- 水平剛性ってなに?普通の剛性と何が違うの?
- 両端固定柱と両端ピン柱で公式が違うって本当?
- 剛性マトリクスとどう関係しているの?
- 水平剛性が高いと地震にどう効くの?
- 耐震壁やブレースを足すと剛性はどう変わる?
- 層間変形角・剛性率との関係は?
上記の様な悩みを解決します。
水平剛性は、地震や風による水平力を建物がどれくらい受け止めて変形に耐えられるかを表す、構造設計のド基幹となる考え方。「層がどれだけ硬いか」を一発で表せる指標で、層間変形角や剛性率といった他の構造概念の出発点にもなります。柱・ブレース・耐震壁ごとに公式が変わる点さえ押さえれば、図面を読むときの目線が一段深くなりますね。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
水平剛性とは?
水平剛性とは、結論「建物(または1本の柱・1つの層)が水平方向の力に対して、どれくらい変形しにくいかを表す指標」のことです。
英語では Horizontal Stiffness または Lateral Stiffness。記号では K または Kh で表します。
定義式(一番シンプルな形)
K = P / δ
- P:水平力(kN)
- δ:水平変位(mm)
「1単位の水平変位を起こすために、何kNの水平力が必要か」を表す数値で、単位はkN/mmやN/mmなど。
ざっくりイメージすると
1本の柱の上端に1kNの水平力を加えたら、
- 柱が0.1mm動く → 水平剛性 K = 1/0.1 = 10 kN/mm(硬い)
- 柱が10mm動く → 水平剛性 K = 1/10 = 0.1 kN/mm(柔らかい)
「同じ力で動きにくいほど水平剛性が高い」と覚えればOKです。
通常の剛性との違い
- 一般的な「剛性」 K = EI/L → 部材が曲げに対してどれくらい変形しにくいかを示す
- 水平剛性 K = P/δ → 建物の層が、水平力に対してどれくらい変形しにくいかを示す
通常の剛性が部材レベルの話なのに対し、水平剛性は層レベル・建物レベルの話。視点のスケールが1段大きくなった指標、と捉えると分かりやすいですね。
なぜ建築で重要か
建物の耐震設計では、「地震力をどう受け止めるか」が中核テーマ。水平剛性は、
- 地震時の層間変形角を決定する元になる量
- 剛性率(各層の剛性のバランス)の計算に使う
- 偏心率(剛心と重心のズレ)の計算にも使う
- 制振・免震設計で設計値を選定するときの基本指標
など、構造設計のあらゆる場面で登場する全部の出発点ですね。
層間変形角・剛性率・偏心率の整理は別記事を参考にしてください。

水平剛性の計算式(柱の支持条件別)
水平剛性の計算式は、柱の支持条件によって変わります。手計算でよく出る代表パターンを整理します。
①両端固定柱の水平剛性
両端が完全に固定された柱の上下端に水平力が加わったとき、
K = 12 × E × I / L³
- E:ヤング率
- I:断面二次モーメント
- L:柱の高さ
「12 EI / L³」は構造力学で最も登場頻度の高い公式の1つ。Lの3乗で効いてくるのが特徴で、柱の高さが2倍になると剛性は1/8に落ちます。これが「階高が高い建物は柔らかくなる」現象の正体ですね。
②両端ピン柱の水平剛性
両端がピン接合の柱の場合、水平力に対しては剛性ゼロになります。
K = 0
ピンは回転が自由なので、水平力をかけると柱が真横にスライドするだけ。「両端ピン柱は単独では水平力を受けられない」という大原則がここに現れています。だからピン構造の建物にはブレースや耐震壁が必須なんですね。
③片端固定・片端ピン柱の水平剛性
K = 3 × E × I / L³
両端固定の1/4の剛性。「ピンが1個増えるごとに剛性が大きく落ちる」と覚えておくとイメージしやすいです。
柱の支持条件別 水平剛性まとめ
| 支持条件 | 水平剛性 K | 倍率 |
|---|---|---|
| 両端固定 | 12 EI / L³ | 1.0(基準) |
| 片端固定・片端ピン | 3 EI / L³ | 0.25 |
| 両端ピン | 0 | 0 |
| 片端固定・片端自由(カンチ) | 3 EI / L³ | 0.25 |
④層全体の水平剛性
1つの層には複数の柱・耐震壁・ブレースが並んでいます。層全体の水平剛性は、各部材の水平剛性の単純合計。
K_層 = ΣK_柱 + ΣK_耐震壁 + ΣK_ブレース
たとえば10本の柱が並ぶ階で、1本あたりの水平剛性が10 kN/mm なら、層全体は100 kN/mm。「並列に並んだバネの合成」と同じイメージで足し算します。
水平剛性と剛性マトリクス
複数階建ての建物では、各層の水平剛性をマトリクスで表現して扱います。これが剛性マトリクス(剛性行列)の入り口。
1質点系の剛性マトリクス
最もシンプルな1階建ての建物(1質点系)では、
[K] = [K1]
たった1つの値です。
2質点系(2階建て)の剛性マトリクス
2階建ての場合、各階の水平剛性を K1(1階)、K2(2階)として、
[K] = [ K1+K2 -K2 ]
[ -K2 K2 ]
の2×2マトリクスになります。
- 対角成分:その階に集まる剛性の合計
- 非対角成分:隣接階との連成(マイナス符号)
N階建ての剛性マトリクス
N階建てなら N×N マトリクス。実務ではコンピュータが扱うサイズですが、理論的にはこの拡張で全階を表現できます。
剛性マトリクスを使う場面
- 固有値解析(建物の周期や振動モードの計算)
- 動的応答解析(地震時の応答シミュレーション)
- 静的応力解析(地震力に対する各階の変位計算)
水平剛性は、これらすべての入力データになる量。だから水平剛性の見積もりが甘いと、その後の構造解析全部が狂うわけですね。
影響線(不静定構造の応力分布)の解説は別記事を参考にしてください。

水平剛性と剛性率・偏心率の関係
水平剛性は、剛性率と偏心率という2つの構造設計上の重要指標の元になります。
①水平剛性 → 剛性率
剛性率Rsとは、各階の剛性が建物全体でどれくらいバランスしているかを表す指標。
Rs = rs / r_平均
- rs:その階の柱の高さ÷層間変位(剛性に比例)
- r_平均:全階の平均
剛性率は0.6以上が建築基準法上の要求値。「1階だけピロティで柔らかい」みたいな建物は剛性率が小さくなり、地震時に1階だけ集中的に変形して倒壊する危険性があります。
②水平剛性 → 偏心率
偏心率Reとは、重心と剛心(剛性の中心)のズレを表す指標。
Re = e / re
- e:重心と剛心の偏心距離
- re:弾力半径
偏心率は0.15以下が要求値。「X方向だけブレースが片寄っている」みたいな建物は偏心率が大きくなり、地震時にねじれ振動が発生します。
③水平剛性 → 層間変形角
層間変形角γとは、地震時の各階の変形角度で、
γ = δ / h
- δ:層間変位
- h:階高
層間変形角は1/200以下(一般)または1/120以下(特定)が基準値。
水平剛性が大きいほど層間変位δが小さくなり、層間変形角も小さくなる。「水平剛性を上げる=地震時の変形を抑える」という関係です。
剛性率・偏心率の詳しい解説は個別記事を参照してください。


水平剛性に関する現場での着眼点
施工管理として水平剛性に関わる場面を、現場目線で整理しておきます。
①ピロティ階の柱断面に注意
「1階に駐車場や店舗があって柱しかない、上層は壁が多い」というピロティ構造は、1階の水平剛性が上層に比べて極端に小さい典型パターン。設計図上で1階の柱の太さが上層に比べて明らかに大きいようなら、剛性率を確保するための工夫の表れですね。
②ブレース・耐震壁の追加で剛性は跳ね上がる
水平剛性が不足するとき、構造設計者がよくやるのは、
- ブレースを追加:1ヶ所追加するだけでその階の水平剛性が数倍になることも
- 耐震壁を追加:壁の長さLwの3乗で効くため、長い壁ほど剛性が爆上がり
逆に言うと、施工現場で「この耐震壁、邪魔だから少し短くしてもいい?」みたいな相談が出たら絶対NG。長さが短くなった瞬間に水平剛性が大きく落ちるので、構造設計者の確認は必須。
③改修工事での開口設置リスク
既存ビルのリノベーションで「この壁、開口を空けて窓にしたい」という要望が出ることがあります。耐震壁に開口を設けると水平剛性が大幅に低下し、剛性率が基準割れになるケースも。開口位置・サイズは構造設計者と必ず協議するのが鉄則。
④杭の水平剛性も検討対象
建物本体だけでなく、杭の水平剛性(杭頭で水平力に対する剛性)も基礎の検討で重要。地盤の水平地盤反力係数(Kh)を使って計算します。地盤が緩いと杭の水平剛性が小さくなり、建物全体が水平方向に揺れやすくなる。
⑤施工誤差で意外に効いてくる
ブレースの取付角度がカタログ通りに付いていなかったり、耐震壁にコールドジョイントが入っていたりすると、設計通りの水平剛性が出ないことがあります。施工管理としてブレースの取付角度・耐震壁のコンクリート品質は重点的にチェックしたい部分。
ブレースの基本は別記事でまとめています。

壁量計算(耐震壁の量を確かめる仕組み)の解説も合わせて参照してください。

水平剛性に関する情報まとめ
最後に、水平剛性の重要ポイントを整理します。
- 水平剛性とは:建物・層・柱が水平方向の力に対して、どれくらい変形しにくいかを表す指標。K = P/δ
- 両端固定柱の公式:K = 12 EI / L³(最も基本)、片端ピンなら 3 EI / L³、両端ピンなら 0
- 層全体の剛性:その層に並ぶ柱・耐震壁・ブレースの剛性を単純合計
- 剛性マトリクス:複数階建てでは N×N の行列で表現、固有値解析や動的解析の入力に使う
- 剛性率との関係:水平剛性のバランスが剛性率を決め、0.6以上が建築基準法上の要求
- 偏心率との関係:剛性中心と重心のズレが偏心率、0.15以下が要求
- 層間変形角との関係:水平剛性が大きいほど層間変形角が小さくなり耐震性が向上
- 現場での着眼点:ピロティ、ブレース・耐震壁追加、開口設置NG、杭の水平剛性、施工誤差
以上が水平剛性に関する情報のまとめです。
水平剛性は「層の硬さ」を表す一番大事な数値で、剛性率・偏心率・層間変形角という耐震設計の中核指標がすべてここから派生します。柱の支持条件別の公式(特に12 EI/L³)を頭に入れておくと、図面を見ただけで「この柱はこの階で何kN/mm くらいの剛性かな?」という感覚が育ちますね。一通り水平剛性の基礎知識は理解できたと思います。
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