- 「イーゼット」って正しい読み方?
- 「ε」って文字、何を意味してる?
- 建築でε(イプシロン)って何のこと?
- ひずみの計算式や値の目安は?
- εと σ(シグマ)はどう違う?
- 鋼やコンクリートの降伏ひずみはいくつ?
上記の様な悩みを解決します。
「ε」という記号、構造力学の教科書や応力ひずみ線図、構造計算書のあちこちに出てきますよね。「イーゼット」と呼ぶ人もいれば「イプシロン」と呼ぶ人もいて、初学者は「同じ記号?別物?」と混乱しがちです。本記事では、ε の正しい読み方、建築・構造での意味(=ひずみ)、計算式、現場で扱う数値の感覚まで、施工管理の視点で整理します。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
イーゼット(ε)とは?
イーゼット(ε)とは、結論「ギリシャ文字の『ε』のこと。正しい読み方は『イプシロン』で、建築・構造の世界ではひずみ(無次元の変形比率)を表す記号として最頻出」のものです。
まず最初に押さえたい大事な点
最初に押さえたい大事な点は、正しい読み方は「イプシロン(Epsilon)」、「イーゼット」は誤読・誤伝として広まっている呼び方、文字の形はε(小文字)とΕ(大文字)で建築では小文字のεを使う、という3点。
「イーゼット」と呼んでも意味は通じるケースが多いですが、構造設計者や大学教授との会話では「イプシロン」と発音した方が圧倒的に通りが良いです。「e」と「z」が並んだ記号ではなく、ギリシャ文字1文字、というのが大事なポイント。
なぜ「イーゼット」と読まれてしまうのか
ε は手書きすると「ε」というよりも「ε」に近い形で、英語アルファベットの「e」と「z」の組み合わせのように見えなくもないため、独学の場合に「イー・ゼット」と読んでしまうケースがあります。実際の発音はギリシャ語の「ε」で、英語読みでは「エプシロン」、日本語の物理・数学の慣習では「イプシロン」と表記するのが標準です。
英文字のe(小文字)と区別すると
e(英小文字)が自然対数の底(≒2.71828…)として使うもの、ε(ギリシャ小文字)がひずみ・微小量・誤差項として使うもの、という違い。
文字の似た「e」と「ε」が、同じ計算書の中で別の意味で出てくることもあるので、注意して読み取る必要があります。
建築でε(イプシロン)が何を指すか
建築・構造工学の世界では、ε はほぼ100%「ひずみ(strain)」を意味します。
ひずみの定義
ひずみとは、結論「材料が変形したときの、元の長さに対する変形量の比率」のこと。式で書くと、
ε = ΔL ÷ L
ここでεがひずみ(無次元、単位なし)、ΔLが変形量(mm)、Lが元の長さ(mm)。
例えば、長さ 1,000mm の鋼棒を引っ張って 1mm 伸びたとき、
ε = 1 ÷ 1,000 = 0.001
ひずみは無次元なので単位がつきません。実務では「マイクロひずみ(μ)」という単位を使うことがあり、1 μ = 0.000001(10⁻⁶)。つまり 0.001 のひずみは 1,000 μ となります。
応力 σ(シグマ)との違い
| 記号 | 名前 | 単位 | 意味 |
|---|---|---|---|
| σ(シグマ) | 応力 | N/mm² | 単位面積あたりの内力 |
| ε(イプシロン) | ひずみ | 無次元 | 単位長さあたりの変形 |
σ と ε はペアで登場することが多く、「応力ひずみ線図(σ-ε曲線)」「フックの法則 σ = E × ε」のようにセットで覚えるのが基本です。
ひずみの種類
実は ε にも種類があり、文脈で何のひずみかを読み分けます。軸ひずみε(縦・横方向の伸縮)、横ひずみε’(軸ひずみと直交方向のひずみ=ポアソン効果)、せん断ひずみγ(γ=ガンマを使う、εは使わない)、体積ひずみ(ε_vなどで書く)、というあたり。
軸ひずみと横ひずみの比率がポアソン比 ν(ニュー)です。ヤング率 E との関係や種類別の話は次の記事に整理しています。

ε(ひずみ)の計算式とフックの法則
建築で ε を使う場面の最頻出が「フックの法則」です。
フックの法則
σ = E × ε
ここでσが応力(N/mm²)、Eがヤング率(N/mm²)、εがひずみ(無次元)。
逆に解くと、
ε = σ ÷ E
つまり、ある応力 σ がかかったときのひずみは、応力を材料のヤング率(剛性)で割れば求まる、という訳です。
具体例:鋼材に σ = 100 N/mm² の応力がかかったとき
鋼のヤング率 E = 205,000 N/mm² を使うと、
ε = 100 ÷ 205,000 ≒ 0.000488(= 488 μ)
長さ 1m の鋼棒なら、伸び ΔL = ε × L = 0.000488 × 1,000 = 0.488mm。100 N/mm² の応力で 0.5mm 弱伸びる、という感覚です。
鋼のヤング率の詳細は別記事で整理しています。

応力ひずみ線図(σ-ε曲線)
σ-ε 曲線は材料試験の結果を描いた基本グラフ。横軸 ε、縦軸 σ で、①弾性域(直線、傾きがE)、②降伏点(鋼の場合は明瞭、コンクリートは不明瞭)、③塑性域(傾きが緩やか、塑性変形が進む)、④引張強さ(最大点)、⑤破断点、という5段階を描きます。
この線図上で「降伏点に達するひずみ」が降伏ひずみで、構造設計の重要な値です。
建築材料の降伏ひずみ(数値感覚)
ε は無次元なので、桁が小さくて数値の感覚が掴みにくい。代表的な材料の数値を覚えておくと、構造計算書を読むときに「この値、おかしくないか」と察知できます。
| 材料 | 降伏応力 σ_y (N/mm²) | ヤング率 E (N/mm²) | 降伏ひずみ ε_y |
|---|---|---|---|
| SS400 | 235 | 205,000 | 0.00115 (約 1,150 μ) |
| SN490 | 325 | 205,000 | 0.00159 (約 1,590 μ) |
| SD345(鉄筋) | 345 | 205,000 | 0.00168 (約 1,680 μ) |
| アルミ A6063 | 130 | 70,000 | 0.00186 (約 1,860 μ) |
| コンクリート(Fc24、終局時) | — | 25,000 | 約 0.003(圧縮終局ひずみ) |
| 木材(スギ、降伏概略) | 約 20 | 7,000 | 約 0.0029 |
鋼の降伏ひずみは「だいたい1,000〜2,000μ」
これが鋼の感覚値。鋼材の降伏ひずみは 1,000〜2,000 マイクロひずみ(μ)の範囲に収まります。教科書では 0.002(0.2%耐力)を降伏とみなす流派もあり、これがアルミの降伏判定で使われる「耐力」の話です。
コンクリートの圧縮終局ひずみは 0.003
構造設計告示や RC 規準では、コンクリートの圧縮側終局ひずみを 0.003(= 3,000μ)と仮定します。鋼の降伏ひずみ(約 1,600μ)の2倍くらい、と覚えておくと使い分けがしやすいです。
鉄筋とコンクリートの曲げ設計の前提
RC 部材の曲げ設計では「平面保持仮定」のもと、コンクリートの圧縮ひずみが 0.003 に達したときに終局として、その瞬間に鉄筋がどれくらい降伏しているか(つまり ε_s ≥ ε_y か)を確認します。これがあの「複筋比」「中立軸位置」の話の正体です。
ε が他に出てくる分野(混同を防ぐ)
ひずみ以外にも ε はいろいろな場面で使われます。建築には直接関係しないものもありますが、ぼんやり混同しないよう整理しておきます。
電気・電磁気学
電気・電磁気学では、誘電率(εまたはε_r比誘電率)、単位はF/m(ファラド毎メートル)、真空の誘電率ε₀≒8.854×10⁻¹² F/m、というあたり。
数学
数学では、微小量・限りなく小さい正の数(ε)、ε-δ論法で「どんなに小さなεを取っても、あるδが存在して〜」のように出てくる、集合論で「要素である」を表す∈も実はεから派生した記号、というあたり。
統計学・機械学習
統計学・機械学習では、誤差項(y = a + bx + εのように出てくるεは誤差)、ε-greedyのような探索アルゴリズムの探索率もεで表記、というあたり。
物理学
物理学では、真空誘電率ε₀、比誘電率ε_r、機械工学の塑性ひずみε_p・弾性ひずみε_eの使い分けも頻出、というあたり。
ですので、計算書や教科書を読むときは、まず「この ε はどの分野の話か」を確定させてから読むのが安全。建築・構造で出てくるなら、まず「ひずみ」と思って読み始めるのが正解です。
計算書・図面で ε を読み取るときのコツ
実務で ε を見たときに迷わないよう、よく出てくる組み合わせを整理しておきます。
よく出てくる組み合わせ
よく出てくる組み合わせは、ε_x・ε_y・ε_z(x方向・y方向・z方向のひずみ)、ε_y(添字のy=降伏時のひずみ=yield strain。座標と混同しやすい)、ε_u(終局ひずみ=ultimate strain)、ε_p(塑性ひずみ)、ε_e(弾性ひずみ)、ε_c(コンクリートのひずみ=concrete)、ε_s(鉄筋・鋼材のひずみ=steel)、というあたり。
「ε_y」が「y方向のひずみ」なのか「降伏ひずみ」なのかは、文脈で判断します。構造計算書では降伏ひずみの意味で出てくることが多く、ε_x(x方向のひずみ)と並んでいるなら座標方向の話、ε_u と並んでいるなら降伏ひずみの話、という感じです。
Excel・表計算で ε を入力したいとき
Excel・表計算でεを入力したいときは、Windowsで「いぷしろん」と入力して変換、ExcelのCHAR関数では出ない(CHARはASCIIまで)、Word・Excelで[挿入]→[記号と特殊文字]→ギリシャ文字、ショートカットでAlt+949(テンキーで数字コード)、というあたり。
構造計算書を Excel で作るとき、ε の入力で詰まる新人が意外に多いので、覚えておくと地味に便利です。
イーゼット(ε)に関する情報まとめ
- イーゼット(ε)とは:ギリシャ文字 ε のこと。正しい読み方は「イプシロン」
- 建築での意味:ほぼ100%「ひずみ(無次元の変形比率)」を指す
- 定義:ε = ΔL ÷ L(変形量 ÷ 元の長さ)
- 単位:無次元(マイクロひずみ μ = 10⁻⁶ で表記することも多い)
- フックの法則:σ = E × ε、逆に ε = σ ÷ E
- 鋼の降伏ひずみ:SS400 で約 0.00115、SN490 で約 0.00159
- コンクリートの圧縮終局ひずみ:0.003
- 他分野:誘電率・微小量・誤差項などにも ε は使われるが、建築は「ひずみ」一択
以上がイーゼット(ε)に関する情報のまとめです。記号としては小さくて見落としがちですが、ε はあらゆる構造設計の起点になる量で、これを ΔL/L という素朴な比率として理解できているかどうかで、応力ひずみ線図・フックの法則・RC 規準の見え方が一変します。今度構造計算書で ε を見かけたら「これはひずみ、無次元、桁は 10⁻³ オーダーが普通」と頭の中で唱えて読んでみてください。
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