- 鉄のヤング率って結局いくつなの?
- SS400とSN490で値は変わるの?
- 単位はN/mm²?GPa?kN/mm²?
- たわみ計算でどう使うの?
- 鋼材と「鉄」と「鋳鉄」で値が違うの?
- 温度で値は変わる?
上記の様な悩みを解決します。
たわみ計算をしようとして「鉄のヤング率を入れる」場面に来た瞬間、「あれ、鋼材って強度違うのに、ヤング率も変わるんだっけ?」と手が止まる人は多いと思います。結論から言うと「鋼材なら強度に関係なく、ヤング率はほぼ一定」というのが面白いところ。本記事では、鉄のヤング率の値・単位・鋼種ごとの違い・計算での使い方を、構造計算書を読む施工管理の視点で整理します。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
鉄のヤング率とは?
鉄のヤング率とは、結論「鉄(鋼)が引張・圧縮を受けたときの『応力 ÷ ひずみ』で求まる比例定数のこと。建築鋼材ではおおむね 205,000 N/mm²(205 GPa)」のことです。
ヤング率そのものの一般的な定義や、コンクリートや木材との比較、ポアソン比との違いについては別記事で詳しく解説しています。

本記事は「鉄に絞った場合の数値・実務での扱い方」に特化して書いていきます。
まず押さえたい結論3つ
まず押さえたい結論3つは、鉄(鋼)のヤング率はおおむね 205,000 N/mm² でこれは構造計算で「決め打ち」で使う値、SS400 でも SN490 でも SM490 でもヤング率は同じ(強度や降伏点は違うがヤング率は変わらない)、ステンレス鋼や鋳鉄では値が変わるので注意、というあたり。
この「鋼種が違ってもヤング率は同じ」というのが、初学者がちょっとハマりやすいポイント。降伏点(材料の強さ)と剛性(材料の硬さ)は別の話で、ヤング率は剛性の話、降伏点は強さの話、という整理を最初にしておくと混乱しません。
鉄のヤング率の代表値(建築で使う数字)
実務で出てくる代表値はほぼこの一覧で完結します。
| 材料 | ヤング率 (N/mm²) | ヤング率 (GPa) | ヤング率 (kN/mm²) |
|---|---|---|---|
| 鋼材(一般的な構造用) | 205,000 | 205 | 205 |
| 鋳鉄 | 100,000〜170,000 | 100〜170 | 100〜170 |
| ステンレス(SUS304) | 197,000〜200,000 | 197〜200 | 197〜200 |
| 純鉄 | 約 211,000 | 約 211 | 約 211 |
| アルミニウム | 70,000 | 70 | 70 |
| コンクリート(Fc24) | 25,000 | 25 | 25 |
建築鉄骨で構造計算をするときは、迷わず205,000 N/mm²(= 205 GPa = 205 kN/mm²)を使ってOKです。
「建築鋼材=205,000」の根拠
JIS規格や日本建築学会の「鋼構造設計規準」では、鋼材のヤング率を 205,000 N/mm² と規定しています。実測値も鋼種によって 200,000〜210,000 N/mm² の範囲に収まるので、実務では 205,000 で固定して扱う、というのが運用です。
ステンレス鋼のヤング率と鉄との差については、SUS304特化の記事に詳しく整理しています。

SS400・SN490・SM490 でヤング率は変わるか?
ここが現場でいちばん聞かれるポイント。
結論:変わりません。すべて 205,000 N/mm² で計算します。
| 鋼種 | 降伏点(N/mm²) | 引張強さ(N/mm²) | ヤング率(N/mm²) |
|---|---|---|---|
| SS400 | 235以上 | 400〜510 | 205,000 |
| SN400 | 235〜355 | 400〜510 | 205,000 |
| SN490B/C | 325〜445 | 490〜610 | 205,000 |
| SM490 | 325以上 | 490〜610 | 205,000 |
| STKR400 | 245以上 | 400〜540 | 205,000 |
| BCR295 | 295〜445 | 400〜540 | 205,000 |
降伏点や引張強さは鋼種ごとに変わりますが、ヤング率は変わらない。これが鋼の不思議で面白いところです。
なぜ強度が違ってもヤング率が同じなのか
ヤング率は「原子間結合のバネ定数」のような性質で、結晶構造が同じ(鋼はどれも体心立方格子の鉄を主成分にしている)ならほぼ同じ値になります。一方、降伏点や引張強さは「結晶のずれにくさ」の話で、合金組成や熱処理によって変えられる。だから合金組成を変えても「変形のしにくさの初期勾配」までは大きく変えられない、という訳ですね。
実務的にはこの性質が「構造計算でたわみを抑えたければ、強度の高い鋼材に変えても効かない」という重要な結論につながります。たわみを減らしたいなら、材質を上げる(ヤング率を上げる)のではなく、断面二次モーメントを増やす(梁せいを大きくする、フランジを厚くする)方向で対処する、というのが基本です。SS400をSN490Bに変えてもたわみは変わらない、ということ。
SS400 や SN材それぞれの詳細は次の記事も参考にしてください。


鉄のヤング率の単位(換算でハマらないために)
教科書・告示・構造計算書・海外資料で単位がバラバラに出てきて、初学者がやられる落とし穴です。
実は全部同じ値
実は全部同じ値、というのが結論。205,000 N/mm²、205,000 MPa(メガパスカル)、205 GPa(ギガパスカル)、205 kN/mm²、20,900 kgf/mm²(古い計算書に出てくる)、これらは全部同じ値の別表記です。
整理すると、1 GPa = 1,000 MPa = 1,000 N/mm²、1 kN/mm² = 1,000 N/mm² = 1 GPa、1 kgf/mm² ≒ 9.8 N/mm²、という関係になります。
なので 205 GPa = 205,000 N/mm² = 205 kN/mm² = 20,900 kgf/mm² がすべて同じ値、ということになります。
現場で出くわしやすい誤読パターン
現場で出くわしやすい誤読パターンとしては、「ヤング率 205 とだけ書いてある」なら単位はGPaまたはkN/mm²と読む、「ヤング率 205,000」なら単位はN/mm²(=MPa)、「ヤング率 2.05 × 10⁵」ならN/mm²(理学系の書き方)、「20,900」ならkgf/mm²(古い計算書、概ね1979年以前)、というあたり。
kgf単位の構造計算書はもう新規ではほとんど出ませんが、既存改修や耐震診断では昭和の計算書がそのまま残っているケースが多く、単位がkgf系のままだったりします。そのときに「205,000 と 20,900 でなんでこんなに値が違うの?」と混乱しないように、9.8 倍の換算を知っておくのが安全です。
kgとkgfの違いも別記事に整理しています。

たわみ計算で鉄のヤング率を使うとき
実務で鉄のヤング率が登場する場面は、ほぼ「たわみ計算」です。
単純梁の中央集中荷重によるたわみの式
δ = PL³ / (48 × E × I)。
ここで δ は中央のたわみ(mm)、P は集中荷重(N)、L はスパン(mm)、E はヤング率(N/mm²、ここに 205,000 を入れる)、I は断面二次モーメント(mm⁴)です。
単純梁の等分布荷重によるたわみの式
δ = 5wL⁴ / (384 × E × I)。w は等分布荷重(N/mm)。
具体例:H-400×200 の単純梁、スパン 6m、等分布荷重 10 kN/m
L = 6,000 mm、w = 10 N/mm、E = 205,000 N/mm²、I = 23,500 cm⁴ = 2.35 × 10⁸ mm⁴(H-400×200×8×13 のおおよそのI)として、
δ = 5 × 10 × 6,000⁴ / (384 × 205,000 × 2.35 × 10⁸) = 5 × 10 × 1.296 × 10¹⁵ / 1.851 × 10¹³ ≒ 3,501 / 1,000 ≒ 3.5 mm
中央たわみは約 3.5mm。これをスパン 6,000mm に対するたわみ比率にすると、L/1,700 程度。建築でよく使う L/250 という許容たわみ比を大きく下回るのでOK、という訳です。
ここで重要なのが、E = 205,000 は SS400 だろうが SN490 だろうが同じ値ということ。たわみを減らしたければ、I(断面二次モーメント)を増やすしかない、というのが「強度を上げてもたわみは減らない」の結論につながります。
「鉄」と「鋼」と「鋳鉄」でヤング率が変わる話
ここまで「建築鋼材=205,000」で話してきましたが、もう少し広い視野で「鉄」全般を見ると、種類によって値が変わります。
純鉄・鋼・鋳鉄の違い
| 種類 | 炭素量 | ヤング率(N/mm²) |
|---|---|---|
| 純鉄 | 0.02%以下 | 約 211,000 |
| 鋼(鋼材) | 0.02〜2.14% | 205,000 |
| 鋳鉄(普通鋳鉄) | 2.14〜6.67% | 100,000〜140,000 |
| 球状黒鉛鋳鉄(FCD) | 約3.5%(黒鉛形状違い) | 160,000〜170,000 |
鋳鉄でヤング率が大きく下がるのは、組織内の黒鉛(炭素のかたまり)が「内部の空洞」のように働くから。建築では鋳鉄を構造材として使うことはほぼないですが、機械式継手の本体、マンホール蓋、ベース金物の鋳物部品など、付帯部材として出てきます。「鋳鉄製品はヤング率が鋼の半分くらい」と頭に入れておけば、変形量を見積もるときの感覚が狂いません。
鉄筋についてもヤング率は鋼材と同じ 205,000 N/mm² で計算します。RC造のヤング比 n = E_s / E_c = 205,000 / 22,000 ≒ 9.3 のような形で出てくるあの「E_s」が、鉄筋(つまり鋼)のヤング率です。
温度・載荷条件でヤング率は変わるか
最後に「ヤング率が変わるケース」を念のため整理しておきます。建築では基本的に常温・短期荷重の話で 205,000 を固定して使いますが、極端な条件では値が動きます。
温度の影響
温度の影響は、常温(20℃前後)で205,000 N/mm²、200℃で約195,000(5%程度低下)、400℃で約175,000(15%程度低下)、500℃で約155,000(25%程度低下)、600℃で約120,000(40%程度低下)、という具合に下がっていきます。
火災時の鋼材は 600℃を超えると剛性が大きく落ちる、というのが構造耐火設計の前提です。だから鉄骨には耐火被覆を巻く必要がある、という流れですね。耐火被覆の詳細はこちらで整理しています。

載荷時間の影響
鋼は短期・長期で値はほぼ変わりません。コンクリートは長期荷重でクリープ(じわじわ変形)が発生してヤング率が見かけ上下がるので、構造計算ではクリープ係数を掛けて減らしますが、鋼にはそうした補正は不要です。
極低温の影響
LNGタンクなどの極低温環境では靱性は落ちますが、ヤング率自体は逆にわずかに増えます(5%程度)。常温の建築では考慮不要です。
鉄のヤング率に関する情報まとめ
- 鉄のヤング率とは:鉄(鋼)の「応力÷ひずみ」で求まる比例定数。建築鋼材は 205,000 N/mm²
- 代表値:建築鋼材 205,000、純鉄 211,000、鋳鉄 100,000〜170,000、SUS304 197,000〜200,000
- 鋼種による違い:SS400 でも SN490 でも変わらない(強度と剛性は別)
- 単位:205,000 N/mm² = 205,000 MPa = 205 GPa = 205 kN/mm² = 20,900 kgf/mm²
- たわみ計算:δ = PL³/(48EI) や 5wL⁴/(384EI) で E に 205,000 を代入
- 鋳鉄は鋼の半分程度のヤング率になるので、付帯金物では注意
- 温度:600℃で約 40%低下するため、耐火被覆が必要
以上が鉄のヤング率に関する情報のまとめです。「ヤング率=材料の硬さ」という性質と「鋼種が違っても変わらない」というルールを押さえると、構造計算書のE欄を見たときに「ここはこの値が入っているはず」と一発で判断できるようになります。そこに気付くと、たわみが大きいときに「鋼材を強くしよう」ではなく「断面を増やそう」と即座に対処方針が立つので、設計者との会話が一段スムーズになりますよ。
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