- ねじりモーメントってなに?
- 曲げモーメントと何が違うの?
- 単位や公式が分からない
- 建築の現場のどこに出てくるの?
- ねじりに強い断面はどんな形?
- 設計でいつ気にすればいい?
上記の様な悩みを解決します。
「ねじりモーメント」は、構造力学を勉強し始めた人が最後の方に出てくる、ちょっと手強い概念。曲げ・せん断・軸力の3つは比較的イメージしやすいけど、「軸を回そうとする力」となると急に絵が浮かばなくなりますよね。実は建築の現場ではバルコニー床の片持ち梁、偏心した受梁、看板架台、シャフトの軸などで普通に発生していて、「設計で見落とすと壊れる」典型例。教科書の式を整理しつつ、現場でどこに出るか・どう見れば気付けるかまで一気にまとめます。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
ねじりモーメントとは?
ねじりモーメントとは、結論「部材を軸まわりにねじろうとする回転力」のことです。
英語では torsional moment(または torque、トルク)。記号は T または Mt(モーメント・トーション)。単位は N·m(ニュートンメートル)または kN·m(キロニュートンメートル)。
ざっくりイメージすると
ペットボトルのキャップを開けるとき、手首をひねりますよね。あの「ひねる動き」がねじりモーメントです。
- ボルトをスパナで締める力 → ねじりモーメント
- 雑巾を絞る両手の動き → ねじりモーメント
- 自動車のドライブシャフト → ねじりモーメント
→ 構造部材で言えば、梁の軸線まわりに回転させようとする力。曲げとは「曲がる方向」が違って、部材軸を回転軸として回すのが特徴。
3種類のモーメントを整理
構造力学で出てくるモーメントは3種類あって混同しやすいので、整理しておきます。
| 種類 | 何を起こす | 代表的な現象 |
|---|---|---|
| 曲げモーメント M | 部材を曲げる(軸線が湾曲) | 梁のたわみ、RC梁のひび |
| ねじりモーメント T | 部材を軸まわりにねじる | キャップを開ける動き |
| せん断モーメント | 通常使わない用語 | (せん断力Qで表す) |
→ 「ねじりモーメント=軸まわりに回す力、曲げモーメント=軸線を曲げる力」と区別するのがポイント。
なぜ建築で重要か
ねじりは意外と発生する場面が多いのに、設計時に見落とされやすい力です。
- 片持ち庇・バルコニーの付け根:荷重が梁の軸線からズレる→ねじりが発生
- 偏心荷重を受ける梁:吊り点が中心からズレるとねじりに
- 看板・サインの架台:風圧で偏心モーメントが入りねじりに
- シャフトトンネルの軸:回転力を伝える機械系
→ 鉄筋コンクリート造ではあまり問題にならない(梁せいが大きく、ねじり剛性が高い)けど、鉄骨造のH形鋼はねじりに弱い(後述)ので注意が必要。
曲げモーメントについてはこちらの記事も参考にしてください。

曲げモーメントとねじりモーメントの違い
両者を「軸を取って」比較すると整理しやすいです。
①回転軸の方向で区別
| 項目 | 曲げモーメント M | ねじりモーメント T |
|---|---|---|
| 回転軸 | 部材軸に直交 | 部材軸と平行 |
| 部材の変形 | 軸線が曲がる(湾曲) | 軸線まわりに回転 |
| 主応力 | 引張・圧縮(縦方向) | せん断(回転方向) |
| 抵抗する量 | 断面係数Z | ねじり係数Zt(極断面係数) |
| 単位 | N·m / kN·m | N·m / kN·m(同じ) |
→ 曲げ=軸を曲げる(横軸まわりの回転)、ねじり=軸を回す(縦軸まわりの回転)。単位が同じなので混同しがちですが、回転軸の方向で区別すれば一発で理解できる。
②力の入り方の違い
具体的な例で並べると:
- 曲げ:梁の上から下に向けた荷重 → 梁が下にたわむ
- ねじり:梁の片側から横向きに荷重(あるいは偏心荷重) → 梁の長さ方向の軸まわりに回ろうとする
③発生する応力の違い
部材内部で発生する応力も違います。
- 曲げ:曲げ応力(引張・圧縮)が断面の上下に発生(中立軸からの距離yに比例)
- ねじり:ねじりせん断応力が断面の外周に発生(中心からの距離rに比例)
→ ねじりの応力は「断面の外周に向かうほど大きい」。だから中空断面(円管・角形鋼管)はねじりに強く、H形鋼のように外周にウェブが少ない断面はねじりに弱い。
応力と歪みの関係はこちらの記事も参考にしてください。

ねじりモーメントの計算公式
実務で使う代表的な公式を整理します。
①ねじりせん断応力τの計算
円形断面の場合の基本式:
τ = T × r / Ip
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| τ(タウ) | ねじりせん断応力 (N/mm²) |
| T | ねじりモーメント (N·mm) |
| r | 中心からの距離 (mm) |
| Ip | 断面二次極モーメント (mm⁴) |
→ τは断面の外周(r=最大)で最大、中心(r=0)でゼロ。だから外径が大きい=ねじりに強い。
②ねじり角θの計算
長さLの部材に一定のねじりTを加えたときのねじれ角:
θ = T × L / (G × Ip)
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| θ | ねじれ角 (rad、単位はラジアン) |
| G | せん断弾性係数 (鋼材で約8×10⁴ N/mm²) |
| Ip | 断面二次極モーメント (mm⁴) |
→ GIp=ねじり剛性。これが大きいほどねじれにくい。
③断面二次極モーメントIp(代表断面)
| 断面 | Ip |
|---|---|
| 中実円形(直径d) | πd⁴/32 |
| 中空円形(外径D、内径d) | π(D⁴−d⁴)/32 |
| 正方形(辺a) | 0.141 × a⁴ (近似) |
| 長方形(辺a×b、a≥b) | 概略 1/3 × ab³(細長くなるとねじりに弱い) |
→ 円形>>角形>>細長形の順でねじりに強い。これは断面が「中心からの距離rがどれだけ均等に大きいか」で決まる。
④曲げ・ねじり同時作用の合成
実務では曲げとねじりが同時に作用することが多い。代表的な合成式:
合成応力 σmax ≈ √(σ² + 4τ²) (von Misesの近似)
→ 曲げだけ・ねじりだけの単独評価では危険な場合がある。「曲げの式の許容応力をギリギリ満たしていても、ねじりが追加で入ると許容を超える」ケースは普通にあります。
ヤング率(同種の弾性係数)の概念はこちらの記事も参考にしてください。

建築の現場でねじりが発生する場面
ここからは「教科書の式を見ても、結局現場のどこにねじりがあるの?」に答える話。
①片持ち庇・バルコニーの付け根
最も典型的な発生場所。
- 庇の先端に積載・風荷重 → 庇のスラブが荷重で下がる
- 庇を支持する梁(主要構造梁)からは水平方向にズレた位置で荷重を受ける
- 結果:主梁にねじりモーメントが発生
→ 庇の出が大きいほどねじりも大きい。だから庇の付け根の主梁は、曲げ強度+ねじり強度の両方で設計する。RC造ではせいの大きい梁が標準的にねじりに強いが、鉄骨造で庇を出すときは箱形断面(ねじりに強い)を採用するのが定石。
②偏心荷重を受ける受け梁
設備機器・タンクなどを梁の中心からズレた位置で受けるケース。
- 例:エレベーター機械室の制御盤を、梁から100mmズレた持ち出しブラケットで受ける
- 機械の自重 = 偏心モーメント = ねじりモーメント
- 機械が水平に置かれているだけでなく、運転で偏心衝撃が入る(エレベーター起動・停止)とねじりが繰り返される
→ 「メーカーの取付け要領書通りに設置したのに、梁が捻れた」という事例は、設計者がねじりを見落としていることが原因。施工管理として「中心線からズレているか?」を機器据付前にチェックすると気付ける。
③看板・サイン架台の支柱
外装系で要注意。
- 看板面の中心と支柱の中心がズレている = 風圧でねじりモーメントが発生
- 風が反対面に当たると逆向きのねじり
- 繰り返し荷重で疲労亀裂が出やすい
→ 看板支柱の根元(基礎との接合部)は、曲げ+ねじり+繰り返しの三重苦。鋼管(円形)で設計するとねじりに強くて経済的。
④鉄骨H形鋼の弱点
H形鋼は曲げに対しては効率の良い断面ですが、ねじりにめっぽう弱いのが落とし穴。
- 上下フランジを上下に開いた断面なので、Ipが極端に小さい
- 偏心荷重を受けると簡単に捩れて横倒れ座屈につながる
- 大スパンのH鋼小梁を1本だけで使う計画は要注意
→ 対策は2つ。(1)横補剛(小梁を入れる)で捩れを抑制、(2)箱形断面(BCR等)に変える。設計図で「H形鋼+横補剛なし+偏心荷重」の3点が揃ったら、設計者にねじりの確認を依頼する価値があります。
横座屈についてはこちらの記事も参考にしてください。

ねじりを設計・施工で見落とさないための注意点
実務でのチェックポイントを4つ。
①断面選定:円形・箱形が圧倒的に有利
ねじりが発生する場所では、閉断面(円管・角形鋼管)を選ぶのが原則。
- 円形鋼管:Ipが大きく、最高効率
- 角形鋼管(BCR、BCP):Ipそれなり、座屈にも強い
- H形鋼:ねじりにはNG(横補剛なしでは使わない)
→ 「ねじり=閉断面」と覚えれば設計選定は早い。
②偏心の有無を必ず検算
設計図で見るべきは「主梁の中心線と荷重作用線が一致しているか」。
- 庇・バルコニー・キャンチ部分
- 機器ブラケット・サブ構造の取付け
- 階段・スロープなどの偏心受け
→ ズレていたら「偏心量×荷重=ねじりモーメント」。これを設計者に確認するのが施工管理の役目。
③RC造でのねじり配筋
RC梁にねじりが入る場合、専用の配筋(スターラップ筋を密に・かつ閉鎖)が必要。
- 通常のせん断補強筋とは別に閉鎖型のあばら筋
- ピッチを密に(D10@100など)
- 主筋も全周に配置(上下のみではなく)
→ 配筋検査で「あばら筋がU字開放のまま」「主筋が下端だけ密」だったら、ねじりを考慮していない可能性がある。設計図と照合して確認。
スターラップ筋についてはこちらの記事も参考にしてください。

④施工時の偏心衝撃に注意
設計でねじりが想定されていなくても、施工時に偏心が発生することがあります。
- 鉄骨建方:大梁の片側だけ揚重 → 一時的にねじりが入る
- 重量物搬入:キャスター移動で梁中央を通らず端を通る → 偏心衝撃
- 養生材・仮設材の置き方:長尺材を梁の片側に偏らせて積載
→ 「設計はねじり想定なし、施工で偏心が入って捻れた」という事故も実例があります。揚重計画・搬入計画で「梁中心線で受ける」を意識すると安全側に倒せる。
ねじりモーメントに関する情報まとめ
最後に、ねじりモーメントの重要ポイントを整理します。
- 定義:部材を軸まわりにねじろうとする回転力(T、kN·m)
- 曲げとの違い:曲げ=軸を曲げる、ねじり=軸まわりに回す。回転軸の方向で区別
- 応力:τ = T × r / Ip(断面外周で最大)
- ねじれ角:θ = T × L / (G × Ip)
- ねじり強い断面:閉断面が圧倒的有利(円形>角形>>H形)
- 発生場所:片持ち庇・偏心ブラケット・看板架台・H鋼の偏心荷重
- 施工管理視点:「中心線と荷重作用線がズレていないか」をチェック
以上がねじりモーメントに関する情報のまとめです。
ねじりは「設計で気付いてもらえないと、現場で気付くのは捻れた後」という厄介な力。式の暗記より、「閉断面ならOK、H形+偏心は危険」という現場感を持っておくと、設計図を読んだ瞬間に「ここ、ねじり大丈夫?」と疑える目が育ちます。一通りねじりモーメントの基礎知識は理解できたと思います。
合わせて読みたい関連記事はこちら。






