- 高炉と電炉ってどう違うの?
- 鋼材の品質に差はある?
- 建築でどっちの鋼材を使えばいい?
- SS材・SN材で対応が違うって本当?
- コストはどっちが安い?
- CO2排出量は?
上記の様な悩みを解決します。
高炉と電炉の違いとは、結論「鉄を作る原料と方法の違い」です。高炉は鉄鉱石から鉄を作る製鋼方式、電炉は鉄スクラップを電気で溶かして鉄を作る製鋼方式。同じ「鋼材」と呼ばれていても、作り方が全然違うので、品質のばらつき、用途、コスト、CO2排出量、すべてが変わってきます。鉄骨工事の現場監督なら、ミルシートに書かれている製鋼方法を読み取れるとレベルが一段上がるので、ここで整理しておきましょう。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
高炉と電炉とは?
高炉と電炉は、結論「鉄を作る装置の種類」のことです。
| 項目 | 高炉 | 電炉 |
|---|---|---|
| 主原料 | 鉄鉱石+コークス+石灰石 | 鉄スクラップ |
| 熱源 | コークスの燃焼熱 | 電気アーク放電 |
| 規模 | 巨大(一炉で数千トン/日) | 中規模(一炉で50〜200トン/回) |
| 連続性 | 24時間365日連続稼働 | バッチ式(炉ごとに装入→溶解) |
| 国内シェア | 約70% | 約30% |
| 主なメーカー | 日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼 | 東京製鐵、共英製鋼、合同製鐵、東京鐵鋼 |
ざっくり言うと、高炉=鉄鉱石から鉄を作る大規模工場、電炉=鉄スクラップから鉄を作る中規模工場です。原料も違えばプロセスも違うので、出来上がる鋼材の特性も微妙に変わってきます。
鋼材を施工管理者が確認する書類「ミルシート」については、こちらをご覧ください。

製鋼プロセスの違い
実際に鉄ができるまでの流れを、簡単に追っておきましょう。ミルシートを読むときに、何の数字が書かれているのかが分かるようになります。
高炉プロセス(一貫製鉄所)
- 焼結工程:鉄鉱石粉を焼き固めて焼結鉱にする
- コークス工程:石炭からコークス(高純度炭素)を作る
- 高炉:鉄鉱石・コークス・石灰石を高炉に装入し、熱風(1,200℃)でコークスを燃焼。鉄鉱石中の酸素を還元して銑鉄(C約4%)を取り出す
- 転炉(BOF:Basic Oxygen Furnace):銑鉄に酸素を吹き込んで炭素を燃焼除去(脱炭)し、鋼(C約0.2%)にする
- 連続鋳造(CC):鋼を連続的に鋳造してスラブ・ブルーム・ビレットにする
- 圧延:H形鋼・鋼板・棒鋼などに成形
トータルで見ると、鉄鉱石(Fe2O3)から酸素を抜いて純粋な鉄に近づけていくプロセスです。新しい鉄を一から作るため、不純物(リン・硫黄・残留元素)が少ないのが特徴。
電炉プロセス
- スクラップ装入:解体現場・自動車解体場・工場端材などから集めた鉄スクラップを電炉に装入
- アーク溶解:3本の電極から大電流(数万A)を流し、電気アーク(数千℃)でスクラップを溶解
- 精錬:酸素吹き込みで脱炭、フラックス投入で脱リン・脱硫
- 取鍋精錬(LF:Ladle Furnace):成分・温度を整える
- 連続鋳造・圧延:高炉と同じ
電炉は「すでにある鉄をリサイクルする」プロセスなので、原料に含まれる残留元素(Cu、Sn、Ni、Cr)がそのまま製品に残るのが特徴です。
連続鋳造の話は、コンクリートの打設工程と並べると分かりやすいです。

鋼材特性の違い
製鋼方法が違うと、出来上がる鋼材にも特性差が出ます。
残留元素
電炉鋼は鉄スクラップ由来なので、Cu(銅)、Sn(スズ)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)などの残留元素が高炉鋼より高めです。これらは少量なら問題ありませんが、過剰になると、
- 熱間脆性:圧延中に表面割れが発生
- 溶接性低下:溶接時に脆化
の原因になります。電炉メーカーはスクラップの選別と精錬で残留元素を管理していますが、高炉鋼ほど低レベルにするのは難しいのが実情です。
化学成分のばらつき
高炉鋼は原料が均一(鉄鉱石は性状が安定)なので、化学成分のロット間ばらつきが小さい傾向。電炉鋼は原料が不均一(スクラップの組成は変動)なので、ばらつきがやや大きいことがあります。
ただし、JIS規格の許容範囲には両者とも収まるので、規格上の差はありません。設計上の許容応力度はどちらも同じです。
結晶粒・機械的性質
ミクロ的な結晶粒サイズや靭性は、製鋼条件と圧延条件で決まるため、製鋼方法だけでは差がつかないのが実態。電炉でも適切な精錬・調質をすれば、高炉鋼と遜色ない機械的性質を出せます。
表面性状
熱間圧延した鋼材は、表面に黒皮(ミルスケール、Fe3O4)ができますが、これは高炉・電炉どちらでも同じ。違いは出にくいです。
塑性変形・弾性域の話はこちらが詳しいです。

鋼種ごとの使い分け(建築用)
JIS規格上、建築用鋼材には「高炉鋼」「電炉鋼」の区別表記はありません。ただし、鋼種によって電炉採用比率が違う実情があります。
SS材(一般構造用圧延鋼材)
JIS G 3101で定義される基本鋼種。SS400が代表。
- 電炉メーカーが主力で生産(東京製鐵が日本最大)
- 化学成分の規定がP・Sのみ(C・Si・Mnは無規定)
- 建築用の中小規模鉄骨で広く使われる
SS400は許容範囲が広いので、電炉の得意分野です。
SN材(建築構造用圧延鋼材)
JIS G 3136で定義される建築専用鋼種。SN400・SN490が代表。
- 化学成分・機械的性質が厳しく規定(C、Si、Mn、P、S、N、CE炭素当量)
- 降伏比上限が規定(SN400B:0.80以下、SN490B:0.80以下)
- B種以上は溶接性が確保される
SN材は降伏比・溶接性・塑性変形能の規定があるので、高炉鋼の独壇場でしたが、近年は電炉メーカーもSN材を製造しており、規格を満たす範囲なら電炉SN材もOKという運用になっています。
SM材(溶接構造用圧延鋼材)
JIS G 3106で定義される、溶接性を重視した鋼材。SM400・SM490が代表。
- シャルピー衝撃値の規定
- 溶接性が良好
SM材は橋梁・大型構造物が主な用途で、建築では特殊用途。主に高炉メーカーが生産します。
H形鋼
H形鋼はJIS G 3192で寸法・許容差が規定されており、母材はSS400・SN400・SN490などが選択可能。電炉メーカー(東京製鐵・大阪製鐵)が主要供給元で、JFEや日鉄も生産しています。
H形鋼の基本はこちら。

異形棒鋼(鉄筋)
SD295・SD345・SD390などのコンクリート用棒鋼は、ほぼ電炉メーカーが供給しています。スクラップを原料にできること、規模が中規模で済むことから、電炉と相性が良い鋼材です。
鉄筋の規格はこちらでも触れています。

コストとCO2排出量
施工管理の枠を超えて経営寄りの話になりますが、最近の建設業界で重要なテーマです。
コスト比較
一般論として、
- 高炉鋼:原料費(鉄鉱石・コークス)の影響を受ける。為替・国際市況に連動
- 電炉鋼:原料費(スクラップ・電気代)の影響を受ける。電気代と国内スクラップ価格に連動
SS400・H形鋼レベルだと電炉の方がやや安いことが多く、SN材で大規模・特殊鋼種だと高炉の方が安定供給で結局安いこともあります。
CO2排出量
ここが2025年現在、最大の論点。
- 高炉鋼:1トンあたり約1.8〜2.0トンCO2(コークス燃焼が主因)
- 電炉鋼:1トンあたり約0.4〜0.5トンCO2(電気のCO2は電源構成依存)
電炉鋼は高炉鋼の約1/4のCO2排出で済みます。これは鉄鉱石を還元する工程がないため。
カーボンニュートラルを目指す建築物では、
- 電炉鋼の積極採用
- 再生可能エネルギー由来電力で精錬した「グリーンスチール」
が選定基準に入るようになっています。CASBEE評価・LEED認証で加点される項目です。
サスティナブル建築の文脈ではこちらも参考に。

高炉と電炉に関する情報まとめ
- 高炉:鉄鉱石+コークスから鉄を作る大規模製鋼。日本製鉄・JFE・神戸製鋼が主力
- 電炉:鉄スクラップを電気アークで溶かして鉄を作る中規模製鋼。東京製鐵・共英製鋼など
- 国内シェア:高炉約70%、電炉約30%
- 化学成分の差:電炉は残留元素(Cu・Sn)がやや高め
- 建築用途:SS400・H形鋼・鉄筋は電炉が主力。SN材・SM材は高炉が主力(電炉も可)
- コスト:一般材は電炉がやや安い、特殊鋼は高炉が安定
- CO2排出量:電炉は高炉の約1/4
- 設計上の差:JIS規格を満たせば、許容応力度などは同じ
以上が高炉と電炉に関する情報のまとめです。
「高炉と電炉」は鉄骨を扱う現場監督なら知っておきたい知識ですが、現場で「これは高炉材ですか?電炉材ですか?」と訊かれることはほぼありません。一方で、ミルシートの製鋼メーカー名を見ると製鋼方法が分かるので、トラブル時のトレーサビリティとして役立ちます。最近はサスティナブル建築の文脈で「電炉鋼を指定する」プロジェクトも増えているので、CO2排出の話と紐付けて頭に入れておくと、設計者との会話で一目置かれるかなと思います。
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