- ビル用マルチエアコンって普通の業務用エアコンと何が違うの?
- ビルマルとパッケって現場でどう呼び分けてる?
- 種類が多すぎてどれを選べばいいか分からない
- 接続率って何%にしとけばいいの?
- 冷媒配管はどこまで伸ばせる?
- 室内機と室外機で電源が別って本当?
- 指定製品化されたって聞いたけど何が変わるの?
- 更新工事で既設配管は流用していいの?
- 引渡し後に何を残しておけばいい?
上記の様な悩みを解決します。
ビル用マルチエアコンは、オフィスビルやホテル、病院といった中大規模建物の空調でほぼ標準になっている設備です。ただ、メーカーカタログや販売店のサイトを読んでも「1台の室外機で複数の室内機を個別運転できます」という説明で終わっていることが多く、施工管理として本当に知りたい「選定の手順」「配管と電源の制約」「更新工事で既設配管を流用できるかどうか」までは書かれていません。今回は定義と他方式との違いを押さえた上で、選定フロー・接続率の考え方・冷媒配管と高低差の制約・指定製品制度が現場計画に与える影響・引渡し後に残すべき記録まで、現場で判断に使える形で整理しました。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
ビル用マルチエアコンとは?
ビル用マルチエアコンとは、結論「1台の室外機に、能力も形状も異なる複数の室内機を冷媒配管でつないで、部屋ごとに個別運転できる個別分散型の空調システム」のことです。
現場では「ビルマル」と略され、パッケージエアコン(店舗・事務所用)は「パッケ」と呼び分けられます。英語では VRF(Variable Refrigerant Flow=可変冷媒流量)と呼ばれ、運転中の室内機の合計負荷を室外機側が読み取って、圧縮機の回転数と冷媒流量を絞る仕組みです。ここが「同時運転しかできないパッケ」との決定的な違いで、テナントごと・室ごとに運転時間がバラバラな建物ではビルマル以外に選択肢がほぼありません。
マルチエアコン全体の分類はこちらで整理しています。

同じ「室外機1台+室内機複数」でも、パッケージエアコンのツイン・トリプル・ダブルツインは、同容量・同形状の室内機を1台のリモコンで同時運転する構成です。大きなフロアをムラなく空調する用途なので、そもそも狙いが違います。

一方、中央熱源方式(セントラル空調)とは「熱の作り方」そのものが違います。セントラルは冷凍機やボイラで冷温水を作って空調機に送りますが、ビルマルは冷媒を直接各室に回します。熱源室が不要になる反面、屋上に室外機の据付スペースと荷重、そして冷媒配管の縦シャフトが必要になる、というトレードオフですね。

3方式の違いを、施工管理が計画時に見る項目で並べるとこうなります。
| 比較項目 | ビル用マルチ(ビルマル) | パッケージ(店舗・事務所用) | 中央熱源方式 |
|---|---|---|---|
| 熱の作り方 | 冷媒直膨(室外機から冷媒) | 冷媒直膨 | 冷温水(冷凍機+空調機) |
| 室内機の運転 | 異容量・異形状を個別運転 | 同容量・同形状を同時運転 | ゾーン単位で空調機制御 |
| 冷媒配管の総延長 | 数百m〜1,000m級(シリーズによる) | 50〜100m程度(配管サイズで短くなる) | 冷温水配管(冷媒は熱源内) |
| 室内外機の高低差 | 50m程度(室外機が下なら40m) | 30m程度まで | 制約は配管揚程で判断 |
| 電源の取り方 | 室外機と室内機で別系統 | 室外機から室内機へ渡り | 熱源機側に集約 |
| 向く建物 | オフィス、ホテル、病院、複合ビル | 小規模事務所、路面店舗 | 大規模、24時間稼働、清浄度要求 |
| 機械室 | 不要(屋上に室外機) | 不要 | 熱源機械室が必要 |
僕の感覚だと、ビルマルを「大きいパッケ」と捉えていると必ずどこかで詰まります。異容量接続と個別運転を成立させるために、電源の取り方から配管の分岐ルール、伝送線のアドレス設定まで別の設備として設計されている、と最初に切り替えたほうが理解が早いです。
空調方式全体の選び方はこちらにまとめています。

ビル用マルチエアコンの種類と選び分け
ビル用マルチエアコンは、機種のバリエーションが多いのが特徴で、各社おおむね次の7タイプが揃っています。「どのタイプか」で工事の内容と工期が大きく変わるので、機器選定の前にタイプを決めるのが現場の順番です。
| タイプ | 中身 | 選ぶ場面 |
|---|---|---|
| 冷暖切替(一般VRF) | 系統内は冷房か暖房のどちらか | 標準構成。事務室主体のビル |
| 冷暖フリー(熱回収型) | 系統内で冷房と暖房を同時運転 | 南面と北面、内周と外周で要求が割れる建物 |
| リニューアル | 既設冷媒配管を流用して更新 | テナント稼働中の更新、シャフトが開けられない建物 |
| コンパクト | 室外機を分割・軽量化 | クレーンが入らない、階段搬入が必要 |
| 氷蓄熱 | 夜間に製氷して昼間に使う | 電力デマンド抑制、契約電力を上げたくない |
| 高暖房(寒冷地) | 低外気温でも暖房能力を維持 | 寒冷地、暖房主体の用途 |
| 水熱源 | 冷却塔などの水を熱源にする | 屋上に室外機を置けない、既設が水熱源 |
このうち、冷暖フリーは「入れれば快適になる」ものではなく、冷房要求と暖房要求が同時に出る建物でしか投資が回収できません。ガラス面の大きい南面事務室と、日射が入らない北面会議室が同一系統にある、あるいはサーバ室のような年中冷房負荷が隣接している、といった条件が揃ってはじめて意味が出ます。
逆に、実務でいちばん判断が重いのはリニューアルタイプです。既設配管を流用できれば天井を全面開けずに済むので、テナント営業中の更新でも工期が現実的な長さに収まります。ただし流用には後述の条件が付くので、「営業を止められないからリニューアルタイプで」と先に決めてしまうと、調査結果で覆って計画がやり直しになります。
僕としては、タイプ選定は意匠や省エネの話ではなく「その建物で物理的に成立する工事はどれか」から逆算するものだと捉えています。搬入経路、シャフト、停止可能時間、屋上荷重の4つを先に潰すと、選べるタイプは自然に2つくらいに絞れるはずです。
ビル用マルチエアコンの選定手順
ビル用マルチエアコンの選定は、室外機の馬力から決めるのではなく、各室の熱負荷から積み上げて最後に室外機を決める順番です。ここを逆にすると、能力は足りているのに特定の部屋だけ効かない、という一番厄介な不具合が残ります。
順番としては次の5ステップになります。
- 各室の熱負荷を出す(外皮・日射・照明とOA機器の内部発熱・在室人員・外気負荷)
- 系統をゾーニングする(テナント境界、運転時間帯、課金単位、配管ルート)
- 室内機の形式と能力を決める(天井高、気流の届き方、意匠との調整)
- 室外機の能力と接続率を決める(同時使用率の想定を明文化する)
- 能力補正をかける(配管長、高低差、外気温、除霜運転の影響)
負荷計算そのものは意匠・設備設計側の仕事ですが、施工管理が押さえておくべきは「ゾーニングが運用と課金に直結する」という点です。テナント境界をまたいで1系統を組んでしまうと、電気料金の按分ができず、引渡し後にオーナー側から必ず指摘が来ます。系統図を見たときに「この室外機はどのテナントの負担か」が即答できるかどうかで、設計図の完成度が測れます。
能力計算の基礎はこちらが参考になります。

接続率の考え方
接続率は「室内機の定格能力の合計 ÷ 室外機の定格能力」で表す数値です。標準シリーズでは室外機容量の50〜130%が許容範囲で、冷暖フリー系の一部シリーズでは50〜200%(大容量システムは50〜160%)まで接続できるものもあります。
ただし上限まで振れば済む話ではありません。メーカー資料には、特定の室内機形式を含む場合は最大130%に制限される、100%を超える接続では接続容量補正係数によって室内機1台あたりの能力が落ちる、130%以上では全室内機のファン風量が制限される、といった条件が併記されています。カタログの上限値は「そこまで繋がる」という意味で、「そこまで繋いでも能力が出る」という意味ではないわけですね。
つまり、接続率を上げられるかどうかは機器のスペックではなく「同時使用率の想定」で決まります。ホテルの客室や会議室のように、常に半分程度しか稼働しない用途なら接続率を高めに振っても体感は落ちません。逆にコールセンターや設計室のように全室が終日フル稼働する用途で接続率を130%にすると、真夏のピークで全室が微妙に効かない状態になります。
僕としては、接続率は「機器を安く上げるための調整代」ではなく「運用シナリオの宣言」だと考えています。130%で組んだのなら、その根拠になる同時使用率の想定を打合せ記録に残しておくべきで、それが無いと不具合クレーム時にすべて施工側の責任になります。
冷媒配管・高低差・電源の制約
ビル用マルチエアコンの施工計画は、冷媒配管と電源の制約条件をどこまで正確に読めているかで決まります。パッケージエアコンの感覚のままだと、確実にどこかで引っかかる部分です。
冷媒配管側で確認すべき数値は次の通りです。数値そのものは機種・シリーズごとに違うので、必ずメーカーのシステム設計・工事マニュアルの当該シリーズのページで確認してください。
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 配管総延長 | 主配管+全分岐の合計。シリーズによっては総配管実長1,000mまで対応する |
| 最遠室内機までの実長・相当長 | 曲がりと分岐継手の相当長を足して判定する |
| 最初の分岐から最遠室内機までの長さ | 総延長とは別枠の制約。ここで落ちるケースが多い |
| 室外機と室内機の高低差 | 標準は50m(室外機が下の場合は40m)。条件を満たせば90m級まで拡張できる機種もある |
| 室内機同士の高低差 | 同一系統内の上下差にも上限がある |
| 分岐継手 | メーカー純正の分岐管・ヘッダのみ。汎用T継手は不可 |
この中でつまずきやすいのが「最初の分岐から最遠室内機までの長さ」です。総延長には余裕があるのに、この項目だけ超過していて系統を割り直す、という展開は珍しくありません。系統図を渡された段階で、総延長だけでなくこの数値も自分で拾い直す癖をつけたほうが安全です。
冷媒配管の施工そのものはこちらで詳しく扱っています。

電源側は、ビルマルとパッケの最も分かりやすい違いが出ます。ビルマルは室外機と室内機がそれぞれ別系統の電源になり、室外機は三相200V、室内機は単相200Vで計画するのが一般的です(大形の室内機では三相200Vの機種もあります)。なお400V級で受電する建物向けには、三相400V/415Vの異電圧仕様が用意されている機種があり、これを使うと受電設備側の負担を下げられる場合があります。パッケのように「室外機から室内機へ渡り配線」で済まないので、室内機の系統数ぶんの分岐回路と盤スペースが必要になります。
つまり、ビルマルを採用した時点で、電気側の幹線容量と分電盤の回路数、天井内の配線ルートの計画が確定していないと工事が進みません。設備と電気が別業者の現場だと、ここが必ず調整ポイントになります。

加えて、室内機と室外機をつなぐ伝送線(通信線)の敷設ルールもあります。極性のない2芯シールド線で渡り配線し、系統ごとにアドレス設定を行うのが基本構成で、この配線を電源線と同一の管に入れたり、系統をまたいで渡してしまうと、通信エラーで試運転が止まります。エラーコードが出てから原因を追うと、天井を開け直すことになるので、施工図の段階で伝送線のルートを別途明示しておくのが実務的です。
指定製品制度と更新工事の判断
ここが、販売店やメーカーのサイトではほとんど施工管理向けに翻訳されていない部分です。ビル用マルチエアコンは、フロン排出抑制法に基づく指定製品制度の対象になっています。
経済産業省が公表している指定製品制度の対象製品(令和7年4月1日時点)では、「ビル用マルチエアコンディショナー(新設及び冷媒配管一式の更新を伴うものに限り、冷暖同時運転型や寒冷地用等を除く)」について、現在使われている主な冷媒がR410A(GWP2090)、環境影響度の目標値がGWP750、目標年度が2025年度と設定されています。あわせて、中央方式エアコンディショナーのうち容積圧縮式冷凍機を用いるもの、設備用エアコンディショナー、ガスエンジンヒートポンプエアコンディショナーは、いずれも目標値750で目標年度2027年度です。
制度上の義務は製造・輸入業者に対する加重平均の目標達成なので、施工側に直接の罰則があるわけではありません。ただ、現場計画への影響は具体的です。
- 新設、および冷媒配管一式を更新する工事は、低GWP冷媒機(R32など)が前提になっていく
- 一方で既設配管を流用するリニューアルタイプは、括弧書きの条件から外れる整理になっている
- 冷暖同時運転型(冷暖フリー)と寒冷地用は現時点で除外区分に置かれている
- R32は微燃性(A2L)なので、室内機を置く部屋の容積と冷媒充填量の関係を確認する必要が出る
この4点目が実務では見落とされがちです。R32の系統で小さな部屋に大能力の室内機を入れると、万一の漏洩時の室内濃度が設計上の限界値を超える計算になることがあります。地下やピットに配管を通す場合も同様で、機種選定と同時に、メーカーの設計資料で冷媒濃度限界の確認と、必要なら換気や漏洩検知の要否まで詰めておくべきポイントです。
更新工事で既設配管を流用できるかの判断軸
更新工事の見積段階で「配管流用ありき」で組むと、調査後にひっくり返って工期も金額も作り直しになります。僕が判断軸として整理しておくべきだと思うのは次の6点です。
- 既設配管の管径と肉厚が、採用機種の流用条件表に合っているか
- 旧冷媒がR22で鉱油が残っていないか、メーカーが認める洗浄で落ちるか
- 埋設部・貫通部・屋外露出部に腐食や外傷がないか(見えない区間の扱いを決める)
- 気密試験と真空引きの規定値を、既設配管の状態でクリアできるか
- テナント営業を止められる時間帯(夜間・休業日)で工程が組めるか
- 屋上の積載荷重と既設架台を、新機種の重量・寸法で再利用できるか
特に3つ目の「見えない区間」は、契約上の落としどころを先に決めておく話です。埋設や壁内で確認できない区間について、流用不可が判明した場合の追加工事の扱いを見積条件に書いておかないと、後から全額を施工側が背負うことになります。
そして更新工事では、機器そのものより搬出入計画のほうが重い場合が多いです。ビルマルの室外機はパッケの室外機とは比較にならない重量になるので、屋上への搬入はクレーンが基本。敷地内にクレーンが据えられなければ道路上での作業になり、管轄警察署への道路使用許可と交通誘導員の配置が必要です。ここは道路交通法上の義務なので、工程表を引く前に許可取得のリードタイムを織り込んでおく必要があります。
引渡し後の点検義務と現場が残す資料
ビル用マルチエアコンは、フロン排出抑制法上の第一種特定製品です。つまり引渡し後の管理義務がオーナー(管理者)に発生するので、施工管理はそれを説明して引き継ぐところまでが仕事になります。
環境省が示している管理者の義務のうち、ビルマルで押さえるべきものは次の4つです。空調機器の定期点検は冷凍冷蔵機器と頻度が違うので、そこを間違えないのがポイントです。
- 簡易点検:すべての第一種特定製品で3ヶ月に1回以上(基準に適合する常時監視システムによる措置を行う場合を除く)
- 定期点検:エアコンディショナーは圧縮機の電動機の定格出力50kW以上で1年に1回以上、7.5kW以上50kW未満で3年に1回以上。十分な知見を有する者が自ら行うか立ち会う必要がある
- 記録簿:点検・修理・冷媒の充填および回収の記録を、機器を廃棄するまで保存する
- 報告義務:事業者全体の算定漏えい量が1,000t-CO2以上になった場合、事業所管大臣へ報告する(前年度分を毎年4月1日から7月31日までに提出)
ビルマルは室外機1台あたりの充填量が大きいので、1系統で漏洩が起きると算定漏えい量が一気に積み上がります。ここを「引渡し後の話」で片付けず、気密試験と真空引きの記録を丁寧に残しておくことが、結果的に自分たちを守ることになります。
引渡し時に残しておくべき資料としては、次の5点がそろっていると後任者とオーナーの両方が困りません。
- 冷媒系統図(室外機と室内機の対応、分岐位置、アドレス、系統ごとの充填量)
- 冷媒追加充填量の計算根拠と実際の充填記録
- 気密試験・真空引きの記録(保持時間と到達真空度)
- 室内機ごとの点検口位置図(天井伏せ図に落とす)
- 試運転記録(冷暖両モードの吹出温度、風量、エラーコード履歴のクリア確認)
天井点検口については、意匠との調整が竣工直前に問題化しやすいポイントです。天井カセット形やダクト形の室内機は、フィルター清掃と基板交換のために点検口が必須なのに、意匠図では化粧天井の見え方を優先して点検口が省かれていることがあります。設計段階で位置と寸法を確定させておくのが原則です。

システム天井の現場なら、天井パネルを外して点検できる範囲を先に確認しておくと調整が楽になります。

正直なところ、この引渡し資料の質は数年後の更新工事のときに効いてきます。冷媒系統図と充填記録が残っている建物は、次の更新でリニューアルタイプが使えるかどうかの判断が短時間でつきます。逆に何も残っていない建物は、調査に余計な時間と費用がかかります。
ビル用マルチエアコンに関する情報まとめ
- ビル用マルチエアコンとは:室外機1台に異容量・異形状の室内機を接続して個別運転する個別分散型空調(VRF)
- パッケとの違い:異容量の個別運転、配管総延長は数百m〜1,000m級、高低差は50m級(室外機が下なら40m)、電源が室内機と室外機で別系統
- 中央熱源方式との違い:冷媒直膨なので熱源機械室が不要、代わりに屋上スペースと荷重、冷媒シャフトが必要
- 種類:冷暖切替/冷暖フリー/リニューアル/コンパクト/氷蓄熱/高暖房/水熱源の7タイプ
- タイプ選定の順番:搬入経路・シャフト・停止可能時間・屋上荷重の4条件で物理的に成立する案に絞る
- 選定手順:各室熱負荷 → 系統ゾーニング → 室内機 → 室外機と接続率 → 配管長・高低差・外気温の能力補正
- 接続率:標準シリーズは50〜130%、冷暖フリー系の一部は50〜200%(大容量は50〜160%)。100%超は能力補正、130%以上は風量制限などの条件が付く
- 配管の制約:総延長、最遠室内機までの実長・相当長、最初の分岐から最遠までの長さ、室内外機と室内機同士の高低差、純正分岐継手
- 電源:室外機は三相200V、室内機は単相200V(大形機は三相200Vも)の別系統。400V級受電の建物には異電圧仕様の機種がある
- 指定製品制度:新設および冷媒配管一式の更新を伴うビルマルは目標値GWP750・目標年度2025年度(冷暖同時運転型や寒冷地用等は除く)
- 更新工事の判断軸:管径・肉厚、旧冷媒と残油、見えない区間の健全性、気密・真空、停止可能時間、屋上荷重と架台の6点
- 引渡し後:簡易点検は3ヶ月に1回以上、空調機器の定期点検は50kW以上で1年に1回以上・7.5kW以上50kW未満で3年に1回以上、記録簿は廃棄まで保存、算定漏えい量1,000t-CO2以上で報告義務
以上がビル用マルチエアコンに関する情報のまとめです。
ビル用マルチエアコンは、機器の性能表を読めれば選べる設備ではなく、「その建物で成立する工事はどれか」を先に決めてから機器に落とす設備です。系統のゾーニングが運用と課金を決め、配管の分岐制約が系統割りを決め、指定製品制度が更新時の機種選択を決めます。現場目線で言えば、この記事の中で一番あとから取り返せないのは系統のゾーニングです。ここだけは図面が回ってきた段階で、テナント境界と運転時間帯と課金単位の3つを自分の目で照合しておくと、引渡し後のトラブルがほぼ消えます。
ビル用マルチエアコンに関するよくある質問
Q1:ビル用マルチエアコンとパッケージエアコンは、現場でどう見分ければいいですか?
いちばん分かりやすいのは室内機の電源です。パッケージエアコンは室外機から室内機へ渡り配線で電源を送りますが、ビル用マルチは室外機(三相200V)と室内機(単相200V、大形機は三相200V)がそれぞれ別系統になります。次に室内機の構成で、同容量・同形状が同時運転ならパッケ、異容量・異形状が個別運転ならビルマルです。図面上では系統図に室内機の容量がバラバラに並んでいれば、ほぼビルマルと判断できます。
Q2:接続率は何%にしておけば無難ですか?
無難な一律の数字はなく、用途ごとの同時使用率で決まります。全室が終日稼働する事務室やコールセンターなら100%以下、稼働がばらけるホテル客室や会議室主体なら110〜130%あたりまでは実用的です。許容上限は標準シリーズで130%、冷暖フリー系の一部で200%(大容量システムは160%)と機種で違い、100%を超えると接続容量補正係数で1台あたりの能力が落ち、130%以上では風量制限がかかる機種もあるので、必ずメーカーのシステム設計マニュアルで確認してください。重要なのは、選んだ接続率の根拠になる同時使用率の想定を打合せ記録に残しておくことで、これが無いと引渡し後の「効かない」というクレームに反論できなくなります。
Q3:冷媒配管はどのくらいまで伸ばせますか?
機種によりますが、ビル用マルチは総配管実長1,000mまで対応するシリーズがあり、室外機と室内機の高低差も標準で50m(室外機が下の場合は40m)、条件を満たせば90m級まで拡張できる機種があります。ただし総延長のほかに「最遠室内機までの実長・相当長」「最初の分岐から最遠室内機までの長さ」「室内機同士の高低差」といった別枠の制約があり、実際に落ちるのはこの別枠のほうが多いです。総延長に余裕があっても分岐後の長さで超過するケースがあるので、系統図をもらったら全項目を自分で拾い直すのが安全です。
Q4:ビル用マルチエアコンが「指定製品化された」とは何が変わったのですか?
フロン排出抑制法の指定製品制度で、ビル用マルチエアコンディショナー(新設および冷媒配管一式の更新を伴うものに限り、冷暖同時運転型や寒冷地用等を除く)に、環境影響度の目標値GWP750・目標年度2025年度が設定されました。義務は製造・輸入業者に対する出荷台数の加重平均目標なので、施工側に直接の罰則があるわけではありません。ただ実務上は、新設と配管一式更新の案件で低GWP冷媒機(R32など)が前提になっていくため、機種選定と冷媒濃度限界の確認が必要になる、という影響の出方をします。
Q5:更新工事で既設の冷媒配管を流用しても大丈夫ですか?
採用機種のリニューアルタイプで流用条件を満たしていれば可能で、天井を全面開けずに済むので工期短縮の効果は大きいです。ただし条件は厳しく、管径と肉厚が流用条件表に合うこと、旧冷媒R22の鉱油がメーカー指定の洗浄で除去できること、埋設部や貫通部に腐食や外傷がないこと、気密試験と真空引きの規定値をクリアできることが揃って初めて成立します。見積段階では、確認できない区間で流用不可が判明した場合の追加工事の扱いを条件に明記しておくべきです。
Q6:R32の機種を入れるとき、部屋の広さは気にしなくていいですか?
気にする必要があります。R32は微燃性(A2L)の冷媒なので、万一漏洩したときの室内濃度が設計上の限界値を超えないかを確認します。小さな個室や地下室に大能力の室内機を入れる構成、あるいはピットや床下に配管を通す構成では、系統の充填量と室容積の関係で引っかかる場合があります。メーカーの設計資料に冷媒濃度限界の確認手順が載っているので、機種選定と同じタイミングで確認し、必要なら換気や漏洩検知の要否まで詰めておきます。
Q7:室外機を屋上に上げるとき、何から手配すればいいですか?
屋上の積載荷重の確認と、クレーン計画の2つが先です。ビル用マルチの室外機はパッケとは比較にならない重量なので、既設架台の再利用可否と屋上スラブの許容荷重を構造側と確認します。そのうえで敷地内にクレーンが据えられるかを見て、道路上での作業になるなら管轄警察署への道路使用許可と交通誘導員の配置が必要です。道路交通法上の義務で罰則もあるため、許可取得のリードタイムを工程表に織り込んでから機器の納期調整に入る順番になります。
Q8:引渡しのときに施主へ何を説明しておけばいいですか?
フロン排出抑制法上、この機器は第一種特定製品なので管理者(オーナー)に点検義務が発生する、という点を最初に伝えます。具体的には簡易点検が3ヶ月に1回以上、空調機器の定期点検は圧縮機の電動機定格出力50kW以上で1年に1回以上・7.5kW以上50kW未満で3年に1回以上、点検と修理と冷媒充填回収の記録簿は機器の廃棄まで保存、事業者全体の算定漏えい量が1,000t-CO2以上になれば事業所管大臣への報告義務、という4点です。あわせて冷媒系統図・充填記録・点検口位置図を竣工図書に綴じ、次回更新時の判断材料として残しておくことを説明します。
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