工事台帳ソフトを比べる前に、うちの台帳は何を満たせばいいのか

  • ソフトの比較記事ばかりで、そもそも何を満たせばいいのかが書いていない
  • うちの工事台帳、法律的にこれで足りているのか誰も教えてくれない
  • Excelのままだと違法なのか。クラウドにしないとダメなのか
  • 保存期間は5年だったか10年だったか。何から数えて5年なんだ
  • 施工体制台帳と工事台帳って何が違うんだ
  • 原価管理までやらないと法律違反なのか
  • 下請に出した分や一人親方に出した工事はどこまで書くんだ
  • 違反したらいくら取られるんだ。立入検査なんて本当に来るのか
  • 「電子帳簿保存法に対応」と書いてあるが、それで何が得なんだ
  • 結局どこで選べばいいんだ。機能の多さで選ぶのか

上記の様な悩みを解決します。

先に答えを置きます。建設業法にも建設業法施行規則にも「工事台帳」という言葉は一度も出てきません。法律が定めているのは「帳簿」で、記載すべき事項は条文に限られた項目が並んでいるだけです。そこに原価や実行予算、粗利の欄はありません。

工事台帳ソフトの導入を考えるとき、多くの人はまず製品の比較から入ります。ただ、比較の前に「自社が法律上どこまでやらないといけないのか」を確定させておかないと、要らない機能に金を払うか、逆に法定の要件を外したまま運用を続けるかのどちらかになります。この記事では建設業法・建設業法施行規則・電子帳簿保存法まわりの条文を順に読みながら、自社の台帳が何を満たせばいいのかを先に確定させます。

「工事台帳」で検索して出てくる記事は、ほぼすべてが製品の比較か紹介です。法令が何を要求しているかから書いた記事は見当たらず、保存期間の起点はどこか、罰則は罰金なのか過料なのかといった、実際に聞かれると答えに詰まる部分がまるごと抜け落ちています。今回は製品名を1つも出さずに、条文と行政の公表資料だけで話を進めます。

条文はできるだけ原文のまま引いて、どこまでが法律の要求で、どこからが自社の判断で決めていい任意の話なのかが分かるようにしました。

それではいってみましょう!

目次

「工事台帳」という帳簿は、法律のどこにも出てこない

結論、建設業法が義務づけているのは「帳簿」を備えて保存することであって、「工事台帳」という名前の書類を作ることではありません。根拠になる条文は建設業法第40条の3で、条文はこうなっています。

「(帳簿の備付け等)第四十条の三 建設業者は、国土交通省令で定めるところにより、その営業所ごとに、その営業に関する事項で国土交通省令で定めるものを記載した帳簿を備え、かつ、当該帳簿及びその営業に関する図書で国土交通省令で定めるものを保存しなければならない。」(建設業法第40条の3。e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)

「工事台帳」は法令用語ではなく実務上の呼び名

この記事を書くにあたって、建設業法と建設業法施行規則の全文を機械検索してみました。「工事台帳」という語は0件でした。条文が使っているのは一貫して「帳簿」です。つまり、多くの会社が「工事台帳」と呼んで運用している帳面は、法令上の名称ではなく、現場と経理が共通言語として使ってきた実務上の呼び名ということになります。

ここを取り違えると話がややこしくなります。「工事台帳は法律で義務です」と言われると、多くの人は自社が今使っているExcelの様式そのものが法定様式だと受け取ります。実際には義務づけられているのは帳簿の備付けと保存で、様式や呼び名は法律の関心事ではありません。逆に言えば、名前が工事台帳でなくても、法定の記載事項が揃っていれば帳簿としての要求は満たします。

押さえるのは「営業所ごと」という単位

第40条の3でもう1つ落とせないのが「その営業所ごとに」という部分です。会社に1冊ではなく、営業所の数だけ備えることが求められています。本店のほかに支店や営業所を構えていて、そこで請負契約を結んでいる会社は、単位の取り方を先に決めておかないと、あとから整理し直すことになります。

紛らわしい3つの言葉を、ここで整理しておきます。

  • 帳簿:建設業法第40条の3が備付けと保存を義務づけている、法令上の名称
  • 工事台帳:法令には出てこない実務上の呼び名。中身と様式は会社ごとに違う
  • 施工体制台帳:別の条文(建設業法第24条の8)が定める、工事現場ごとに備え置く書類

僕は、この記事で一番先に伝えたいのがここだと考えています。ソフトの比較表を眺めても、自社が何を満たすべきかは書いていません。まず条文が求めている単位と対象を確定させて、それから道具を選ぶ。順番が逆になっている会社がかなり多いはずです。

法律が求める帳簿の記載事項に、原価の欄は1つも無い

結論、帳簿に何を書くかは建設業法施行規則第26条第1項に列挙されていて、第一号から第四号までの4つのグループに分かれます。そして、その列挙のどこにも原価・実行予算・粗利の欄はありません。

まず全体像です。

  • 第一号:営業所の代表者に関する事項
  • 第二号:注文者と締結した請負契約に関する事項
  • 第三号:発注者と締結した住宅を新築する建設工事に関する事項
  • 第四号:下請契約に関する事項

以下、条文の言葉で中身を見ていきます。出典はいずれも建設業法施行規則第26条第1項・第2項(e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)です。

第一号|営業所の代表者

第一号は「営業所の代表者の氏名及びその者が当該営業所の代表者となつた年月日」です(建設業法施行規則第26条第1項第一号。e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)。人が替わったときに、いつから替わったのかが分かる状態にしておく、という趣旨の記載です。

第二号|注文者と締結した請負契約

第二号は、注文者と締結した請負契約について、次の項目を挙げています。

「イ 請け負つた建設工事の名称及び工事現場の所在地」

「ロ イの建設工事について注文者と請負契約を締結した年月日、当該注文者(その法定代理人を含む。)の商号、名称又は氏名及び住所並びに当該注文者が建設業者であるときは、その者の許可番号」

「ハ イの建設工事の完成を確認するための検査が完了した年月日及び当該建設工事の目的物の引渡しをした年月日」

以上が同規則第26条第1項第二号のイ・ロ・ハです(e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)。工事名と場所、契約の相手と契約日と許可番号、そして検査完了日と引渡日。ハの引渡日は後で出てくる保存期間の起点にもなるので、実務上はここを空欄のままにしないことが効いてきます。

第三号|発注者と締結した住宅を新築する建設工事

第三号は、発注者と締結した住宅を新築する建設工事について「イ 当該住宅の床面積」ほかの項目を挙げています(同規則第26条第1項第三号。e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)。すべての住宅工事が対象なのではなく、発注者と直接締結した、住宅を新築する工事に限った号です。この限定は保存期間のところでもう一度出てきます。

第四号|下請契約

第四号は下請契約について「イ 下請負人に請け負わせた建設工事の名称及び工事現場の所在地」ほかの項目を挙げています(同規則第26条第1項第四号。e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)。さらに、法第24条の6第1項の下請契約に当たるときは「(1)支払つた下請代金の額、支払つた年月日及び支払手段」「(3)下請代金の一部を支払つたときは、その後の下請代金の残額」といった、支払に関する項目が加わります。

「一人親方に出した工事も載せるのか」という疑問がよく出ますが、第四号が挙げているのは「下請負人に請け負わせた建設工事」であって、下請負人の法人格や規模で区別する文言は同号の中に見当たりません。自社の契約形態がここに当たるかどうかは、条文の文言に照らして整理しておくところです。迷う形態があるなら、許可行政庁の窓口で確かめるのが確実です。

添付書類は請負契約の書面

第26条第2項第一号は、帳簿に添付する書類として「法第十九条第一項及び第二項の規定による書面又はその写し」を挙げています(建設業法施行規則第26条第2項第一号。e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)。請負契約の書面と、変更があったときの書面です。原本でなく写しでよい、と条文が明記している点は運用上ありがたいところで、契約まわりの書面を帳簿とセットで管理する設計にしておけば、添付漏れが起きにくくなります。契約の書面まわりを整理したい方は注文請書と注文書の違いや書き方をまとめた記事も合わせて見てみてください。

列挙のどこにも原価の欄が無い

ここまで条文の列挙を順に見てきて分かるのは、記載事項が「誰と、いつ、どこで、何を、いくらで、いつ払ったか」という契約と支払の事実に寄っているということです。工事ごとの材料費がいくらか、労務費がいくらか、実行予算に対して着地がどうだったか、粗利が何パーセント残ったか。こうした欄は第26条第1項の列挙に1つも現れません。

これは大事な線引きです。原価管理は法令が要求しているものではなく、自社が利益を管理するためにやる任意の取り組みです。「原価管理をしていないと建設業法違反になるのでは」と心配する必要はありませんし、逆に「法律で要るからやる」という動機で入れると、続かないうえに何のためにやっているのかが分からなくなります。原価の話そのものを詰めたい方は建設業の原価管理と原価の4要素・実行予算をまとめた記事で別に扱っています。

僕の整理では、法定帳簿と原価管理を1つの表に混ぜてしまっているのが、Excelの工事台帳が重くなる一番の原因です。義務としてやることと、儲けるためにやることは、目的が違うので更新の頻度も見る人も違います。

5年か10年か|数え始めるのは契約日ではなく引渡し

結論、帳簿と添付書類の保存期間は原則5年、発注者と締結した住宅を新築する建設工事に係るものは10年です。そして起点は契約日ではなく引渡しです。

根拠は建設業法施行規則第28条第1項です。条文はこうなっています。

「(略)保存期間は、請け負つた建設工事ごとに、当該建設工事の目的物の引渡しをしたとき(当該建設工事について注文者と締結した請負契約に基づく債権債務が消滅した場合にあつては、当該債権債務の消滅したとき)から五年間(発注者と締結した住宅を新築する建設工事に係るものにあつては、十年間)とする。」(建設業法施行規則第28条第1項。e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)

読み取るポイントは3つです。1つ目、数え始めは引渡しの日であって契約日ではありません。契約から引渡しまで1年かかる工事なら、その1年分だけ後ろにずれます。2つ目、括弧書きで、請負契約に基づく債権債務が消滅した場合はその消滅時が起点になると書かれています。3つ目、10年になるのは「発注者と締結した住宅を新築する建設工事」に係るものだけです。住宅がらみなら何でも10年、と広げて読むのは条文からずれます。リフォームや、元請から請け負った下請の立場での住宅工事は、この括弧書きの言い回しには当たりません。

図書のほうは一律10年

帳簿とは別に、第40条の3が保存を求めている「図書」があります。こちらは第28条第2項です。

「第二十六条第五項に規定する図書(略)の保存期間は、請け負つた建設工事ごとに、当該建設工事の目的物の引渡しをしたときから十年間とする。」(建設業法施行規則第28条第2項。e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)

図書は5年ではなく10年で、起点は同じく引渡しです。では図書とは何かというと、第26条第5項が5つの号で挙げています。

図書の中身
一号 完成図
二号 工事内容に関する発注者との打合せ記録
三号 施工体系図
四号 法第20条第1項に規定する材料費等記載見積書を作成したときは、当該材料費等記載見積書
五号 建設工事の請負契約締結の前に必要に応じて作成した前号の見積書の内容に関する注文者との打合せ記録

誰に何号がかかるかが書き分けられている

見落とされやすいのが、5つの号が全員に一律でかかるわけではない点です。第26条第5項は立場によって対象の号を分けています。

  • 発注者から直接請け負つた建設業者(作成建設業者を除く):第一号・第二号・第四号・第五号
  • 作成建設業者:第一号から第五号まで
  • これら以外の建設業者:第四号及び第五号

つまり、施工体系図である三号は作成建設業者にしかかかりません。下請専門でやっている会社が保存対象として押さえるのは、四号の材料費等記載見積書と五号の打合せ記録の2つです。完成図も打合せ記録も施工体系図も全部10年で持っておかないといけない、と身構えている会社がありますが、条文はそこまで求めていません。

個人的には、5年と10年の線引きよりも「起点が引渡し」のほうが実務では効くと感じています。契約日で数えていると、工期の長い工事ほど早く捨ててしまうことになるからです。

施工体制台帳と帳簿は別物|現場に置くものと営業所に置くもの

結論、施工体制台帳と帳簿は、根拠条文も、置く場所も、期間も別物です。名前が似ているせいで同じものだと思われがちですが、混ぜて運用すると両方の要求を外します。

施工体制台帳の根拠は建設業法第24条の8第1項で、「(略)施工体制台帳を作成し、工事現場ごとに備え置かなければならない。」と定めています(e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)。ここで測る金額は、元請として受注した請負代金ではありません。同項は「当該建設工事を施工するために締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が二以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が政令で定める金額以上になるとき」と書いており、見るのは自社が下請に出した側の合計です(建設業法第24条の8第1項。e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)。その政令の金額は建設業法施行令第7条の4にあり、「法第二十四条の八第一項の政令で定める金額は、五千万円とする。ただし、特定建設業者が発注者から直接請け負つた建設工事が建築一式工事である場合においては、八千万円とする。」となっています(建設業法施行令第7条の4。e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)。

備置きの期間は建設業法施行規則第14条の7です。「(略)備置き及び(略)施工体系図の掲示は、第十四条の二第一項第二号の建設工事の目的物の引渡しをするまで(略)行わなければならない。」とあり、引渡しまでという区切りになっています(e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)。

施工体制台帳の側で押さえるのは、次の4点に絞られます。

  • 作成義務者:特定建設業者が、発注者から直接請け負った建設工事について作成する
  • 金額基準:下請契約の請負代金の額(2つ以上あるときは総額)が5,000万円以上、建築一式工事の場合は8,000万円以上(建設業法第24条の8第1項、建設業法施行令第7条の4)
  • 置く場所:会社ではなく工事現場ごと(建設業法第24条の8第1項)
  • 備置き期間:目的物の引渡しをするまで(建設業法施行規則第14条の7)

抜粋は帳簿に添付されて5年保存に変わる

ここが両者のつながる場所です。建設業法施行規則第26条第2項第三号により、施工体制台帳のうち技術者名や下請名等が記載された部分は、帳簿に添付する書類として扱われます。そして帳簿の添付書類である以上、保存期間は第28条第1項に従い5年(発注者と締結した住宅を新築する建設工事に係るものは10年)になります。

つまり、台帳本体は現場で引渡しまで、そこから抜き出した部分は営業所で5年、という二段構えです。現場事務所を畳むときに施工体制台帳を一式まとめて処分してしまうと、帳簿の添付書類として残すべき部分まで消えます。現場の撤収手順に「抜粋を営業所へ渡す」という一手を入れておくだけで、この事故は防げます。

項目 帳簿 施工体制台帳
根拠条文 建設業法第40条の3 建設業法第24条の8第1項
置く単位 営業所ごと 工事現場ごと
期間 引渡しから5年(発注者と締結した新築住宅は10年) 目的物の引渡しをするまで
保管する場所 営業所 現場

自分としては、この2つを1つのソフトで扱うかどうかは設計の分かれ目だと思っています。運用する人も、更新のタイミングも、保管する場所も違うからです。

紙に出さなくてよい根拠は施行規則26条6項|クラウドで満たす条件

結論、帳簿を紙に出さずデータのまま持ってよい根拠は、建設業法施行規則第26条第6項にあります。条文はこうです。

「第一項各号に掲げる事項が電子計算機に備えられたファイル又は電磁的記録媒体に記録され、必要に応じ当該営業所において電子計算機その他の機器を用いて明確に紙面又は出力装置の映像面に表示されるときは、当該記録をもつて法第四十条の三に規定する帳簿への記載に代えることができる。」(建設業法施行規則第26条第6項。e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)

条件は1つに集約できます。「当該営業所において」「明確に紙面又は出力装置の映像面に表示される」こと。その営業所で、必要になったときに、画面か紙で読める状態にあるかどうかです。

条文はソフトの種類を指定していない

注目したいのは、この条文がソフトの名前も方式も指定していないことです。クラウドでなければならないとも、専用の会計ソフトでなければならないとも書いていません。ファイルに記録されていて、その営業所で明確に表示できるなら、Excelで作った表でも第6項の要件は満たしうる、という読み方になります。

逆に言えば、クラウドに載せてあればそれだけで要件を満たすわけでもありません。判断の軸は「その営業所で表示できるか」であって、保管場所がサーバーかどうかではないからです。営業所のネット回線が落ちている間はどうするのか、退職者のアカウントに紐づいたままのデータは誰が開けるのか。こうした運用側の話まで含めて「明確に表示される」状態を保てるかどうかを見ます。クラウド側の仕組みを整理したい方は建設クラウドの種類や基幹システムとの違いをまとめた記事が参考になります。

帳簿・添付書類・図書はそれぞれ別の項

電子で持つ根拠は、対象ごとに項が分かれています。

  • 第6項:第1項各号の記載事項そのもの。電子計算機のファイル等に記録され、当該営業所で明確に表示されるなら記載に代えられる
  • 第7項:添付書類。スキャナにより読み取る方法その他これに類する方法により記録されていればよい
  • 第8項:第5項の図書。添付書類と同様の扱い

契約書の写しのように、もともと紙で受け取るものは第7項が読み取りによる電子化を認めている、という整理です。ここを1つの項で済ませようとすると、添付書類のスキャンだけ根拠が抜けます。

なお、この第26条第6項から第8項は建設業法の話であって、電子帳簿保存法の要件とは別物です。ソフトの説明に「電子帳簿保存法に対応」と書いてあっても、それは建設業法の帳簿の要件を満たしたという意味にはなりません。この点は後の章でもう一度扱います。

違反は10万円以下の過料|立入検査32者のうち13者が帳簿の未整備だった

結論、帳簿を備えなかった場合の罰則は10万円以下の過料です。罰金ではありません。根拠は建設業法第55条で、柱書が「次の各号のいずれかに該当する者は、十万円以下の過料に処する。」と定め、第五号が「第四十条の三の規定に違反して、帳簿を備えず、帳簿に記載せず、若しくは帳簿に虚偽の記載をし、又は帳簿若しくは図書を保存しなかつた者」を挙げています(建設業法第55条第5号。e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)。

第五号が挙げている行為は4つに分かれます。

  • 帳簿を備えなかった
  • 帳簿に記載しなかった
  • 帳簿に虚偽の記載をした
  • 帳簿又は図書を保存しなかった

過料と罰金は種類が違う

ネット上には「50万円以下の罰金」と書いている解説が見られますが、これは条を取り違えています。建設業法第51条第2号が定める50万円以下の罰金は、登録講習実施機関等の帳簿に関する規定であって、建設業者が備える帳簿の話ではありません。

過料は行政上の秩序罰で、刑罰である罰金とは区別されます。この違いを正確に扱いたい場合は、どちらに当たるかで手続も効果も変わるので、個別の事情を含めて弁護士など専門家に確認する領域です。この記事では条文が「過料」と書いていること、そして罰金の条は別物であること、の2点だけを示しておきます。

立入検査は制度として存在する

立入検査の根拠は建設業法第31条第1項です。「(略)当該職員に、営業所その他営業に関係のある場所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。」とあり、営業所に立ち入って帳簿書類を検査する仕組みが法律上用意されています(e-Gov法令検索で2026-09-19に確認)。

実際にどの程度指摘が出ているかについて、青森県が「令和5年度建設業法第31条第1項の規定に基づく立入検査の結果について」という資料を公表しています。そこでは「検査を行った32者のうち、32者に改善を要する事案が確認されました。」とされ、内訳に「帳簿の未整備 (13者)」が挙げられています(青森県「令和5年度建設業法第31条第1項の規定に基づく立入検査の結果について」2026-09-19に確認)。

1つの県の1年度の数字なので、これを全国の傾向としてそのまま広げることはできません。ただ、検査を受けた32者のうち13者で帳簿の未整備が挙がっているという事実は、帳簿が実際に見られる項目であることを示しています。なお、建設業許可の更新時に帳簿を確認する旨の公表資料は今回見つけられなかったので、更新のときに必ず見られるという書き方はしません。

僕の受け止めとしては、この数字は「怖がる材料」ではなく「何を見られるかの手がかり」です。13者で挙がっているということは、検査の場で帳簿は確認の対象に入っている。だったら、記載事項が揃っていて引渡し日から数えられる状態にしておく。やることはそれだけで、それ以上でも以下でもありません。

ソフトは3つの目的を分けてから選ぶ|法定帳簿・原価管理・電子取引

結論、工事台帳と呼ばれている帳面には、目的の違う3つの仕事が同居しています。これを分けずに「工事台帳ソフト」という1つの箱で考えるから、比較しても決められなくなります。

  • 目的1:建設業法の帳簿。営業所ごとに備え、記載事項を満たし、引渡しから5年(発注者と締結した新築住宅は10年)保存する
  • 目的2:工事別の原価管理。実行予算と実績を突き合わせて、工事ごとの利益を見る
  • 目的3:電子取引データの保存。取引情報を電磁的記録のまま保存する

この記事で製品を比較しないのは、どの製品が良いかは3つの目的のどれを解きたいかで変わるからです。機能の一覧を並べても、自社がどの目的で困っているかが決まっていなければ、多機能なほうが良さそうに見えるだけで判断材料になりません。

目的1|建設業法の帳簿

ここは義務の領域です。見るべき点は、記載事項(施行規則第26条第1項の第一号から第四号)が漏れなく入るか、添付書類を紐づけられるか、引渡し日を持っていて保存期間を管理できるか、そして営業所ごとに分けられるか。それだけです。第26条第6項がソフトの種類を指定していない以上、この目的だけなら表計算ソフトで作った表でも成立します。

目的2|工事別の原価管理

ここは任意の領域です。法定帳簿の記載事項には原価の欄が無い、という第2章の話がそのまま効いてきます。やるかやらないかは自社の判断で、やるなら何をどの粒度で拾うかを先に決めます。材料費・労務費・外注費・経費のどこまでを工事に紐づけるか、実行予算をいつ固めるか。このあたりの枠組みは完成工事原価の4費目と未成工事支出金との違いをまとめた記事で整理しています。

多機能なソフトを入れても使いこなせる気がしない、という声はここに集中します。原価管理は入力する人が現場に増えるので、経理側だけで完結する目的1と違って運用の負担が一段上がるからです。最初から全工事でやろうとせず、粒度を粗くして始めるのが現実的だと僕は思います。

目的3|電子取引データの保存

ここは建設業法ではなく税の領域です。電子帳簿保存法第7条が「所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行つた場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。」と定めています。メールやウェブ上でやり取りした注文書・請書・請求書のデータをどう保存するか、という話であって、建設業法の帳簿の要件とは根拠も対象も別です。

「優良な電子帳簿」の列挙に工事台帳は入っていない

「電子帳簿保存法に対応」という表示で得があるとすれば、優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置がその代表です。ただし、この軽減の対象になる帳簿は決まっています。国税庁「優良な電子帳簿の要件」(https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/05.htm 2026-09-19に確認)では、対象となる特例国税関係帳簿として、所得税法施行規則第58条第1項および法人税法施行規則第54条に規定する仕訳帳、総勘定元帳およびその他必要な帳簿、消費税法の帳簿が挙げられています。そして「その他必要な帳簿」の具体例として列挙されているのは、売上帳・仕入帳・経費帳・賃金台帳・売掛帳・買掛帳・受取手形記入帳・支払手形記入帳・貸付帳・借入帳・有価証券受払い簿・固定資産台帳・繰延資産台帳です。

この列挙に工事台帳は現れません。したがって、工事台帳をソフト化しただけでは過少申告加算税の軽減(5%)の対象にはなりません。軽減を狙うなら対象になるのは仕訳帳や総勘定元帳といった会計帳簿の側で、工事台帳はその外側にあります。宣伝文句としての「電帳法対応」が、自社にとって何の得になるのかは、この列挙に照らして確かめるのが早いです。

選ぶときに見るのは機能の数ではない

3つの目的を分けたうえで、自社がどれを解きたいかを1つか2つに絞る。そのうえで見るのは、目的1なら記載事項と保存期間の管理ができるか、目的2なら現場の人が入力を続けられる重さか、目的3なら電子取引データの保存要件を満たす形で残るか。この3つの問いに順に答えていけば、機能の多さで迷う場面はかなり減ります。

高いソフトを入れても使いこなせる気がしない、という不安は、たいてい3つを同時に解こうとしていることから来ます。義務の部分は軽く確実に、任意の部分は自社のペースで。分けて考えるだけで、選択肢は自然に絞れます。

工事台帳ソフトと建設業法の帳簿に関する情報まとめ

  • 建設業法にも施行規則にも「工事台帳」という語は出てこない。法令用語は「帳簿」で、根拠は建設業法第40条の3。単位は営業所ごと
  • 記載事項は施行規則第26条第1項の第一号から第四号。添付書類は請負契約の書面またはその写し。原価・実行予算・粗利の欄は1つも無い
  • 保存期間は引渡しから5年、発注者と締結した住宅を新築する建設工事は10年。図書は一律10年で、誰に何号がかかるかは立場で書き分けられている
  • 施工体制台帳は工事現場ごとに引渡しまで。抜粋を帳簿に添付すると、そちらは5年(発注者と締結した新築住宅は10年)保存になる
  • 電子で持ってよい根拠は施行規則第26条第6項。条件は当該営業所において明確に表示されること。条文はソフトの種類を指定していない
  • 罰則は建設業法第55条第5号の10万円以下の過料。罰金とは種類が違う。立入検査の根拠は第31条第1項で、青森県の令和5年度の公表では32者中13者に帳簿の未整備が挙がっている
  • ソフトは法定帳簿・原価管理・電子取引の3つの目的に分けてから選ぶ。優良な電子帳簿の列挙に工事台帳は入っていない

以上が工事台帳ソフトと建設業法の帳簿に関する情報のまとめです。

次に取る行動は、製品の比較サイトを開くことではなく、自社の台帳を1枚開いて、施行規則第26条第1項の第一号から第四号の項目が埋まっているかを指で追うことです。引渡し日の欄が空いていないか、営業所が2つ以上あるなら分かれているか、契約書の写しが紐づいているか。ここまで確認して足りない項目が見えたら、それが自社にとっての要件になります。道具を選ぶのはその後で間に合います。

法定の帳簿が求めているのは記載事項だけで、原価や実行予算、粗利までは対象外です。では自社の利益をどこで管理するのか、という次の問いには建設業の原価管理と原価の4要素・実行予算・勘定科目をまとめた記事で答えています。義務の側を軽く固めたうえで、利益の側にどう手を入れるかを考えていくのが順番だと考えています。

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