規程の全文にも「修了証」の語はありませんでした(厚労省法令等データベース掲載の告示全文を確認した範囲)。
eラーニング等の通達の第2(3)には受講修了証の話が出てきますが、これはデジタル発行とする場合に「電子証明書等の電子的な真正性の担保に留意すること」という留意事項です(令和3年1月25日付 基安安発0125第2号ほか・令和8年9月2日改正後 第2(3))。同じ項は、法第76条第1項の技能講習のうち法第61条第1項の就業制限に係るものは、第61条第3項で資格を証する書面の携帯が義務付けられているため、デジタル発行が認められていないとしています(同 第2(3))。特別教育の修了証を交付する義務を述べた文ではありません。
まとめると、書類の位置づけは次のように分かれます。
| 書類 | 条文上の位置づけ | 出典 |
|---|---|---|
| 特別教育の記録 | 事業者が受講者・科目等を記録し3年間保存 | 安衛則第38条 |
| 特別教育の修了証 | 交付を定めた条文は確認した範囲に無し | 法・安衛則の全文、告示全文(確認した範囲) |
| 技能講習修了証 | 法第76条の修了証。就業制限の業務では携帯義務 | 法第61条第3項・第76条 |
入場書類で「修了証を出して」と言われる場面がありますが、条文から読めるのは、事業者に求められているのは受講者・科目等の記録の作成と3年間の保存で、修了証の交付を定めた条文は確認した範囲に無い、ということです。修了証が手元に無いからといって、それだけで受けていないことにはなりませんし、逆に修了証があっても誰がどの科目を受けたかが読み取れなければ確認の材料としては弱い、ということになります(労働安全衛生規則第38条)。
入場時の確認は、修了証の有無より、受講者の名前と科目、どの業務(第36条の何号)の教育かが読み取れるかで見るのが条文に沿うと僕は感じます。修了証の写しでも、雇い主が作った記録の写しでも、この3つが読み取れれば確認の目的は果たせるはずです。
受けさせなかったときの罰則
特別教育を行わずに第36条の業務につかせた場合、労働安全衛生法第119条第1号の対象になります。第119条は「次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」とし、第1号に列挙された規定の中に「第五十九条第三項」が含まれています(労働安全衛生法第119条第1号、e-Gov現行版・2026年10月1日施行)。
同じ第1号には、就業制限の「第六十一条第一項」も並んでいます(同法第119条第1号)。特別教育と就業制限は条も義務の向きも違いますが、違反したときの刑の重さは同じ号に入っている、ということです。
2027年4月1日施行の改正では、第119条第1号の「第五十九条第三項」が「第五十九条第三項若しくは第四項」に改められます(e-Gov掲載の2027年4月1日施行版 労働安全衛生法第119条第1号)。作業従事役員等が自ら受ける義務(新設の第4項)も、同じ罰則の対象に加わる形です。
特別教育に関する情報まとめ
- 特別教育とは:危険又は有害な業務につかせるときに事業者が行う教育(法第59条第3項)。資格ではなく事業者の義務
- 対象業務:安衛則第36条の号で決まる。全60項目のうち十二は削除で有効59(算出値)。「未満」と書かれた号は線の手前まで
- 他の制度との違い:免許・技能講習は法第61条の就業制限で携帯義務あり、職長教育は法第60条で建設業は施行令第19条第一号、作業主任者は職長教育の対象から除かれる別の仕組み
- 時間と科目:安衛則第39条を受けた安全衛生特別教育規程で決まり(第39条が挙げる号)、表の時間は下限。足場は学科のみ
- 実施方法:義務は事業者。eラーニングは学科の部分で、実技は講師と同一場所で対面。科目の省略は安衛則第37条の範囲。2027年4月1日から作業従事役員等も受ける側に入る
- 修了証と記録:法定なのは受講者・科目等の記録の3年間保存(安衛則第38条)。修了証の交付を定めた条文は確認した範囲に無し
- 罰則:法第119条第1号で六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金
以上が特別教育に関する情報のまとめです。
特別教育は「誰が資格を持っているか」より「どの業務を、誰に、どの科目で教えたか」を事業者が残しておく仕組みです。着工前に工程表の作業を第36条の号に当てはめ、当たる号ごとに受講者と科目の記録がそろっているかを入場時に確かめておけば、修了証の形式に振り回されることは少なくなるはずです。
高所作業車の運転を伴う工程があるなら高所作業車の資格と特別教育の記事、安全衛生の規則全体の位置関係を見直すなら安衛則の記事が次の一歩になります。
