- 局部座屈ってなに?
- 全体座屈・横座屈と何が違うの?
- 幅厚比との関係って?
- どこで発生しやすいの?
- ランクFA・FB・FC・FDってよく聞くけど?
- 施工管理として何を見ればいい?
上記の様な悩みを解決します。
「局部座屈」は鉄骨造の安全性を語るうえで避けて通れない概念で、部材全体ではなく板要素(フランジ・ウェブ)単独が局所的に波打つ現象です。幅厚比(板の薄さの指標)と直結していて、構造設計者が「このH鋼のフランジはFAランクです」と言うときの根拠そのもの。施工管理として鉄骨製作図(SG図)を読むとき、「なぜこの板厚なのか」が腑に落ちるようになります。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
局部座屈とは?
局部座屈とは、結論「鉄骨部材を構成する板要素(フランジ・ウェブ等)が、圧縮を受けて部分的に波打つようにたわむ現象」のことです。
英語では local buckling(ローカル・バックリング)。記号は特にありませんが、構造規定では幅厚比 b/tで照査されます。
ざっくりイメージすると
A4のコピー用紙を縦に立てて、上から指で押してみてください。
- 軽く押すと紙の中央部分が湾曲してたわむ
- そのまま押し続けると波打つようにシワが入る
- 紙全体は折れていないのに、部分的にぐにゃっとなる
→ この「部材全体は健全なのに、板の一部分だけ局所的にたわむ」のが局部座屈。柱・梁の鉄骨は実は何枚かの板を組み合わせた断面なので、紙と同じことが起きるんです。
局部座屈の主な特徴
- 部材全体ではなく板要素単独で発生する
- 幅厚比(b/t)が大きい=板が薄いほど起きやすい
- 圧縮側の板で発生(引張側では起きない)
- 一度発生すると急激に耐力が低下する
- 設計時に幅厚比規定で発生を防ぐ
なぜ建築で重要か
局部座屈は、鉄骨造の脆性的な破壊モードとして最も警戒される現象の1つです。理由は次の3点。
- 降伏前に発生する可能性がある:鋼材が降伏応力に達する前に局部座屈が起きると、想定より小さな荷重で耐力低下する
- 塑性変形能力が失われる:地震時に部材が粘り強く変形してエネルギーを吸収する性能(靱性)が損なわれる
- 崩壊モードが急激:局部座屈が起きると断面が押しつぶされるように一気に変形が進む
→ つまり「鋼材の強さを引き出す前に折れる」のが局部座屈の怖さ。だから設計段階で幅厚比を制限することで発生そのものを防ぐ設計思想になっています。
局部座屈が起きる代表的な部位
| 部位 | 板要素 | 圧縮を受ける場面 |
|---|---|---|
| H鋼の上フランジ | 圧縮フランジ | 単純梁の中央上面 |
| H鋼のウェブ | 中立軸近傍 | 大きなせん断力作用時 |
| 角形鋼管柱の各面 | 板4面 | 軸圧縮+曲げ |
| 円形鋼管柱の管壁 | 円筒殻 | 軸圧縮 |
| 山形鋼の脚 | 突出板 | 圧縮材としての使用時 |
→ どの部位も圧縮かつ自由縁を持つ板要素であることが共通点。
H鋼の構造はこちらの記事も参考にしてください。

局部座屈と全体座屈・横座屈の違い
座屈には複数の種類があります。局部座屈の位置づけを整理します。
①座屈の3分類
| 種類 | 発生箇所 | きっかけ |
|---|---|---|
| 全体座屈(オイラー座屈) | 部材全体 | 細長い圧縮材の軸力 |
| 横座屈 | 梁全体 | 強軸まわりの曲げで圧縮側がたわむ |
| 局部座屈 | 板要素1枚 | 板の幅厚比が大きい時の圧縮 |
→ 全体座屈は部材まるごと、横座屈は梁全体が横にねじれる、局部座屈は板1枚だけが変形する。スケールが3段階で違うイメージです。
②全体座屈との違い
全体座屈(オイラー座屈)は、細長い柱が部材丸ごと横にたわむ現象。
- 全体座屈: 部材長さ L と断面二次モーメント I の関係で決まる
- 局部座屈: 板の幅 b と板厚 t の比で決まる
→ 同じ「圧縮材の座屈」でも、支配パラメータがまったく違う。だから対策も違う。全体座屈は「太く・短く」、局部座屈は「板を厚く・幅を狭く」。
座屈荷重(全体座屈の基本)はこちらの記事も参考にしてください。

③横座屈との違い
横座屈は、梁が強軸まわりの曲げを受けたとき、圧縮側のフランジ全体が横にたわんでねじれる現象。
- 横座屈: フランジ全体が横方向に座屈
- 局部座屈: フランジの幅方向で部分的に波打つ
→ 横座屈はフランジが「全長で1つの大きな波」、局部座屈は「短いピッチでバタバタ波打つ」イメージ。横座屈はフランジ間距離(横補剛間隔)で決まるので、横補剛材を入れれば防げます。
横座屈はこちらの記事も参考にしてください。

④3種類が同時に起きる場合もある
実際の鉄骨造では、全体座屈・横座屈・局部座屈が連動することがあります。
- 細長くて板が薄い柱→全体座屈の途中で局部座屈が併発
- 横補剛のない梁→横座屈→圧縮側フランジの局部座屈
→ 設計では各座屈を独立に照査しつつ、最も小さい耐力で決まるよう安全側に計算します。
局部座屈と幅厚比の関係
局部座屈が起きるかどうかは、幅厚比(b/t)でほぼ決まります。
①幅厚比とは
幅厚比は、板要素の幅 b と板厚 t の比のこと。
幅厚比 = b / t
- b: 板要素の幅(両側支持なら板幅、片側自由なら突出幅)
- t: 板要素の厚さ
→ 同じ幅 b でも板が厚ければ b/t は小さくなり、局部座屈しにくい。「板の薄さ指標」と覚えると分かりやすいです。
②幅厚比による分類(FAランク〜FDランク)
建築基準法・告示では、鋼材の板要素を幅厚比に応じて4ランクに分類しています(2007年告示第595号)。
| ランク | 状態 | 設計上の扱い |
|---|---|---|
| FA | 局部座屈が降伏前に起きない+塑性変形能力大 | 全断面を有効、塑性設計可 |
| FB | 局部座屈が降伏前に起きない+塑性変形能力中 | 全断面を有効 |
| FC | 局部座屈が降伏前ぎりぎり | 弾性範囲のみ有効 |
| FD | 局部座屈が降伏前に発生 | 有効幅で設計 |
→ FAは最も塑性変形能力が高い、FDは最も座屈しやすい。耐震設計ではFAランクが標準的に求められます。
③具体的な幅厚比制限値の例(SS400・SN400Bの場合)
| 板要素 | FA | FB | FC |
|---|---|---|---|
| H形鋼フランジ(片側自由) | 9以下 | 11以下 | 13以下 |
| H形鋼ウェブ(両側支持) | 60以下 | 71以下 | — |
| 角形鋼管板要素(両側支持) | 33以下 | 39以下 | 48以下 |
| 円形鋼管 (D/t) | 50以下 | 70以下 | 100以下 |
→ 数字は鋼材種別(SN490など強度が高い鋼)で変わる。強度が高い鋼ほど幅厚比制限は厳しくなる(同じ薄さでも局部座屈しやすいから)。
④鋼材種別で幅厚比制限が違う理由
鋼材の降伏応力 σy が高い鋼ほど、同じ板厚でも降伏応力に達するまでの応力レベルが高い。応力が高い=局部座屈しやすいので、幅厚比制限を厳しくする必要があるんです。
F値(基準強度)が高い → 幅厚比制限値は√(235/F)倍に厳しくなる
これは√(F値)に反比例する関係で、SM490なら SS400 の0.85倍程度まで幅厚比を絞る必要が出てきます。
降伏点はこちらの記事も参考にしてください。

局部座屈の対策
設計・施工で局部座屈を防ぐための対策を整理します。
①板厚を増やす(基本対策)
最もシンプルで効果的な対策。
- フランジ厚を 12mm → 16mm に変更すると b/t は 1/1.33
- ウェブ厚を 6mm → 9mm に変更すると b/t は 1/1.5
→ 板厚を上げるだけでランクが1つ上がる(FB→FA など)ことが多い。コスト増にはなるが最も確実な対策。
②スチフナ(補剛材)を入れる
板要素の途中に補剛材(スチフナ)を入れて、実質的な板幅を分割する。
- 大スパンの梁ウェブ→中間スチフナで分割
- 大型角形鋼管柱→内部にダイヤフラム
- ボックス断面柱→内部に縦横の隔壁(ダイヤフラム)
→ 板幅が半分になれば b/t も半分。局部座屈の発生をほぼ完全に抑えられる。
ダイヤフラムはこちらの記事も参考にしてください。

③高強度鋼材の使用に注意
高強度鋼ほど幅厚比制限が厳しいので、SS400→SM490に変更したからといって板厚を薄くできるとは限らない。
- 強度UPで断面を小さくしたい→ただし局部座屈で制限される
- 結果として、強度UPの恩恵が薄れることが多い
→ 構造計算で「強度を上げて断面を小さくする」は単純には成立しない、というのが鉄骨設計の常識です。
④充填鋼管(CFT)の活用
円形・角形鋼管にコンクリートを充填すると、内側からコンクリートが板を支えるので局部座屈が起きにくくなる。
- 鋼管:外側で曲げに抵抗
- コンクリート:内側で板の局部座屈を拘束
- 結果:幅厚比制限が大幅に緩和される
→ 高層建物の柱でCFT(コンクリート充填鋼管)が採用されるのは、この合成効果で経済的な設計が可能になるため。
⑤角形鋼管のコーナー成形にも注意
冷間成形角形鋼管(BCR・BCP)は、製造工程でコーナー部が硬化しています。逆に平面部は座屈しやすい性質を持つので、角形鋼管柱では平面部の局部座屈を特に注意する必要があります。
局部座屈に関する現場での着眼点
施工管理として鉄骨工事で押さえるべきポイントを整理します。
①SG図(鉄骨製作図)で板厚を確認する
設計図書の鉄骨断面リストに板厚指定があります。設計者が幅厚比から決めている数字なので、勝手に変えられないのが原則。
- フランジ厚・ウェブ厚を実測で確認
- ミルシート(鋼材証明書)で実際の板厚を裏取り
- 板厚が指定値より薄いと幅厚比違反→局部座屈リスク増
→ 「ちょっと薄くても大丈夫だろう」は危険。5%の薄さ違いで幅厚比ランクが落ちることもあります。
ミルシートはこちらの記事も参考にしてください。

②溶接熱で板が変形した場合の判断
鉄骨工場・現場で、溶接熱によりフランジ・ウェブが少し凹凸になることがあります。
- 軽度の歪み(JASS6許容範囲内)→そのままOK
- 中度〜重度の歪み→矯正(プレス・ガス加熱)が必要
- 矯正不能なら部材ごと作り直し
→ 板の凹凸は局部座屈の「予兆」として扱うべき。歪みが大きい部材で施工してしまうと、本物の地震時に局部座屈の起点になる可能性があります。
③スチフナ・ダイヤフラムの取付精度
スチフナ・ダイヤフラムは局部座屈防止の要なので、位置・溶接が確実である必要があります。
- 取付位置のずれ:設計位置から ±10mm 以内が目安
- 溶接欠陥:アンダーカット・ピット・スラグ巻き込みは局部座屈の起点
- スチフナの板厚:設計指定通り(薄いと自分が先に座屈する)
→ 「とりあえず付いていればOK」ではなく、位置・精度・溶接品質まで含めての検査が必要。
スプライスプレート(板要素接合)はこちらの記事も参考にしてください。

④現場での具体例(独自エピソード)
中規模オフィスビル(S造6階建)の鉄骨建方検査で、1階柱(角形鋼管 □-400×400×16)のコーナー溶接近傍に小さな凹みが見つかったことがありました。
- 凹みの大きさ:約3mm深さ・100mm長さ
- 発生箇所:工場溶接時の冷却ひずみによるもの
- 構造設計者の判断:「この凹みは将来の局部座屈の起点になる」
結論として、現場で当て金当てによる加熱矯正を実施しました。施工管理として学んだのは、「板の小さな凹みも局部座屈の予兆として扱う」こと。教科書では幅厚比の数値が独り歩きしますが、現場では初期不整(製作・運搬・建方時の小さな歪み)が局部座屈の引き金になる、というリアルな話でした。
冷間成形角形鋼管は工場製造時から微妙な平面歪みがあるので、塗装前の素地確認で「目視で平面性が出ているか」を見るクセがつきます。
塗装(鉄骨)はこちらの記事も参考にしてください。

⑤設計変更で板厚を変えるときの注意
VE(コストダウン)で板厚を薄くしたい提案が出るときは、必ず構造設計者に幅厚比の再確認を依頼すること。
- 「コスト削減で板厚 16mm→14mm」は1mm刻みでもランク変動を招く
- 構造設計者から再計算結果(幅厚比とランク)を必ず書面で受け取る
- 設計図書に反映(変更履歴)してから現場で施工
→ 板厚変更は設計事項の変更なので、口頭ベースで動かすのは絶対NG。
局部座屈に関する情報まとめ
最後に、局部座屈の重要ポイントを整理します。
- 局部座屈とは:部材を構成する板要素(フランジ・ウェブ等)が圧縮で部分的に波打つ現象
- 3つの座屈の関係:全体座屈(部材丸ごと)・横座屈(梁の横ねじれ)・局部座屈(板1枚)
- 支配指標:幅厚比 b/t。板が薄いほど(=b/t が大きいほど)発生しやすい
- ランク区分:FA(塑性変形能力大)→FB→FC→FD(座屈しやすい)。耐震設計はFA標準
- 対策:板厚UP、スチフナ・ダイヤフラム、CFT(コンクリート充填)
- 施工管理視点:SG図の板厚確認、溶接歪みの矯正、スチフナ位置精度、設計変更時の幅厚比再照査
以上が局部座屈に関する情報のまとめです。
局部座屈は「鉄骨が降伏する前に折れる」現象として警戒されますが、設計段階で幅厚比規定を守れば確実に防げます。施工管理として鉄骨製作図を読むとき、「なぜこの板厚なのか」「なぜここにスチフナがあるのか」という疑問の答えが、ほぼすべて局部座屈に行き着くようになりますよ。一通り局部座屈の基礎知識は理解できたと思います。
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