- 建設業の財務諸表って普通の会社の決算書と何が違うの?
- なんで「売上」じゃなくて「完成工事高」って言うの?
- 未成工事支出金って資産なの?費用なの?
- 財務諸表って何種類あるの?貸借対照表と損益計算書だけ?
- 建設業法の財務諸表と税務の決算書って別物?
- 経審で財務諸表を見られるって聞いたけど何をチェックされる?
- 自分の現場の実行予算と会社の財務ってどう繋がってるの?
- 転職先の会社が健全かどうか、財務諸表で見分けられる?
- 完成工事未収入金が多い会社ってヤバいの?
- 結局、現場監督の自分は最低限どの科目だけ押さえとけばいい?
上記の様な悩みを解決します。
建設業の財務諸表は、普通の会社の決算書とは使う言葉も考え方も微妙に違っていて、簿記を少しかじった人ほど「あれ、売上って完成工事高なの?」と戸惑うところです。経審(経営事項審査)や決算変更届で目にする機会はあるのに、現場の人間向けにかみ砕いた解説は意外と少ないんですよね。今回は財務諸表の種類・見方・特有の勘定科目といった基本を押さえた上で、現役の施工管理目線で「実行予算と財務のつながり」「現場監督が読めると何が得なのか」「転職先選びでどう使うか」まで整理しました。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
建設業の財務諸表とは?
建設業の財務諸表とは、結論「建設業特有の勘定科目とルールに沿って作られた、会社の成績表と財産目録」のことです。基本的な役割は普通の会社の決算書と同じで、一定期間の儲け(損益計算書)と、ある時点での財産の状態(貸借対照表)を表します。
ではなぜわざわざ「建設業の」と付けて区別するのか。理由は一つで、建設業は工事期間が長いからです。一般的な小売業は商品を仕入れてすぐ売りますが、建設工事は受注から完成・引き渡しまで数ヶ月から数年かかることも珍しくありません。決算日をまたいで工事が進行中、という状況が当たり前に起きます。
この「まだ終わっていない工事」をどう会計上で扱うかが、普通の会社にはない論点です。完成前にかかった材料費や外注費をどこに計上するのか、売上はいつ立てるのか。これを処理するために、建設業には専用の勘定科目が用意されているわけです。
要するに、建設業の財務諸表は「特殊な業種だから特別な様式がある」のではなく、「工期が長いという業界の事情に合わせて、勘定科目と計上のタイミングを調整した決算書」だと捉えるのが正確です。僕の整理では、ここを押さえておくと、このあと出てくる聞き慣れない科目も「ああ、工期が長いから必要なんだな」とすんなり腑に落ちると思います。
建設業の財務諸表の種類
建設業の財務諸表は「貸借対照表と損益計算書の2つ」と思われがちですが、実際にはもう少し種類があります。先に全体像を押さえておきましょう。
建設業法では、建設業許可の申請や毎年の決算変更届のために、施行規則で標準的な財務諸表の様式が定められています。法人の場合、主に次の書類で構成されます。
- 貸借対照表:決算日時点の資産・負債・純資産を示す財産目録
- 損益計算書:一会計期間の収益と費用、利益を示す成績表
- 完成工事原価報告書:完成工事原価の内訳(材料費・労務費・外注費・経費)を示す書類
- 株主資本等変動計算書:純資産がどう増減したかを示す書類
- 注記表:会計方針など補足情報をまとめた書類
会社の規模によっては附属明細表も求められます。ポイントは、損益計算書とセットで「完成工事原価報告書」が付くことで、これは普通の会社の決算書には無い建設業ならではの書類です。
もう一つ整理しておきたいのが、税務署に出す決算書と建設業法の財務諸表の関係です。両者は別物というより、同じ会社の会計データを、提出先(税務署か、許可行政庁か)に合わせて様式を変えて作っているイメージです。決算の中身そのものが二重に存在するわけではありません。
これらの財務諸表は、建設業許可の維持・更新や、後述する経営事項審査の土台になります。許可制度の全体像はこちらが詳しいです。

個人的には、現場の人間がいきなり全様式を覚える必要はないと思っていて、まずは「貸借対照表・損益計算書・完成工事原価報告書の3点が柱」と押さえておけば十分です。
建設業特有の勘定科目
建設業の財務諸表でつまずく最大の原因が、聞き慣れない勘定科目です。ただ、これらは普通の会計の科目と一対一で対応しているので、対応関係さえ掴めば一気に読めるようになります。
まず最低限押さえたいのは、次の6つの科目です。
- 完成工事高(売上高に相当):完成して引き渡した工事の請負金額
- 完成工事原価(売上原価に相当):その工事を完成させるためにかかった原価の合計
- 未成工事支出金(仕掛品に相当):まだ完成していない工事のために支出した原価
- 完成工事未収入金(売掛金に相当):完成工事高のうち、まだ回収していない代金
- 工事未払金(買掛金に相当):工事原価のうち、まだ支払っていない金額
- 未成工事受入金(前受金に相当):工事完成前に発注者から受け取った手付金・中間金
カッコ内が普通の会計での呼び名です。完成工事高は売上高、工事未払金は買掛金、というように、言葉が違うだけで役割は同じだと分かれば怖くありません。
少し注意がいるのが未成工事支出金です。これは「まだ完成していない工事に使ったお金」ですが、費用ではなく資産として計上されます。完成して引き渡した瞬間に、未成工事支出金は完成工事原価(費用)に振り替わる、という流れです。完成工事原価そのものの計算方法はこちらで詳しく解説しています。

逆に未成工事受入金は、前もってもらったお金なので「売上」ではなく負債(後で工事を提供する義務)として扱います。お金が入ってきたのに負債、というのが直感に反しますが、まだ工事という対価を返していないから負債、と考えると筋が通ります。
僕の感覚だと、この6科目と「売上高・売上原価・仕掛品・売掛金・買掛金・前受金」の対応表を一度頭に入れてしまえば、建設業の財務諸表の8割は読めるようになります。全科目を暗記する必要はなく、まずはこの6つの対応を押さえるのが近道です。
建設業の財務諸表の見方
勘定科目が分かったら、次は「どこを見れば会社の状態が分かるのか」という読み方です。現場の人間が押さえておくと役に立つ読みどころを絞って紹介します。
一つ目は完成工事原価率です。完成工事原価を完成工事高で割った比率で、これが高いほど、現場の利益が薄いことを意味します。自分の現場の実行予算で言えば「予算に対して原価をどれだけ抑えられたか」が、会社全体で集計された数字がここに出ている、と捉えると現場感覚と繋がります。
二つ目は完成工事未収入金です。これが売上に対して異常に大きい場合、工事は終わったのに代金を回収できていない、という状態を疑います。回収が滞ると、いくら帳簿上の利益が出ていても資金繰りは苦しくなります。転職先や取引先の健全性を見るとき、ここが膨らんでいないかは一つの目安になります。
三つ目は自己資本比率です。総資産のうち、返済不要の自己資本がどれくらいの割合かを示す指標で、高いほど財務的に安定しています。何%あれば安全という絶対的な基準はありませんが、低すぎる会社は借入依存が大きい、という見方ができます。
これらの指標は、経営事項審査(経審)でも会社の評価に直結します。経審は公共工事の入札に参加するための審査で、財務諸表の数字がそのまま点数になります。経審の評点の仕組みはこちらが詳しいです。

現場目線で言えば、財務諸表を隅々まで分析する必要はなく、「原価率・未収入金・自己資本比率の3つだけ拾えれば、会社の体力はだいたい掴める」くらいの距離感で十分です。細かい分析は経理や税理士の仕事で、現場はこの3点で会社の地力を読めれば実用上は困りません。
建設業会計の特殊性
建設業の財務諸表をもう一段深く理解するには、「売上をいつ計上するか」という収益認識の話を避けて通れません。ここが建設業会計の一番特殊な部分です。
工期が長い工事では、決算日をまたいで工事が進行中になります。このとき売上をどう計上するかで、考え方が2つあります。
- 完成基準に近い考え方:工事が完成し、引き渡した時点で、売上(完成工事高)と原価(完成工事原価)をまとめて計上する
- 進行基準に近い考え方:工事の進捗度に応じて、決算期末ごとに売上と原価を分けて計上する
短い工事なら完成時にまとめて計上、長期の工事なら進捗に応じて分割計上、というのが基本的な使い分けです。現在は「収益認識に関する会計基準」にもとづき、履行義務が一時点で果たされるか、期間にわたって果たされるかで判断する、という整理になっていますが、根っこの考え方は完成基準・進行基準の発想を引き継いでいます。
なぜこれが重要かというと、同じ工事でも「いつ売上に計上するか」で、その期の利益が変わるからです。決算をまたぐ大型工事を抱えている会社の損益計算書を読むときは、「この売上はどの基準で立っているのか」を意識すると、数字の意味が立体的に見えてきます。
僕の考えでは、現場の人間がこの基準を完璧に運用する必要はありませんが、「決算またぎの工事は、売上の立て方で利益が動く」という一点だけは知っておくと、会社の数字の見え方が変わると思います。
建設業の財務諸表で注意すべき点
建設業の財務諸表を扱う上で、実務的につまずきやすい点や、税務調査で見られやすい点を押さえておきましょう。現場の原価管理にも直結する話です。
一番の基本は工番管理です。複数の工事を同時に動かす建設業では、材料費や外注費が「どの工事のために使ったお金か」を明確にしないと、工事ごとの利益が計算できなくなります。そこで工事ごとに工番(工事番号)を振り、すべての支出を工番ごとに集計する個別原価計算をおこないます。これは現場の実行予算管理とまさに同じ発想で、現場で工番ごとに原価を追っているからこそ、会社の財務諸表の原価が正しく積み上がる、という関係になっています。
税務調査でチェックされやすいポイントとしては、主に次の3つがあります。
- 未成工事支出金の中身:期末に残っている未成工事支出金が、過大・過少になっていないか。完成済みの原価が混ざっていないか
- 完成工事高の計上時期:売上の計上タイミングが恣意的でないか。特に期末間際の工事で、計上漏れや先送りがないか
- 外注費と給与の区分:外注費として処理した支出が、実態は給与ではないか(指揮命令や時間的拘束の有無で判断される)
兼業事業がある会社では、事務所家賃や共通の経費を、売上比率などの合理的な基準で按分する必要もあります。
実務だと、これらは経理や税理士が中心に対応する話ですが、現場の原価の付け方が雑だと、結局こうした調整も狂います。現場が工番ごとに原価をきちんと整理することが、正確な財務諸表の出発点になっている、という意識は持っておきたいところです。
現場監督が建設業の財務諸表を読めると何が変わるか
ここが、経理向けの解説記事ではまず触れられない、現場の人間にとっての本題だと思います。結論から言うと、財務諸表を読めると「自分の仕事の意味」と「会社選びの目」が変わります。
一つ目は、自分の現場の原価管理が会社の数字にどう響くかが見えることです。現場で組む実行予算は、完成工事原価という形で会社の損益計算書に積み上がります。自分が現場で原価を1%削れば、それが会社全体の完成工事原価率を押し下げ、利益と経審の点数に効いてくる。この繋がりが見えると、日々の原価管理が「やらされ仕事」から「会社の数字を作る仕事」に変わります。
二つ目は、転職先や取引先の見極めに使えることです。求人票の給料や雰囲気だけでは、会社の体力は分かりません。建設業許可を持つ会社の財務諸表は、許可行政庁を通じてある程度開示されており、自己資本比率や完成工事未収入金を見れば、「景気のいい話をしているが実は資金繰りが苦しい会社」を避ける手がかりになります。一生を預ける会社を選ぶなら、数字で地力を確かめる目は武器になります。
三つ目は、独立・経営の準備になることです。いずれ一人親方や会社設立を考えるなら、自分で財務諸表を読み、作る側に回ります。今のうちに「完成工事高と完成工事原価で利益が決まる」「未収入金が膨らむと資金繰りが詰まる」という感覚を体に入れておくと、独立後の経営判断がまるで違ってきます。施工管理の立場や役割の整理はこちらも参考になります。

正直なところ、財務諸表を読める現場監督はそれほど多くありません。だからこそ、ここを押さえている人は、所長やその先のキャリアで一歩抜けた存在になれると、僕は考えています。
建設業の財務諸表に関するよくある質問
最後に、現場の人からよく出る疑問を整理しておきます。
勘定科目は全部覚える必要がありますか。
いいえ。すべてを暗記する必要はありません。本記事で挙げた「完成工事高・完成工事原価・未成工事支出金・完成工事未収入金・工事未払金・未成工事受入金」の6つと、それぞれが普通の会計の何に相当するかさえ押さえれば、財務諸表は十分読めます。実務では建設業対応の会計ソフトを使うので、暗記よりも考え方の理解が大事です。
小規模な工事しかしていなくても、建設業の勘定科目を使うべきですか。
はい。事業規模に関わらず、建設業を営むなら建設業特有の勘定科目で処理すべきです。建設業許可の維持や経営事項審査では正確な財務諸表の提出が求められますし、金融機関の融資審査でも見られます。小規模なうちから正しく処理する習慣をつけておくと、後々の事業拡大で困りません。
一人親方や独立したら、財務諸表は自分で作るのですか。
個人事業なら確定申告で青色申告決算書などを作る形になり、法人化すれば建設業法に沿った財務諸表が必要になります。多くは税理士に依頼しますが、丸投げにせず「完成工事高と完成工事原価でいくら残ったか」を自分で読めるようにしておくと、経営の舵取りがしやすくなります。
建設業の財務諸表に関する情報まとめ
- 建設業の財務諸表とは:工期の長さに合わせて勘定科目と計上ルールを調整した、会社の成績表と財産目録
- 種類:貸借対照表・損益計算書・完成工事原価報告書を柱に、株主資本等変動計算書・注記表など。建設業法の様式で作る
- 特有の勘定科目:完成工事高・完成工事原価・未成工事支出金・完成工事未収入金・工事未払金・未成工事受入金の6つが基本
- 見方:完成工事原価率・完成工事未収入金・自己資本比率の3点で会社の体力を読む
- 特殊性:工期が長いため、完成基準・進行基準など売上の計上タイミングが利益を左右する
- 注意点:工番ごとの個別原価計算が土台。税務調査では未成工事支出金・売上計上時期・外注費と給与の区分が見られる
- 現場が読める意味:実行予算と会社の数字が繋がり、転職先の見極めや独立準備にも効く
以上が建設業の財務諸表に関する情報のまとめです。
一通り基礎知識は網羅できたかなと思います。最初は聞き慣れない科目に戸惑いますが、結局は「工期が長いから専用の勘定科目とルールがある」という一点に集約されます。6つの勘定科目の対応関係さえ押さえれば、会社の決算書も、転職先の体力も、自分の現場が生む利益も、ひとつの数字として繋がって見えてきます。現場の原価管理を財務まで見通せる施工管理は強いので、ぜひこの機会に押さえておきましょう。




