- スカラップってなに?
- なんで梁の端にあんな扇形の切欠きがあるの?
- 寸法はどれくらい?
- ノンスカラップ工法って最近よく聞くけどなぜ増えたの?
- 施工管理として何をチェックすればいい?
上記の様な悩みを解決します。
スカラップ(scallop)は鉄骨の梁や柱で、溶接線の交差を避けるためにウェブに開けられる扇形の切欠きのこと。地味な加工ですが、ここの寸法ミスや溶接の入熱不良が、梁端部の破断につながることが過去の地震で実証されています。1995年の兵庫県南部地震を境に、設計の考え方も施工の考え方も大きく変わったポイントなので、施工管理として押さえておく価値が高い部位です。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
スカラップとは?
スカラップとは、結論「鉄骨の梁や柱で、ウェブとフランジが交差する部分に設ける扇形の切欠き加工」のことです。
英語のscallopは元々「ホタテ貝(ホタテの貝殻のような扇形)」という意味で、加工跡の形がそれに似ているのでこう呼ばれます。「逃げ穴」「逃げ加工」と呼ばれることも。
なぜこんな切欠きが要るのか。鉄骨梁の端部では「フランジ同士の突合せ溶接」と「ウェブの隅肉溶接」が同じ箇所に集まります。このとき、ウェブを切り欠いておかないと、
- 溶接トーチ(溶接機の先端)が物理的に入らず、ちゃんと溶けない
- 溶接線同士が直交して交わり、応力集中ポイントになる
- フランジ側のルート部に裏当て金(バッキング材)を回しづらい
という3つの不都合が起きます。これを避けるためにウェブをR形状で逃がしておく、というのがスカラップの本来の役割。
H形鋼や角形鋼管柱の梁端、ボックス柱とブラケットの交差部など、「フランジとウェブの溶接が交わる場所」には基本的に出てきますね。
ウェブとフランジ自体の役割は別記事でまとめているので、用語の整理から入りたい方はこちらを先に読むと見通しが良くなります。

なぜスカラップが必要なのか(施工と応力の両面)
スカラップを「ただの逃げ加工」と捉えると、寸法管理が雑になります。実は施工面と応力面の両方で意味があるので、両側から押さえておくと現場での判断が効きます。
①施工面:溶接が物理的にできるようにする
H形鋼の梁を柱に取り付けるときの代表例で考えます。柱と梁フランジは「完全溶け込み溶接(CP溶接)」、ウェブは「隅肉溶接」または「部分溶け込み溶接」になることが多い。このフランジ突合せ溶接を裏当て金を当てて行うとき、ウェブが邪魔をしているとそもそも溶接機の先端が入らない。だからウェブを扇形に逃がして、トーチの作業空間を確保するわけです。
②応力面:3軸応力(拘束)の発生を抑える
3つの溶接線(上フランジCP溶接・下フランジCP溶接・ウェブ隅肉)が同じ点に集まると、その点には3方向の収縮拘束が同時にかかります。これを「3軸応力」と呼び、材料は降伏して逃げ場を失い、脆性破壊(粘りが出ずパキッと割れる破壊)を起こしやすくなる。
スカラップで逃がしておくと、溶接線が空間的に分離され、拘束が緩む。これが応力面での意味ですね。
③ただし、スカラップ自体も応力集中ポイントになるという皮肉
ところが、ここが一番のジレンマ。スカラップを設けると、その「切欠き形状」自体が新しい応力集中ポイントになります。地震で梁端に大きな曲げモーメントがかかると、フランジ直下のスカラップ底(R部)に応力が集中し、ここから亀裂が入る。
この問題が大規模に表面化したのが1995年の兵庫県南部地震で、鉄骨造ビルの梁端部破断事例の多くが「スカラップ底」を起点にしていました。これが後の「ノンスカラップ工法」推進の出発点になります。
スカラップの寸法と形状(在来型・改良型)
JASS 6(建築工事標準仕様書 鉄骨工事)や鉄骨工事技術指針で、スカラップの形状はある程度標準化されています。基本は次の3パターン。
| 種類 | 形状の特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 在来型スカラップ | 半径25〜35mm程度の単一R | 重力荷重しか考慮しない部位、改修工事の補修部 |
| 改良型スカラップ | 大Rと小Rを組み合わせた複合形状 | 耐震性が要る一般部、現行の標準仕様 |
| ノンスカラップ | スカラップを設けず、裏当て金とウェブの取り合いを工夫 | 重要部材、地震荷重が支配的な梁端部 |
在来型の代表寸法
兵庫県南部地震以前に多く採用されていた形状で、
- スカラップ半径R:25〜35mm
- ウェブ側の高さ:35mm程度
- 形状:単一円弧
シンプルで加工が早い反面、R底の応力集中が大きく、現行ではあまり推奨されません。
改良型スカラップの代表寸法
JASS 6で標準的に使われる形状。
- 上側大R:35mm程度(ウェブ側に大きく逃がす)
- 下側小R:10mm程度(フランジ際を小さく)
- 高さ:35mm程度
大Rと小Rの組み合わせで、フランジ際の応力集中を抑えつつ、ウェブ側の作業空間も確保するという設計。施工難度は少し上がりますが、応力性能は大きく改善します。
寸法はどう決まるのか
実際の寸法は次の要素で決まります。
- 母材の板厚(板厚が大きいほどスカラップも大きくなる)
- 裏当て金のサイズ(裏当て金が回せる空間が要る)
- 溶接トーチの種類(ガスシールドアーク/サブマージアーク等)
- 溶接姿勢(下向き/立向き/上向き)
設計図やJASS 6の記載通りに加工するのが基本ですが、「ファブ(ファブリケーター=鉄骨製作工場)の実情に合わせて寸法を協議する」場面もあります。施工管理としては、現場であとから「寸法が違う」と気づいて手戻りにならないよう、製作要領書の段階で確認するのが鉄則ですね。

ノンスカラップ工法とは(耐震性能向上のために生まれた技術)
ノンスカラップ工法は、結論「梁端のスカラップを廃止して、応力集中起点をなくす工法」のこと。1995年以降、耐震性が要求される梁端部で急速に普及しました。
従来工法の何が問題だったのか
兵庫県南部地震の調査で、鉄骨造の梁端部破断事例の多くが「スカラップ底からの脆性破壊」だと分かりました。原因は、
- スカラップ底のR部に応力が集中
- 溶接熱影響部(HAZ)の靱性低下
- 入熱・パス間温度の管理不足によるシャルピー値低下
- 裏当て金の組立溶接の不適切な処理
などが複合した結果。設計上は降伏耐力までもつはずの梁が、靱性を失って脆く破断する事例が多数報告されました。
ノンスカラップでの解決策
ノンスカラップ工法では、スカラップそのものを設けない代わりに、
- 裏当て金をウェブに干渉しない位置に取り付ける
- ウェブとフランジの取り合いを「フィレット形状」で連続させる
- 溶接シーケンス(順序)を工夫して、隅肉溶接が突合せ溶接の作業を阻害しないようにする
といった工夫で、応力集中点をなくす設計にしています。これにより、梁端部の塑性変形能力(粘り強さ)が大きく向上することが、実大実験で確認されています。
ただしノンスカラップが万能ではない
実務的には次の点に注意が要ります。
- 製作工場の技能と設備に依存(やれる工場とやれない工場がある)
- 加工コストが在来型より上がる
- 隅肉溶接と突合せ溶接の順序管理が厳密
「現場で勝手にノンスカラップに切り替える」という話ではなく、設計者の指示で工法選定がなされ、製作工場が対応できる体制で行うのが原則。施工管理は、設計図書のスカラップ仕様を製作要領書と照合して、両者が一致しているかを確認する役割を担います。

現場でのスカラップ施工管理ポイント
施工管理として現場で確認すべきポイントを、5つに絞って整理します。
①寸法・形状の検査
製品検査(鉄骨製作工場での社内検査)と現場受入れ検査で、スカラップの寸法(R、深さ)が指定通りかを目視・スケールで確認します。特に改良型の大R/小Rの寸法は、慣れてないと小Rを作り忘れて単一Rになってしまうケースがあるので注意。
②表面のキズ・凹凸
ガス切断やプラズマ切断でスカラップを加工する場合、切断面に「ガス切断ノッチ(深い溝)」が残ることがあります。これがあると、そこから亀裂が入る起点になるので、グラインダーで滑らかに修正するのが基本。製作要領書に「グラインダー仕上げ」が指定されているはず。
③裏当て金の処理
裏当て金(バッキング材)はスカラップ部とフランジの取り合いをまたいで配置されます。組立溶接(タック溶接)でフランジ母材に直接溶接していると、そこが応力集中の起点になる。組立溶接の位置と長さは厳密にルール化されています。
④溶接ビードの止端
スカラップ底から始まるウェブ隅肉溶接のビード止端(溶接ビードの端)は、なめらかに収まっているかを確認。アンダーカット(母材が削れた状態)が残っていると、地震時にここから割れます。
⑤NDT(非破壊検査)の対象範囲
UT(超音波探傷試験)やMT(磁粉探傷試験)でフランジ突合せ溶接を検査するとき、スカラップ近傍は内部欠陥が入りやすい場所。検査範囲が梁端部の指定エリアに含まれているかを、検査要領書で確認しましょう。
「スカラップは見栄えで判断するな、寸法と表面性状で判断しろ」というのが現場の鉄則ですね。
https://seko-kanri.com/splice-plate/
https://seko-kanri.com/diaphragm/
スカラップに関する情報まとめ
- スカラップとは:鉄骨梁・柱のウェブとフランジが交差する部分に設ける扇形の切欠き加工
- 必要性:溶接トーチの作業空間確保と、3軸応力による脆性破壊の回避
- 寸法:在来型は単一R25〜35mm、改良型は大R35mm+小R10mm程度の複合形状
- ノンスカラップ工法:1995年兵庫県南部地震の教訓から、梁端部の脆性破壊を防ぐためにスカラップ自体を廃止する工法
- 施工管理ポイント:寸法検査、切断面のグラインダー仕上げ、裏当て金処理、溶接ビード止端、NDT範囲の確認
以上がスカラップに関する情報のまとめです。
スカラップは「小さな切欠き」ですが、ここの設計思想と施工品質が、地震時の梁端部の挙動を決定づける部位。在来型・改良型・ノンスカラップという技術変遷を理解しておくと、設計図書のスカラップ仕様を見たときに「なぜこの形状が指定されているのか」が分かるようになります。施工管理としては、寸法・表面性状・裏当て金処理・NDT範囲の4点を、製作要領書と現場で照合するのが基本ですね。







