- 塗装の「膜厚」ってなに?
- WFT・DFT・設計膜厚って結局何が違うの?
- どうやって測るの?
- どこまで合格でどこから不合格?
- 膜厚が足りないとなにが起きる?
- 厚すぎてもダメって本当?
上記の様な悩みを解決します。
「膜厚」は鉄骨塗装・防水・建築塗装の品質管理で 最も中心的な指標 ですが、現場では「設計膜厚は塗装後の話なの?塗ってる最中の話なの?」と混乱しがちな概念でもあります。WFT・DFT・SFT という3つの膜厚を整理して使い分けられれば、現場での膜厚指示も検査もブレなくなります。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
塗装の膜厚とは?
塗装の膜厚とは、結論「素地の上に塗られた塗膜の厚さ」のことです。英語では film thickness、単位は μm(マイクロメートル) が標準。1μm = 1/1000 mmで、塗膜厚は通常 30〜200μm の範囲で扱います。
塗装の品質は、塗料の種類・色・つや・施工法など多くの要素で決まりますが、その中でも 「規定の膜厚が確保できているか」 が腐食・劣化に対する性能を直接左右する最重要指標。鋼構造物塗装の主要規格(JIS K 5600、JASS 18など)では、膜厚管理が品質基準の中核に置かれています。
塗装下地処理(ケレン)の話はこちらに整理しています。

膜厚を管理する理由
なぜ膜厚を管理する必要があるのか、シンプルに整理すると:
膜厚管理が必要な理由
- 防錆性能・耐候性が膜厚に比例する(薄いと早く錆びる)
- 塗料メーカーが推奨する厚みで初めて性能が保証される
- 厚すぎても収縮割れ・タレ・乾燥不良の原因になる
- 公共工事ではJIS・国交省標準仕様書で規定値が決まっている
要するに「塗料の設計性能を引き出すには、メーカー推奨厚みで塗らないと意味がない」ということ。「とりあえず塗ればいい」では塗装の意味が半減します。
WFT・DFT・設計膜厚の違い
ここが膜厚管理で一番混乱する部分。3つの膜厚概念を整理します。
| 膜厚 | 英語 | 意味 | 測定タイミング |
|---|---|---|---|
| WFT | Wet Film Thickness | 塗ったばかりの 湿った状態 の膜厚 | 塗装直後 |
| DFT | Dry Film Thickness | 乾燥後 の塗膜厚 | 塗装翌日以降 |
| SFT | Specified Film Thickness | 設計図書で指定された 目標膜厚 | — |
WFT(湿潤膜厚)
塗料を塗った直後の、まだ溶剤や水が残っている 湿った状態の塗膜厚。
例えば「塗料の固形分が50%、ロス10%」のとき、DFT 60μmを狙うなら、WFT は 60 ÷ 0.5 ÷ 0.9 ≒ 133μm で塗る必要があります(実用的にはメーカーの目安表が公表されています)。
WFTの意義は、塗ってる最中にリアルタイムで厚みを管理できること。WFTゲージ(くし型のステンレス板)を塗膜に押し当てて、塗料に触れた最も深い目盛が湿潤膜厚です。
DFT(乾燥膜厚)
塗料が硬化したあとの、最終的な塗膜厚。性能が出るかどうかを判定するのは、このDFTです。
塗料缶に書いてある「乾燥膜厚」「標準塗布量」もすべてDFTベース。検査・記録もDFTで行うのが原則ですね。
SFT(設計膜厚/指定膜厚)
設計図書で「この塗装系で最低◯μm確保せよ」と指定された膜厚目標。たとえば公共建築工事標準仕様書なら、屋外鉄骨用の塗装系で「プライマー25μm+エポキシ中塗60μm+ウレタン上塗30μm、合計115μm」のような指定が書かれています。
実務では「SFT=目標DFT」と読み替えて運用する場合がほとんどです。
ケレン段階の話と合わせて押さえておくと、塗装系全体の流れが見えてきます。

膜厚の測定方法
DFTの測定方法は、JIS K 5600-1-7 や JIS Z 0316 に規定されています。
鋼材(鉄骨)の場合:電磁式・渦電流式
鋼材上の塗膜厚は、電磁式膜厚計(磁性鋼材用)で非破壊測定するのが標準。
| 方式 | 適用素地 | 原理 |
|---|---|---|
| 電磁式 | 鉄・鋼(磁性体) | 磁束の変化量から厚みを算出 |
| 渦電流式 | 非磁性金属(ステン・アルミ) | 渦電流の変化量から算出 |
| 電磁式・渦電流式デュアル | 鉄+非磁性金属両用 | 自動切替 |
電磁式膜厚計は、コーテック社・サンコウ電子などのものが現場で標準的に使われていて、価格帯は5万円〜15万円程度。校正用の基準片(10μm・100μm・250μm)と一緒に保管します。
非鉄素地の場合:くし型ゲージ・破壊試験
塗装下地が木材・モルタル・コンクリート・プラスチックなどの場合、電磁式は使えません。代わりに:
- WFTゲージ(くし型):塗装直後の湿潤厚
- 破壊式(マイクロスコープ):塗膜に切り込みを入れて断面測定
- 試験片同時塗装:別途用意した鋼板に同条件で塗り、そちらで測定
実務では「鋼材試験片を一緒に塗っておいて、そちらでDFTを測定する」という運用がよくあります。
測定の手順
公共建築工事標準仕様書では、DFT測定の手順が以下のように定められています。
DFT測定の手順(JIS K 5600-1-7 ベース)
- 膜厚計を校正基準片で校正する
- 1ロット(最大500m²)あたり、25点を均等配置で測定
- 各測定点での厚みを記録
- 25点の 平均値が設計膜厚以上 であることを確認
- 個別値の最小値が設計膜厚の80%以上であることを確認
測定点の選び方
25点の選び方も意外と重要です。
- 部材の 入隅・出隅 など塗料が回りにくい部位は重点的に測る
- 測定点が偏らないよう、面積を25等分して各エリア内で測る
- 端面(コーナー)は別カウントで管理する場合あり
- 1点あたりは 3回測定して平均 をとると精度が上がる
膜厚のロット管理ルール
公共建築工事標準仕様書(建築工事編)や鋼道路橋塗装・防食便覧などで定められた、85%-25点平均ルール という標準的な合格判定があります。
標準的な合格判定(公共仕様)
| 判定項目 | 合格基準 |
|---|---|
| 平均値 | 設計膜厚(SFT)以上 |
| 最小値 | 設計膜厚 × 0.80以上 |
| 最大値 | 設計膜厚 × 1.50以下(厚膜過大の予防) |
| ロットサイズ | 500m² または部材1基ごと |
つまり「平均でSFTを上回り、かつ最小点でも80%以上、過大塗布もなし」が合格ライン。100%以上を25点全部で出さなくてもいいのがポイントで、現場の実用性と性能保証のバランスがとられています。
不合格時の処置
ロットが不合格になった場合の処置は3パターン。
膜厚不合格時の対応
- 追加塗装:薄い箇所に同種塗料を追加塗布
- 再ケレン+再塗装:薄すぎる場合や乾燥不良の場合
- 部分はく離:厚すぎる場合は除去
不合格になった部位の処置は、塗料メーカーの技術資料を確認しながら、監理技術者と協議の上で決定 するのが原則。「とりあえず重ね塗りしておけばOK」という判断は、付着不良や層間剥離の原因になることがあるので避けたいところです。
膜厚不足/過大によるトラブル
膜厚は「足りない」も「多すぎる」も両方が問題になる、なかなかシビアな指標です。
膜厚不足(薄塗り)の弊害
膜厚が足りないと起きること
- 防錆性能が出ず、早期に錆が発生
- 紫外線で塗膜が劣化、白亜化(チョーキング)が早期に出る
- 耐候性が落ちて、再塗装サイクルが短くなる
- 塗料メーカーの保証対象外になる
「ピンホール」と呼ばれる微小な穴も膜厚不足のサインで、ここから水分・酸素が侵入して、塗装下で錆が進行します。
僕が前に常駐していた商業施設の改修工事で、立駐の鉄骨塗装で1ロットの最小値が60%まで下がっていて、結局はがして塗り直しになった案件がありました。塗装業者さんがロールでガッと塗ったあと、エアレスで仕上げる前に乾燥させすぎたのが原因。塗装は段取り間違えるとロット丸ごと再施工になるので、膜厚計で都度チェックしながら進めるのが鉄則だと痛感しました。
膜厚過大(厚塗り)の弊害
逆に厚く塗りすぎても問題が起きます。
膜厚が厚すぎると起きること
- 塗料の収縮で「ヒビ割れ」「チヂミ」が出る
- 内部までの硬化が不完全になり、表面だけ乾いて内部が未硬化に
- タレ・たまりで仕上がりが悪くなる
- 経済的にも塗料・工数のロス
特に エポキシ系塗料 や 無機ジンクリッチプライマー は厚塗り厳禁の代表格。1回の塗布で 80μm を超えると、いわゆる「マッドクラッキング」と呼ばれる地割れ状のひび割れが出やすくなります。「もったいないからもう一発」が品質トラブルに直結する典型ですね。
膜厚管理を成功させるコツ
最後に、現場で膜厚管理を上手く回すコツを5つ。
膜厚管理の現場運用5箇条
- 塗装業者と工程協議で、塗布回数・塗布量・WFT目安を事前にすり合わせる
- WFTで現場リアルタイム管理、DFTでロット合否確認の二段構え
- 膜厚計は毎日朝に校正、測定ロットごとに記録
- 写真を必ず残す:膜厚計の表示と部位を同時に写し、ロット合格証に添付
- 不合格時は即協議、独断で「追い塗りしました」をやらない
特に 2の二段構え が重要で、塗ってる最中にWFTで判明した薄塗りなら現場で即補正できますが、DFTで判明したら「乾いた後」なので大事になりがち。WFTゲージは1本3,000円程度なので、塗装班に常備してもらうとミスが激減します。
塗装の膜厚に関する情報まとめ
- 膜厚とは:素地に塗られた塗膜の厚さ。単位はμm。塗装性能の中核指標
- 3つの膜厚:WFT(湿潤)/DFT(乾燥)/SFT(設計指定)
- 測定方法:鋼材は電磁式膜厚計、非鉄は WFTゲージ・破壊式・試験片同時塗装
- ロット管理:25点平均で設計膜厚以上、最小値80%以上、過大1.5倍以下
- 不足の弊害:早期発錆、塗料保証対象外
- 過大の弊害:チヂミ、内部未硬化、タレ
- 運用のコツ:WFTで現場補正、DFTでロット判定、毎朝校正、写真記録、独断追い塗りしない
以上が塗装の膜厚に関する情報のまとめです。
一通り塗装膜厚の基礎知識は理解できたと思います。「足りないだけでなく、厚すぎても問題」「WFTで予防、DFTで判定」の2点だけ押さえておけば、現場での塗装管理で大きな失敗は避けられるはずです。
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