- 有機溶剤作業主任者って、そもそも誰が誰を選ぶものなの?
- 屋外の塗装でも選任しないとダメ?
- 室内でもシンナーをちょっと使うだけなら要らない?
- ピットやマンホールの中で防水をやる時はどうなる?
- 「5%」って何に対する5%のこと?
- トルエンやキシレン、塗料用シンナーは第何種?
- 主任者になったら現場で何をすればいい?
- 技能講習は何時間で、いくらかかる?
- 2024年の化学物質の新ルールで、作業主任者は要らなくなった?
上記の様な悩みを解決します。
有機溶剤作業主任者は、屋内作業場やタンク・ピット・マンホールの内部など有機溶剤中毒予防規則で定める場所で、有機溶剤(重量の5パーセントを超えて含む混合物を含む)を製造し、又は取り扱う業務について、事業者が有機溶剤作業主任者技能講習を修了した者のうちから選任しなければならない作業主任者です(労働安全衛生法施行令第6条第22号・有機溶剤中毒予防規則第19条)。ただし、試験又は研究の業務は除かれ、塗装や接着などの業務で消費する有機溶剤等の量が許容消費量を超えない場合などは選任の対象になりません(有機溶剤中毒予防規則第2条・第19条第1項)。
塗装・防水・接着の仕事にかかわる作業主任者ですが、調べてみると講習の受け方や難易度の話が多くて、「この現場で本当に選任が要るのか」という線引きが見えにくいんですよね。今回は職務・区分・技能講習といった基本を押さえた上で、資格紹介や講習案内の記事では薄くなりがちな「選任が要る場所の列挙」「少量なら外れる許容消費量の式」「建設の作業が条文のどの号に当たるか」まで、有機則の条文を突き合わせながら施工管理の目線で整理しました。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、選任の要否を自分で確かめたい職長や施工管理の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
有機溶剤作業主任者とは?
有機溶剤作業主任者とは、結論「事業者が、有機溶剤作業主任者技能講習を修了した者のうちから選任しなければならない作業主任者」のことです。条文は「事業者は、令第六条第二十二号の作業については、有機溶剤作業主任者技能講習を修了した者のうちから、有機溶剤作業主任者を選任しなければならない。」と書いています(有機溶剤中毒予防規則 第19条第2項)。
まず押さえたいのは主語です。義務を負っているのは事業者で、講習を修了した本人が自分で名乗る仕組みにはなっていません。職務を行わせる側も事業者です(有機溶剤中毒予防規則 第19条の2)。
選任が要る「作業」は、安衛令の条文で「屋内作業場又はタンク、船倉若しくは坑の内部その他の厚生労働省令で定める場所において別表第六の二に掲げる有機溶剤(当該有機溶剤と当該有機溶剤以外の物との混合物で、当該有機溶剤を当該混合物の重量の五パーセントを超えて含有するものを含む。…)を製造し、又は取り扱う業務で、厚生労働省令で定めるものに係る作業」とされ(労働安全衛生法施行令 第6条第22号)、ここに条件が3つ重なっています。
- 場所:屋内作業場、タンク・船倉・坑の内部など、有機則第1条第2項で並べた場所か
- 物:安衛令別表第六の二の有機溶剤か、それを重量の5パーセントを超えて含む混合物か
- 業務:有機則第19条第1項で、試験・研究の業務や少量の場合を除いた残りの業務か
3つすべてに当たったときに選任の義務がかかる組み立てで、有機溶剤を扱うという1点だけでは選任の要否は決まりません。
選任が要る作業と場所|建設の塗装・防水・接着はどの号に当たるか
「屋外の塗装でも要る?」「ピットの中の防水は?」という疑問は、業務の号と場所の号を条文で確かめると答えの筋が見えてきます。選任の要否は、まず「何をするか」と「どこでするか」の掛け合わせで決まるので、この2つを別々に確かめてから重ねます。
業務は有機則第1条第1項第6号の列挙で決まる
有機則は「有機溶剤業務」を第1条第1項第6号のイ〜ヲに分けて並べています。この記事で扱うのは、建設の塗装・防水・接着に近いホ〜ヲの8つです(イ〜ニはこの記事では取り上げていません)。条文の文言と、建設の作業に置き換えたときの対応を表にしました。右の列は筆者の対応づけで、条文に作業名が書いてあるわけではありません。
| 号 | 条文の文言(有機則 第1条第1項第6号) | 建設で当てはまりうる作業(筆者の対応づけ) |
|---|---|---|
| ホ | 有機溶剤等を用いて行うつや出し、防水その他物の面の加工の業務 | 溶剤を含む防水材の塗布/つや出し |
| ヘ | 接着のためにする有機溶剤等の塗布の業務 | 溶剤系の接着剤を下地や材料に塗る作業 |
| ト | 接着のために有機溶剤等を塗布された物の接着の業務 | 接着剤を塗った床材・シートを張り付ける作業 |
| チ | 有機溶剤等を用いて行う洗浄(ヲに掲げる業務に該当する洗浄の業務を除く。)又は払しよくの業務 | シンナーでの器具の洗浄/拭き取り |
| リ | 有機溶剤含有物を用いて行う塗装の業務(ヲに掲げる業務に該当する塗装の業務を除く。) | 溶剤系塗料による塗装 |
| ヌ | 有機溶剤等が付着している物の乾燥の業務 | 塗装・接着の後の乾燥 |
| ル | 有機溶剤等を用いて行う試験又は研究の業務 | 選任の対象からは除かれる(第19条第1項) |
| ヲ | 有機溶剤等を入れたことのあるタンク(有機溶剤の蒸気の発散するおそれがないものを除く。以下同じ。)の内部における業務 | 溶剤を入れたことのあるタンクの内部での作業 |
手元の塗料・防水材・接着剤がそもそも「有機溶剤等」に当たるかは、製品名ではなくSDSの成分と配合で確かめます。「有機溶剤等」は「有機溶剤又は有機溶剤含有物」をいい、有機溶剤含有物は「有機溶剤と有機溶剤以外の物との混合物で、有機溶剤を当該混合物の重量の五パーセントを超えて含有するもの」と定義されています(有機溶剤中毒予防規則 第1条第1項第2号)。「5%」は混合物の重量に対する割合で、しかも「超えて」なので、条文の文言どおりに読むと5パーセントちょうどは含有物に入りません。
防水の工法そのものについてはFRP防水の記事で、塗装の基本はウレタン塗装の記事で別に解説しています。
場所は有機則第1条第2項の11号で決まる
場所のほうは、安衛令第6条第22号が「厚生労働省令で定める場所」と委ね、その中身を有機則第1条第2項が11号で並べています。条文の柱書は「令第六条第二十二号及び第二十二条第一項第六号の厚生労働省令で定める場所は、次のとおりとする。」です(有機溶剤中毒予防規則 第1条第2項)。
| 号 | 場所(有機則 第1条第2項) |
|---|---|
| 一 | 船舶の内部 |
| 二 | 車両の内部 |
| 三 | タンクの内部 |
| 四 | ピツトの内部 |
| 五 | 坑の内部 |
| 六 | ずい道の内部 |
| 七 | 暗きよ又はマンホールの内部 |
| 八 | 箱桁げたの内部 |
| 九 | ダクトの内部 |
| 十 | 水管の内部 |
| 十一 | 屋内作業場及び前各号に掲げる場所のほか、通風が不十分な場所 |
建設の現場に引き寄せると、地下のピット、マンホール、暗きょ、ダクトや水管の内部、箱桁の内部での塗装・防水・接着が、この表の号に直接当たる場所です。ピットやマンホールでの酸素欠乏については、酸素欠乏危険作業主任者の記事で別に整理しています。
屋外の塗装は「対象外」と言い切れるか
結論から言うと、有機則には「屋外作業には適用しない」と書いた条文が見当たりません。有機則の本文を検索して「屋外」が出てくるのは、第35条(貯蔵場所の蒸気を屋外へ排出する設備)と第36条(空容器を屋外の一定の場所に集積)だけで、どちらも適用範囲の話ではありません(有機溶剤中毒予防規則 本文の全文検索による確認)。
条文上の線は「屋外か屋内か」ではなく、令第6条第22号の場所に当たるかどうかです。上の表の十一号「通風が不十分な場所」は、建物の中に限った書き方になっていません。屋外であっても、囲いのある場所のように通風が不十分であれば、文言上は入りうる読み方になります。反対に、開放された屋外で通風が十分な場所の塗装は、屋内作業場・タンク等の内部・通風が不十分な場所の列挙に当たるかを、個別に判断することになります。
もう1点、有機則の本文には「屋内作業場」という言葉の定義が置かれていません(有機則本文の検索による確認)。屋根や壁がどこまであれば屋内とするかの線引きは条文からは出てこず、通達などを確かめる必要がある部分で、この記事では扱っていません。現場目線で言えば、「外だから要らない」で片づけず、囲われ方と通風の状態を見て所轄の労働基準監督署に確かめるのが、後から揉めない進め方です。
現場の場面を条文の号に当てはめると
ここまでの条文を、塗装・防水・接着の場面に当てはめると次のようになります。右の2列は、第1条第2項と第2条第1項の文言から読める範囲を筆者が整理したもので、個別の現場の結論ではありません。製品が有機溶剤等に当たり、業務がホ〜ヌなどに当たることが前提です。
| 場面 | 場所の号(第1条第2項) | 第2条で比べる量 |
|---|---|---|
| 地下ピットの内部での防水材の塗布 | 四 ピツトの内部 | 1日の消費量(タンク等の内部) |
| マンホール・暗きょの内部での塗装 | 七 暗きよ又はマンホールの内部 | 1日の消費量(タンク等の内部) |
| 箱桁の内部での塗装 | 八 箱桁げたの内部 | 1日の消費量(タンク等の内部) |
| 地下室の内部での床材の接着 | 屋内作業場(第2条の括弧はタンク等の内部に含める) | 1日の消費量(タンク等の内部) |
| 建物の室内(通風が不十分でない)での溶剤系塗料の塗装 | 屋内作業場 | 1時間の消費量(タンク等の内部以外) |
| 囲いのある屋外での塗装 | 十一 通風が不十分な場所に入りうる | 十一号に当たれば1日の消費量 |
| 開放された屋外での外壁塗装 | 列挙に直接当たる号は無い | 場所に当たるかを先に個別に判断 |
表の上3段と囲いのある屋外は、第2条第1項第1号の括弧が「前条第二項第三号から第十一号までに掲げる場所」をタンク等の内部に含めているので、量は1日で見ます。地下室は、同じ括弧が「地下室の内部その他通風が不十分な屋内作業場」と名指ししているので、こちらも1日の側です。それ以外の室内の塗装は、通風が不十分な屋内作業場に当たらなければ、1時間あたりの量で見る側になります。通風が不十分な屋内作業場は、同じ括弧によりタンク等の内部に入ります。
少量なら外れる|許容消費量と所轄労働基準監督署長の認定
「シンナーを少しだけ使う場合は?」という疑問に、条文はきちんと答えを用意しています。有機則第19条第1項は、選任が要る業務を「有機溶剤業務(第一条第一項第六号ルに掲げる業務を除く。)のうち次に掲げる業務以外の業務とする。」とし、除く業務に「一 第二条第一項の場合における同項の業務」「二 第三条第一項の場合における同項の業務」を挙げています(有機溶剤中毒予防規則 第19条第1項)。つまり、第2条か第3条の場合に当たれば、その業務は選任の対象から外れます。
第2条:消費量が許容消費量を超えないとき
第2条第1項は、事業者が第1条第1項第6号ハからルまでのいずれかの業務に労働者を従事させる場合で、次のどちらかに当たるとき、その業務には一部の規定を適用しないとしています(有機溶剤中毒予防規則 第2条第1項)。範囲は「ハからルまで」なので、前の表のヲ(有機溶剤等を入れたことのあるタンクの内部における業務)はこの適用除外の範囲に入っていません。
| 作業する場所 | 比べる量 | 条文 |
|---|---|---|
| 屋内作業場等のうち、タンク等の内部以外の場所 | 作業時間1時間に消費する有機溶剤等の量が、許容消費量を超えないとき | 第2条第1項第1号 |
| タンク等の内部 | 1日に消費する有機溶剤等の量が、許容消費量を超えないとき | 第2条第1項第2号 |
表の言葉には定義があります。「屋内作業場等」は「屋内作業場又は前条第二項各号に掲げる場所をいう」とされ、「タンク等の内部」は「地下室の内部その他通風が不十分な屋内作業場、船倉の内部その他通風が不十分な船舶の内部、保冷貨車の内部その他通風が不十分な車両の内部又は前条第二項第三号から第十一号までに掲げる場所」とされています(有機溶剤中毒予防規則 第2条第1項第1号)。第1条第2項の第三号から第十一号にはピット・暗きょ又はマンホール・箱桁・ダクトの内部が入っているので、ピットやマンホールでの防水・塗装は、条文の文言上「1日」の量で比べる側になります。
許容消費量の式と気積の数え方
許容消費量は、有機溶剤等の区分ごとに式で決まっています(有機溶剤中毒予防規則 第2条第1項の表)。
| 有機溶剤等の区分 | 許容消費量の式 |
|---|---|
| 第一種有機溶剤等 | W=(1/15)×A |
| 第二種有機溶剤等 | W=(2/5)×A |
| 第三種有機溶剤等 | W=(3/2)×A |
表の備考は「W 有機溶剤等の許容消費量(単位 グラム)A 作業場の気積(床面から四メートルを超える高さにある空間を除く。単位 立方メートル)。ただし、気積が百五十立方メートルを超える場合は、百五十立方メートルとする。」です(有機溶剤中毒予防規則 第2条第1項の表の備考)。天井の高い空間でも床面から4メートルを超える部分は気積に数えず、広い作業場でも気積は150立方メートルで頭打ちになる、という読み方です。たとえば床面積30平方メートル・天井高5メートルの室内なら、数える気積は30×4=120立方メートルです。床面積50平方メートルで同じ天井高なら50×4=200立方メートルですが、式に入れるAは150立方メートルになります(いずれも備考から出した算出値)。式の係数は第一種がいちばん小さく、第三種がいちばん大きく置かれています。
なお、消費量の数え方は第2条第2項に定めがあり、消費する量(ト・ヌの業務では、接着・乾燥する物に付いている量)に厚生労働大臣が別に定める数値を乗じた量で比べる仕組みになっています。この記事ではその数値まで確認していないので、許容消費量の判定の計算例は載せていません。現場で「この量なら外れる」と判断するときは、その数値まで確かめてからにしてください。
第2条で外れる規定、外れない規定
第2条で適用されなくなるのは「第二章、第三章、第四章中第十九条、第十九条の二及び第二十四条から第二十六条まで、第七章並びに第九章」の規定です(有機溶剤中毒予防規則 第2条第1項柱書)。作業主任者の選任(第19条)と職務(第19条の2)、掲示(第24条)、区分の表示(第25条)は外れる側に入ります。
一方、作業環境測定の第五章と健康診断の第六章は、この列挙に入っていません。量が少ないからといって「有機則は全部関係ない」とはならず、外れるのは作業主任者の選任・掲示・表示など、列挙された規定に限られます。
第3条:所轄労働基準監督署長の認定を受けるとき
第3条第1項は「この省令(第四章中第二十七条及び第八章を除く。)は、事業者が第一条第一項第六号ハからルまでのいずれかに掲げる業務に労働者を従事させる場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、当該業務については、適用しない。」としたうえで、「この場合において、事業者は、当該事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長(以下「所轄労働基準監督署長」という。)の認定を受けなければならない。」と続けています(有機溶剤中毒予防規則 第3条第1項)。
条件の書き方は第2条と少し違います。タンク等の内部以外の屋内作業場等では1時間に消費する量が許容消費量を「常態として超えないとき」(第3条第1項第1号)、タンク等の内部では1日に消費する量が「常に超えないとき」(同第2号)です。第2条第1項の柱書には認定を受ける旨の文言が無く、認定が条文に出てくるのは第3条のほうです。外れる範囲も違い、第2条は列挙された規定だけ、第3条は第四章中第27条と第八章を除く省令全体が外れます。第3条は認定を受けることが前提の仕組みで、認定の手続きを飛ばして「うちは少量だから」と扱うことは条文の想定に入っていません。作業環境測定(第28条第1項)と健康診断(第29条第1項)の対象業務から除かれるのは、この「第三条第一項の場合における同項の業務」です。
ここまでを、現場で確かめる順番に並べ直すと次のとおりです。
- 業務が第1条第1項第6号ハ〜ルのどれかか(ヲのタンク内部の業務は第2条・第3条の範囲外)
- 作業場所がタンク等の内部か、それ以外の屋内作業場等か
- 比べる量が「1時間」か「1日」か
- 使う製品の区分と、床面から4メートルまで・上限150立方メートルの気積
- 第2条第2項の数値を乗じた量で比べているか
- 第3条で外すなら、所轄労働基準監督署長の認定を受けているか
有機溶剤作業主任者の職務4つ(有機則第19条の2)
「主任者になったら何をするのか」は、有機則第19条の2の柱書「事業者は、有機溶剤作業主任者に次の事項を行わせなければならない。」に続く4号で決まっています(有機溶剤中毒予防規則 第19条の2)。
| 号 | 条文(有機則 第19条の2) |
|---|---|
| 一 | 作業に従事する労働者が有機溶剤により汚染され、又はこれを吸入しないように、作業の方法を決定し、労働者を指揮すること。 |
| 二 | 局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置を一月を超えない期間ごとに点検すること。 |
| 三 | 保護具の使用状況を監視すること。 |
| 四 | タンクの内部において有機溶剤業務に労働者が従事するときは、第二十六条各号(第二号、第四号及び第七号を除く。)に定める措置が講じられていることを確認すること。 |
一号は作業の方法を決めて指揮する役目です。決めた方法が、労働者が有機溶剤に「汚染され、又はこれを吸入しないように」という条文の目的に沿っているかが基準になります。
二号の点検は、局所排気装置・プッシュプル型換気装置・全体換気装置の3種類が対象です。期間の書き方は「毎月1回」ではなく「一月を超えない期間ごとに」となっています。点検表にもこの文言のまま書き写しておくと読み違いが起きません。
三号のとおり、保護具を配って終わりではなく、使っているかを見るところまでが作業主任者の仕事です。粉じん向けの防じんマスクについては、防じんマスクの記事で別にまとめています。
四号はタンクの内部で作業するときだけかかる確認で、確かめる措置は第26条の各号(第二号・第四号・第七号を除く)です。
第一種〜第三種の区分と、掲示・色分け表示
「トルエンは第何種?」「塗料用シンナーは?」という疑問は、区分の決まり方を知っておくと自分で確かめられます。
区分は号リストと「5パーセント超」で決まる
有機則の区分は物質名の一覧表ではなく、安衛令別表第六の二の号番号のリストで決まります。第一種は「令別表第六の二第二十八号又は第三十八号に掲げる物」など(有機溶剤中毒予防規則 第1条第1項第3号)、第二種は第4号イに列挙された号の物など(同第4号)、第三種は「有機溶剤等のうち第一種有機溶剤等及び第二種有機溶剤等以外の物」です(同第5号)。号を物質名に当てはめると、主な物質は次のとおりです。
| 区分 | 物質名(別表第六の二の号) | 表示の色(第25条第2項) |
|---|---|---|
| 第一種 | 一・二―ジクロルエチレン(二十八)/二硫化炭素(三十八) | 赤 |
| 第二種 | アセトン(一)/キシレン(十一)/酢酸エチル(十八)/一・一・一―トリクロルエタン(三十五)/トルエン(三十七)/ノルマルヘキサン(三十九)/メタノール(四十二)/メチルエチルケトン(四十四)ほか | 黄 |
| 第三種 | ガソリン(四十八)/コールタールナフサ(ソルベントナフサを含む。)(四十九)/石油エーテル(五十)/石油ナフサ(五十一)/石油ベンジン(五十二)/テレビン油(五十三)/ミネラルスピリツト(五十四) | 青 |
表の区分は、条文の号リストと別表の号番号を筆者が突き合わせた当てはめで、条文が物質名ごとに区分を直接書いているわけではありません。五十四号ミネラルスピリツトには、括弧書きで「ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリツト、ホワイトスピリツト及びミネラルターペンを含む。」と添えられています。
混合物になると扱いが動きます。第4号ハのとおり(有機溶剤中毒予防規則 第1条第1項第4号ハ)、第三種の物質が主体の製品でも、第二種の物質を重量の5パーセントを超えて含めば第二種として扱われます。第一種の物質を5パーセントを超えて含めば第一種です(同第3号ハ)。「ミネラルスピリット=第三種」と言い切れるのは、その物質だけ、または第三種どうしの混合物の場合に限られます。塗料用シンナーの区分も、商品名ではなくSDSの成分と配合で確かめます。
掲示する4つの事項(第24条)
第24条は「事業者は、屋内作業場等において有機溶剤業務に労働者を従事させるときは、次の事項を、見やすい場所に掲示しなければならない。」とし、次の4つを挙げています(有機溶剤中毒予防規則 第24条)。
- 有機溶剤により生ずるおそれのある疾病の種類及びその症状
- 有機溶剤等の取扱い上の注意事項
- 有機溶剤による中毒が発生したときの応急処置
- 条文で定める場所では、有効な呼吸用保護具を使用しなければならない旨及び使用すべき呼吸用保護具
区分の表示は「色分け及び色分け以外の方法」で(第25条)
第25条第1項は「事業者は、屋内作業場等において有機溶剤業務に労働者を従事させるときは、当該有機溶剤業務に係る有機溶剤等の区分を、色分け及び色分け以外の方法により、見やすい場所に表示しなければならない。」と書いています(有機溶剤中毒予防規則 第25条第1項)。色は第一種が赤、第二種が黄、第三種が青の3区分です(同第2項)。「色分け及び色分け以外の方法」なので、色の札だけでは足りません。
区分は測定と健康診断の範囲にもかかわります。作業環境測定は別表第六の二の第一号から第四十七号までの有機溶剤に係る業務(第3条第1項の場合を除く)を行う屋内作業場が対象で、事業者が「六月以内ごとに一回、定期に」濃度を測り、記録を「三年間保存しなければならない」とされています(有機溶剤中毒予防規則 第28条)。第四十八号から第五十四号まで(ガソリンやミネラルスピリツトなど)は測定の対象の号に入っていません。健康診断は「屋内作業場等(第三種有機溶剤等にあつては、タンク等の内部に限る。)」の業務に常時従事する労働者が対象で、雇入れ・配置替えの際と、その後「六月以内ごとに一回、定期に」行います(同 第29条)。一方、選任を定めた第19条は区分で分けていないので、第三種でも、令第6条第22号の場所での業務(第6号ルの試験・研究を除く)で第2条・第3条に当たらなければ、選任は要ります。
技能講習|科目と時間・修了試験・費用
選任の条件は「有機溶剤作業主任者技能講習を修了した者」なので(有機溶剤中毒予防規則 第19条第2項)、受ける講習の名前に「技能講習」と入っているかを見ておくと取り違えません。
講習の根拠は「化学物質関係作業主任者技能講習規程」
現在の講習は「化学物質関係作業主任者技能講習規程」(平成6年労働省告示第65号)に統合されていて、古い案内に出てくる「有機溶剤作業主任者技能講習規程(昭和53年労働省告示第90号)」は、同規程の制定時の文で平成6年6月30日限りで廃止されています。同規程は平成6年7月1日から適用され、最終改正は令和5年厚生労働省告示第168号(令和6年1月1日適用)です。なお、現行の有機則で技能講習を定めているのは第37条です。
講習科目と時間は、同規程第2条の表のうち有機溶剤の列で次のとおりです(化学物質関係作業主任者技能講習規程 第2条)。
| 講習科目 | 範囲(有機溶剤の列) | 講習時間 |
|---|---|---|
| 健康障害及びその予防措置に関する知識 | 有機溶剤による健康障害の病理、症状、予防方法及び応急措置 | 4時間 |
| 作業環境の改善方法に関する知識 | 有機溶剤の性質/有機溶剤の製造及び取扱いに係る器具その他の設備の管理/作業環境の評価及び改善の方法 | 4時間 |
| 保護具に関する知識 | 有機溶剤の製造又は取扱いに係る保護具の種類、性能、使用方法及び管理 | 2時間 |
| 関係法令 | 労働安全衛生法、労働安全衛生法施行令(昭和四十七年政令第三百十八号)及び労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)中の関係条項/有機溶剤中毒予防規則 | 2時間 |
4科目を足すと12時間です(4+4+2+2の算出値。規程に合計は書かれていません)。
修了試験もあります。規程は「技能講習においては、修了試験を行うものとする。」「前項の修了試験は、講習科目について、筆記試験又は口述試験によって行う。」としています(同 第3条第1項・第2項)。修了試験の時間は、規程の第3条には定められていません(第3条の確認による)。
受講資格・日数・費用(講習機関の案内)
受講資格・日数・料金は講習機関ごとの案内で決まっています。2機関を並べると次のとおりです(いずれも2026年10月24日確認・税込)。
| 講習機関 | 受講資格 | 日数・時間割 | 合計金額 |
|---|---|---|---|
| 公益社団法人愛知労働基準協会 | 満18歳以上の方 | 合計2日間(学科2日) | 14,000円(受講料11,800円+テキスト代2,200円) |
| 一般社団法人兵庫労働基準連合会(神戸会場) | 満18歳以上の者 | 1日目 9:00〜16:20/2日目 9:00〜17:25 | 16,500円(受講料14,300円+テキスト代2,200円) |
同じ講習でも、この2機関の間で14,000円から16,500円の幅があります。愛知労働基準協会の案内は「受講料・テキスト代は、変更する場合があります。」と書いているので、申し込む前に最新の案内を見てください(公益社団法人愛知労働基準協会 有機溶剤作業主任者技能講習 2026年10月24日確認)。兵庫労働基準連合会の案内は、修了試験に合格すると写真入りプラスチックカードの修了証を交付するとしています(一般社団法人兵庫労働基準連合会 神戸会場 2026年10月24日確認)。
「満18歳以上」はこの2機関の案内に書かれた受講資格で、法令や告示のどこに年齢の定めがあるかは今回の確認では見つけられていません。
2024年4月からの化学物質規制と有機溶剤作業主任者
「新しい化学物質のルールで作業主任者は要らなくなった?」への答えは、要らなくなっていません。京都労働局労働基準部健康安全課のリーフレットは、表題で「令和6年4月1日から 規模・業種にかかわらず対象 新たな化学物質規制が全面施行されます」と告知しています(京都労働局 化学物質規制リーフレット 2024年3月作成)。
同じリーフレットは、新しく選任が義務になる役として、リスクアセスメント対象物の製造・取扱い・譲渡提供のいずれかを行う場合に「事業場ごとに「化学物質管理者」を選任することが義務付けられます。」と、労働者に保護具を使用させる事業場で「「保護具着用管理責任者」を選任することが義務付けられます。」の2つを挙げています(京都労働局 化学物質規制リーフレット 第4項・第5項)。
そのうえで、リーフレットは対応手順の末尾に「この他、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、粉じん障害防止規則及び石綿障害予防規則等に規定される特別規制(作業主任者設置、ばく露防止設備の設置、作業環境測定、特殊健康診断など)を遵守する必要があります。」と別に書いています(京都労働局 化学物質規制リーフレット 対応手順の概略)。化学物質管理者や保護具着用管理責任者は、有機溶剤作業主任者の代わりではなく、並んで置かれる役です。有機則第19条・第19条の2の本文も、2023年12月27日の版から現行版まで変わっていません。
保護具着用管理責任者を選べる者の表には、④として「作業に応じた、作業主任者の資格を有する者」が入っています(京都労働局 化学物質規制リーフレット 第5項の表)。ただ、選任するのはあくまで事業者で、有機溶剤作業主任者技能講習を修了していれば自動的に保護具着用管理責任者になる、という仕組みではありません。正直なところ、作業主任者・化学物質管理者・保護具着用管理責任者と役の名前が3つ並ぶので、選任の記録は役ごとに分けて残しておくのが安全だと僕は考えています。
有機溶剤作業主任者に関する情報まとめ
- 有機溶剤作業主任者とは:事業者が技能講習の修了者から選任する作業主任者(有機則第19条第2項・安衛令第6条第22号)
- 選任が要る作業と場所:業務は第1条第1項第6号ホ〜ヲなど、場所は第1条第2項の11号。屋外を一律に外す条文は無く、通風が不十分な場所かで見る
- 少量の場合:第2条の許容消費量(第一種1/15・第二種2/5・第三種3/2×気積)を超えなければ選任・掲示・表示などが外れる。測定・健診は第2条では外れない。第3条は認定が必要
- 職務:作業方法の決定と指揮/換気装置の一月を超えない期間ごとの点検/保護具の使用状況の監視/タンク内部の措置の確認の4つ
- 区分と表示:号リストと重量5パーセント超で第一種〜第三種が決まり、掲示4事項と赤・黄・青の色分け+色分け以外の方法で表示する
- 技能講習と新しい規制:化学物質関係作業主任者技能講習規程で4科目・算出12時間+修了試験。2024年4月の新規制後も作業主任者の設置は遵守が必要
以上が有機溶剤作業主任者に関する情報のまとめです。
有機溶剤作業主任者は「有機溶剤を使うなら必ず要る」資格でも、「屋外なら要らない」資格でもなく、場所・物・業務・量の4つを条文で順に確かめて初めて要否が決まる作業主任者です。個人的には、改修工事で地下ピットや室内の塗装・防水が入ると分かった時点で、使う製品のSDSから区分を拾い、作業場所が第1条第2項のどの号に当たるかを書き出しておくのが、選任と掲示の準備をいちばん早く進める手だと思います。そのうえで少量の適用除外を使うかどうかは、第2条第2項の数値と第3条の認定まで確かめてから決めてください。ピットやマンホールでの作業がある現場は、酸素欠乏の側の作業主任者についても酸素欠乏危険作業主任者の記事であわせて確かめておいてください。
