- 耐震スリットって何のために入れるの?
- 柱と壁を切り離して大丈夫なの?
- 完全スリットと部分スリットの違いは?
- 目地幅ってどれくらい必要?
- 現場でどうやって設置するの?
- 後から入れることもできるの?
- 外壁のスリットって漏水しない?
- 入れ忘れたらどうなる?
- 図面のどこを見ればいい?
- 配筋やかぶりとの取り合いが分からない
上記の様な悩みを解決します。
耐震スリットは、RC造の現場で必ず出てくるのに、構造的な理屈と現場の納まりの両方を分かっていないと扱いを誤りやすい部材です。世の中の解説は構造設計者・学生向けの理屈の話か、補強業者の宣伝かに偏っていて、施工管理が現場で何を確認すべきかという視点が抜けています。今回は役割・種類・目地幅といった基本を押さえた上で、新築と後施工の施工方法、止水や入れ忘れといった現場の注意点、図面の見方まで、施工管理の目線で整理しました。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
耐震スリットとは?役割と目的
耐震スリットとは、結論「RC造で、柱や梁と雑壁(袖壁・腰壁・垂れ壁)を構造的に縁切りするための緩衝材」のことです。構造スリットとも呼ばれ、両者は同じ意味です。
「壁と柱を切り離したら危ないのでは」と感じるかもしれませんが、話は逆です。雑壁が柱にがっちり付いていると、地震時にかえって危険になります。
理由は「短柱化」です。柱に袖壁などが取り付くと、その壁に拘束された分だけ柱が変形できる長さ(可とう長さ)が短くなります。短い柱は剛性が高く、地震の力が集中しやすい。結果として、その柱に力が集まり、粘りのない「せん断破壊(脆性破壊)」が起きやすくなります。
| 雑壁がある場合 | 耐震スリットで縁切りした場合 |
|---|---|
| 柱が短柱化し剛性が上がる | 柱本来の長さ・剛性を保てる |
| 力が集中しせん断破壊しやすい | 力の集中を防ぎ粘り強く変形 |
| 建物の偏心・バランス悪化 | 構造バランスを整えられる |
この考え方が広まったのは、1981年の新耐震基準以降です。過去の地震で、腰壁・垂れ壁が付いた柱のせん断破壊が多発したことが背景にあります。特に1995年の阪神・淡路大震災で、雑壁が取り付いた柱のせん断破壊が数多く確認されたことで、耐震スリットの採用が一気に広がりました。
せん断破壊そのものの理屈はこちらが参考になります。

雑壁による偏心の話は、偏心率の理解とつながります。

個人的には、耐震スリットは「切るための部材」ではなく「柱に本来の粘りを取り戻させる部材」と捉えると腑に落ちます。雑壁という余計な拘束を外して、柱を設計どおりに働かせる。この目的を理解しておくと、後述する施工や検査で「なぜここまで気を使うのか」が一本の筋で通ります。
耐震スリットの種類
耐震スリットは、縁の切り方と入れる位置で種類が分かれます。
切り方による分類
- 完全スリット:柱や梁と壁を完全に縁切りし、鉄筋もつながない
- 部分スリット:一部の鉄筋を残してつなぐ。残存部を薄くして完全スリットに近い効果を狙う
位置による分類
- 縦スリット(鉛直スリット):柱際に縦に入れ、袖壁を柱から縁切りする
- 水平スリット:梁下や腰壁の上などに横に入れ、垂れ壁・腰壁を梁から縁切りする
開口のない壁は耐震壁として構造に効かせるため、スリットは設けません。スリットを入れるのは、あくまで構造に悪さをする雑壁が対象です。
耐震壁を含む構造形式の全体像はこちらが参考になります。

実務だと、図面で「このスリットは完全か部分か」「縦か水平か」を最初に仕分けるのが第一歩です。種類によって振れ止め筋の有無や納まりが変わるので、ここを取り違えると配筋段階で手戻りになります。種類の判別は構造図のスリット記号で確認するのが確実です。
耐震スリットの目地幅と振れ止め筋
縁切りといっても、適当な隙間でいいわけではありません。地震時にスリット壁が変形して柱に衝突しないよう、所定の目地幅(スリット幅)を確保します。
| 種類 | 目地幅の目安 |
|---|---|
| 鉛直スリット | 壁高さの1/100程度 |
| 水平スリット | 30mm程度 |
正確な値は「建築物の構造関係技術基準解説書」などに基づき、変形角に対して必要な幅が決まります。
振れ止め筋
「完全に切ったらスリット壁がフラフラして倒れないか」という疑問が出ますが、実際には完全に切り離すのではなく「振れ止め筋」で壁を留めています。地震時にスリットで切り離した壁が転倒しないようにするためです。振れ止め筋はD10@400程度が一般的ですが、本数は計算で求めます。
現場目線で言えば、目地幅と振れ止め筋は「縁を切りつつ、壁は倒さない」という相反する要求を成立させるための数値です。幅が足りなければ地震時に柱へ干渉し、振れ止め筋が不足すれば壁が転倒する。どちらも図面の指示どおりに納めることが、スリットを正しく機能させる条件になります。
耐震スリットの施工方法
ここが構造の理屈だけの記事には載っていない、施工管理が一番知りたい部分です。耐震スリットは「新築で打ち込む場合」と「後から入れる場合」で施工がまったく違います。
新築(打ち込み)の場合
新築では、型枠の建て込み時に、図面で指示された位置へスリット材をセットし、そのままコンクリートを打設します。流れは次の通りです。
- 構造図・施工図でスリット位置・種類・目地幅を確認
- 配筋と取り合いを調整(振れ止め筋・かぶりの確保)
- 型枠建て込み時にスリット材を所定位置に固定
- コンクリート打設(スリット周りの充填不良に注意)
- 脱型後、位置・幅・止水を確認
後施工(あと施工スリット)の場合
入れ忘れや耐震補強では、後からスリットを入れます。先に電磁波レーダー(RCレーダー)でコンクリート内の鉄筋位置を探査し、鉄筋を切らないようにコンクリートカッターで壁を切断します。
配筋との取り合いを理解するうえで、配筋の基本はこちらが参考になります。

僕の整理では、新築スリットの肝は「型枠建て込み時の位置精度」と「打設時の充填」です。スリット材がズレれば構造性能に直結し、周りにジャンカ(充填不良)ができれば止水も性能も損なう。打ち込み物だからこそ、コンクリートが回ったあとでは直せない、という緊張感を持って配筋・打設に立ち会う必要があります。
耐震スリットの施工管理での注意点
スリットは「入れれば終わり」ではありません。施工管理として押さえるべき落とし穴がいくつもあります。
- 入れ忘れ・位置間違い:構造性能に直結する重大な不具合。発覚したら後施工で是正
- 充填不良(ジャンカ):スリット材周りはコンクリートが回りにくい。打設・締固めに注意
- かぶり不足:スリットや振れ止め筋まわりのかぶりを確保する
- 止水・漏水:外壁面のスリットは雨水の浸入経路になる。止水材とシーリングで確実に処理
- 耐火性能:スリット材は耐火・止水性能を持つ製品を、用途に合わせて選定
特に外壁のスリットは、防水の弱点になりやすい部分です。スリット材自体の止水性能に加え、外側のシーリングで二重に止める必要があります。
シーリング工事の基本はこちらが参考になります。

かぶり厚さの考え方はこちらが詳しいです。

正直なところ、耐震スリットの現場トラブルで多いのは「構造の難しさ」より「入れ忘れ」と「漏水」です。構造的な理屈は設計が決めてくれますが、図面どおりの位置に確実に入れること、外壁面をきちんと止水することは現場の責任です。地味な確認作業ですが、ここを外すと是正も漏水補修も大ごとになります。
耐震スリットの図面の見方
最後に、図面でのスリットの読み方です。耐震スリットは構造図(標準図・各伏図・軸組図)に位置と種類が示されます。
- 構造標準図:スリットの記号・目地幅・振れ止め筋の標準的な納まりを規定
- 各階の伏図・軸組図:どの壁際にどの種類のスリットを入れるかを指示
- 施工図:実際の納まりに落とし込み、配筋・型枠と整合させる
施工管理は、この標準図と各図のスリット指示を読み取り、現場の配筋・型枠と照合する作業が求められます。図面間で指示が食い違っていることもあるので、着工前に整理しておくと安心です。
構造図の読み方の基本はこちらが参考になります。

配筋検査での確認の進め方はこちらも押さえておきましょう。

僕の感覚だと、スリットは「図面を読む力」がそのまま品質に出る部材です。標準図の記号の意味を理解し、伏図・軸組図のどこにどのスリットが指示されているかを拾い、現場で照合する。この一連が出来ているかどうかで、入れ忘れや位置違いのリスクが大きく変わります。耐震スリットを構造の理屈とセットで図面から読めるようになると、RC造の現場管理が一段安定します。
耐震スリットに関する情報まとめ
- 耐震スリットとは:柱・梁と雑壁(袖壁・腰壁・垂れ壁)を縁切りする緩衝材。構造スリットと同義
- 役割:短柱化によるせん断破壊(脆性破壊)と偏心を防ぎ、柱に本来の粘りを保たせる
- 種類:完全スリット/部分スリット、縦スリット/水平スリット
- 目地幅:鉛直は壁高さの1/100程度、水平は30mm程度。振れ止め筋(D10@400程度)で転倒防止
- 施工:新築は型枠時にスリット材をセットし打設、後施工はレーダー探査+カッター切断
- 注意点:入れ忘れ・位置間違い・充填不良・かぶり・止水(漏水)・耐火性能
- 図面:構造標準図と伏図・軸組図でスリット位置・種類を確認し、施工図・現場と照合
以上が耐震スリットに関する情報のまとめです。
耐震スリットは、構造の理屈(なぜ縁切りするか)と現場の納まり(どう入れて、どう止水するか)の両方を理解して初めて、正しく扱える部材です。役割と種類を押さえたうえで、施工方法・注意点・図面の見方までセットで身につけておくと、RC造の現場でスリットに迷うことが減ります。配筋やせん断破壊の知識と合わせて深めておくと、構造の意図を汲んだ施工管理ができるようになります。

