- NATMって何の略?
- どういう原理でトンネルを掘るの?
- シールド工法と何が違うの?
- どんな地質に向いてるの?
- 施工手順を順を追って知りたい
- 計測管理って具体的に何をする?
上記の様な悩みを解決します。
NATM工法は、山岳トンネル工事の世界では主役と言える工法です。日本でも1976年の中央自動車道のトンネル以来、ほぼすべての山岳トンネルで採用されてきました。「地山自体を支保にする」という発想が当時革命的で、今でも世界中で使われています。施工管理として、もし山岳トンネルの現場に配属されたら最初に学ぶ工法ですし、土木施工管理技士の試験でも頻出。シールド工法や推進工法との違いも整理して理解しておきましょう。
なるべく分かりやすい表現で記事をまとめていくので、初心者の方にも理解しやすい内容になっているかなと思います。
それではいってみましょう!
NATM工法とは?
NATM工法とは、結論「掘削したトンネルの周辺地山自体を支保部材として活用し、薄い吹付けコンクリート+ロックボルトで支える、山岳トンネルの工法のこと」です。
NATMの正式名称は New Austrian Tunneling Method(新オーストリアトンネル工法)。1962年にオーストリアの技術者ラブセヴィッツ(L. von Rabcewicz)らによって体系化された工法で、日本では「ナトム」と読みます。
それ以前の山岳トンネルは「矢板工法」と呼ばれ、坑内の天井・側壁を木製・鋼製の矢板で支えながら掘り進むのが主流でした。NATMはこれを根本的に変えて、
- 地山そのものに支持力を持たせる(地山自体を支保部材にする)
- 薄い吹付けコンクリートで地山と一体化させる
- ロックボルトで地山深部まで補強する
- 計測しながら最適な支保パターンを決める
という考え方を打ち出しました。これが「世界的に普及した革命的工法」と評価される理由です。
NATM工法の原理
NATMの核心は3要素。
①地山のアーチアクション
NATMは「掘削後の地山に発生するアーチ作用(アーチアクション)を最大限に活かす」ことが基本原理です。トンネルを掘ると、坑内側の地山に応力が集中し、上から押される力が左右にアーチ状に流れます。これが地山自体を「支保部材」にする原理。
②薄い吹付けコンクリート
掘削直後、地山表面に吹付けコンクリート(10〜25cm 厚)を施工します。これは「上からの土圧を支える」のが主目的ではなく、「地山の表層が剥離・落下しないように密着させて、地山のアーチアクションを成立させる」ことが本来の役割。
③ロックボルト(地山補強)
長さ3〜6m のロックボルトを地山に打ち込み、地山深部まで一体化させます。これによってトンネル周辺の地山が「補強された地山リング」として機能し、より強固な支保部材になります。
これら3要素が組み合わさって、薄い支保で大断面のトンネルを安定させるのがNATMの特徴。鉄道トンネル・道路トンネル・水路トンネル、ほぼ全ての山岳トンネルで採用されている理由です。
NATM工法の施工フロー
具体的な施工手順を順番に整理します。
ステップ1:穿孔・装薬
切羽(きりは、トンネルの最先端)に削岩機(ジャンボ)でドリル孔を開けて、火薬を装填します。地山の硬さや、トンネル断面に応じて、削孔本数50〜150本程度。
ステップ2:発破・換気
火薬を爆発させて地山を砕き、ガス・粉塵を換気します。換気が不十分だと作業者の健康被害につながるため、換気時間を厳格に管理。
ステップ3:ずり出し(破砕岩の搬出)
発破で出た破砕岩(ずり)を、ホイールローダ・ダンプトラックで坑外に搬出します。1サイクルあたり 0.5〜2m 進む(地山条件で変動)。
ステップ4:当たり面整形・一次吹付け
露出した地山面に、まず厚さ3〜5cm の薄い吹付けコンクリート(一次吹付け)を施工して、地山の落下を防止。
ステップ5:鋼製支保工の建込み
H鋼や鋼製格子支保工を、トンネル断面に沿って建て込みます。地山が悪い場合のみ。
ステップ6:二次吹付け
鋼製支保工の上から本格的に吹付け(二次吹付け、合計15〜25cm 厚)。
ステップ7:ロックボルトの打設
ボルト長3〜6m、本数1m²あたり1〜2本程度。地山深部まで補強。
ステップ8:計測管理
切羽掘削に並行して、内空変位計(坑内の変形量計測)、天端沈下計、ロックボルト軸力計など多数の計測機器を設置。計測値が許容値を超えると、支保パターンを強化(ロックボルト追加、吹付け増しなど)。
ステップ9:覆工コンクリート
掘削が一定距離進んだ段階で、内側に最終仕上げの覆工コンクリート(厚さ30〜50cm)を打設。仕上げ防水も同時施工。
これで1サイクル完了。発破→ずり出し→支保工→計測→次の発破、を切羽が貫通するまで繰り返します。
NATM工法と他工法の違い
トンネル工法は大きく3つに分けられます。整理しておきましょう。
| 工法 | NATM | シールド工法 | 開削工法 |
|---|---|---|---|
| 適用 | 山岳・硬い地盤 | 軟弱地盤・都市部 | 浅い深さ・地表が空いている |
| 掘削 | 発破+削岩機 | シールドマシン(円筒形) | バックホウなど通常掘削 |
| 支保 | 吹付けコンクリート+ロックボルト | セグメント(プレキャスト) | 山留め+仮設覆工 |
| 推進方式 | 切羽から人力主体 | 機械の推力 | 上から開けて掘る |
| 地表への影響 | ほぼなし | 軽微 | 大きい(道路規制) |
| 工事費 | 中 | 高 | 安〜中 |
| 施工速度 | 中(1日5〜10m) | 速い(1日10〜30m) | 速い(規模次第) |
| 代表事例 | 道路・鉄道・水路トンネル | 地下鉄、共同溝 | 地下街、地下駐車場 |
NATMが向いている地質
- 中硬岩〜硬岩(一軸圧縮強度 25MPa 以上)
- 自立性のある地山
- 地下水が少ない
- 山岳・丘陵地帯
NATMが向かない地質
- 軟弱地盤(粘土・シルト)
- 大量湧水のある地山
- 都市部の浅い深度(地表沈下のリスク)
軟弱地盤や都市部はシールド工法、浅い深度は開削工法、と使い分けます。
NATMの地山評価と支保パターン
NATMの設計では、地山の状態を等級評価して、それに対応する支保パターンを選びます。
地山等級(Aクラス〜Eクラス)
NEXCOの設計要領などでは、地山等級を6段階で評価します。
| 等級 | 地山の状態 | 一軸圧縮強度 | 自立性 |
|---|---|---|---|
| Aクラス | 安定した硬岩 | 100MPa以上 | 完全自立 |
| Bクラス | やや硬岩・節理あり | 50〜100MPa | ほぼ自立 |
| Cクラス | 中硬岩・割れ目あり | 25〜50MPa | 短時間自立 |
| DI クラス | 軟岩・脆弱化 | 10〜25MPa | 直ちに支保必要 |
| DII クラス | 著しく脆弱 | 〜10MPa | 補助工法必要 |
| Eクラス | 未固結地盤 | 〜数MPa | 補助工法必須 |
支保パターンの選び方
地山等級に応じて、
- 吹付けコンクリート厚(5cm〜25cm)
- ロックボルト長と本数(1m²あたり0.5〜2本)
- 鋼製支保工の有無・サイズ
- 補助工法の必要性(フォアパイリング、薬液注入など)
を変えます。設計の段階では「想定地山」で支保パターンを決めますが、実際に切羽を掘ってみないと地山の正確な状態は分からないので、計測管理のフィードバックで適時パターンを変更するのがNATMの本質。
計測管理とフィードバック
A計測(基本計測):内空変位、天端沈下、地表沈下
B計測(追加計測):ロックボルト軸力、覆工応力、吹付けコンクリート応力
これらの計測値が「管理基準値」を超えそうな場合、支保を強化(増しボルト、再吹付けなど)して対応します。「観察+計測+設計修正」のサイクルが、NATMの肝。
NATM工法の注意点(施工管理視点)
①地山評価と実地山のズレ
設計時の想定地山と、実際の切羽の地山が違うのはよくあります。設計に拘らず、現地の地山を観察して支保パターンを変更する判断力が必要。
②計測管理は最優先業務
計測管理を怠ると、地山の挙動異常を見逃して大事故につながります。計測値の異常傾向は朝礼で共有、判断は技術者が行うのが鉄則。
③湧水対策
予期しない湧水は工程・支保性能に大きく影響します。事前のボーリング調査と、水抜きパイプ・止水注入の準備が必須。
④粉塵・換気管理
発破後の粉塵やディーゼル排ガスは、作業員の健康被害につながります。換気装置の能力と運用ルールを徹底。労働安全衛生法上の換気基準を遵守。
⑤切羽の安全確認
切羽近傍は、肌落ち(地山の小破片落下)や酸素欠乏のリスクがあります。切羽前進前の安全点検は必須。新規入場者教育でも、トンネル現場特有の危険を必ず説明します。

⑥火薬類の管理
NATMでは火薬を使うので、火薬類取締法に基づく取扱いが必要。火薬庫の管理、装薬数量の管理、未発破弾の処理など、専門知識を持つ技術者の関与が必須。
NATM工法に関する情報まとめ
- NATM工法とは:地山自体を支保にする山岳トンネル工法。1962年オーストリアで体系化
- 原理:地山のアーチアクション+吹付けコンクリート+ロックボルトの3要素
- 施工フロー:穿孔→発破→ずり出し→吹付け→ロックボルト→計測→覆工
- 適用地質:中硬岩〜硬岩、自立性ある地盤
- 他工法との違い:シールド工法(軟弱地盤)、開削工法(浅い深度)と使い分け
- 地山評価:Aクラス(硬岩)〜Eクラス(未固結)の6段階で支保パターンを選定
- 計測管理:内空変位・天端沈下・ロックボルト軸力で地山挙動を監視
- 注意点:地山評価のズレ、計測の徹底、湧水対策、換気、火薬管理
以上がNATM工法に関する情報のまとめです。
NATMは「日本中の山岳トンネルで使われている標準工法」と言える工法ですが、原理を知らずに作業すると「なぜ薄い吹付けで持つのか」「なぜ長いボルトが要るのか」が腑に落ちません。地山を観察して支保パターンを微調整しながら掘り進めるのは、施工管理としても他にない経験になります。一通り基礎知識は理解できたと思います。
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