- 建設業の財務諸表ってなに?
- 普通の財務諸表とどう違うの?
- どんな勘定科目があるの?
- 工事進行基準って何?
- 経審との関係は?
- 施工管理として何に気をつければいい?
上記の様な悩みを解決します。
「建設業の財務諸表」は建設業法に基づく業界独自の様式で、完成工事高・未成工事支出金・完成工事未収入金など、他業界では見かけない独特の勘定科目が並びます。経営事項審査(経審)の評価や建設業許可の更新でも必須になるため、施工管理者でも一度は数字の読み方を押さえておきたい書類です。とはいえ「経理がやっているもの」というイメージが強くて、現場の人ほど距離が遠いテーマでもありますね。今回はこの建設業財務諸表の全体像を、現場と数字を繋ぐ視点で整理していきます。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
建設業の財務諸表とは?
建設業の財務諸表とは、結論「建設業法に基づき、建設業者が作成・提出を求められる、業界独自の様式に従った財務書類」のことです。
様式そのものは建設業法施行規則の別記様式第15号〜第17号の2で定められていて、一般企業が会社法や金融商品取引法に基づいて作る財務諸表とは、項目名・勘定科目・表示方法が違います。同じ「貸借対照表」「損益計算書」と呼んでいても、業界の慣行に合わせて中の語彙が組み替えられている、というイメージが近いです。
提出のルールも建設業法に紐付いていて、建設業許可業者は事業年度終了後4ヶ月以内に、許可行政庁(国交大臣または都道府県知事)に対して決算変更届として提出する義務があります。新規許可・更新時はもちろん、経審を受ける場合、業種追加をする場合、金融機関に融資を申し込む場合などにも、この建設業様式の財務諸表が必要になります。
→ ざっくり言えば、税務署に出す決算書のさらに兄弟版で、建設業界向けに勘定科目を読み替えたもの、と捉えると分かりやすいですね。
一般企業の財務諸表との主な違い
一番のクセは勘定科目の名称です。「売上高」が「完成工事高」、「売掛金」が「完成工事未収入金」、「仕掛品」が「未成工事支出金」と、商慣行に合わせて呼び名が全部入れ替わります。
| 項目 | 一般企業 | 建設業 |
|---|---|---|
| 売上高 | 売上高 | 完成工事高 |
| 売上原価 | 売上原価 | 完成工事原価 |
| 仕掛品 | 仕掛品 | 未成工事支出金 |
| 売掛金 | 売掛金 | 完成工事未収入金 |
| 前受金 | 前受金 | 未成工事受入金 |
| 買掛金 | 買掛金 | 工事未払金 |
| 売上総利益 | 売上総利益 | 完成工事総利益 |
| 営業利益 | 営業利益 | 完成工事営業利益 |
→ 中身はほぼ同じ概念なのですが、「工事」という単位で会計を切る建設業の特性に合わせて、すべての名前に「工事」が付くと覚えると整理しやすいです。
もう1つの違いは収益認識です。請負契約に基づく長期工事が前提になるため、完成・引渡しを待って一括計上する「工事完成基準」と、進捗度に応じて期間配分する「工事進行基準」のどちらを採るかという論点が、建設業特有の会計判断として残ります。詳しくは後の章で取り上げます。
施工管理が建設業の財務諸表を知っておくべき理由
施工管理は決算書を作る側ではありませんが、現場の動きが直接この財務諸表に反映されます。例えば材料発注のタイミング、出来高査定の精度、引渡し時期の判定が、未成工事支出金や完成工事高の残高に直結します。
加えて、自社の経審評点や下請の信用評価、元請から「あなたの会社は経審いくつ?」と聞かれたときの当意即妙な対応など、現場運営の周辺で建設業財務諸表の知識が活きる場面は意外と多いです。完成工事原価との関係も合わせて押さえておくと、会社の数字の見え方が変わってきます。


建設業の財務諸表の種類
建設業の財務諸表は、主に5つの書類で構成されます。一般企業の財務諸表と並びは同じですが、それぞれに建設業独自のクセが乗ります。
①貸借対照表(B/S・別記様式第15号)
会社の財政状態をある時点で切り取ったスナップショットです。資産・負債・純資産の3区分に分かれていて、流動資産・固定資産・繰延資産、流動負債・固定負債、株主資本・評価換算差額等といった見出しが並びます。建設業特有なのは、流動資産に「未成工事支出金」「完成工事未収入金」、流動負債に「未成工事受入金」「工事未払金」が並ぶ点で、ここを見るだけで「ああ、建設業の決算書だな」と分かります。
②損益計算書(P/L・別記様式第16号)
会社の経営成績を1事業年度で表す書類です。「完成工事高 → 完成工事原価 → 完成工事総利益」という流れで業績が積み上がり、ここから販管費を引いて完成工事営業利益、さらに営業外損益と特別損益を加減して最終利益が決まります。一般企業の損益計算書の「売上高」が「完成工事高」に置き換わるだけと言えばそれまでですが、ここがすべての出発点になります。
③完成工事原価報告書(別記様式第16号の付属書類)
完成工事原価の内訳を、材料費・労務費・外注費・経費の4要素に分けて示す書類です。建設業会計の核となる部分で、現場の発注内容や日報がここに集約されます。下請への外注比率が高い会社ほど「外注費」が肥大化し、自社施工型の会社ほど「労務費」が大きくなる、といった会社の体質も読み取れます。
④株主資本等変動計算書(別記様式第17号)
純資産の動きを1期分まとめた書類です。資本金・資本剰余金・利益剰余金がどう増減し、当期純利益がどこに振り替わって、配当でどれだけ流出したかを示します。比較的シンプルですが、自己資本比率や経審のX2点に直結するので、無視できない書類です。
⑤注記表(別記様式第17号の2)
財務諸表本体だけでは分からない補足情報を集めた書類です。重要な会計方針(完成基準か進行基準か、引当金の計上基準など)、継続企業の前提、重要な後発事象、金融商品の状況などが記されます。経審の場面で「会計方針の妥当性」を判断する材料にもなる、地味だけど重要なパートです。
→ この5つに加えて、事業者規模により附属明細表・キャッシュフロー計算書・連結財務諸表が追加されます。大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)や上場会社では、より詳細な開示が求められます。
個人事業主の建設業財務諸表
個人事業として建設業許可を取っている場合は、別記様式第18号〜第19号という別系統の様式を使います。法人と違って資本金がない代わりに「元入金」という勘定科目を使ったり、収支計算書として所得税申告と整合させたりします。ただし科目の骨格(完成工事高・完成工事原価・未成工事支出金など)は法人と同じです。
→ 建設業の財務諸表は法人版と個人版の2系統があって、勘定科目の言語は共通、というのが要点です。
法人税申告書との関係
実務上は、建設業財務諸表と法人税申告書(別表四・別表五など)は同じ決算データから作られます。会社法上の決算書をベースに、税務上の調整を加えたものが法人税申告書、勘定科目を建設業様式に組み替えたものが建設業財務諸表、という関係です。両者は完全に一致している必要があり、税理士・公認会計士が科目読替表をもとに整合性をチェックする、という流れが一般的です。
会計ソフトの世界でも、勘定奉行建設業版・PCA建設業会計・弥生会計建設業版など、最初から建設業独自勘定科目を組み込んだ製品が普及しています。工事台帳機能と組み合わせれば、日々の入力からそのまま建設業財務諸表が出力できます。
建設業財務諸表の主な勘定科目
建設業財務諸表の勘定科目は「未成工事系」と「完成工事系」の対比で覚えるのが効率的です。未成工事 = 仕掛中、完成工事 = 完了と区別すると整理しやすくなります。
①「未成工事」系の勘定科目
完成・引渡しがまだ済んでいない工事に関連する科目群です。
- 未成工事支出金(資産):完成前の工事に投じた原価の累計
- 未成工事受入金(負債):完成前の工事に対する顧客からの入金(前受金)
- 完成工事未収入金(資産):完成・引渡し済みだが未入金の工事代金
- 工事未払金(負債):未払の材料費・外注費・経費
→ 未成工事支出金は一般企業の仕掛品、未成工事受入金は前受金、完成工事未収入金は売掛金、工事未払金は買掛金、と読み替えるとそのまま理解できます。
②「完成工事」系の勘定科目
完成・引渡しが終わった工事に関する科目群です。
- 完成工事高(収益):完成・引渡し済み工事の請負金額(売上高)
- 完成工事原価(費用):完成・引渡し済み工事に投じた原価(売上原価)
- 完成工事総利益:完成工事高 – 完成工事原価
- 完成工事営業利益:完成工事総利益 – 販売費及び一般管理費
→ 損益計算書の上から順にこの流れで利益が積み上がります。完成工事高利益率(粗利率)は会社の収益力の指標として、経審でも重視されます。
③完成工事原価の4要素
完成工事原価報告書を切り開くと、4つの費目に分解されます。
- 材料費:工事に使用した材料費
- 労務費:直接雇用工員の人件費
- 外注費:下請けへの発注費(材工共・労務外注)
- 経費:動力用水光熱費・運搬費・設計費・現場経費など、その他現場関連費用
僕も以前、原価集計の精度に疑問が出てきて経理に相談したとき、「材工共で出している業者は外注費、労務だけ出している業者は労務費、材料を支給している場合は材料費」と、同じ業者の費用が3つに散っているケースを見せられて、項目の振り分け1つでも判断軸があるんだと知りました。建設業の原価管理は、勘定科目への配分ルールが意外と現場感覚と直結しています。
④B/S 流動資産の主要項目
流動資産には、現金預金・受取手形・完成工事未収入金・未成工事支出金・材料貯蔵品・短期貸付金などが並びます。建設業特有なのは、完成工事未収入金と未成工事支出金が一般企業の売掛金・仕掛品より大きく膨らみやすい点で、特に工事期間が長い会社ほど未成工事支出金の残高が大きくなります。
⑤B/S 固定資産・流動負債・固定負債
固定資産は土地・建物・機械及び装置・車両運搬具・工具器具備品・建設仮勘定・無形固定資産・投資その他の資産。流動負債は支払手形・工事未払金・未成工事受入金・短期借入金・未払金・預り金・賞与引当金。固定負債は長期借入金・退職給付引当金・役員退職慰労引当金・完成工事補償引当金(竣工後の補償義務)・工事損失引当金(将来の損失見込み)といった構成です。
→ 完成工事補償引当金・工事損失引当金は、瑕疵担保責任や赤字工事を抱えた現場の数字が、決算書にどう反映されるかを示す、建設業ならではの引当金です。
⑥P/L とその他経費科目
損益計算書の営業損益区分は、完成工事高・完成工事原価・完成工事総利益・販売費及び一般管理費・完成工事営業利益で構成されます。営業外損益区分には受取利息・受取配当金・支払利息・為替差損益・雑収入・雑支出。
販管費の主な内訳は役員報酬・給料手当・法定福利費・福利厚生費・修繕費・消耗品費・賃借料・減価償却費・租税公課・保険料・広告宣伝費・支払報酬料(弁護士・税理士等)・交際費・会議費など。工事原価の中の経費としては、動力用水光熱費・運搬費・機械等経費・設計費・現場経費(現場事務所・寮費)・法定福利費(現場関係者)・福利厚生費・事務用品費・通信交通費・解体費・清掃費・環境保全費・雑費といった現場に紐付く費用が並びます。
⑦完成工事原価報告書の計算構造
完成工事原価報告書は、当期発生分の原価から未成工事支出金の増減を調整して、完成工事原価を導く構造です。式で書くと「当期総工事費用(材料費+労務費+外注費+経費)+期首未成工事支出金 − 期末未成工事支出金 = 完成工事原価」となります。完成・引渡しに紐付く原価だけを完成工事原価に集約する、というロジックです。
→ ここで完成工事原価と未成工事支出金がトレードオフの関係になります。期末時点で未完成の工事が多いと、原価は未成工事支出金にプールされ、完成工事原価には乗りません。
⑧重要な経営指標
財務諸表から計算される指標のうち、建設業で特に意識されるのは次の6つです。
- 自己資本比率:純資産 ÷ 資産総額(高いほど安定)
- 流動比率:流動資産 ÷ 流動負債(短期支払能力)
- 当座比率:(流動資産 – 棚卸資産)÷ 流動負債
- 完成工事高利益率:完成工事総利益 ÷ 完成工事高
- 総資本回転率:完成工事高 ÷ 資産総額
- 営業利益率:完成工事営業利益 ÷ 完成工事高
→ これらの指標は経審の経営状況分析(Y)の8指標とも重なります。経審を意識した経営をしている会社は、自己資本比率と利益率の維持に特に神経を使っています。
工事進行基準と工事完成基準
建設業の収益認識は「工事完成基準」と「工事進行基準」の2方式があり、会社の方針や工事の性質によって使い分けます。
工事完成基準
工事の完成・引渡し時に、収益と原価をまとめて一括計上する方法です。完成までは原価が未成工事支出金として資産にプールされ、引渡しの瞬間に完成工事高と完成工事原価へ振り替わる、というシンプルな構造になります。完成日を境に切り替えるだけなので、会計処理が分かりやすく、会計監査も楽です。中小建設業ではこの方式が広く採用されています。
一方で、長期工事になると収益・原価が完成年度に集中し、業績評価の連続性が崩れる、というデメリットがあります。複数年の工事を抱えていると、ある期の決算が黒字でも、それは前期に進めていた工事が今期に完成しただけ、という見え方になる場合があります。
工事進行基準
工事の進捗度に応じて、収益と原価を期間配分する方法です。進捗度は原価比例法(発生原価 ÷ 見積総原価)で算出するのが一般的で、「投入した原価が全体の50%なら、収益も50%認識する」というイメージです。長期工事や1年超の工事で適用され、大手・中堅建設業で広く採用されています。
メリットは、長期工事の業績が各期に按分される結果、企業評価の連続性が確保できること。デメリットは、進捗度の見積に主観性が混じり、見積総原価が変動すると差額調整が必要になり、会計処理が複雑になることです。
→ どちらが上というわけではなく、会社の規模・工事の長さ・経営判断・税務制約のバランスで決まる、というのが実情です。
収益認識会計基準の影響
2021年4月以後に開始する事業年度から、上場会社・大会社には「収益認識に関する会計基準」が強制適用されました。建設業の長期工事については、履行義務の充足度合いに応じて期間配分する方式(実質的には進行基準に近い)が採用されます。中小企業は従来の工事完成基準を継続適用することも認められていて、業界全体としては基準が二層化している状況です。
法人税法上の縛り
会計だけでなく、税務にも縛りがあります。法人税法上の長期大規模工事(工事期間1年以上、請負金額10億円以上等の要件を満たすもの)については、工事進行基準が強制適用されます。会計と税務の整合を取るために、別表で調整したり、税効果会計を適用したり、という実務処理が必要になります。
工事の状態と勘定科目の対応
工事の進行状態がどの勘定科目に反映されるかを整理すると、以下のようになります。
| 工事の状態 | 主な勘定科目 |
|---|---|
| 受注前 | (無し) |
| 着工〜完成前 | 未成工事支出金、未成工事受入金 |
| 完成・引渡し後・入金前 | 完成工事高、完成工事未収入金 |
| 入金後 | 現金預金、完成工事未収入金(消滅) |
→ 工事のライフサイクルと勘定科目がほぼ1対1で対応する、というのが建設業会計の特徴です。発注者からの入金タイミング(着工金・中間金・完成金)も、未成工事受入金の動きとして決算書に表れます。
施工管理者として押さえておきたいのは、自社の会社が完成基準か進行基準のどちらを採用しているかという点です。完成基準なら、引渡し時期を1日ズラすだけで翌期に売上が動きます。進行基準なら、月次の出来高査定の精度がそのまま月次決算に響きます。現場の判断が経理にどう反映されるか、というつなぎ目を意識しておくと、現場と会社全体の動きが繋がって見えてきます。
経営事項審査(経審)と財務諸表
建設業財務諸表の最大の用途の1つが、経営事項審査(経審)です。経審で会社の評価が決まるため、施工管理者にとっても無関係ではありません。
経審は、公共工事の入札参加資格を得るための審査で、建設業法第27条の23に基づいています。建設業者は誰でも受審できますが、公共工事を受注したい場合は実質的に必須です。
経審の評価項目
経審の評点(総合評定値P)は、5つの要素を重み付けで合計して算出されます。
- 完成工事高(X1):直近2年間の年間平均完成工事高
- 自己資本額(X2):自己資本額(自己資本比率)
- 経営状況(Y):8つの経営指標から算出
- 技術力(Z):1級・2級技術者の人数
- その他審査項目(W):社会性等(CCUS・ISO・建設業経理士など)
総合評定値Pは「X1×0.25 + X2×0.15 + Y×0.20 + Z×0.25 + W×0.15」という計算式で求められます。財務諸表が直接効くのは、X1(完成工事高)・X2(自己資本額)・Y(経営状況)の3項目で、5項目中3項目に財務が関わるため、財務諸表が経審の根幹を成すと言われます。
経営状況分析(Y)の8指標
Y点は、財務諸表から算出される8つの指標で評価されます。負債抵抗力(純支払利息比率、負債回転期間)、収益性・効率性(総資本売上総利益率、売上高経常利益率)、財務健全性(自己資本対固定資産比率、自己資本比率)、絶対的力量(営業キャッシュフロー、利益剰余金)の4分野から各2指標ずつ、計8指標を合算してY点が出ます。
→ 健全な財務 = 高い経審評点、という関係が成り立ちます。逆に言えば、決算書を整えることが経審スコアを上げる近道です。
経審を受審する流れ
経審は事業年度ごとに繰り返す手続きで、おおまかな流れは「決算終了 → 建設業財務諸表の作成 → 決算変更届(4ヶ月以内)→ 経営状況分析(Y)を登録機関に申請 → 経営規模等評価(X・Z・W)を許可行政庁に申請 → 総合評定値Pの通知 → 自治体への入札参加資格申請」となります。経審の有効期間は審査基準日(決算日)から1年7ヶ月で、これを切らさないよう毎年継続的に受審するのが基本です。
経審のスコアアップのコツ
完成工事高の積上げ(受注確保)、自己資本の充実(内部留保)、技術者の確保(1級技術者の採用)、社会性向上(CCUS加点、技能講習、建退共加入、ISO認証、建設業経理士の人数など)の4方向から底上げするのが王道です。


経審をめぐる注意点
経審では財務諸表は直近期+過去2期前まで(3期分)を比較で見られます。粉飾決算は重大な懲戒事由となり、虚偽記載が発覚すれば建設業許可取消の対象になります。会計方針を変更した場合は、注記表で理由と影響額を明示する必要があります。税理士・公認会計士の関与で財務諸表の信頼性を確保しておく、というのが実務的なリスクヘッジです。
→ 経審結果(総合評定値P)は国交省・自治体のウェブサイトで一般公開されており、競合や取引先の評点も誰でも見られる、という業界の透明性も特徴的です。
施工管理者として知っておきたいのは、自社の経審評点と入札参加ランク、総合評価方式での加点要素くらいでしょうか。会社の格付けが見えると、自社が狙える案件規模、競合との位置関係、業界の中での立ち位置が立体的に見えてきます。
建設業財務諸表の注意点
建設業の財務諸表を作成・解読する上で、間違いやすいポイントをまとめておきます。
勘定科目の使い分け
最も多いミスが「完成」と「未成」の取り違えです。未成工事支出金(資産)と未成工事受入金(負債)は名前が似ていて反対の意味、完成工事未収入金(B/Sの資産)と完成工事高(P/Lの収益)も似ているが置き場所が違う、という具合に、語感だけで処理すると間違えます。会計ソフトの自動仕訳に頼り切らず、内容を確認するクセが大切です。
完成・引渡しの判定
工事が「完成」したと判定するタイミングも論点になります。施工完了と引渡しは厳密には別の概念で、通常は施主検査合格・引渡し時点を完成とすることが多いですが、建築基準法上の検査済証取得をもって完成とする会社もあります。会社規程で明確化しておかないと、決算月をまたぐ案件で売上計上時期が揺れてしまいます。

未成工事支出金の管理
期末の未成工事支出金は、工事ごとの個別管理がベースです。工事台帳と決算書の数字が突き合うか、長期未成工事に滞留がないか、損失見込みがある工事は工事損失引当金に振り替えられているか、といった点を確認します。ここの精度が完成工事原価の精度を決めます。
完成工事原価の網羅性
直接費の漏れ(材料費・労務費・外注費・経費)、間接費の配賦(共通仮設費を複数現場に按分する基準)、法定福利費の労務費への付随処理、共通仮設費の按分などが、しばしば論点になります。完成工事原価の網羅性が崩れると、完成工事高利益率が実態と乖離する原因になります。
会計方針の継続性と粉飾の禁止
工事完成基準・進行基準の選択は、いったん決めたら正当な理由なく変更しないのが原則です(継続性の原則)。変更時には注記で理由と影響額を開示します。完成工事高の前倒し計上、未成工事支出金の過大評価、損失引当金の過少計上などは粉飾決算に該当し、建設業許可取消・経審点数の調整など重い罰則の対象になります。
消費税とインボイス制度への対応
完成工事高は課税売上、完成工事原価は課税仕入として消費税の対象です。インボイス制度(適格請求書等保存方式)では、下請からの請求書に登録番号が記載されているかが、仕入税額控除の前提条件になります。登録のない下請との取引が増えると消費税負担が膨らむため、下請選定や契約条件にも影響が出てきます。
CCUSや電子帳簿保存法との連携
CCUSの就業履歴データと労務費の整合性、電子帳簿保存法に基づく取引データの電子保存、適格請求書の電子保存対応など、デジタル系の論点も増えています。会計ソフトのクラウド化、AIによる仕訳支援といった環境変化に合わせて、経理プロセス自体が見直されている過渡期です。
施工管理として押さえるべきポイント
施工管理が日々の業務で意識しておきたいのは、工事ごとの原価管理(日報・出来高)、発注時期と支払時期の資金繰り影響、完成・引渡し時期の判定と社内連絡、赤字工事の早期検知(工事損失引当金の対象)、下請けの財務状況(選定基準)の5点くらいです。
→ 現場の判断1つひとつが、最終的に決算書のどこに乗るかを意識しておくと、原価管理の精度が一段上がります。
建設業の財務諸表に関する情報まとめ
- 建設業の財務諸表とは:建設業法に基づく業界独自様式の財務書類
- 5つの主要書類:貸借対照表、損益計算書、完成工事原価報告書、株主資本等変動計算書、注記表
- 業界独自の勘定科目:完成工事高、完成工事原価、未成工事支出金、未成工事受入金、完成工事未収入金、工事未払金
- 完成工事原価の4要素:材料費、労務費、外注費、経費
- 収益認識:工事完成基準と工事進行基準、収益認識会計基準
- 経営事項審査(経審):公共工事入札の前提、財務諸表が評点の根幹
- 経審の評点:完成工事高(X1)、自己資本(X2)、経営状況(Y)、技術力(Z)、社会性(W)
- 重要指標:自己資本比率、流動比率、完成工事高利益率、営業利益率
- 法的義務:建設業許可申請・更新時に必須、事業年度終了後4ヶ月以内
- 施工管理視点:工事原価管理、完成・引渡し時期、未成工事の管理、下請け選定
以上が建設業の財務諸表に関する情報のまとめです。
建設業の財務諸表は「建設業界の共通言語」のような存在で、会社の信用・経審評点・取引判断の基礎になります。「未成」と「完成」の勘定科目の対比、完成工事原価の4要素、工事完成基準と進行基準の使い分けの3つを押さえれば、業界財務諸表の8割は理解できます。施工管理者として「会社の数字が読める」ようになると、現場運営の精度が一段上がります。日々の原価管理が会社全体の決算につながっていることを意識しながら、現場の数字に丁寧に向き合いたいですね。
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