- 住宅着工戸数って結局どこの数字を見ればいいの?
- 74万戸って多いの?少ないの?
- 62年ぶりの最低って、うちの会社ヤバいってこと?
- 先月は前年比33.9%増だったけど、減ってるの増えてるの?
- 「年」と「年度」で数字が違うのはなぜ?
- 統計は減ってるのに現場は忙しいのはなんで?
- 持家・貸家・分譲、うちに関係あるのはどれ?
- この数字から来期の人員計画をどう読めばいい?
上記の様な悩みを解決します。
住宅着工戸数は、建設業で働いていれば必ず一度は上司や元請から話題に振られる数字です。ただ、ニュースで流れてくるのは「前年比◯%減」「◯年ぶりの低水準」といった見出しばかりで、現場の人間がその数字をどう使えばいいのかまで書かれていることはほとんどありません。今回は定義・最新の実績値・利用関係別の内訳・減少理由といった基本を押さえた上で、施工管理目線で「制度改正の駆け込みと反動を差し引いて月次を読む方法」「戸数が減っているのに現場が忙しい理由」「この数字を自分のキャリア判断にどう翻訳するか」まで踏み込んで整理しました。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
住宅着工戸数とは?
住宅着工戸数とは、結論「その期間に工事が始まった新築住宅の戸数」のことです。読み方は「じゅうたくちゃっこうこすう」で、統計上の正式な呼び方は「新設住宅着工戸数」になります。
大事なのは、これが「完成した家の数」でも「売れた家の数」でもないという点です。あくまで着工、つまり工事に取りかかった時点でカウントされる数字なので、着工が動いてから数ヶ月後に資材の発注が動き、職人の手配が動き、さらに後になって売上として計上されます。景気の先行指標として扱われるのはこの時間差があるからで、施工管理から見ると「これから自分の現場に降ってくる仕事の量」を数ヶ月前に示している数字、という捉え方が一番しっくりくるはずです。
調査元とデータの出どころ
住宅着工戸数を公表しているのは国土交通省で、「建築着工統計調査」という基幹統計のうち、住宅着工統計の部分に当たります。同じ調査の中に非居住建築物(事務所・店舗・工場・倉庫など)を対象とした建築物着工統計があり、記者発表資料も住宅と非居住で章立てが分かれています。
もう1つ押さえておきたいのが、データの出どころが建築確認申請ではなく建築工事届だという点です。建築主が工事に着手する前に自治体へ提出する届出を集計しているので、「確認済証が下りた件数」とはズレます。確認は下りたけれど着工を先延ばしにした案件は、着工統計には出てこないわけです。市況が悪いときはこの「確認済だけど着工しない」在庫が積み上がるので、着工戸数の落ち方が実際の需要の落ち方より大きく見えることもあります。
「住宅」と「利用関係」の分類を押さえる
統計を読むうえで避けて通れないのが利用関係別の区分です。この4つは定義が決まっていて、現場でどの職種が動くかも変わってきます。
- 持家:建築主が自分で居住する目的で建築するもの(いわゆる注文住宅)
- 貸家:建築主が賃貸する目的で建築するもの(アパート・賃貸マンション)
- 給与住宅:社宅や公務員住宅など、勤務先が用意する住宅
- 分譲住宅:建て売りまたは分譲の目的で建築するもの(分譲一戸建・分譲マンション)
このほかに、建て方(一戸建・長屋建・共同住宅)や構造(木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造など)でも分類されています。「うちに関係あるのはどれ?」という疑問には、まず自社の受注が持家寄りか貸家寄りか分譲寄りかを確定させて、その系列だけ追うのが答えになります。全国総戸数を追っても、自分の仕事量とは連動しません。
公表のタイミングと速報・修正
公表は月次・年計・年度計の3本立てで、それぞれ出るタイミングが決まっています。集計結果の詳細表は政府統計の総合窓口(e-Stat)に掲載されます。
月報は翌月末(たとえば5月分は6月30日公表)、暦年の年計は翌年1月末、年度計は4月末です。つまり今月の着工の全体像が分かるのは来月末で、常に1ヶ月遅れのデータを見ていることになります。
さらに、公表後に修正が入ることもあります。修正後の資料はe-Statの該当月・年・年度のページに差し替えで掲載される運用なので、「去年見た数字と違う」と感じたら修正が入っているケースです。会議資料に数字を貼るときは、出典と取得した日付をメモに残しておくと後で揉めません。僕としてはここが地味に大事だと思っていて、数字の出どころを言えない資料は会議で一発で信頼を失います。
「年」と「年度」で数字が変わる理由
住宅着工戸数を調べていて一番混乱するのが、暦年(1〜12月)と年度(4〜翌3月)の2つが並んで出てくる点です。同じ「2025年の着工戸数」でも、暦年なら74万戸台、年度なら71万戸台で、3万戸近くズレます。
どちらが正しいという話ではなく、集計期間が違うだけです。ただ、この違いが致命的になる場面があります。制度改正は年度替わりの4月1日に施行されるのが基本なので、改正前の駆け込み着工は3月に集中します。暦年で切ると駆け込みと反動が同じ年の中に収まって一部打ち消し合い、年度で切ると駆け込みは前年度・反動は当年度に分かれるので、下げ幅が大きく見えるんです。
制度改正の影響を見たいときは年度、素の需要のトレンドを見たいときは暦年、という使い分けが実務的だと思います。会議で数字を出すときは「これは年度の数字です」と一言添えるだけで、話が噛み合わなくなる事故をかなり防げます。
季節調整済年率換算値とは
月報の記者発表資料には「季節調整済年率換算値」という項目が必ず出てきます。名前が長くて身構えますが、中身は単純です。
住宅の着工には季節の癖があって、年度末や年度初めは動きやすく、真冬や真夏は落ちやすい。その季節の癖を統計的に取り除いたうえで、「この月のペースが12ヶ月続いたら年間何戸になるか」に換算した数字が季節調整済年率換算値です。前年同月比が「去年の同じ月と比べてどうか」を見る指標なのに対して、こちらは「直近の勢いはどうか」を見る指標になります。
前年同月比と季節調整済年率換算値が逆方向を向くこともよくあって、そのときは前年の水準が特殊だったと考えるのが基本線です。会議で「前年同月比は増えてますけど、年率換算のペースだと横ばいですね」と言えると、それだけで数字を読んでいる人の発言になります。
住宅着工戸数の最新データ
まず結論から言うと、直近の住宅着工戸数は歴史的な低水準にあり、そこから反発が始まっている局面です。
国土交通省「建築着工統計調査報告(令和7年計)」によると、2025年(暦年)の新設住宅着工戸数は740,667戸で、前年比6.5%減。3年連続の減少です。着工床面積は56,885千㎡で前年比6.6%減となっています。
| 利用関係 | 2025年(暦年) | 前年比 | 傾向 |
|---|---|---|---|
| 総戸数 | 740,667戸 | 6.5%減 | 3年連続の減少 |
| 持家 | 201,285戸 | 7.7%減 | 4年連続の減少 |
| 貸家 | 324,991戸 | 5.0%減 | 3年連続の減少 |
| 分譲住宅 | 208,169戸 | 7.6%減 | 3年連続の減少 |
年度で切るともっと厳しい数字になります。2026年4月30日に公表された令和7年度(2025年度)の新設住宅着工戸数は711,171戸、前年度比12.9%減。これはリーマンショック後の底だった2009年度(775,277戸)を下回り、さらに1963年度(719,784戸)も下回る、62年ぶりの低水準です。着工床面積も54,568千㎡で前年度比12.6%減となりました。
なお2024年度(令和6年度)は約81.6万戸で前年度比1.1%増、3年ぶりの増加でした。持家223,079戸(前年度比1.6%増)、貸家356,893戸(同4.8%増)と、いったん持ち直していたところから一気に落ちた形です。この「上がってすぐ落ちた」動きに制度改正が絡んでいます。
利用関係別で見ると減り方がまったく違う
2025年度の内訳を見ると、同じ「12.9%減」の中で工種ごとの温度差がはっきり出ています。
- 持家:195,111戸(前年度比12.6%減)
- 貸家:308,906戸(同13.5%減)
- 分譲住宅:200,563戸(同12.6%減)
- うち分譲マンション:82,881戸(同21.2%減)
- うち分譲一戸建:115,200戸(同5.9%減)
分譲マンションが21.2%減、分譲一戸建が5.9%減。同じ分譲住宅の枠の中で、減り方が4倍近く違うわけです。これは市況の話としてより、自分の周りの業者さんの話として重い数字だと思います。RC造の型枠・鉄筋・タイルといった専業の職人さんに仕事が回りにくくなっている一方で、木造大工の需要は相対的に踏みとどまっている、という読み方になります。
型枠工事の実情はこちらでも触れています。

直近の月次は増加に転じている
一方で足元の月次は反発しています。国土交通省の建築着工統計調査報告(令和8年5月分)によると、2026年5月の新設住宅着工戸数は57,877戸で、前年同月比33.9%の増加。2ヶ月連続の増加で、持家・貸家・分譲住宅のすべてが増えました。新設住宅着工床面積は447万1,000㎡、季節調整済年率換算値は75万7,000戸で前月比4.6%の増加です。
ここで「じゃあ回復してるのか」と単純に受け取ると読み間違えます。前年同月、つまり2025年5月がなぜあれだけ落ちていたのかを踏まえないと、この33.9%増は評価できません。その理由は後の章で扱います。
なお同じ5月の民間非居住建築物は、事務所・店舗・工場・倉庫が減少して全体で減少となっています。住宅は増、非居住は減という別々の動きをしているので、「建設業全体が上向き」と言ってしまうのは早い、というのが僕の見方です。
住宅着工戸数の推移と減っている理由
長期の推移を大づかみに押さえると、住宅着工戸数はピークから半分以下まで落ちてきた指標です。1980年代から90年代は年間120万〜170万戸の水準で推移し、2000年代に入って徐々に減少、2015年度から2019年度あたりは約90万戸、2020年度から2023年度は80万戸台。そこから2025年度に71.1万戸まで一段下がった、という流れになります。
| 節目 | 水準 | 背景 |
|---|---|---|
| 1980〜90年代 | 年間120万〜170万戸 | 人口・世帯増と土地神話の時期 |
| 1963年度 | 719,784戸 | 高度成長期に入る前の水準 |
| 2009年度 | 775,277戸 | リーマンショック後の底 |
| 2015〜2019年度 | 約90万戸 | 横ばい期 |
| 2020〜2023年度 | 80万戸台 | コロナ禍と資材高騰 |
| 2024年度 | 約81.6万戸 | 3年ぶりの増加 |
| 2025年度 | 711,171戸 | 62年ぶりの低水準 |
つまり「急に減った」わけではなく、30年以上かけて右肩下がりを続けてきた中で、2025年度に一段深い谷が来たという構図です。ここを押さえておくと、単月の増減にいちいち一喜一憂しなくなります。
減少の背景にある5つの要因
減少理由として業界で共通して挙げられるのは次の5つです。
- 人口・世帯数の減少:家を建てる中心年齢層そのものが縮んでいる
- 建築費の高騰:資材価格と労務費の上昇で、同じ家の値段が上がった
- 住宅ローン金利の上昇局面:金利の先行き不安による買い控え
- 単独世帯の増加と価値観の変化:持家から賃貸・中古へのニーズシフト
- 制度改正による着工タイミングの前倒し:後述する駆け込みと反動
このうち施工管理として一番実感があるのは2つ目でしょう。建築費が上がると施主の予算に対して建てられる面積が縮むので、坪数を落とす、仕様を落とす、着工を延ばすという判断が積み上がります。労務費の上昇そのものは職人の待遇改善として必要なことですが、短期的には着工数を押し下げる方向に効きます。
労務費単価の考え方はこちらで整理しています。

3つ目の金利については、野村総合研究所も足元の市場について、住宅価格の高騰や金利上昇に所得の伸びが追い付かず実需が縮小し、消費者のニーズが賃貸や中古住宅へシフトしていると分析しています。持家が4年連続の減少という数字は、まさにこの流れがそのまま出た結果です。
僕の感覚だと、この5つのうち1〜4は構造的でゆっくり効く要因、5だけが単年で数字を大きく歪める要因です。ニュースの解説記事は1〜4を並べて終わることが多いんですが、実務で数字を読むときに一番厄介なのは5番目なので、そこを独立して見る必要があります。
数字が急に跳ねる理由|制度改正の駆け込みと反動
月次の前年同月比が突然30%台で振れるのを見て「傾向が読めない」と感じるのは当然で、あれは景気ではなく制度の影響です。ここが分かると、住宅着工戸数の読み方が一段変わります。
2025年4月1日、住宅の着工に関わる2つの制度改正が同時に施行されました。1つが改正建築物省エネ法による省エネ基準適合の義務化、もう1つが建築基準法改正によるいわゆる4号特例の縮小(新2号建築物・新3号建築物の区分の導入)です。省エネ計算書と構造関係図書の提出が原則必要になり、確認申請の手間と審査期間が増えました。
この手の改正は「施行日前に着工すれば旧ルールで進められる」形になるため、事業者は2025年3月末までに着工を寄せます。実際、令和7年3月の新設住宅着工は前年同月比39.1%の増加でした。そして4月以降は、本来その先に着工するはずだった案件が前倒しで消えているので、反動で大きく落ちます。日本建設業連合会も2025年度の落ち込みについて、省エネ基準適合義務化による駆け込み需要の反動の影響を挙げています。
2025年4月の改正内容はこちらが詳しいです。

4号特例の縮小そのものはこちらで整理しています。

この形は初めてではない
同じパターンは過去にも起きています。2007年6月に改正建築基準法が施行されて建築確認・検査が厳格化したときも、確認審査が滞って着工が大きく落ち込みました。制度が厳しくなる前に駆け込み、施行後は審査に時間がかかって着工が出てこない。この「駆け込み→反動→審査慣れによる正常化」の3段階は、建築の制度改正でほぼ毎回繰り返されている動きです。
だから2026年度に着工が増えるという予測が出ていても、それは需要が回復したという意味ではなく「反動局面を抜けた」という意味である可能性が高い。ここを区別できるかどうかで、数字の受け取り方が変わります。
駆け込みと反動を差し引いて読む手順
ここまで分かると、2026年5月の「前年同月比33.9%増」の意味が正しく取れます。前年の2025年5月が反動減で深く落ちていたので、その落ち込みからの戻りが増加率として現れているわけです。増えたこと自体は事実ですが、需要が33.9%膨らんだわけではありません。
実務で月次を読むときは、次の順番で見ていくと判断を誤りにくいです。
- 前年同月に制度改正の駆け込みまたは反動がなかったかを先に確認する
- 前年同月比ではなく、2年前の同月と比べる(駆け込みも反動もない水準と比較する)
- 季節調整済年率換算値の前月比で、直近の勢いを別途チェックする
- 利用関係別(持家・貸家・分譲)に分解して、どこが動いたのかを特定する
正直なところ、この4ステップを踏むだけで社内では「数字が読める人」の側に回れます。上司から「市況どう?」と聞かれたときは、「暦年で3年連続減、年度では62年ぶりの低水準まで落ちました。ただ2025年度の落ち込みは省エネ義務化の反動が乗った数字なので、素の需要はもう少し上です。足元の月次は反発しています」と返せれば十分です。
戸数が減っているのに現場が忙しい理由
統計は減っているのに現場の忙しさが増している、という感覚のズレは、多くの施工管理が持っているはずです。これは錯覚ではなく、ちゃんと理由があります。
1件あたりの手間が制度改正で増えた
省エネ基準適合の義務化と4号特例の縮小によって、これまで特例で省略できていた構造関係図書や省エネ計算書の作成・提出が必要になりました。着工までの段取りが重くなり、確認済証が下りるまでの期間も伸びます。着工する棟数が10棟から8棟に減っても、1棟あたりの事務作業が2割増えていれば、体感の忙しさは変わりません。
しかも増えた手間は施工そのものではなく書類側です。現場を回す時間が削られて事務所での作業時間が増えるので、「忙しいのに現場が進んだ気がしない」という独特の疲れ方になります。ここは統計を眺めていても絶対に見えてこない部分です。
省エネ基準の中心にある熱貫流率はこちらで整理しています。

人手が同時に減っている
着工戸数が2割減っても、それを担う施工管理者や職人の数が同じか、それ以上のペースで減っていれば、1人あたりの持ち現場数は減りません。むしろ審査や工程が伸びた分だけ現場を長く抱えることになるので、同時進行の件数が増えます。
戸数という分子だけを見て「仕事が減った」と考えると、分母である人手が同時に減っている事実を見落とします。市況の話と自分の労働負荷の話は、そもそも別の指標だと割り切ったほうが正確です。
新築が減った分を改修が埋めている
建設経済研究所の見通しでは、2025年度の建築補修(改装・改修)投資は17兆3,400億円で前年度比12.9%増、2026年度も17兆8,100億円で同2.7%増と予測されています。同じ見通しの中の2026年度民間住宅投資額が17兆1,400億円ですから、建築補修投資は民間住宅投資と並ぶ規模まで来ているわけです。
集計範囲が違うので厳密な比較ではありませんが、この2つの数字を並べるだけで「新築が減っている=仕事が減っている」という等式が成り立たなくなっていることは見えてきます。新築の統計だけを追いかけて業界の先行きを判断するのは、もう情報として足りていないというのが僕の見立てです。
戸数より床面積と工種構成を見る
もう1つ、統計の見方の話をしておきます。戸数だけを見ていると、現場の負荷を読み損ねます。
- 着工床面積:施工量そのものに近い。2025年度は54,568千㎡で前年度比12.6%減
- 1戸あたり床面積:2025年度は約77㎡で、前年度からほぼ横ばい
- 工種構成:分譲マンション21.2%減に対し分譲一戸建5.9%減と、内訳の減り方が大きく違う
- 地域差:全国の増減と自分の県の増減は一致しない。都道府県別・市区町村別の数値はe-Statや各都道府県の公表資料で確認できる
現場目線で言えば、見るべきは「全国の総戸数」ではなく「自分の県の、自分が担当する用途の着工床面積」です。全国が12.9%減でも、自分の商圏の木造一戸建が横ばいなら、自分の仕事量はほぼ変わりません。ここを混同したまま「業界全体が沈んでいる」と感じてしまうのが、一番もったいないパターンだと思っています。
都道府県別の数値は各県のサイトでも月次で公表されているので、自分の県の分だけブックマークして毎月見るようにすると、全国ニュースより先に商圏の変化に気づけます。
住宅着工戸数の今後の予測と施工管理が備えること
今後の見通しは、短期は微増、長期は減少という二層構造で押さえるのが正確です。
短期については、建設経済研究所が2026年4月13日公表の「建設経済モデルによる建設投資の見通し」で、2026年度の住宅着工戸数を77.7万戸(前年度比7.6%増)と予測しています。
| 区分 | 2026年度予測 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 住宅着工戸数 合計 | 77.7万戸 | 7.6%増 |
| 持家 | 20.5万戸 | 3.9%増 |
| 貸家 | 35.1万戸 | 11.5%増 |
| 分譲住宅 | 21.4万戸 | 5.0%増 |
| 民間住宅投資額 | 17兆1,400億円 | 6.1%増 |
持家は省エネ基準適合義務化に伴う反動減が一巡することと、住宅ローン減税の延長などの政策効果で緩やかに増加。貸家の伸び率が11.5%と高いのは前年度の反動減からの回復を見込んでいるためで、分譲住宅は5%増ながら中古への需要シフトが伸びを抑える、という整理になっています。なおこの見通しには中東情勢などの地政学リスクや、石油化学原料であるナフサ価格の高騰は織り込まれていない点が明記されています。
長期については、野村総合研究所が2026年6月18日に公表した予測で、新設住宅着工戸数は2030年度に80万戸、2040年度に61万戸(2025年度比約18%減)と見込んでいます。2040年度の利用関係別では持家14万戸、分譲住宅18万戸、貸家29万戸。同時に、広義のリフォーム市場規模は2040年に9.2兆円(2024年は約8.3兆円)へ緩やかに拡大する見通しを示しています。
予測をどこまで信じるか
予測は前提が崩れれば外れます。実際、建設経済研究所は2025年度を72.2万戸と推計していましたが、実績は711,171戸で1.1万戸下回りました。野村総合研究所も2025年度を約85万戸と見ていた時期があり、実績とは大きく差が出ています。
つまり予測は「絶対値を当てるもの」ではなく「方向と、その理由を共有するもの」として使うのが正しい距離感です。個人的には、数字そのものより「持家より貸家の伸び率が高い」「新築より改修の伸びが安定している」といった相対関係のほうが、実務判断には役立つと思っています。予測値を会議で読み上げるより、「なぜその予測になっているのか」の前提を説明できたほうが価値があります。
施工管理として何を準備するか
この数字を自分のキャリアに翻訳すると、備えるべきことは絞られます。
- 省エネ・断熱の基礎知識:義務化後は「分かっている施工管理」が現場で強い
- 改修・リノベーションの段取り経験:伸びている市場側の経験を1件でも持つ
- 木造以外の構造の経験:分譲マンションが減る局面では、経験が1構造に偏っているとリスクになる
- 自分の商圏の着工データを自分で取れること:全国平均ではなく県別で語れる人は少ない
ZEHの位置づけはこちらが参考になります。

木造の基礎知識を固め直したい場合はこちらから入るのがおすすめです。

正直なところ、「新築が61万戸まで減る」という数字を見て不安になるのは自然な反応です。ただ、61万戸というのは年間61万棟の現場があるという意味でもあります。そのうえで改修市場が9兆円規模まで伸びるなら、施工管理という職能の総需要が消えるという話ではありません。減るのは「新築を数だけこなす仕事」で、増えるのは「制度と性能を分かっていて、既存建物も扱える施工管理」だと僕は捉えています。
住宅着工戸数に関する情報まとめ
- 住宅着工戸数とは:その期間に工事が始まった新築住宅の戸数。正式には新設住宅着工戸数
- 調査元と出どころ:国土交通省の建築着工統計調査。建築確認ではなく建築工事届を集計している
- 公表:月報は翌月末、暦年の年計は翌年1月末、年度計は4月末。修正が入ることもある
- 2025年(暦年):740,667戸、前年比6.5%減で3年連続の減少
- 2025年度:711,171戸、前年度比12.9%減。1963年度を下回る62年ぶりの低水準
- 利用関係別(2025年度):持家195,111戸、貸家308,906戸、分譲住宅200,563戸。分譲マンションは21.2%減、分譲一戸建は5.9%減
- 直近月次:2026年5月は57,877戸で前年同月比33.9%増。ただし前年の反動減からの戻り
- 減少理由:人口・世帯減、建築費高騰、金利上昇、価値観の変化、制度改正の駆け込みと反動
- 読み方のコツ:前年同月比だけで判断せず、2年前比・季節調整済年率換算値・利用関係別の分解を併用する
- 今後の予測:2026年度は77.7万戸(建設経済研究所)、2040年度は61万戸(野村総合研究所)
- 現場での見方:全国総戸数より、自分の県・自分が担当する用途の着工床面積を見る
以上が住宅着工戸数に関する情報のまとめです。
一通り基礎知識は網羅できたかなと思います。この指標で一番大事なのは、数字を覚えることではなく「その数字が制度の影響で歪んでいないか」を疑う癖をつけることだと思っています。実務だと、月次の前年同月比をそのまま景気の話として受け取ってしまう人がかなり多いので、そこを一歩引いて読めるだけで社内の議論の精度が上がります。着工の数字は「業界の体温計」ではなく「制度と需要の合成値」だと捉えておくと、来期の人員計画の話にも冷静に混ざれるはずです。
住宅着工戸数に関するよくある質問
Q1:住宅着工戸数の最新の数字はどこで確認できますか?
一次情報は国土交通省の「建築着工統計調査報告」です。月報は翌月末、暦年の年計は翌年1月末、年度計は4月末に公表されます。集計結果の詳細表は政府統計の総合窓口(e-Stat)に掲載され、都道府県別・市区町村別まで取れます。ニュース記事で数字を拾うのは早くて楽ですが、会議資料に貼るなら国交省の記者発表資料かe-Statを直接見るのが確実です。公表後に修正が入ることもあるので、出典と取得日をメモに残しておくと後で揉めません。
Q2:「年」と「年度」はどちらで話すのが正しいですか?
どちらも正しくて、目的で使い分けます。制度改正の影響を見たいときは年度、素の需要のトレンドを見たいときは暦年です。制度は4月1日施行が基本なので、駆け込み着工は3月に集中します。暦年で切ると駆け込みと反動が同じ年に収まって一部打ち消し合い、年度で切ると駆け込みは前年度・反動は当年度に分かれて下げ幅が大きく見えます。実際、2025年は暦年で6.5%減、2025年度では12.9%減と、同じ年の話でも印象がまるで変わります。数字を出すときは「これは年度です」と一言添えるだけで事故が減ります。
Q3:前年同月比33.9%増なのに「回復ではない」と言われるのはなぜですか?
比較対象である前年の水準が異常に低かったからです。2025年4月に省エネ基準適合の義務化と4号特例の縮小が同時施行され、その直前の3月に駆け込み着工が集中しました。令和7年3月は前年同月比39.1%増でした。その反動で2025年4月以降が深く落ち込んだので、2026年5月の33.9%増は「落ちた場所から戻ってきた」ぶんが増加率として出ているわけです。需要が33.9%膨らんだわけではありません。前年に駆け込みや反動がなかったかを先に確認するのが読み方の第一歩です。
Q4:季節調整済年率換算値は何のための数字ですか?
「直近の勢い」を見るための数字です。住宅の着工には年度末が動きやすく真冬が落ちやすいという季節の癖があるので、それを統計的に取り除いたうえで「この月のペースが12ヶ月続いたら年間何戸か」に換算しています。前年同月比が「去年の同じ月との比較」なのに対して、こちらは「今の速度」を示します。2026年5月は年率換算で75万7,000戸、前月比4.6%増でした。前年同月比と年率換算が逆方向を向くこともあり、そのときは前年の水準が特殊だったと考えるのが基本線です。
Q5:上司に「市況どう?」と聞かれたとき、何と答えればいいですか?
3文で足ります。「暦年で3年連続減、年度では62年ぶりの低水準まで落ちました」「ただ2025年度の落ち込みは省エネ義務化の反動が乗った数字なので、素の需要はもう少し上です」「足元の月次は2ヶ月連続で増えています」。この3文が言えれば、数字を読んでいる人の発言になります。逆に「減ってるみたいです」だけだと、次に必ず「どのくらい?」「なんで?」と聞かれて詰まります。数字は暗記しなくても、暦年と年度の2つと制度改正の存在を押さえておけば構造は説明できます。
Q6:統計は減っているのに現場が忙しいのはなぜですか?
理由は3つあります。1つ目は制度改正で1件あたりの手間が増えたこと。省エネ計算書と構造関係図書の作成・提出が原則必要になり、着工までの段取りと審査期間が伸びました。2つ目は施工管理者と職人の数も同時に減っているので、1人あたりの持ち現場数が減らないこと。3つ目は新築が減った分を改修が埋めていることです。建設経済研究所の見通しでは2026年度の建築補修投資が17兆8,100億円で、同じ見通しの民間住宅投資額17兆1,400億円と並ぶ規模になっています。
Q7:自分の県の着工戸数だけ見ることはできますか?
できます。e-Statの建築着工統計調査には都道府県別・市区町村別のデータがあり、各都道府県も自県分を月次で公表しています。むしろ施工管理として見るべきはこちらです。全国が12.9%減でも、自分の商圏の木造一戸建が横ばいなら自分の仕事量はほぼ変わりません。全国の総戸数と自分の県の担当用途の着工床面積は別の指標だと割り切って、自県のページをブックマークして毎月見る習慣をつけると、全国ニュースより先に商圏の変化に気づけます。
Q8:新築が61万戸まで減ると、施工管理の仕事はなくなりますか?
なくなりません。野村総合研究所の予測で2040年度61万戸という数字が出ていますが、これは年間61万棟の現場があるという意味でもあります。同じ予測の中で、広義のリフォーム市場規模は2040年に9.2兆円へ拡大する見通しが示されています。減るのは「新築を数だけこなす仕事」で、増えるのは「制度と性能を分かっていて、既存建物も扱える施工管理」だと僕は捉えています。備えとしては、省エネ・断熱の知識、改修の段取り経験、構造の偏りをなくすこと、この3つが効きます。
建築業界の全体像をもう一度俯瞰したい場合はこちらから。

会社側の数字の読み方はこちらが参考になります。

公共側の仕事の値段の付き方はこちらで整理しています。

