- そもそも近代建築史って何?
- 何年から何年までを指す?
- 代表的な建築家って誰?
- 日本の近代建築はどこから始まる?
- 構造技術の発展はどう関係してる?
- どこから学べばいい?
上記の様な悩みを解決します。
「近代建築史」というと建築学科で習う教科書の世界に聞こえますが、実は 現代私たちが当たり前のように見ているガラスと鉄骨のオフィスビル、RCのマンション、コンクリートの公共建築 の元をたどると、近代建築の発明と切り離せません。アール・ヌーヴォーから始まり、モダニズムへ向かう19世紀後半〜20世紀の流れを押さえると、いま現場で扱っている構造形式や仕上材の歴史的背景が見えてきます。今回は施工管理視点で、近代建築史の全体像を整理してみます。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
近代建築史とは?対象期間と定義
近代建築史とは、結論「19世紀後半から20世紀後半までの、産業革命以降の建築様式・構造技術の発展を扱う歴史領域 のこと」です。
英語では Modern Architecture History。読み方は「きんだいけんちくし」。
「近代建築」の対象範囲(時期)
| 期間 | おおまかな区分 |
|---|---|
| 1850〜1900年頃 | 産業革命と建築の機械化、アール・ヌーヴォー |
| 1900〜1930年頃 | モダニズム前夜、ウィーン分離派、表現主義 |
| 1930〜1960年頃 | モダニズム全盛、国際様式 |
| 1960〜1980年頃 | ポストモダン、ブルータリズムなどの反動 |
| 1980〜現在 | 現代建築(ポストモダン以降は「現代建築」と呼ぶことが多い) |
「古典建築」「近世建築」と「近代建築」の違い
| 区分 | 時代 | 主な様式 |
|---|---|---|
| 古代建築 | 紀元前〜紀元後5世紀 | ギリシャ、ローマ |
| 中世建築 | 5〜15世紀 | ロマネスク、ゴシック |
| 近世建築 | 15〜18世紀 | ルネサンス、バロック |
| 近代建築 | 19世紀後半〜20世紀 | アール・ヌーヴォー、モダニズム |
| 現代建築 | 1980年以降 | ポストモダン以降、現代の作家性建築 |
ポイントは「近代建築は産業革命の産物」ということ。鉄・ガラス・コンクリートという新しい材料が大量生産可能になり、建築の構造形式・空間設計が根本から変わった時代を指します。
アール・ヌーヴォーの話はこちら。
近代建築史の流れ(年表)
近代建築の主な動きを時系列で整理します。
近代建築の主な様式・運動
| 年代 | 様式・運動 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 1851 | 第1回ロンドン万博 | クリスタルパレス(鉄・ガラスの巨大温室建築) |
| 1880s〜1910s | アール・ヌーヴォー | 植物モチーフの曲線美、装飾豊か |
| 1900s | ウィーン分離派 | アール・ヌーヴォーから幾何学装飾へ |
| 1910s | ドイツ工作連盟、表現主義 | 量産化と芸術性の融合 |
| 1919 | バウハウス(ドイツ)開校 | モダニズム建築の理論拠点 |
| 1920s | デ・ステイル(オランダ) | 純粋幾何学、抽象芸術 |
| 1925 | アール・デコ | 直線的・幾何学的な装飾 |
| 1932 | 国際様式 | モダニズムが世界共通言語に |
| 1950s〜60s | ブルータリズム | コンクリート打ち放しの荒々しい表現 |
| 1960s〜70s | メタボリズム(日本) | 新陳代謝する建築 |
| 1970s〜 | ポストモダン | モダニズムへの反動、歴史主義の復活 |
産業革命と建築技術の進化
近代建築を理解するキーは「鉄・ガラス・コンクリート」という3つの工業材料の登場です。
| 材料 | 普及時期 | 建築への影響 |
|---|---|---|
| 鋳鉄・錬鉄 | 1830年代〜 | 駅舎・温室・橋梁の大空間 |
| 平板ガラス | 1850年代〜 | 大開口、温室、ガラス建築 |
| 鋼材(軟鋼) | 1870年代〜 | 高層化、鉄骨構造 |
| 鉄筋コンクリート | 1880年代〜 | 自由なプラン、大スパン、不燃化 |
工場で大量生産された鋼材とコンクリートにより、石積みでは不可能だった「大空間」「高層」「自由な平面計画」 が実現可能になった、これが近代建築の出発点です。
西洋の代表的な建築家
「近代建築の三大巨匠」と呼ばれる建築家を中心に、主要人物を整理します。
近代建築の三大巨匠
| 建築家 | 国 | 代表作 | 思想・特徴 |
|---|---|---|---|
| ル・コルビュジエ | スイス/フランス | サヴォア邸、ロンシャン教会、ユニテ・ダビタシオン | 「住宅は住むための機械」「近代建築の5原則」 |
| ミース・ファン・デル・ローエ | ドイツ/米国 | バルセロナパビリオン、シーグラムビル | 「Less is More」、ガラスと鉄の純粋幾何 |
| フランク・ロイド・ライト | 米国 | 落水荘、グッゲンハイム美術館、帝国ホテル | 有機建築、土地との一体化 |
その他の重要建築家
| 建築家 | 国 | 代表作 |
|---|---|---|
| ヴァルター・グロピウス | ドイツ | バウハウス校舎、ファグス靴工場 |
| アルヴァ・アアルト | フィンランド | パイミオのサナトリウム、マイレア邸 |
| ヴィクトール・オルタ | ベルギー | タッセル邸(アール・ヌーヴォー) |
| アントニ・ガウディ | スペイン | サグラダ・ファミリア、カサ・ミラ |
| ルイス・サリヴァン | 米国 | 高層建築の先駆け、シカゴ派 |
| ロベール・マイヤール | スイス | RC橋梁、構造設計の革命 |
| オスカー・ニーマイヤー | ブラジル | ブラジリア(首都計画) |
コルビュジエの「近代建築5原則」
ル・コルビュジエが提唱した、近代建築の設計原理5つを押さえておきましょう。
- ピロティ(柱で建物を浮かせる)
- 屋上庭園(屋上を緑化する)
- 自由な平面(柱で支えるので壁を自由配置)
- 水平連続窓(横長の大開口)
- 自由なファサード(外壁を構造から解放)
これら5原則は RC構造(柱・梁・スラブで支えるラーメン構造)が前提 で成立する設計理論で、現代のRCマンションやオフィスにも引き継がれています。
RC造の話はこちら。

日本の近代建築
日本の近代建築は明治維新(1868年)以降の急速な西洋化と密接に結びついています。
日本近代建築の主要な時期
| 期間 | 特徴 |
|---|---|
| 1870s〜1900s(明治) | お雇い外国人による疑似洋風・本格洋風建築 |
| 1900s〜1920s(明治後期〜大正) | 日本人建築家の自立、辰野金吾の活躍 |
| 1920s〜1940s(昭和初期) | モダニズムの本格導入、表現主義 |
| 1950s〜1970s(戦後復興〜高度成長) | 丹下健三、メタボリズム |
| 1970s〜現代 | 安藤忠雄、伊東豊雄、SANAA など世界的活躍 |
日本の代表的な建築家
| 建築家 | 代表作 | 特徴 |
|---|---|---|
| 辰野金吾 | 東京駅、日本銀行本店 | お雇い外国人ジョサイア・コンドルに学ぶ |
| 片山東熊 | 赤坂離宮(迎賓館) | ネオ・バロック様式の頂点 |
| 伊東忠太 | 築地本願寺、平安神宮 | 東洋様式の研究と建築 |
| 村野藤吾 | 日生劇場、千代田生命本社 | 戦前から戦後にかけての巨匠 |
| 丹下健三 | 広島平和記念資料館、東京カテドラル聖マリア大聖堂、国立代々木競技場 | 戦後日本のモダニズム代表 |
| 黒川紀章 | 中銀カプセルタワー | メタボリズム |
| 菊竹清訓 | スカイハウス、出雲大社庁の舎 | メタボリズム |
| 安藤忠雄 | 光の教会、住吉の長屋 | コンクリート打ち放しの幾何学美 |
| 磯崎新 | 大分県立図書館、つくばセンタービル | ポストモダン |
辰野金吾と東京駅
辰野金吾は 日本人初の本格的建築家 として、東京駅(1914年完成)や日本銀行本店(1896年完成)など、現代まで残る近代建築の代表作を手がけました。赤レンガと白い帯石(しろいおびいし)のコントラストが特徴の「辰野式」が様式名として残っています。
丹下健三と戦後日本
丹下健三は 戦後日本のモダニズム代表 で、コルビュジエの影響を受けつつも、伝統建築(木造・神社)の要素を取り入れた独自の表現を確立。広島平和記念資料館や国立代々木競技場で世界的評価を獲得しました。
構造技術と近代建築の関係
施工管理視点で押さえておきたいのが、近代建築の様式と構造技術の進化が密接に連動している という点です。
様式と構造の対応関係
| 様式 | 代表的な構造形式 |
|---|---|
| アール・ヌーヴォー | 鋳鉄+ガラス+装飾、組積造ベース |
| 表現主義 | RC造の有機的造形 |
| バウハウス/国際様式 | 鉄骨ラーメン構造+ガラスファサード |
| モダニズム | RC造ラーメン、ピロティ、フラットスラブ |
| ブルータリズム | RC打ち放しの構造表現 |
| メタボリズム | 鉄骨+プレキャストコンクリート |
ピロティを可能にした柱・梁構造
コルビュジエの「ピロティ」は、組積造(石・レンガで壁を積む)では実現できません。RC造または鉄骨造のラーメン構造(柱と梁で荷重を支える) が前提となります。RC造の登場が、近代建築の自由な空間設計を可能にした、と言えます。
カーテンウォールの登場
ミースが20世紀半ばに完成させた 「鉄骨+ガラスのカーテンウォール」 は、現代のオフィスビルの基本形式。シーグラムビル(1958年、ニューヨーク)で確立した「鉄骨ラーメン構造+ガラス外壁」のスタイルは、いまも世界中の高層ビルの定型として継承されています。
S造の話はこちら。

近代建築史の学び方
「近代建築史を学びたいけど、どこから手をつければ?」という人のためのガイドです。
おすすめの学習ステップ
- 入門書:『増補新装 カラー版 近代建築史』(中川武)、『近代建築史』(鈴木博之)
- 巨匠ごとに掘る:ル・コルビュジエ、ミース、ライト、丹下健三の作品集を1冊ずつ
- 実物を見る:日本国内なら東京駅、東京カテドラル、丹下建築、安藤建築を巡る
- 海外の巨匠作品:ル・コルビュジエの「ロンシャン教会」、ミースの「バルセロナパビリオン」、ライトの「落水荘」など
- 建築の写真集:『二川幸夫の世界の建築』など、写真で名作建築を網羅
東京で見られる近代建築
| 建築 | 建築家 | 特徴 |
|---|---|---|
| 東京駅丸の内駅舎 | 辰野金吾 | 1914年、赤レンガと白帯石 |
| 旧岩崎邸 | ジョサイア・コンドル | 1896年、ヴィクトリア朝風 |
| 自由学園明日館 | フランク・ロイド・ライト | 1921年、有機建築 |
| 国立西洋美術館 | ル・コルビュジエ | 1959年、世界遺産 |
| 東京カテドラル聖マリア大聖堂 | 丹下健三 | 1964年、HPシェル構造 |
| 国立代々木競技場 | 丹下健三 | 1964年、吊り屋根構造 |
国立西洋美術館(東京・上野)は ル・コルビュジエが日本に残した唯一の作品 で、2016年に世界遺産に登録されています。施工管理を学ぶ立場としても、一度は実物に触れておくと「コルビュジエの5原則」の体感が深まります。
東京カテドラルの吊り屋根や代々木競技場の HP シェルは、当時の最先端構造技術の結晶。「建築様式の革新は構造技術の革新と一体」 という近代建築の本質が、いまも体感できる作品群です。
近代建築の素晴らしさは、近場で実体験できる場所が意外と多いところにあります。週末に1か所巡って、現代の現場との連続性を考えてみる、というのは新人施工管理者にとっても良い学びになるはずです。実は若い頃、私も丹下建築の代々木競技場の屋根を下から見上げて、「あの吊り屋根のケーブル張力って、どのくらいなんだろう」と純粋に感心して、構造を勉強し直すきっかけになりました。歴史を知ることは、いま自分が組み立てている現場を別の角度から見直すことでもあります。
近代建築史に関する情報まとめ
- 近代建築史とは:19世紀後半〜20世紀後半の建築様式・構造技術の発展を扱う歴史
- 期間:1850年頃〜1980年頃(その後は「現代建築」)
- キーは「鉄・ガラス・コンクリート」の工業化
- 三大巨匠:ル・コルビュジエ、ミース、ライト
- 近代建築の5原則:ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由なファサード
- 日本の代表:辰野金吾、丹下健三、安藤忠雄
- 様式と構造の関係:モダニズムはRC造ラーメンが前提
- 学び方:入門書 → 巨匠別 → 実物を見に行く
以上が近代建築史に関する情報のまとめです。
近代建築史は単なる暗記科目ではなく、いま私たちが毎日扱っているRC造・鉄骨造・ガラスファサードのルーツを知る学問 です。コルビュジエが提唱したピロティはどう生まれたか、丹下健三のシェル構造はなぜ可能だったか、を辿ると、現場で扱う構造形式の歴史的意味が見えてきます。一通り近代建築史の基礎知識は理解できたと思います。
合わせて、関連する建築様式・構造形式の知識もチェックしておきましょう。





