- 偶力ってなに?読み方は?
- 力のモーメントとどう違うの?
- 偶力モーメントってどう計算する?
- どこに作用するの?
- 建築で偶力が出てくる場面って?
- 施工管理で意識する場面は?
上記の様な悩みを解決します。
「偶力(ぐうりょく)」は、構造力学・物理の入門で必ず出てきますが、「力のモーメントとどう違うの?」でつまずく人が多い概念です。「2つの力で物を回す」というシンプルな定義が分かると、地震時のラーメン柱頭・柱脚に発生するモーメントや、ボルトの締付トルクの理解が一気に立体的になります。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
偶力とは?
偶力とは、結論「大きさが等しく、向きが正反対で、作用線が一致しない、平行な2つの力の組」のことです。
英語ではCouple(カップル)と呼ばれ、漢字では「偶力(ぐうりょく)」。「偶(つがい)」の字が示すとおり、「対になった2つの力」を意味します。
→ ざっくり、「2つの逆向きの力で物を回す力の組」が偶力、というイメージです。
3つの条件と身近な例
偶力として成立するためには、2つの力が3条件を満たす必要があります。大きさが等しい(両方の力が同じN=ニュートン)、向きが正反対(一方が右、もう一方が左を指す)、作用線が一致しない(少しでも離れた位置で作用する)、というあたり。3つすべてを満たすと、並進運動はせず、回転だけを発生させる力の組になります。
身近な偶力の例としては、ハンドルを回す手の動き(左右の手で逆向きに力を加える)、ねじ回しを回す指の動き(親指と人差し指の力が偶力)、ペットボトルのキャップを開ける動作(両手の力が偶力)、ドアを両手で開ける(押す手と引く手が偶力)、というあたり。
「2つの力があるけど、合計すると0になる」点が偶力の最大の特徴。並進方向には何も動かないが、回転だけは生じる——これが偶力の本質です。
偶力モーメントの式
偶力が発生させる回転の大きさを「偶力モーメント」または単に「偶力」と呼びます。M = F × d で、M が偶力モーメント(N・mなど)、F が力の大きさ、d が2つの力の作用線間の距離(腕の長さ)。「力 × 腕の長さ」で計算する点は、力のモーメントと同じです。
偶力と力のモーメントの違い
「偶力」と「力のモーメント」は似ているようで、作用点の扱いが違います。
定義の違い
力のモーメントは、1つの力がある点(基準点)から離れた位置に作用するもので、M = F × r(r は基準点から作用点までの垂直距離)。基準点を変えるとモーメントの値が変わります。
偶力は、2つの力で構成され、大きさ等しく向き反対で作用線が一致しないもの。基準点をどこに取ってもモーメントの値が変わりません。
| 項目 | 力のモーメント | 偶力 |
|---|---|---|
| 力の数 | 1つ | 2つ(対) |
| 力の合計 | 力 F | 0(打ち消し合う) |
| モーメントの値 | 基準点で変わる | 基準点で変わらない |
| 並進 | あり | なし |
| 回転 | あり | あり |
基準点に依存しない理由と自由ベクトル
偶力モーメント M = F × d(腕の長さ d)は、2つの力の間の距離で決まります。基準点を別の場所に取っても、両方の力に対するモーメントの差を計算すると、結果は同じになります。
例として偶力 F = 100N、d = 0.5m の場合、基準点を左の力の作用点に取るとM = 100 × 0.5 = 50 N・m、基準点を右の力の作用点に取るとM = 100 × 0 + 100 × (-0.5) = -50 N・m(反時計回り基準なら+50)、基準点を間に取る(0.2m地点)とM = 100 × 0.2 + 100 × 0.3 = 50 N・m、というように、どこを基準点にしてもM = 50 N・mで一致します。
偶力モーメントは「どこに作用しているか」を問わない量で、「自由ベクトル」として扱えます。物体のどの位置に偶力を加えても回転効果は同じで、図示するときも特定の位置にこだわらず「曲がった矢印」で示すことが多い、というのが特徴。これが、力のモーメント(位置依存)との大きな違いです。力のモーメントの全般は別記事も参考にしてください。

偶力モーメントの計算方法
偶力モーメントは、「力の大きさ × 腕の長さ」で求めます。基本式は M = F × d で、F が偶力の片方の力の大きさ、d が2つの力の作用線間の垂直距離。ここでの d は、力の方向に直交する距離であることに注意。斜めに測った距離ではなく、力の作用線同士の最短距離を使います。
計算例
ハンドル回しの例では、ハンドル直径200mm(半径100mm)、両手で100Nずつ逆向きに力を加えると、偶力モーメント M = 100 × 0.2 = 20 N・m。ハンドルを片手だけで回した場合は通常のモーメント計算ですが、両手で逆向きに同じ力を加えるとそれが偶力モーメントになります。
ボルト締付の例では、スパナ長さ0.3m、スパナの両端に60Nずつ逆向きに力を加えると、偶力モーメント M = 60 × 0.3 = 18 N・m。実際のボルト締付は片手で力を加える「片端モーメント」なので純粋な偶力ではないですが、「両手でスパナを回す」イメージは偶力に近い動作です。
建築の柱頭曲げモーメントの例として、ラーメン構造の柱頭・柱脚に発生する曲げモーメントは、実質的に偶力として扱えます。柱頭の引張力T、柱脚の圧縮力C(=T、釣り合い)、柱の長さL、偶力モーメント M = T × L、という関係。
単位と符号
偶力モーメントの単位は、国際単位系(SI)でN・m(ニュートンメートル)、工学単位でkN・m・N・mm、古い単位でkgf・m(1 kgf・m ≈ 9.8 N・m)、というところ。施工現場では「N・m」または「kN・m」が標準で、ボルトのトルク管理はN・mで表記されます。
偶力の符号は、反時計回りが正(+)、時計回りが負(−)。教科書・規準により逆の流儀もありますが、反時計回り正が日本の構造力学ではメジャーです。
偶力の合成と分解
偶力は自由ベクトルとして扱えるため、合成・分解が容易です。
複数偶力の合成と力との合成
複数の偶力が同じ平面上に作用する場合、「偶力モーメントの代数和」が合成偶力モーメントになります。M_合成 = M1 + M2 + M3 + …、反時計回りを正・時計回りを負として加算、結果が正なら反時計回り・負なら時計回りの偶力モーメント、というかたち。
ある点に力Fが作用し別の場所に偶力モーメントMが作用するとき、力Fは基準点を移動して「同じ大きさの力+追加のモーメント」として表現可能。追加のモーメント=F × r(r は移動距離)で、偶力Mとの合計モーメント=M + F × r、というのが「力の作用点を変える」ときの定石です。
分解と三次元
逆に、偶力モーメントMを「2つの力の組」に分解することもできます。任意の腕の長さdを選ぶ、力の大きさF = M / d、大きさF・向き反対・距離dの2つの力に分解、という手順。
3次元では、偶力モーメントはベクトルとして扱います。大きさM = F × d、向きは右ねじの法則で決まるベクトル方向(回転軸方向)、ベクトル合成は通常のベクトル和で合成、というところ。これは「ねじりモーメント」を扱う際の基礎にもなります。
偶力が建築で出てくる場面
偶力の概念は、教科書だけでなく、建築の設計・施工現場でも普通に出てきます。
ラーメン構造・梁・ブレース
ラーメン構造の柱頭・柱脚モーメントでは、地震時の水平荷重でラーメン柱の柱頭・柱脚に逆向きの力が発生、柱頭は引張・柱脚は圧縮(または逆)、柱の高さを腕とした偶力モーメントが柱断面に作用、鉄骨柱の継手部・基礎ボルトの設計はこのモーメントを前提、というあたり。
梁端の曲げモーメントでは、連続梁の中間支点で上下逆向きの曲げ応力、梁せいを腕としてフランジの引張・圧縮が偶力を構成、梁せいが大きいほどフランジに必要な力が小さくなる、という関係。
ブレース(X字配置)の引張・圧縮では、地震時にブレースの一方が引張・他方が圧縮、構造全体に対して偶力的な抵抗モーメントを発生、ブレース構造の効果は本質的に偶力、というところ。ブレースについては別記事も参考にしてください。

ボルト・アンカー・トルク・転倒・ねじり
高力ボルト群の引張・圧縮では、鉄骨継手の高力ボルトが曲げモーメントを伝達するときに上側ボルトが引張・下側ボルトが圧縮、ボルト間の距離が腕・引張圧縮の力が偶力を形成、偶力モーメント M = F × d で接合部の伝達トルクを評価、というかたち。
鉄骨基礎ボルトのアンカーでは、柱脚に転倒モーメントが作用、引張側のアンカーボルト引き抜き力・圧縮側ベースプレート支圧、偶力として基礎が抵抗、という構造。
ねじ・ボルトの締付トルクでは、スパナでボルトを締めるときハンドル両端に逆向きの力(実質的に偶力)、締付トルク=力×ハンドル長さ、高力ボルトの締付管理ではこのトルク値で管理、というあたり。
壁倒れ・建物の転倒モーメントでは、地震時の建物全体は根元中心の回転、自重が偶力的に抵抗、転倒モーメント vs 復元モーメントで安定判定、というところ。ねじりモーメント(ねじり変形)では、部材の長手方向まわりの回転、偶力的なねじり力が部材表面に発生、ねじり変形は梁の偏心荷重などで発生、という関係です。
偶力と施工管理
施工管理として偶力の概念を直接計算することは少ないですが、「現場の力の流れを読み解く」ためには地味に効きます。
ボルト群・柱継手・配筋・締付
ボルト群の伝達モーメントでは、鉄骨梁端のボルト本数・配置を見て「上下のボルト群が偶力で曲げモーメントを伝達」と理解、ボルト本数が多い/少ないの根拠は伝達モーメントから決まる、設計図書の継手詳細を読むときの基本視点、というあたり。
柱の継手位置では、柱の継手は曲げモーメントが小さい中間部に設定、柱頭・柱脚(偶力モーメントが大きい場所)は継手を避ける、柱の継手位置の合理性が偶力で説明できる、という関係。
配筋検査での主筋密度では、RC梁の主筋は梁せいを腕とする偶力で曲げモーメントを伝達、引張側主筋の本数・かぶりが偶力モーメントの基準、配筋検査の重点項目はすべて偶力に関連、というところ。配筋検査の流れは別記事も参考にしてください。

高力ボルト締付では、トルク法・回転法でボルトを締める、スパナ・電動工具で偶力的な力を加える、トルク値(N・m)の管理、というあたり。
建方・地震時・現場での体験談
建方時の倒れ防止では、建方途中の鉄骨は不安定、風荷重・自重で転倒モーメントが発生、仮設の控えロープ・控えポールが復元偶力として機能、という構造。
地震時の建物挙動では、地震波の水平加振→建物全体に転倒モーメント、構造全体としての偶力的な抵抗が安全性を決める、構造計算書を読むときの基本視点、というところ。
ある電気室の電気盤据付で、盤の上端と下端を別々のアンカーボルトで固定する設計を見たことがあります。地震時に盤に作用する水平荷重が、上端・下端のアンカーで偶力モーメントとして基礎に伝わる仕組み。「上下のボルト本数のバランスがおかしい」と感じて構造設計者に確認したら、「下側のボルトを増やしたほうがてこの原理で有利」と説明され、偶力の腕の長さを意識すると設計の意図が透けて見えると感じた経験があります。
偶力に関する情報まとめ
- 偶力とは:大きさ等しく、向き反対で、作用線が一致しない平行な2つの力の組
- 読み方:ぐうりょく。英語では Couple(カップル)
- 3つの条件:等しい大きさ・反対向き・作用線が異なる
- 偶力モーメント:M = F × d(力の大きさ × 腕の長さ)、単位は N・m、kN・m
- 力のモーメントとの違い:偶力は基準点に依存しない自由ベクトル、力のモーメントは基準点依存
- 合成・分解:複数偶力は代数和で合成、任意の腕で分解可能
- 建築での出番:ラーメン柱頭・柱脚モーメント、梁端のフランジ引張圧縮、ブレース、高力ボルト群、アンカーボルト、ねじり、転倒モーメント
- 施工管理視点:ボルト群の継手伝達、柱継手位置、配筋密度、トルク管理、建方の控え、地震時の安全性
以上が偶力に関する情報のまとめです。
偶力は「力の合計はゼロだけど、回転だけが残る」シンプルな概念で、ラーメン柱・梁端ボルト・アンカー設計など、実務の構造設計のあらゆる場面で姿を変えて登場します。「対の力が腕の長さで回す」というイメージを常に頭に置くと、設計図書の継手詳細・ボルト配置の意図が立体的に見えてきます。一通り偶力の基礎知識は理解できたと思います。
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