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下降伏点とは?上降伏点との違い、応力ひずみ曲線、SS400値など

  • 下降伏点って結局どこの値?
  • 上降伏点と下降伏点、どっちが設計に使う値?
  • なんで降伏点が2つもあるの?
  • SS400とかSN400Bとかで値はいくつ?
  • ミルシートに「YP」と書いてあるけど上下どっち?
  • 高張力鋼には降伏点はあるの?

上記の様な悩みを解決します。

下降伏点とは、結論「軟鋼を引張試験すると、応力ひずみ曲線上に現れる『2つの降伏点のうち、下側で安定している方の値』」のことです。降伏点が上下に分かれて出てくるのは 軟鋼(SS400・SN材・SM材など)特有の現象で、設計で実際に使われる 設計用降伏点はこの下降伏点。一方の上降伏点は「実験のクセで瞬間的に出る尖ったピーク」で、設計には使えません。本記事では、上降伏点との違い・なぜ下降伏点が設計値なのか・SS400やSN400Bの具体値・ミルシートの読み方まで、施工管理が現場でつまずきがちなポイントを一気に整理します。

なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。

それではいってみましょう!

目次

下降伏点とは?

下降伏点とは、結論「軟鋼の引張試験で、上降伏点を過ぎたあとに応力が低下して安定する『塑性流れの最低値』」のことです。

英語では lower yield point。記号は σyLReL(JIS表記)

降伏点が「2つある」理由

軟鋼(炭素含有量0.15〜0.25%程度の鋼)を引張試験すると、応力ひずみ曲線に 特徴的なギザギザが出ます。

応力 σ
 ↑
 │     上降伏点(ピーク)
 │      /\            
 │     /  \  /\/\  下降伏点(最低値、ほぼ平らな領域)
 │    /    ▼/    ▼/
 │   /
 │  /(弾性域)
 │ /
 └──────────────── ひずみ ε

最初に「ピン!」と尖って現れるのが 上降伏点(ReH/σyU)、その直後に応力が下がってほぼ水平になる領域が 下降伏点(ReL/σyL)

「降伏」というイベントが2段階で起こるように見えるので、上下2つの降伏点が定義されます。

下降伏点が安定値で、設計値になる

上降伏点は 実験のクセや試験片表面状態に左右されやすい不安定な値。試験条件で簡単に変動するため、設計で参照されるのは安定している下降伏点。JIS規格でも、 「降伏点」と書かれていればそれは下降伏点を指すのが原則です。

なぜ下降伏点が安定するのか

材料学的には、炭素・窒素などの侵入型原子による『コットレル雰囲気』が転位の移動を妨げているのが原因。上降伏点で雰囲気が一気に外れて転位が動き出すと、応力は瞬間的に下がり、その後 転位の連続的な移動・増殖が起きている安定領域が下降伏点として現れる、という理屈です。

施工管理として材料学までは深入りしなくても、「上降伏点はピークの瞬間値・下降伏点は安定値・設計に使うのは下降伏点」と押さえておけば十分です。

応力ひずみ曲線の全体像はこちらに整理しています。

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上降伏点と下降伏点の違い

上下の降伏点の違いを 「現場で会話できる」レベルで整理します。

項目 上降伏点(ReH/σyU) 下降伏点(ReL/σyL)
現れる位置 弾性域を抜けた直後の最初のピーク ピーク後に応力が下がって安定する領域
値の特徴 不安定・試験条件で変動 安定・繰り返し試験で再現性が高い
大小関係 ReH > ReL(通常) ReL < ReH
設計で使うか 使わない(参考値) 使う(設計用降伏点)
JIS表記 「降伏点」と書かれていれば下降伏点を指すのが基本 こちらが「降伏点」の本体
ミルシート表記 YP(Yield Point)→ 下降伏点を意味することが多い 同じく YP として記載されるのが一般的
値の差 ReH − ReL = 5〜30 N/mm² 程度

ポイント①:「降伏点」と言われたら下降伏点

JIS G 3101(SS400)、JIS G 3106(SM材)、JIS G 3136(SN材)など、建築鉄骨の基本規格で 「降伏点」=下降伏点として規定値が設定されています。SS400の「降伏点235 N/mm²以上」も、下降伏点で235以上という意味です。

ポイント②:上降伏点は「測れるけど使わない」

上降伏点は引張試験のグラフ上で見えますが、安定性が低いので設計には採用しない。建築基準法・JISの規定値は 下降伏点ベースで書かれています。

ポイント③:高張力鋼には明確な降伏点がない

注意点として、 降伏比の高い高張力鋼(HT590、HT780など)や調質鋼、ステンレスには、応力ひずみ曲線上に明確な上下降伏点が現れません。これらの材料では 0.2%耐力(ε=0.2%でのオフセット値)が降伏点の代わりに使われます。軟鋼に特有の現象だと押さえておきましょう。

ポイント④:上下降伏点が現れるのは「炭素鋼」の中でも一定範囲

炭素含有量 0.10〜0.25%程度の軟鋼で明確に観察されます。SS400・SM400・SN400・鉄筋(SD345・SD295)など、建築鉄骨の主力材料はだいたいこの範囲に入ります。

ヤング率・応力ひずみ曲線の理解はセットで押さえておくと混乱しません。

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応力ひずみ曲線上の下降伏点の位置

応力ひずみ曲線(σ-ε曲線)を 入口から出口まで追いかけて、下降伏点がどこに位置するのか整理します。

①弾性域(フックの法則が成り立つ範囲)

応力とひずみが 比例関係になる領域。傾きはヤング率 E。

σ = E × ε

SS400ならヤング率 E ≒ 205,000 N/mm²(=205 GPa)。この領域では 荷重を取り除けば元に戻る(弾性変形)。

②上降伏点(ReH)

弾性域の限界を超えた瞬間、応力が ピンと尖って跳ね上がる。これが上降伏点。1〜2秒の一瞬の現象で、力を取り除けばここからは 戻らない(塑性変形が始まる)

③下降伏点(ReL)

上降伏点直後に応力が 5〜30 N/mm² 程度ガクンと下がり、ほぼ水平のギザギザ領域に入る。これが下降伏点。ひずみが2〜3%程度進む間、応力はほとんど変化しない。この水平領域を 「降伏棚(こうふくだな)」と呼ぶこともあります。

④ひずみ硬化域

降伏棚を抜けると応力が 再び上がり始める。この領域を ひずみ硬化域(strain hardening)といい、転位の絡まり合いで材料が硬くなっていく。

⑤引張強さ(σB)

応力が最大になる点が 引張強さ。SS400なら 400〜510 N/mm²。ここを過ぎると応力は下がり始める。

⑥破断

最終的に試験片が破断する点。SS400の破断伸びは 約20〜30%(JIS G 3101)。

下降伏点の「位置」を一言で言うと

弾性域 → 上降伏点(瞬間のピーク) → 下降伏点(安定した塑性流れ領域) → ひずみ硬化 → 引張強さ → 破断

設計でいう 「降伏応力」「降伏点」「F値」は、すべてこの 下降伏点(の最低値)を指しています。

降伏比(YR)との関係

応力ひずみ曲線でもうひとつ重要なのが 降伏比(Yield Ratio:YR)

YR = 下降伏点 / 引張強さ

SS400なら YR ≒ 235/400 = 0.59(おおよそ60%)。建築鉄骨の安全設計では YR ≤ 80% が好まれます。降伏比が低いほど、降伏後も引張強さまで余裕があり、地震時の塑性変形能力が高くなるためです。

なぜ設計には下降伏点が使われるのか

施工管理の現場で「降伏点」と言われたら下降伏点を指す 「設計上の理由」を整理します。

①下降伏点のほうが値が低い=安全側

設計の鉄則は 「材料の能力を控えめに見積もる」こと。

  • 上降伏点 ReH = 例えば 260 N/mm²
  • 下降伏点 ReL = 例えば 240 N/mm²

上降伏点で設計すると 240 N/mm² の力でも壊れない、と過信してしまう恐れがあるので、安全側=低い方を使うのが原則です。

②下降伏点のほうが再現性が高い

引張試験を10本やったときの バラつきが、上降伏点では大きい・下降伏点では小さい。統計的に信頼できる値として、規格値・許容応力度の基準にしやすい。

③JIS規格・建築基準法が下降伏点ベースで書かれている

JIS G 3101(SS400)の規格値「降伏点 235 N/mm²以上」は 下降伏点の最低保証値。建築基準法施行令の F値(基準強度)もこれに従っています。

SS400の場合

  • 規格降伏点 ReL ≥ 235 N/mm²(板厚16mm以下)
  • 引張強さ σB = 400〜510 N/mm²
  • 設計上のF値 F = 235 N/mm²(=下降伏点最低値)
  • 長期許容応力度 = F/1.5 = 約157 N/mm²
  • 短期許容応力度 = F = 235 N/mm²

④構造解析ソフトの初期設定が下降伏点

SAP2000、Midas、STAAD など主要な構造解析ソフトでは、材料定義の 「降伏応力」入力欄に下降伏点を入れるのが標準仕様。「上降伏点も入力する欄」はそもそも用意されていません。

⑤現場・検査での『扱いやすさ』

ミルシートに表示される値も、メーカーは 下降伏点を保証値として記載するのが一般的。「ReHとReLの両方を保証する」というのは、 試験結果のバラつきリスクが大きいため避けられるのが業界実情です。

許容応力度の周辺はこちらにまとめています。

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主要鋼種の下降伏点の値

建築鉄骨でよく出てくる鋼種の 下降伏点(=規格降伏点)を一覧で整理します。

鋼種 JIS規格 下降伏点(N/mm²) 引張強さ(N/mm²) 主な用途
SS400 JIS G 3101 235(板厚16mm以下) 400〜510 一般構造用・小規模鉄骨
SM400A/B/C JIS G 3106 235 400〜510 溶接構造用・橋梁
SM490A/B/C JIS G 3106 325 490〜610 大型鉄骨・橋梁
SN400A/B/C JIS G 3136 235(YR≦80%保証) 400〜510 建築構造用・主力鉄骨
SN490B/C JIS G 3136 325(YR≦80%保証) 490〜610 高層建築・地震多発地域
STKR400 JIS G 3466 245 400〜540 角形鋼管
STKN400B JIS G 3475 235 400〜540 建築構造用角形鋼管
SD295A JIS G 3112 295 440〜600 鉄筋(普通強度)
SD345 JIS G 3112 345 490〜620 鉄筋(標準強度・主流)
SD390 JIS G 3112 390 560〜720 鉄筋(高強度)
SD490 JIS G 3112 490 620〜760 鉄筋(超高強度)

注意点①:板厚で値が変わる

たとえばSS400の場合、

  • 板厚 ≤ 16mm → 降伏点 235 N/mm² 以上
  • 板厚 16〜40mm → 215 N/mm² 以上
  • 板厚 40mm 超 → 205 N/mm² 以上

厚くなるほど降伏点は下がる(厚物は圧延工程で結晶粒が粗くなり、強度が落ちるため)。設計時には 板厚に応じたF値を必ず確認しないと、現場で「設計上の応力度が許容値を超えていた」というトラブルにつながります。

注意点②:SN材は降伏比(YR)も規定

SN400B、SN490B などの建築構造用圧延鋼材(JIS G 3136)は、 降伏比 YR ≤ 80%が規格で保証されています。地震時の塑性変形能力を確保するため、SS400ではなくSN材を使うのが現在の主流

注意点③:高張力鋼・調質鋼は0.2%耐力で代用

HT590(SM570)以上の高張力鋼は、応力ひずみ曲線に明確な降伏棚が出ないため、0.2%耐力 σ0.2 を降伏点の代わりに使います。「降伏点」と書かれていても、実体は0.2%耐力ということがあるので注意。

各鋼種の詳しい解説はこちらに整理しています。

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ミルシートでの下降伏点の読み方

現場で ミルシート(鋼材検査証明書)を受け取ったとき、下降伏点がどこに書かれているかを実例ベースで整理します。

ミルシートの典型的な記載例

製品仕様:SS400  板厚 12mm  
化学成分:C 0.18%  Si 0.24%  Mn 0.85%  P 0.018%  S 0.012%
機械的性質:
  YP(降伏点)       260 N/mm²
  TS(引張強さ)     430 N/mm²
  EL(伸び)         30 %
  YR(降伏比)       60 %

「YP」=Yield Point=降伏点は、原則として 下降伏点を意味します(上降伏点の場合は「ReH」「σyU」と明示)。

判別のポイント

  • YP / YS / Re と書かれていれば下降伏点が基本
  • ReH / σyU と明示されていれば上降伏点
  • ReL / σyL と明示されていれば下降伏点

ミルシートで上降伏点が明示されているケースは少なく、多くは「降伏点」=下降伏点として1値が記載されています。

規格値と実測値の関係

SS400 12mm板の規格値は 235 N/mm² 以上。上の例では実測値が 260 N/mm² あり、規格値に対して +25 N/mm²の余裕があることを示しています。施工管理として確認すべきは、

  • 規格値(235以上)をクリアしているか
  • 設計値(F値=235)に対して実測値が低くないか
  • TS(引張強さ)が400〜510に収まっているか
  • YR(降伏比)が80%以下になっているか(SN材の場合)

「降伏点」が複数行にわたっている場合

メーカーによっては 上下両方の降伏点をミルシートに記載することがあります。

YPH(上降伏点) 275 N/mm²
YPL(下降伏点) 255 N/mm²

このときは YPL=下降伏点を設計用降伏点として参照します。

現場でのトラブル例

過去に鉄骨の溶接補強で追加部材(H-200×100、ガセット用)を発注した際、メーカーから返ってきたミルシートの 「YP 235 N/mm²」を、てっきり「これは上降伏点だな、下降伏点はもう少し下なんだろう」と読み違えて、構造担当に確認しに行きました。すると 「ミルシートに『降伏点』とだけ書かれていたら下降伏点が基本。SS400なら235は規格最低値の保証で、それより上の実測値が出ている、というだけ」とその場で訂正。「上降伏点はピークの瞬間値、下降伏点が安定値、設計値は常に下降伏点」という対応関係を自分で見て・聞いて・腑に落とした瞬間でした。ミルシートの『降伏点235』は『これより下にはならない』という保証であって、『実体値ぴったり235』という意味ではない、というのが現場で確認すべきポイントです。

ミルシートまわりの実務はこちらに整理しています。

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下降伏点に関する情報まとめ

  • 下降伏点とは:軟鋼の応力ひずみ曲線で上降伏点を過ぎた後の安定した降伏領域の最低値
  • 上降伏点との違い:ReH(ピーク・不安定)/ReL(安定・設計値)
  • 応力ひずみ曲線上:弾性域→上降伏点→下降伏点(降伏棚)→ひずみ硬化→引張強さ→破断
  • 設計値として下降伏点が使われる理由:安全側・再現性高い・JIS基準・解析ソフト初期設定
  • 主要鋼種の値(板厚16mm以下):SS400=235/SM490=325/SN400B=235/SN490B=325/SD345=345
  • 板厚が厚くなるほど降伏点は下がる(SS400の40mm超は205)
  • ミルシート:YP / YS / Re = 下降伏点が基本。上下明示なら ReH / ReL を区別
  • 高張力鋼・ステンレスには明確な降伏点なし → 0.2%耐力で代用

以上が下降伏点に関する情報のまとめです。

下降伏点は 「設計用降伏点」=日常で言う『降伏点』の本体。上降伏点との混同を避けて、規格値ベース・板厚補正・ミルシートの読み方まで一通り押さえられれば、ミルシート確認や鉄骨検査での「ここの数値を見落とした」というミスは大きく減らせます。一通り基礎知識は網羅できたかなと思います。

合わせて、上降伏点・SS400・許容応力度などの周辺概念も復習しておくと、設計担当・構造担当との会話で 「数値を一つひとつ正確に追える施工管理」になれますよ。

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