- 偶力って結局なに?
- 普通の力と何が違うの?
- 偶力のモーメントってどう計算するの?
- なんで「どこを基準にしても同じ値」になるの?
- 力のモーメントと偶力のモーメントの違いは?
- 単位はN・m?kN・m?
- 斜めの力でも偶力になるって本当?
- 偶力が複数あったらどう足すの?
- ペン回しの例は分かったけど、現場で何の役に立つの?
- 鉄骨の接合とかアンカーボルトと関係あるの?
上記の様な悩みを解決します。
偶力は構造力学の基本概念で、建築士試験でも頻出ですが、「ペンを両手で回す例」までは分かっても「で、現場のどこで使うの?」が分からないまま終わりがちです。今回は意味・モーメントの計算・力のモーメントとの違いといった基本を押さえた上で、現役の施工管理目線で「基準点に依らず一定になる理由」「斜め力の分解」「偶力の合成」、そして「鉄骨モーメント接合やアンカーボルトなど建築で偶力が効く場面」まで、実務とつなげて整理しました。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
偶力とは?
偶力とは、結論「大きさが等しく、向きが反対で、作用線が一致しない平行な2つの力の組」のことです。読み方は「ぐうりょく」です。
普通の1つの力は、物体を移動させたり回転させたりします。一方、偶力は「物体を回転させるだけで、移動させない」という特殊な性質を持ちます。大きさが同じで向きが逆なので、移動させる効果(並進)は打ち消し合ってゼロになり、回転させる効果(モーメント)だけが残るからです。
身近な例だと、ハンドルを両手で回す動き(片手で押し上げ、もう片手で押し下げる)が偶力です。机に置いたペンの両端を上下逆向きに押すとペンがその場でクルッと回るのも、移動せず回転だけする偶力の典型です。
力やモーメントの基礎はこちらが参考になります。

僕の感覚だと、偶力は「回転専門の力」と捉えると一番すっきりします。普通の力は「動かす+回す」の両方をやりますが、偶力は移動成分が消えて「回す」だけが純粋に残る。だから後で出てくる鉄骨のモーメント接合のように「部材を曲げる(回す)力を伝えたい」場面で、偶力という考え方がそのまま効いてきます。
偶力が成立する3つの条件
ある2つの力が偶力になるには、次の3条件を満たす必要があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ① 大きさが等しい | 2つの力の大きさが同じ(P と P) |
| ② 向きが反対 | 2つの力が正反対を向いている |
| ③ 作用線が一致しない | 2つの力の作用線がずれて平行(距離Lがある) |
3つすべてを満たして初めて偶力です。特に③が重要で、同じ大きさ・逆向きでも作用線が一致(同一直線上)してしまうと、ただ打ち消し合って何も起きません。作用線が距離Lだけずれているからこそ、回転させるモーメントが生まれます。
作用線の考え方はこちらが参考になります。

斜めの力でも偶力になる
見た目が偶力に見えなくても、力を成分(鉛直・水平)に分解すると3条件を満たすことがあります。たとえば斜め45度の一対の力でも、分解した成分が「大きさ等しい・逆向き・作用線がずれた平行」なら、それは偶力です。試験では「これは偶力か?」を成分分解で判定させる問題が出るので、見た目だけで判断しないのがコツです。
僕としては、偶力の判定は「①等しい②逆向き③作用線がずれて平行」の3点セットで毎回チェックするのが確実だと考えています。特に③(作用線がずれている)を忘れると、同一直線上の打ち消し合う2力を偶力と勘違いします。3条件を指差し確認する感覚で見れば、斜め力の引っかけ問題にも対応できます。
偶力のモーメント(M=P×L)
偶力が物体を回転させる大きさを「偶力のモーメント」と呼び、次の式で計算します。
M=P×L
Pは力の大きさ、Lは2つの力の作用線間の距離(垂直距離)です。たとえばP=10kN、L=2.0mなら、偶力のモーメントは M=10×2.0=20kN・m になります。
ここでLは「2つの力の間の距離」であって、特定の点からの距離ではない点に注意します。普通の力のモーメント(M=力×基準点からの距離)とは、距離の取り方が違います。偶力では2力の間隔そのものが腕の長さになる、と捉えると間違えません。
モーメントの計算全般はこちらが参考になります。

実務だと、M=P×Lは「力×力の間隔」とシンプルに覚えるのが一番です。鉄骨の接合部で上下のフランジが引張・圧縮のペア(偶力)になってモーメントを伝えるとき、伝わるモーメントは「フランジの力×フランジ間の距離(梁せい相当)」で決まります。式の形がそのまま現場の部材寸法と結びつくので、暗記ではなく仕組みで理解できます。
偶力のモーメントは基準点に依らず一定
偶力の最大の特徴が「どこを基準点に取っても、モーメントの値が同じ(一定)になる」ことです。これが普通の力のモーメントとの決定的な違いです。
任意の点Oから距離xの位置に偶力(P、間隔L)が作用しているとします。点Oまわりのモーメントの和を計算すると、
M=P×(L−x)+P×x=P×L
となり、xが消えてP×L(一定)になります。つまり「どこを中心に回そうとするか」に関わらず、偶力が生む回転の大きさは常にP×Lで一定です。
| 種類 | モーメントの値 | 基準点の影響 |
|---|---|---|
| 偶力のモーメント | M=P×L | 基準点に依らず一定 |
| 力のモーメント | M=力×基準点からの距離 | 基準点で値が変わる |
正直なところ、この「基準点に依らず一定」は最初は不思議に感じます。でも式でxがきれいに消えるので、計算上は明快です。物理的には「偶力は移動成分を持たない純粋な回転」なので、回転の中心をどこに置いても回転の強さは変わらない、と理解すると腑に落ちます。この性質のおかげで、構造解析では偶力(モーメント)を部材のどこにでも移動して扱えて、計算がぐっと楽になります。
力のモーメントとの違い
偶力のモーメントと、普通の「力のモーメント」は混同しやすいので、違いを整理します。
| 比較項目 | 偶力のモーメント | 力のモーメント |
|---|---|---|
| 構成 | 2つの力(一対) | 1つの力 |
| 並進(移動)成分 | 無し(打ち消し合う) | 有り |
| 計算式 | M=P×L(力×力の間隔) | M=力×基準点からの距離 |
| 基準点の影響 | 依らず一定 | 基準点で値が変わる |
| 物体への作用 | 回転のみ | 移動+回転 |
力のモーメントの基礎はこちらが参考になります。

一番の違いは「基準点に依存するかどうか」です。普通の力のモーメントは「どの点を中心に見るか」で値が変わりますが、偶力のモーメントはどこを中心にしても一定。この違いを押さえると、試験で「点Aまわりのモーメントを求めよ」と言われたときに、偶力部分は基準点に関係なくP×Lで足せばよい、と判断できます。
僕の整理では、「1つの力=基準点で変わる」「一対の偶力=基準点で変わらない」という対比で覚えるのが実用的です。問題を解くとき、登場する回転作用が「1つの力によるものか、一対の偶力によるものか」を見分けるだけで、基準点をどう扱うかが決まります。ここを意識すると、モーメントの計算ミスが減ります。
偶力の単位
偶力(偶力のモーメント)の単位は、力×距離なので「N・m」「kN・m」「N・mm」などで表します。
| 単位系 | 単位 | 使う場面 |
|---|---|---|
| SI基本 | N・m(ニュートンメートル) | 物理・一般 |
| 構造実務 | kN・m(キロニュートンメートル) | 建築の応力計算 |
| 細部 | N・mm | ボルト・小部材 |
力の単位(N、kN)と距離の単位(m、mm)の組み合わせで決まるので、応力計算で使うほかのモーメント(曲げモーメント等)と同じ単位です。建築の構造計算ではkN・mが標準で、「梁端の曲げモーメント◯kN・m」のように出てきます。
曲げモーメントの単位の話はこちらも参考になります。

個人的には、偶力のモーメントを「曲げモーメントと同じ単位(kN・m)」と認識しておくと、構造計算書の中で違和感なく扱えると考えています。偶力は特別な単位を持つわけではなく、ほかの回転作用とまったく同じ土俵(kN・m)で足し引きできます。単位が共通だからこそ、後述する「偶力でモーメントを伝える」という発想が成り立ちます。
偶力の計算例(斜め力の分解)
実際に偶力のモーメントを計算してみます。一見偶力に見えない斜めの力でも、成分分解すれば偶力として扱えます。
たとえば、ある部材に45度方向の力14kNが一対で逆向きに作用しているとします。45度方向の力を鉛直・水平成分に分解すると、
成分の力=14×cos45°≒14×0.707≒10kN
となります。この鉛直成分(上向き10kNと下向き10kN)が、間隔2.0mで逆向きに作用していれば偶力です。偶力のモーメントは、
M=P×L=10×2.0=20kN・m
と求まります。ポイントは「斜め力をそのまま使わず、成分に分解してから偶力の条件と式を当てはめる」ことです。
計算手順を整理すると次のようになります。
- 斜めの力を鉛直・水平成分に分解する
- 分解した成分が偶力の3条件を満たすか確認する
- 偶力のモーメント M=P×L を計算する
現場目線で言えば、斜め力の分解は「実際の力はナナメでも、構造計算では縦と横に分けて考える」という構造力学の基本動作そのものです。偶力に限らず、トラスや接合部の力も成分に分けて扱います。偶力の計算を通じてこの分解の感覚に慣れておくと、ほかの構造計算でもつまずきにくくなります。
偶力の合成(モーメントの代数和)
同じ平面上に複数の偶力が作用している場合、それらは「代数和(符号を考えた足し算)」で1つの偶力モーメントに合成できます。
合成偶力モーメント=各偶力モーメントの代数和
ここで符号は回転の向きで決めます。一般に反時計回りを正、時計回りを負として、それぞれのP×Lを符号付きで足し合わせます。たとえば反時計回り20kN・mと時計回り8kN・mがあれば、合成は20−8=12kN・m(反時計回り)です。
回転方向と正負の考え方はこちらが参考になります。

偶力は基準点に依らず一定なので、合成も「位置を気にせず符号付きで足すだけ」で済みます。これは普通の力のモーメントの合成(基準点を揃えてから足す)より単純です。複数の回転作用が混在する系でも、偶力部分だけは場所を問わず代数和でまとめられる、というのが計算上の利点です。
僕の考えでは、偶力の合成が単純なのは「基準点に依らず一定」という性質の直接の恩恵です。位置情報を持たない純粋な回転なので、足すときも位置を考えなくていい。この身軽さが、構造解析で偶力(モーメント荷重)を扱いやすくしている理由だと捉えています。
建築・構造で偶力が出てくる場面
「ペン回しは分かったけど現場で何の役に立つの?」という疑問に答えます。偶力は建築の構造の中で、実はあちこちに顔を出します。ここは教科書的な解説ではほとんど触れられない、実務寄りの論点です。
鉄骨のモーメント接合(梁端の上下フランジ)
鉄骨の梁端をモーメント接合(剛接合)するとき、梁の上下フランジが「引張」と「圧縮」のペアになってモーメントを伝えます。上フランジが引張、下フランジが圧縮(またはその逆)で、大きさが等しく逆向きの一対の力、つまり偶力です。伝わるモーメントは「フランジの力×フランジ間距離(梁せい相当)」=P×Lで、まさに偶力のモーメントの式そのものです。
アンカーボルトの引抜きと支圧
柱脚(ベースプレート)が転倒モーメントを受けると、片側のアンカーボルトが引張(引抜き)、反対側のコンクリートが圧縮(支圧)になります。この引張力と圧縮力のペアが偶力を作り、柱脚に作用するモーメントに抵抗します。
引張力・引張荷重の考え方はこちらが参考になります。

その他、偶力が効く場面
- 高力ボルトを締めるトルク(スパナを回す回転作用)
- 建物の転倒モーメントと、両端基礎の引張・圧縮による抵抗
- 部材に作用する純粋な曲げ(後述)
実務だと、偶力は「離れた2点の引張と圧縮のペアでモーメントを伝える・抵抗する」という形で構造の中に埋め込まれています。鉄骨接合もアンカーボルトも、突き詰めれば「P×Lで決まる偶力モーメント」です。だから施工管理として接合部の検討図を見るとき、「この上下の力の差とフランジ間隔で、これだけのモーメントを伝えてるんだな」と読めるようになると、図面の意味が立体的に見えてきます。
偶力と曲げモーメント(純粋曲げ)の関係
偶力は「曲げモーメント」とも深く関係しています。
部材の断面に「上側が圧縮、下側が引張」という一対の力(偶力)が作用すると、部材は曲がります。これが曲げモーメントの正体で、断面内部の圧縮側と引張側の力のペアが偶力を作り、部材を曲げています。とくに、せん断力を伴わずモーメントだけが作用する状態を「純粋曲げ」と呼びますが、これはまさに偶力だけが作用している状態です。
曲げモーメント図の見方はこちらが参考になります。

僕の感覚だと、「曲げモーメント=断面内部の偶力」と捉えると、構造力学のモーメントの話が一段つながります。梁が曲がるのは、断面の中で圧縮と引張が偶力を作っているから。偶力という小さな概念が、曲げという構造の根幹に直結している、と分かると、偶力を学ぶ意味が腑に落ちます。試験のための知識ではなく、部材が曲がる仕組みそのものを理解する鍵が偶力です。
偶力に関するよくある質問
Q1:偶力と普通の力は何が違いますか?
普通の1つの力は物体を「移動+回転」させますが、偶力(大きさが等しく逆向きの平行な2力)は移動成分が打ち消し合うため「回転だけ」をさせます。偶力は「回転専門の力」と捉えると分かりやすいです。この性質のおかげで、構造では「部材を曲げる(回す)モーメントを伝える」場面で偶力の考え方が使われます。
Q2:偶力のモーメントはどう計算しますか?
M=P×L で計算します。Pは力の大きさ、Lは2つの力の作用線間の距離(垂直距離)です。たとえばP=10kN、L=2.0mなら M=20kN・m です。普通の力のモーメント(力×基準点からの距離)と違い、Lは「2力の間隔」である点に注意します。
Q3:なぜ偶力のモーメントは基準点に依らず一定なのですか?
任意の点からの距離xを使ってモーメントの和を計算すると、M=P(L−x)+Px=PL となり、xが消えてP×L(一定)になるからです。物理的には、偶力は移動成分を持たない純粋な回転なので、回転の中心をどこに置いても回転の強さ(P×L)が変わらない、と理解できます。これが力のモーメント(基準点で値が変わる)との決定的な違いです。
Q4:偶力のモーメントの単位は何ですか?
力×距離なので、N・m、kN・m、N・mm などで表します。建築の構造計算ではkN・mが標準で、曲げモーメントなど他の回転作用と同じ単位です。単位が共通なので、構造計算書の中でほかのモーメントと一緒に足し引きできます。
Q5:斜めの力でも偶力になりますか?
なります。見た目が偶力でなくても、力を鉛直・水平成分に分解して「大きさが等しい・逆向き・作用線がずれた平行」の3条件を満たせば偶力です。試験では成分分解で偶力かどうかを判定させる問題が出るので、見た目だけで判断しないことが大切です。
Q6:偶力は建築のどこで使われていますか?
鉄骨のモーメント接合(梁端の上下フランジの引張・圧縮ペア)、柱脚のアンカーボルトの引抜きと支圧、高力ボルトの締付けトルク、建物の転倒に対する両端基礎の抵抗などに現れます。さらに、部材の曲げモーメント自体が「断面内部の圧縮と引張の偶力」であり、曲げという構造の根幹に偶力が関わっています。
偶力に関する情報まとめ
- 定義:大きさが等しく、向きが反対で、作用線が一致しない平行な2力の組
- 性質:物体を回転させるだけで移動させない(並進成分が打ち消し合う)
- 3条件:①大きさが等しい②向きが反対③作用線がずれて平行
- モーメント:M=P×L(力×2力の間隔)
- 最大の特徴:モーメントが基準点に依らず一定(xが消えてP×L)
- 力のモーメントとの違い:1つの力は基準点で値が変わる、偶力は一定
- 単位:N・m/kN・m/N・mm。建築実務はkN・mが標準
- 合成:複数の偶力は符号付きの代数和でまとめられる(位置を気にしない)
- 建築での例:鉄骨モーメント接合の上下フランジ、アンカーボルトの引抜き・支圧、転倒抵抗
- 曲げとの関係:曲げモーメントは断面内部の圧縮・引張の偶力。純粋曲げ=偶力のみ
以上が偶力に関する情報のまとめです。
偶力は「回転専門の力」で、M=P×L・基準点に依らず一定、という2点を押さえれば計算は難しくありません。そして本当に大事なのは、鉄骨のモーメント接合やアンカーボルト、さらには曲げモーメントそのものが偶力でできている、という現場とのつながりです。ペン回しの例で終わらせず「離れた2点の引張・圧縮でモーメントを伝える・抵抗する」という形で捉え直すと、構造図面の見え方が変わってくるはずです。
合わせて読みたい記事はこちら。





